セカンド スタート   作:ぽぽぽ

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第71話

 

 

「……火星から突如やって来たロボ軍団! 彼らの目的は謎ですが、何もしなければ我らの街が侵略されてしまいます! ならばそれを守るのは、ここに住む私達に他なりません。

 どうか! 勇気のある人々よ! 今こそ魔法騎士団に入団し、力を合わせてこの街を守りましょう!」

 

 麻帆良の中心部にある特設ステージの上で、派手な格好をしたあやかが、マイクを手にして声を張っている。空には協力してくれたクラスメイトが配っているビラが舞っていて、それを手に取った観光客や麻帆良の人達は興味深そうに話を訊いていた。

 

「参加方法は簡単! 受付にてルール説明を受けてローブと杖を受け取り、六時にやってくるロボ軍団を退治していけば良いのです! また、イベントに参加為さらぬ方はなるべく会場から離れるようにお願い致します!

 皆さん! 麻帆良祭最後のイベント! 存分に楽しもうではありませんか! 」

 

 鼓舞するように拳を上げたあやかに釣られて、周りも一緒に盛り上がり、雄叫びと共に手を高く上げる。それから、どたどたと人々は一気に受付に向かって流れていった。お祭りや大騒ぎ好きな人ばかりの麻帆良のことだ。参加者は、結構な数になるだろう。

 

「あやか。すまないな。突然無理を頼んでしまって……」

 

 ステージから降りてきたあやかに私がそう言うと、彼女は首を振って笑った。

 

「謝らないで下さい七海。私は、貴方にこうやって頼まれたことが嬉しいですわ。それに……」

 

 あやかは、くるっと綺麗に周り、私に衣装を見せつけるようにした。

 

「見ての通り、私も結構派手なことは好きですから。中学最後のイベントがかくれんぼだなんて、物足りないと思っていた所ですわ」

 

 学園最終イベントの急遽変更という無理をあやかに頼んだのは、元々そのイベントがいくつかのスポンサーの協力によって出来上がる筈のもので、その中でもほとんどの資金を提供していたのは雪広財閥だったからだ。

 あやかは、自分の家がお金持ちだからと言って、我が儘に好き放題やることを好んではいない。それでも、こうやって私の頼みを訊いてくれて、その上自分も望んでいたという風に話すのは、私に対して気を使ってくれているのだろう。

 そのことに申し訳ないと思いつつも、本当に良い友達を持ったという想いで胸の奥底が暖かくなった。

 

「しかし、B級映画みたいなイベントだな。ロボ軍団ってのは、工学部の奴らが作ったのか? 」

 

 ずずず、と音を立ててストローからジュースを吸っている長谷川さんが、私達の横でじっくりとチラシを見つめていた。

 

「……まぁ、そんな感じだな。あっちサイドには、超や葉加瀬がいる」

 

「ほー。ってことは、ロボっつーのも結構本格的なんだろうな」

 

「千雨さん。貴方は参加なさらないんですか? 」

 

 長谷川さんはビラを持った手を横に振ったので、パタパタと風を受ける音がした。

 

「私は、パスだ。面白そうではあるが、実際に体を動かすのは得意じゃねーしな。ほんとにバーチャルでやるなら負けはしねぇと思うんだが」

 

「つくづくインドア派だな」

 

「明智には言われたくねぇよ」

 

 それもそうだ、と呟いて私達は笑い合った。

 

 

「おおお! 凄いよフェイフェイ! 魔法騎士団だって! これはもう決まりだね! 」

 

「……決まり? 」

 

「入団が! だよ! 」

 

 聞き覚えがありすぎる声がして、彼女だろうな、と確信をしながらも声の方向を見ると、そこには予想を反することなく、やはりういがいた。どうやら落ちていたビラを拾ってこのイベントを知ったらしい。横のフェイト君にも、そのビラを存分に近付けて見せて上げていて、あまりにも近くに寄せすぎていたので、フェイトは若干鬱陶しそうにしてその紙を払いのけていた。

 

「あ! ななねぇ! 千雨ちゃん! あやねぇ! 」

 

 私達に気付いて、ういはぱっと表情を明るくして、小走りで寄ってきた。遅れて、ういから渡されたビラを見ながらフェイト君もやってくる。

 

「ななねぇ達はでるの? これ」

 

「私は出ねぇ」

 

「私は出ても良いですが、一応主催側ですしね」

 

「私も他にやることがあるから、パスだ」

 

「だよねぇー。あやねぇや千雨ちゃんはともかく、ななねぇには多分むいてないよ」

 

 既に自分ならば上手くやれると自信満々に思っているようで、参加する気満々、といった様子だった。

 

「それじゃフェイフェイ、一緒にでよっか」

 

「別に僕は……」

 

「フェーイフェイ」

 

 ういは、少し膝を曲げ、フェイト君の顔を覗き込むようにしてから、彼の名を呼んだ。

 

「でよっ! 一緒にね! 」

 

 いつものように、明るい笑顔だった。屈託というものがまったくなく、彼女らしく、無邪気で子供らしい笑みを、ういはフェイト君に向けていた。

 フェイト君は、その顔を見てじっと止まった。このイベントに出るか出ないかを悩んでいる、というよりも、その笑顔の意味を探っているように見えた。

 

「……分かった。参加しよう」

 

 彼はついに頷く。それを訊いたういが、やった! と跳ねて喜んだ。

 

「よし! いざ受付へ! ななねぇ、あやねぇ、千雨ちゃん、またね! 」

 

 ういはバタバタと忙しそうに手足を動かして、受付の方向へと私達を置いて走っていってしまった。

 

「……フェイト君。あんな妹で悪いが、宜しく頼む。きっと危なっかしいだろうから」

 

「……」

 

 彼は返事をせずにちらりと此方に視線だけを向けた。

 

「あの子は、随分君を気に入ってるようだ。面倒かもしれないけれど、悪気はないんだよ」

 

「……悪気がないことなんて、見てれば分かる。だからこそ厄介なんだけどね」

 

 苦笑した私に視線を向けながら、彼は続ける。

 

「……何故、僕なんだろうか。彼女の周りにはもっと明るく騒がしい彼女に合った人物がいるだろうに」

 

 姉の私から見ても、ういはフェイト君になついているのはよく分かる。ういはあんな性格だから、昔から周りに集まるのは明るい子が多かったし、一緒になってはしゃげる友達ばかりだった。そんな中で、フェイト君のような物静かな友達と長く一緒にいることは確かに珍しい。フェイト君もそれに気付いているからか、気に掛けられている自分に疑問を持ってしまったのだろうか。

 

「……私はういじゃないから、分からないな。気になるなら、本人に訊いて見たらどうだ? 」

 

「……そう、だね」

 

 彼はゆっくりと呟いて、走っていったういの方に向かって歩いていった。

 

 それから、途中で振り返って再び私を見た。

 

「……君は、何ともないのかい」

 

「……何がだ? 」

 

「……いや、何でもないよ」

 

 首を振りながら意味深な言葉だけを残して、彼は背を向けてゆっくりと歩いていった。

 

 

 

 ○

 

 

 

「七海さん」

 

「ネギ先生」

 

 イベントの準備がある程度終わり、ネギ先生を探そうと図書室の方へと向かう途中で、逆にネギ先生から話掛けられた。

 校内の廊下は相変わらず人がいなく静かだったが、外で騒がしい人達の声は響いていた。皆新しくなったイベントに対してやる気を満ち溢れさせているのだろう。

 

「イベントの準備、ありがとうございます。教師の皆さんにも連絡をしましたし、此方の方はこれで大丈夫だと思います」

 

「いいえ、私は大したことをしていません。あやかに沢山手伝ってもらいましたから」

 

「……そうですね。あやかさんにも、お礼を言っておかないと」

 

 ネギ先生から礼を言われたら、彼女は飛び上がって喜ぶだろう。是非そうしてください、と言っておいた。

 

「この後は予定通り、七海さんは木乃香さんと共に怪我人などの処置をしてもらえたらと……」

 

「……そのことで、一つ聞きたいことがあります」

 

 はい、なんでしょうか、と彼は返事をする。

 

「……最後、超と先生は世界樹の上空で闘うのですよね? 」

 

「……恐らく、そうなります」

 

 彼がどのような情報源によりそう予想しているのかは分からないが、その頷き方にはどこか確信めいた雰囲気があった。

 

「……私には、力がない。魔法なんてものも使えない。それでも、出来ることが何もないと諦めたくはないです。……先生、私は、一つだけお手伝い出来ることがあります」

 

 私にも、いや、私にしか出来ないことがある。この方法ならば、私は超を止める手伝いが出来るかもしれない。

 ……正直に言えば、ネギ先生には悪いが、こんな風に力ずくで言うことを訊かせるというのは、私の好みではなかった。

 しかし、私を止めてみろと言った超を見れば、確かにそれしか方法がないのだということが分かってしまう。

 彼女は全力でぶつかりあって決着が付くことを望んでいる気がした。その事でなら、考えを改めると言っているように思えた。

 でも、私はその輪の中に入れない。入る力がない。

 ……ならば、私は、私なりの方法を使って、彼女を止めたい。

 

 

 ネギ先生に、私の話を考えを話すと、少し考えるようにしてから彼は、分かりました、と頷いた。

 

 

 

「……七海さん。僕と初めて会ったときのこと、覚えていますか? 」

 

 急に遠い目をして、ネギ先生は私に尋ねた。

 忘れる筈がない。学園長に呼び出されて部屋に行くと、この少年が新しく私達の担任になるという話になっていたのだ。その時は、それなりに衝撃を感じたものだ。

 

「七海さんは僕に言いましたよね。『教師として、他人の人生と関わる覚悟はありますか? 』と。

 ……あの時は、教師になるんだという意気込みで頷きましたが、今なら、あの言葉の本当の意味がよく分かります」

 

 自分で言葉を発しながら、まるでその言葉に自分自身が勇気付けられているかのようにネギ先生は頷く。

 

「僕は、超さんの人生に足を踏み込もうとしている。彼女の生き方に、関わろうとしている。

 それが正しいかなんて、僕にはまだ分からないですが、それでも……教師として。僕は彼女に関わって、責任を持ちたいと思っています」

 

 力強い瞳だった。彼が教師になってから、まだ半年ほどしか経っていない。それでも、彼は強くなったと思う。身体もだろうが、心が成長しているように思えた。

 今となっては、彼のことを子供という目でみる人は少ない。それほど、彼は教師として一生懸命やってきたのだ。

 

 私は、気付いたら自分の掌を彼の頭の上に置いて、スッと撫でていた。

 小さな頭だった。子供らしい爽やかな香りもした。

 

 

「あ、あの。七海さん……? 」

 

 少し驚いた後、照れた様子で彼は私を上目遣いで見ている。

 

「……ネギ先生、一緒に頑張りましょうね」

 

「……はい! 」

 

 ごしごしと彼の頭を撫でると、彼はくすぐったそうな顔をしてから、元気よく頷いた。

 

 

 

 

 それから、各々準備をしようと、私がネギ先生に背を向けた時、彼はまた私を呼び止めた。

 彼は一瞬困ったように視線を宙へと泳がしてから私を見た。

 

「七海さん。あの、何か、体に変化はないですか? どこか痛んだりだとか、うずいたりとか」

 

「……? いえ、特には」

 

 こんな風に突然体を心配されたのは、これで今日二度目だ。彼らは私自身にも気付けないような何かを知っているのだろうか。

 首を横に振った私を彼はもう一度だけ見て、ふっと息を吐いた。

 

「どうしてですか? 」

 

「……いえ。ないなら大丈夫です。それでは、後でお願いしますね」

 

 二人の質問によって頭の隅にしこりのようなものが残ったが、それでも、この後のことを考えたら、そのことはすぐに気に止めない問題となった。

 

 去っていくネギ先生を見送ってから、私は自分がやるべきことのために準備を始めることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 ○

 

 

 

 

 

「……調子の方はどうだ」

 

 コポコポと、フラスコの中で沸騰する音が部屋の隅まで反響していた。薄暗い地下室の中で立てる音はよく響き、女が部屋を歩く音すら妙に耳に残った。

 

「私? もう大丈夫よ」

 

 女は私ではなく試験管を見つめながら応える。エメラルドグリーンの色をしたその液体は透明度も高く、試験管に女の大きな瞳が反射していた。

 

 女は、昨日から休まずに実験をしていた。

 溶媒の煮沸時間や留去時間はそれなりにあったが、その間も眠ることなく作業に没頭していた。

 休まないのか、と尋ねたが、女は馴れてるから大丈夫よ、と応えるだけだった。

 

「お前じゃない。薬の方だ」

 

 私が顎で薬の方を指すと、彼女は笑った。疲労を感じさせない笑みだった。

 

「分かってるわ。冗談よ。……こっちは、まだ少しかかりそう」

 

「世界樹の発光までに間に合うのか? 」

 

「……ギリギリってところかしらね」

 

「……そうか」

 

 この時点でギリギリということは、薬の悪影響が分かった所で対策を打つ時間はほとんどない。実質間に合っていないようなものだった。女もそれを分かっているからか、その表情には焦りが隠れているのが見えていた。しかしそれでも丁寧に手早く作業を続けている辺り、女は相当手慣れているのだろう。

 

「エヴァちゃん、別に私を見ていなくてもいいのよ? 外もなんだか楽しそうにしてるし、行ってきたら? 心配しなくても何か悪さをしたりはしないわ」

 

「……阿呆。この状況で楽しめる訳ないだろう。それに、私のいない間に家を爆発などされたら困る。これでもここには結構な愛着があるんだ」

 

「あら、あんまり信用されてないのね」

 

「出会ったばかりなのに信用も糞もあるか」

 

 実際は、そういう心配はしていなかった。女は、空いた家をどうにかしようとするくだらない人間には見えなかった。

 今すぐ七海の側に行ってあいつの調子を見ている方がいいのかとも思ったが、私は何となくこの場を離れることが出来なかった。

 今七海の元に行っても、私にやれることはない。ならば、ここで女が少しでも早く薬を作るように急かして、それを見ていた方がいいと思っていたのかもしれない。

 

「私はエヴァちゃんのこと信用してるけど」

 

 女は苦笑しながらそう言って、試験管の液体をフラスコの中に入れた。何らかの化学反応を起こしたのか、フラスコ内での沸騰が激しくなり、ボコボコと壁を殴りつけているような音が鳴った。

 


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