セカンド スタート   作:ぽぽぽ

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今日3話目です。


第56話

 ……ここにもいなかったか。

 

 鳴滝姉妹の部屋を出て扉を閉めてから、私は少し肩を落とす。

 各部屋を回って妹がそこにいるかを聞くだけだった筈が、私の吐く息には若干の疲労が混じり始めていた。原因は、どの部屋に行っても騒がしい少女たちに一旦絡まれていることにあるだろう。

 部屋を訪れた私を誰もがただでは帰してくれず、ゲームに勝ったら教えてやろう、と声高々に言われることもあれば、とりあえずお茶は飲んでいくよね、と無理矢理腕を引っ張られて連れ込まれることもあった。

 部屋に入った段階でそこに妹がいないことは分かりきっているのだが、何となく断るのも悪い気がして結局付き合ってしまう私も私なのだが。流されやすいということなのだろう。

 

 少し休んでから、重みを感じる体を再び動かして、私の足は自然と妹探しを続けることを決めていた。

 ういを探し初めてから結構な時間が立ったので、もしかしたら既に私達の部屋に戻っている可能性もある。しかし、ここまで来たら全ての部屋を確認せずにはいられないという使命感が、なくもない。

 

 次の部屋の前に立ち、扉の横についている窓から漏れる光により、中の人が起きていることを確認した。当然、眠っているだろうという時は部屋を訪れるのは避けるつもりであったが、結果的にどの部屋もほとんど起きていた。

 

 

 ここも恐らくまだ起きているだろうな、とゆっくりと手をあげ、私はその扉を軽く叩こうとした。

 そこで、扉はちょうどすっと私の手から離れるように奥に移動していき、すかりと空を切る形になってしまう。

 

「あれ、七海じゃない。何してんの」

 

 開けたドアの隙間から明日菜が顔を出しながら、不格好な私の手を見て不思議そうな顔をした。

 彼女はそのまま体を廊下に出して、バタンと扉を閉める。

 

「妹を探しているんだ。見なかったか」

 

 行き場をなくした手を体の横に戻しながら、私は訊ねた。

 

「ういちゃん? ここには来てないけど」

 

 首を振りながら、明日菜は答える。

 となると、残る部屋はあとひとつだ。

 

「明日菜はどうしたんだ」

 

「え、何が? 」

 

「こんな時間に何処に行くつもりかと思ってな」

 

 廊下まで出てきたということは、明日菜も何処かに行く気であったのだろう。

 

「七海も、『こんな時間に』、は一緒じゃない」

 

「確かに」

 

 二人で頷いてから、クスリと軽く笑いあった。

 

 それから、明日菜は少し気恥ずかしそうに頬を掻く。

 

「……ネギの所。あやかにも怒られちゃってね。早くネギと仲直りしろって」

 

「……そうか」

 

 肩を竦めながら言う明日菜を見て、私はまた頬を緩める。言われてから即行動となるのが、明日菜らしい。

 

「なら、一緒に行くか」

 

「七海も? 」

 

「私も、次はネギ先生の部屋に行くつもりだったのでな」

 

 他の部屋はもう回ったんだ、と言うと、お疲れ様、と明日菜は私の肩を叩いてくれた。クラスメイトに絡まれていたことを察してくれたのかもしれない。

 先程より足音が増えたことを心強く思いつつ、私達は会話をしながらネギ先生の部屋へと向かっていった。

 

 

 空には、覆い被さるような黒色が一面に拡がっていた。不安を煽るような色ではあるが、月や星が輝いているだけで、随分と印象が変わって見える。

 しかしこんな時間ともなれば、いくらネギ先生が子供離れしていると言っても既に眠っている可能性の方が大きい。部屋を見て明かりが消えているようなら戻ろう、と明日菜には提案しておいた。

 

「ネギの部屋って一人なの? 」

 

「……もしかしたら、フェイト君がいるかもしれないな」

 

「……フェイト君? ああ、あの子ね」

 

 昼間の話を思い出したのか、明日菜は手をぽんと鳴らした。

 そういえば、フェイト君の姿も今まで見ていない。あやかのことだから、フェイト君が急遽参加だとしても部屋を用意していないということはないだろう。今まで姿を見てないことからも、ネギ先生と同室の可能性は高い。そう考えれば、彼らの部屋にこそ、ういがいる気がしてきた。

 

 海面の上に出来た木の廊下を歩き続け、ネギ先生とフェイト君、と書かれた表札が掛かる部屋に着いた。窓を見れば、まだ明かりが付いているのが分かる。小学生が起きている時間にしてはかなり遅いが、彼らは眠ってはいないようだ。

 

 こんこんと明日菜がノックをした。が、すぐには返事は返ってこない。

 

 もしかしたら明かりを付けたまま寝ているのかもしれない、と私と明日菜が顔を合わせた。

 

 無理に起こすつもりはないし今日は戻ろうかと、二人で意見を一致させ、踵を返した所で、扉がゆっくりと開く音が聞こえた。

 

 振り返ると、光が漏れるその扉の先には、少し悩ましい表情をしたネギ先生がいた。

 

 

 ○

 

 

「あ、明日菜さん、七海さん」

 

 ネギ先生は浮かない顔をしながら、歯切れが悪い様子で私達の名前を呼んだ。

 寝ていた、という訳ではなさそうだが、彼の表情からすると、もしかしたら今は良いタイミングではなかったのかもしれない。

 

「……ネギ、ちょっと話があるんだけど、いい? 」

 

「え、えと」

 

 明日菜の呼び掛けに対しても、ネギ先生は困惑する様子を見せた。彼は振り返って部屋の中へと視線を移す。私も釣られて奥を見ると、窓際にある椅子にフェイト君が座っているのが分かった。

 

「いいよ、ネギ君。行ってくればいい」

 

 此方にギリギリ聞こえるという声量で、フェイト君が言う。

 

「……でも」

 

「さっきのは、別に大した質問じゃない。そうだろう? 忘れてくれていいよ」

 

「……それじゃあ」

 

「よし、ネギ。ちょっと付き合って。七海、またね」

 

 フェイト君の許可を得て、ネギ先生がぎこちなく頷くと、明日菜はネギ先生の手を持って連れ出して行ってしまった。ぐいぐいとネギ先生の小さな体が引っ張られて、二人の背中が遠くなっていく。明日菜は、二人で話がしたかったんだろう。

 高畑先生にもそれだけ積極的に慣れれば良いのに、なんて思いながら見届けて、私は視線をフェイト君へ移した。

 

「フェイト君」

 

「君の妹ならここにいるよ」

 

 ベッドの方を指差しながら、抑揚もなく彼は言った。

 

「それは、迷惑かけたな」

 

 申し訳ない、と言う私に対して、彼は、はいともいいえとも言わなかった。どうやら、本当にそれなりに迷惑をかけていたらしい。

 

「……入っていいか?」

 

「どうぞ」

 

 許可が出たので、部屋に上がらせてもらった。

 造りは当然私達の部屋と同じで、ベッドを見ると、そこにはぐっすりと寝ているういがいた。

 気持ち良さそうにすうすうと息を吐く姿は、あまりに能天気なものである。きっと遊び疲れてしまったのだろう。まさか他人の部屋で熟睡してしまうとは思わなかったが。

 

 私は呆れながらも、彼女の頬っぺたをペチペチと叩く。

 

「うい、おきろ」

 

「…………」

 

 返事は寝息しか聞こえず、やはりと言うべきか、微塵も起きる様子がない。

 

 ういは、昔から眠りに入ったらかなり熟睡するタイプだった。少なくとも、朝日がないと彼女を起こすことは不可能で、こういうときはもう朝になるまで待つしかないことを、私は知っている。

 だからと言って、寝ている彼女をこのまま置いていく訳にもいかない。彼女が独占するようにベッドを使っているため、この部屋の使えるベッドはあと一つしかない。ネギ先生かフェイト君を私の部屋と同室にしてもいいのだが、荷物の移動などで彼らに迷惑がかかる。

 

 そこまで考えてから、私は彼女の脇の下に手を入れ、体を無理矢理引き上げようとした。

 

「……何をしてるんだい」

 

「せ、背負っていこうと思ってな 」

 

 自分の部屋にういを連れ帰ろうと、どうにか彼女が私の背中に寄り添うようにと動かすが、力の入れていない人間は想像以上に厄介で、ふにゃふにゃとする体を支えられない。

 

 力のない私がトロトロとする姿を見ていられなくなったのか、フェイト君はため息を吐いた。

 

「……いいよ、僕が背負う」

 

「しかし」

 

 そこまで世話になる訳にはいかない。そんなことをさせてしまったら、結局迷惑を掛けていることになる。私がそう続ける前に、フェイト君は淡々とベッドまで近付いて、さっとういの手を背中から自分の前にと回し、足を持って軽々と立ち上がった。

 

「はやく出ていってくれないと、僕のベッドがない」

 

 君達の部屋を案内してくれ、と私より先に彼は廊下に向かっていく。身長の低い彼がおぶると、ういの足が地面に付きそうだ。

 私はそんな彼の姿に、申し訳ない、と再び頭を下げてから、先導すべく前に出た。

 

 

 ○

 

 

「正義と悪ぅ?」

 

「はい……」

 

 明日菜さんに連れてこられて、僕たちは浜辺にいた。海には既に海らしい青々しさはなかった。乾いた真っ白な浜の上で二人で体育座りをして、すれる波の音を耳にしている。

 

「なにそれ。あの子もやっぱ変ね」

 

「あはは……」

 

 言い切る様子が少し面白くて、笑ってしまう。

 

「てか、最初の相談がそれなの? 」

 

 目を細めて、じっと僕を見つめてくる。

 

「何でもって言ったじゃないですか」

 

「言ったけどさぁー」

 

 明日菜さんはグッと体を伸ばしてから、なんだかなーと呟いた。

 

 

 ここに来てから、明日菜さんとは少し話をした。

 

「あんたが頑張るのも分かった。心配かけたくないのも分かった。でも、それはあんたの都合よね。ネギがその気なら、私も勝手にする。勝手にあんたを応援して、勝手に心配してやる。……だから、なんかあったら頼ってよ。抱え込まないで、何でも相談して。私は味方だからさ」

 

 真剣な目をしながら明日菜さんはそう言ってくれて、最後に僕の頭をぽんと叩いた。

 怒っているかと思っていたけど、怒っていなくて。

 本当に、僕を心配してくれたようで、嬉しかった。頼りたくなった。

 そこで最初に思い付いたのが、彼に訊かれた質問だった。

 

 答える前に明日菜さんたちが来てしまったから彼には何も言えなかったけれど、きっと、あのままでも僕は答えられなかったと思う。

 

 彼は、僕に真剣に答を求めている気がした。だからこそ、軽々しくは答えられなくて、まだ意味もよく分からなくて、僕は言葉に詰まっていた。

 

「あの子は何が訊きたいの? 」

 

「……僕にも分かりません。でも、適当に訊いてる訳ではないと思うんです」

 

「正義」と「悪」。ういさんが見せてくれた戦隊ものでは、自分の楽しみのために人間を襲い生体エネルギーを奪うんだと豪語していたもの達は悪で、それを倒し平和にするんだと言っていた人達は正義だった。

 見ている方には納得のいく展開だったし、悪いことを繰り返し人を困らすものは、やっつけられるべきだとも思えた。

 でも彼は、現実ではそうじゃないと言い切った。誰もが思考していて、ぶつかるときはお互いに引けない時だと、彼は言っていた。

 

 

 

 ……なら、あの日の敵も?

 

 

 

 不意に、昔の記憶が頭に流れ込んできた。

 燃える村。石となった人々。異形の姿を成すもの達。

 叫ぶおじいちゃん。僕を守ろうと、前に出るお姉ちゃん。

 ……そして、全てを薙ぎ払ったお父さん。

 

 あの時は、いっぱいいっぱいだったけれど。後から思えば、確かにお父さんは正義のヒーローのようだった。

 

 それが、違うというのだろうか。あの敵にも、どうしようもない理由があって、お父さんが、あっちにとっては悪で。

 

 でも、そうだとしても、僕はあの時の敵を……。

 

 

「……ネギ。訊いてる? 」

 

 明日菜さんが、僕の右肩を掴む。はっとなった。体が熱い。

 

「……あんた、どうしたの? なんか今変だったわよ」

 

「……いえ、その。はい、」

 

「よく分かんないけどさ、良いことが正義で悪いことが悪じゃだめなの? 」

 

 明日菜さんは話を続けようと、そのまま僕に問いかける。

 僕は一度頭を振って、それは、あの時の記憶を振り払おうとするようにして、またこの場所に思考を戻した。

 

「多分、その良いことと悪いことを訊きたいんだと……」

 

「そんなの、自分が好きなことと嫌いなことでしょ」

 

「うーん」

 

 なんだか、少しずれてる気がする。

 

「なによ。言ってあげてるのに。てか答えなんかあるのそれ」

 

「……分からないです」

 

 答えがあるかなんて、分からない。きっとこれはそういう問題だろう。

 でも、多分だけど、彼は……。

 

「僕は、彼のためにも自分なりの答えを出してあげたいと思いました」

 

「ふーん」

 

 明日菜さんは、足を組み替えてから腕を組んだ。

 

「今分からないなら、これからも考えるしかないわね。別に、すぐに答えを出せって訳じゃないんでしょ? 」

 

「ま、まぁ」

 

 確かに、学校の宿題のように期限を付けられたものでもないし、彼もすぐに答えが欲しいと望んでる様子でもなかった。

 

「そういえば、私もあんたの好きなこととか分からないもの。ネギって好きなことあんの? 」

 

「……好きなこと」

 

 考えてみても、パッと頭に思い付くものはなかった。好きな人も、守りたい人もいる。でも、自分が好きなことって、なんなんだろう。

 マギステルマギになるために努力するばっかりで、自分の好きなことには目がいかなかったし、必要とも思わなかった。

 悩む僕を見て、明日菜さんは僕の髪をくしゃくしゃとした。

 

「ちょうどいいじゃない。考えてみる機会がきて。自分のこと。もうちょい見直してみたら? 周りも、あんたの思ってるよりあんたを見てくれてるわよ」

 

「……そう、ですね」

 

 答えは、まだない。でも、大切なものや、好きなものを堂々あげられたら。僕の中で、ヒントは見つかるだろうか。

 

 

 

 ○

 

 

「正義と悪とは何、か」

 

 私とフェイト君は、私達の部屋に戻ろうと廊下を歩いていた。フェイト君の背中にはういがいて、むにゃむにゃと口を動かしている。フェイト君があまりに軽そうにういを持つため、先ほど彼女を支えきれなかった自分が少し情けなくもなる。フェイト君も魔法的な力を使っているのだろうか。

 

 

 しかし、正義と悪か……。

 

 あまり使わない言葉だからか、先程声に出したことが恥ずかしくも感じた。随分と難しくて、哲学的だ。

 ちらりとフェイト君を見ると、いつものような顔で前を向きながら歩いている。

 

 

 

 先程ネギ先生の様子が妙に可笑しかったので、何の話をしていたんだい、と彼に訊いた所、思わぬ言葉が返ってきていた。彼らは、正義と悪とは何か、ということについて語ろうとしていたらしい。

 純粋に子供がそう言っているのならば、創作の物語にでも影響されたのだろうかと思うが、これほど精神がしっかりしている彼が言うとそう簡単にも捉えられない気がした。

 私は科学者であったので、あまり哲学的なことに強くない。見えるものが真実であり、はっきりとしたデータがないと信憑性を生み出せない世界であったので、そのような曖昧なものを考えることは少なかった。

 

「……君はどう思う 」

 

「私にも聞くのか」

 

 突然思わぬ被弾を浴びてしまい、胸がドクンと言った。授業中準備もなく不意に当てられる生徒は、こんな気持ちだったのかもしれない。

 

 

 波の音が聞こえた。高い波ではなく、細かく、ざざざと定期的に擦るような音を鳴らしていて、訊いている方は心地がよい。夜になり全てを吸い込むような黒色へと変わっても、海としてのその動きはずっと変わらないようだ。

 波の音を耳にしながら、彼の質問について考えてみる。考えてはみるが、正義と悪と言われてもこれまでの人生ではそんなことを頭に過ったこともなく、よく分からない。

 

 

 ……だが、それよりも気になることはある。

 

 彼は何故、ネギ先生や私にそれを訊いたのか、だ。

 

 

「……迷っているのか」

 

 囁くように呟いた私の言葉を訊いたとき、彼の体はおもむろに立ち止まった。

 足を止め、首を動かし、私の方をじっと見つめている。

 

「……迷う? 僕が? 」

 

「いや、なんとなくな」

 

 もしかしたら、彼は模索しているのではないか。

 無意識に、自分が気になっていることを他人へと確認しているのではないかと。そう思った。

 

 彼は少しの間沈黙したあと、私をじっと見た。

 

「……僕の質問の返事を訊いてないよ」

 

 力の入った目が、私に向く。私が検討外れのことを言ったからなのか、図星だったからなのかは、分からない。

 

 すまない、と謝ってから、私は自分の意見を告げることにした。

 

「正義と悪なんて言ってしまうと随分大袈裟だが、私は、私の周りが幸せになるようなことは良いことだと思う。逆に、周りが不幸になるようなことは嫌だな」

 

「それが、正義と悪なのかい? 」

 

「……ううむ。そういう訳でもないような」

 

 何かを正しいと言い切ったり、何かを間違いだと言い切るのは、意外と難しいものだった。大体、善悪を決めつけれるほど私は大した人間ではない。

 

「曖昧だね。それに、自己中心的だ」

 

 予想より厳しい返事が来た。

 私自身の意見が定まっていないので、曖昧なのは仕方がない。それに、随分と青臭いことを言っている自覚もある。

 

「私だって分からないんだ。ただ、周りが不幸になるようなことが正しいとは、言いたくないだろう? 」

 

 正解なんてない。そう言い切るのは簡単だ。だが、彼はきっと、その答えは求めていないのだろう。

 

「…………あくまで自分中心なんだね」

 

「……そうかもな」

 

 私は、小さく笑いながら答える。

 私の目に見える世界は、思ったより狭い。見知らぬ遠くの人の幸せよりも、間近にいる皆の幸せを求めてしまうのは、自分勝手なのかもしれない。

 

「だが結局、何かを決めて評価するのは自分だろう? 不変的な正義と悪だなんて分からないが、自分の中で良いと思えるものと許せないと思えるものが判断できればいいと思う」

 

「……人それぞれだと? 」

 

「まぁ、有りがちな答えになるが、私はそう思う。……結局、正義と悪という答えにはあまりならなかったな」

 

「……」

 

 また、波が鳴った。今度は、先程より強めの音だ。そういえば、風も吹いてきた。

 寒さを感じたのか、ういがフェイト君に捕まる手をぐっと強めた。







小ネタ
『のどか』





「お!ななみん!どったの?」

「夜遅くすまないハルナ。実は妹を探しててな。見なかったか」

「あのツインテールの子だよね? うーん見てないなぁ」

「そうか。ありがとう。もし見付けたら教えてくれると助かる。ならら、お休み」

「はいちょっとまったー!」

「……なんだ、ハルナ」

「なんだよなんだよ。そんな簡単にさよならぁって、寂しいじゃんかよぉ」

「いやだが」

「せっかくの旅行だしもっとお話しよーよー。部屋には夕映ものどかもいるしさ、」

「……ハルナ? さっきから玄関で何してるの? って明智さん、こんばんはー」

「こ、こんばんは、のどか」

「あのぅ、どうかしましたか? 」

「えっとだなぁ……」

「ななみんね、のどかとお喋りしに来たんだって」

「え! 本当ですかぁ! 」

「いや、その」

「……私、明智さんとは、前からちょっと、お話ししてみたいなって。夕映とも仲が良いし、その、本、お好きなんですよね? 」

「まぁ、好きだが……」

「私、クラスにお喋りできる人あんまり多くないから、その、明智さんも本が好きなら……」

「……そうだな。せっかくだし、話をしようか。私ものどかとは仲良くなりたいと思っていたよ」

「……! はい! お話しましょう!」

「いいねぇいいねぇ。青いねぇ二人とも」


「……ハルナ、わざわざ機会をつくってくれたんだな」

「あははー機会をつくったというか暇だったから二人を会わせてみただけだけどね! のどかがななみんと話したがってるとか全く知らなかったしー。いやー思ったよりいい反応面白かったようん!」

「……ハルナ、虫が腕を這うのは好きか?」

「急になにその質問! ごめんって!恐ろしすぎるよななみん! 」

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