セカンド スタート   作:ぽぽぽ

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第7話

 

 あやかが再び学校に来るようになってから、私たち三人の一緒にいる時間は更に増えた。  

 あやかと明日菜は相変わらずしょっちゅう喧嘩していたが、前よりもお互いを認めている事が目に見えて分かった。  

 転校してきたばかりの明日菜は少し暗く大人しそうに話していたが、次第に明るい性格に変わっていき、今では少しうるさいほどだ。    

 

 

 学生時代の密度は濃い、と世間一般では言われているが、その知識をもって実践しても、月日はあっという間に過ぎていった。教室で騒ぎ、先生に迷惑をかける1,2年生の時期は過ぎ、段々と先生に反抗しだす子が現れる3,4年生の時期も過ぎ、今や小学校の高学年と呼ばれる年代になろうとしていた。    

 

 私は5―bと書かれた札を掲げる見慣れぬ教室のドアを開ける。私の横にはいつも騒がしく喧嘩をする二人の姿はない。二年毎にクラス替えが起こるため、ついに別々のクラスになってしまったのだ。  

 

 あやかと明日菜は3,4年生の時も皆同じクラスだったため、次も一緒だろうと勝手に思っていたのか、クラス発表の紙を見て震えていた。

 

「…………きゃ、却下ですわ!! 七海と別のクラスだなんて認められませんの!! 待っててくださいね七海!! 今すぐお父様に連絡して理事長に抗議を…………! 」

 

「わーー! ちょっとまって! いいんちょ少し落ち着きなさい! 」  

 

 珍しく騒ぎ出すあやかを明日菜が抑えるという形になっていたのを思い出して、私は少し微笑む。  

 クラスが替わったからといって、縁が切れる訳ではない。むしろ、学生の時はたくさんの人と知り合い、友達になるのが重要だとも思えるため、別のクラスになったのはいい機会なのではないかとも思った。  

 

 教室のドアを開けると、生徒たちがまばらにいた。二度目のクラス替えだというのに緊張した表情のものもいれば、顔見知りと同じクラスになって安心したようにニコニコと話す集団もいた。

 

「…………おい。どいてくれ」    

 

 ドアの前で立っていると、後ろから声をかけられた。丸い眼鏡をかけ、茶髪の髪を後ろで縛った少女が私の後ろで不機嫌そうな顔をしていた。

 

「ああ。すまなかった」  

 

 私は道を塞いでいたことを謝罪して、横に移動する。その少女は私の謝罪に対してぶっきらぼうに返事をして、黒板に書かれている自分の席を確認した後、すぐに席についた。 その様子をみて、教室の隅にいた二人の女子がひそひそと話す。

 

「…………ねぇあの子ちょっと感じ悪くない? 」

 

「あー。長谷川 千雨っていったっけ ? 確か昔ワケわからないことで騒いでた子じゃない? 」

 

「え? なんて? 」

 

「なんだったかな。世界樹のことあんなの普通じゃないーとか言って、この街は変なことばっかだーとか」

 

「なにそれ。よくわかんない」

 

「よくわかんないから浮いてたんじゃない? いつも一人でいた気がする」  

 

 本人に聞こえているだろう音量で、女子生徒の二人は話す。だが、肝心の長谷川という生徒はまるで気にしていないかのようだったので、私は無理に触れないことにした。  

 

 しかし、その少女が騒いでたという内容が気になった。麻帆良は、確かに普通ではない。

 進み過ぎた科学、生物のあり得ない多様性、人を越えた身体能力を持つ者たち、挙げていけばキリがなく、それぞれが限度を超えている。  

 初めは前世との違いかと思っていたのだが、麻帆良以外の場所ではこのようなことはないらしい。  

 そして最も不思議なことは、これらがおかしいことは確実なのだが、私はそこまで違和感を感じない、ということだ。  

 非日常のなかに日常が違和感なく混ざり込み、おかしいことをおかしいと思えない時が多い。前世の知識から、こんなこと前世と比べたらあり得ない、とは思うのだが、この世界ならばと頭の中で無理矢理納得させられている。  

 例えば、世界樹がおかしい、と思っていても、少し経つと何をおかしいと思っていたか分からなくなってしまうのだ。これは前世の記憶を持っていることによる副作用なのか? このような非日常は普通のことでおかしいのは前世の記憶か?

 交差する思いを抱えて訳が分からなくなってしまう時もあった。

 

 そして、私の周りにはこの非常識を認識できる人はいなかった。

 両親にも妹にもあやかにも尋ねたが、皆これらの異常を認識出来ていなかった。このことが、やはり私がおかしいだけ、という結論に持っていくのを更に助けた。  

 しかし今、初めてこの異常を異常と言える人物に出会った。    

 話を、聞かなければならない。私の抱える思いと彼女の思いが同じかどうか、確かめなければならない。      

 

 

 

 ◯    

 

 

「長谷川さん。少しいいか? 」  

 

 私が明智 七海に声を掛けられたのは、五年になり、少し過ぎた日の帰り道でだった。大して話したこともないのに私に話す筈がないと思い、スルーしようとしたら、制服の裾を捕まれた。

 

「すまん。少しでいいんだ」

 

 明智は、真剣な目をして頼み込むように言う。  

 私からみて明智 七海という生徒は、えらく大人ぶった完璧人という印象であった。学力においてはどの教科のテストをしても常にトップの点数をとっていた。外見は黒色の長いストレートの髪に小さな顔、少しつり上がった目に控えめな口で若干きつそうなイメージの顔だが、顔つきまでもが周りよりずっと大人びて見えて、学年で唯一可愛いではなく綺麗と言われる顔であった。スタイルは細めの長身で、それがまた黒髪とよく合い、ただランドセルだけが不釣り合いに見えた。  

 性格は、はしゃぐタイプではないが、誰とでも親しく話せるタイプであった。いや、明智が相手を乗らせて話すのが上手なのだろう。むちゃくちゃな口論を交わすやつがいても、明智は冷静に諭してその上相手の機嫌を損なわなかった。運動は他の馬鹿みたいな記録を出す生徒に少し劣っていたが、容姿端麗、成績優秀、性格良しと三拍子そろった明智は、隠れて一部の生徒が憧れ、クラスの中心の人物とも隔てなく仲良くし、教師にまで頼りにされているような、私とは真逆の生徒であった。  

 そんなやつが、今更私に話かけようとした理由が、よくわからなかった。

 

「…………なんだよ。私は早く帰りたいんだが」

 

「ちょっとだけ相談にのってほしいんだ。すぐ済ます」

 

「…………ここで話すのはだめなのか ? 」

 

「できれば落ち着いた所で話したい。悪いが付き合ってくれないか」  

 

 申し訳なさそうに頭を下げる明智を前に、私は溜め息をついてから、わかったわかった、と返事をした。

 

「ありがとう。もう少しいけば私の家がある。そこで話そう」  

 

 明智は私の裾を持ちながら足を進めた。引きずられるように私はついていきながら、明智の言ったことについて考えていた。

 こんなに周りに恵まれている奴が、私に相談事など信じられなかった。  

 自然と友達ができるこいつとは対称的に、昔ぽかをやってしまってせいで、そのまま私は教室で浮いてしまったことがある。ばかだった私は、それでも自分の主張を通そうとした。次第に私はホラ吹きやら言われるようになり、教室で居場所を失った。  

 それからは、なるべく目立たぬようにとひっそりと学生生活を過ごそうとした。中学に入れば、今ほど私の噂をしっている人は少なくなる。今はまだこそこそと悪口をいう人間がたまにいるが、卒業まで我慢すれば煩わしさはなくなる筈だ。これからは、目立たず密かに過ごし、家で自分の趣味に没頭する。私の学生生活はそれで十分だった。  

 そんな風に周りと距離をとっている私に相談をしようなどという奴は、当然明智が初めてであった。  

 

 少し歩いて明智の家につき、私はなすがままに家に上がった。明智の部屋に行く途中で、母親らしき人と、妹らしき人にあった。明智と違い明るさを満面に出しながら挨拶をする妹が印象的であった。  

 私は二人に挨拶を返し、そのまま明智の後ろにつき部屋に入る。明智の部屋には、無駄な置物はほとんどなく、棚と机とベッドが綺麗に置いてあった。棚には小難しい本が並び、勉強机の上には昆虫の図鑑が広げられている。明智はクッションを二枚とりだしフローリングの床にぽんぽんと置き、私に座ってと声をかけた。  

 お言葉に甘えて私は腰をおろし、背中に乗ったランドセルも床に置かしてもらった。

 

「んで? 話ってなんだよ」  

 

 ぶっきらぼうに言う。なんのつもりかは分からないが、私は早く帰りたかった。

 

「…………そうだな。長谷川さんは、この街についてどう思う ? 」

 

「………… ? どういう意味だ? 」

 

「……麻帆良は、普通ではないと思わないか? 」

 

 ……ああ。なるほど。

 この質問をされて、かつてのトラウマが垣間見える。何を言っても誰も信じてもらえず、思ったことを言ってるだけなのに嘘つき呼ばわりされたあの過去を、思い出す。

 

「…………っは。何かと思ったらその話か。そんで? 私からまた馬鹿みたいな話を聞いて、長谷川はやっぱりおかしいよーってクラスで言いふらすのか? 」

 

「違う。そんなつもりではない」

 

「それじゃなんだ? 私の事情を聞いて、クラスで浮いてる人を助ける自分かっこいいとでもしたいつもりか? 大きな御世話だ」

 

 口から出るのは内気で皮肉なことばかりだった。昔のトラウマを気軽に触られて、私は軽くむしゃくしゃしていた。そして、クラスでまともだと思っていた奴にこんな風に聞かれたことも余計に私をイライラさせた。

 

「私も、この街はおかしいことがあると思っている」

 

「…………は ? 」  

 

 だが、明智の次の言葉で、私は驚いた。今まで、私と同意してこの街をおかしいという人はいなかったのだ。

 

「……本当か ? 」  

 

 試すように私は聞き返すと、明智はゆっくりと頷く。

 

「この街、麻帆良には普通ではないことが沢山ある。そして、何よりおかしいのは、それを他の人達がおかしいと認識出来ないことだ。勿論私も含めて」

 

「…………」    

 

 ただただ、驚愕だった。私以外に、ここをおかしいと気付き、さらに周りがそれを認識出来ていないことまで分かっているとは。

 だが…………

 

「どういうことだ ? 明智もおかしいことを認識出来ないんだろ? 矛盾してるじゃねーか」

 

「…………私にもよく分からない。ただ、知識としておかしいと思っているのだが、もう一方でおかしいことなどないと思っている私がいるのだ。だから、それを確認してくれる長谷川さんと話がしたかった」  

 

「…………」  

 

 まだ、明智が本当のことを言っているという確証はない。だが、私は普段溜め込んだことをぶちまける場が欲しかった。笑い者にされてからは親にすらいえず、日々胸のなかに溜まる鬱憤を爆発させたかった。そして、こいつなら、言った所で誰かにばらまくようなことはしないだろうという妙な安心感があった。

 

 

「………どう考えても! おかしいだろ! 街には尋常じゃない速度で走り回るやつもいる! オリンピックでもでろよ! 図書館島とかいう謎の場所まである! 地下の深くは誰も行ったことがない?! 観光地にでもすりゃいいんだ! 」

 

「お、おい…………」  

 

 急に大声を出したので、それを止めるように明智が声をかけるが、私は無視して続ける。

 

「世界樹とかいうばかでかい木ぃ! ギネスだろ! あんなの! そんで一番ムカつくのは! なんでそれに気付けるのが私だけなんだよ!! ざけんな! 」  

 

 はぁ、はぁと胸を上下しながら、私は明智をみた。明智は溜め息をついたあと、私に言う。

 

「…………確かめに行こう」

 

「は? 」

 

「私は他にも気になることがある。それを調べにいくんだ」

 

「…………それで、この非常識の謎が解けるのか ? 」

 

「わからない。だが、不明瞭にしておくのは嫌だろう? 」

 

「…………わかった。私もいく」  

 

 私をこれだけ悩ませた種を少しでも理解できるなら、行くべきだとおもった。

 

「…………ふふ。助かる」  

 

 少し笑いながら、明智は言う。その笑みがあまりに不意討ちで、何故か私が照れてし まった。

 

「い、いっとくけど ! お前も十分おかしいんだからな! 毎回100点とりやがって! 普通なら神童とかいわれてもっと騒がれてるからな! 」

 

 照れを隠すように、矛先を変える。すると明智は、はっと何か気付いた様な表情になり、そして、また笑った。

 

「そうだな。君には分かるか。私も大概普通ではないか」  

 

 くっくっくと堪えきれない笑いを溢す明智を前にしてる私は、何がそんなにおかしいのか理解出来なかった。

 

 





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