セカンド スタート   作:ぽぽぽ

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息抜きに番外編になります。


第74話 番外編

 

「実はな、俺、お見合いすんだよ」

 

「……はぁ」

 

 大学の研究室で、実験をする訳でもないのに悩むように椅子に座り、散々頭を掻いていた教授が突然そう切り出した。

 白衣を着てフラスコを振っていた私は、失礼ながらも大したリアクションもとれず、それも実験の途中ということもあって、次に別の試薬を棚から取り出しながら適当に返事をした。

 

「それは……よかったですね、と言えばいいのですか? 」

 

「良くねぇよお前、ばか」

 

 取り出した試薬をピペットマンで吸い上げて少量フラスコに混ぜる私に、教授はさらに頭を掻いてから叱る。

 コンタミの可能性が増すのでやめて欲しいのですが、と小さく口に出したが、彼は聞いていないようだった。

 

「何故ですか。教授、別に他の想い人がいる訳ではないのでしょう? 」

 

 フラスコに蓋をして冷蔵庫に入れてから、私は仕方なく教授の正面に座ってから聞いた。

 彼がこのままそこにいたら実験がやりにくくて仕様がない。さっさと用件を終わらせてしまった方が得策だと思ったのだ。

 

「いねぇけど。結婚とかしたいと思ってねぇんだよ俺は」

 

「……教授、今おいくつでしたっけ」

 

「31」

 

 意外に若かったことに驚いて、思わず彼をじっと見てしまった。ボサボサの頭、剃りきれてないひげ。勝手に40代だと思っていたが、身形を整えたらそれなりにしっかりするのかもしれない。

 

「まだ30代になったばっかだぜ? 一人でのんびり過ごしてぇんだよ。結婚なんて、時間を奪われるだけじゃねぇか」

 

「そんなことはないです」

 

 私ははっきりと否定した。

 結婚とは、決して辛いものではない。自分の事を分かってくれて、いつでも味方でいてくれる存在が増えるのだ。そう考えるだけで、何よりも価値のあるものだと私は思う。少なくとも、前世の私は幸せだった。

 

「はぁ。若い者は夢ばっかみてていいねぇ……」

 

 教授から見たら私は只の中学生だからか、夢見る女子の発言としてそれは捉えられてしまう。

 

「それで、なんでそんな話を私に? 」

 

 彼がこのようにプライベートの話をするのは珍しい。私にわざわざ愚痴を言うために話したとは、考えにくかった。

 教授は、その発言を待ってました、と言わんばかりに机に乗り出して私を見た。

 

「実はよ、ちょっと明智に協力して欲しいんだよ」

 

「……何をですか」

 

 嫌な予感が激しくしたが、一応聞いてみる。

 

「お見合いを断る協力」

 

「嫌です」

 

「ちょっとは悩む素振りくらいしてもいいんじゃねーの 」

 

 私はもう一度はっきり首を振った。

 

「断りたいなら、相手方に素直にそう言えばいいのでは」

 

「あのな。誘われた手前、男から断るのは完全にマナー違反なのよ。それによ……」

 

 聞けば、お見合いを持ち掛けた人物は、教授が電車で席を譲っただけで何故か彼を気に入ったらしく、話をしてきたそうだ。初めは冗談だと思って軽く受け答えしてしまったのだが、後々調べてみればその人物はこの街のかなりの権力者で、頻繁にお見合いをさせているものらしい。

 その人物が普通のちょっと世話好きなお爺さんならば、話はそこまで難しくないのだが、それが権力者であるが故に、教授は直接断った時のデメリットを心配しているのだ。

 

 研究者として、公の場に出る機会はそれなりにある。今その権力者に目をつけられれば、最近出したデータを発表するのに少なからず影響が出るかもしれないと、彼は不安がっている。

 

 

「……心配しすぎですよ。そもそも、研究機関を評価するのは国ですし、街の権力者程度では影響は出ません」

 

「そいつが国に通じてないっていう保証もねぇだろ? とりあえず、不安材料は残したくねぇのよ」

 

「……なら、お見合いを受ければいいじゃないですか」

 

 教授がどのような女性を好むかは分からないが、権力者の娘ならば、言い方は悪いが、好条件なのではないか。それに、別にお見合いをしたから結婚しなくてはいけないという訳でもあるまい。あちら側が断ればそれで済む話だし、一度顔を合わせるくらいの気持ちでも良いのではないか。

 

「……それがな、お相手さん。その権力者の娘じゃなくて孫なんだよ」

 

「……年は」

 

「中学生だ」

 

 流石に私も頭を抱えそうになった。それは、完全に犯罪だ。

 明日菜から高畑先生への恋愛事情については彼女の立場を知っているからこそ黙認出来たが、彼と中学生となると何となく許してはいけない問題に思える。というか、中学生の孫を見合いに出すなど、その祖父は何を考えているのだ。

 

「だからよ、何とか断らなきゃいけねぇんだが、普通には断れない。そこで、明智に協力してもらおうと思ってな」

 

「……因みに、どういう断り方をするつもりなんですか? 」

 

 まだ協力するとは決まってないが、その中学生のためにも、このお見合いは決して成功してはならない。万が一その権力者が乗り気になって事が進み後戻り出来なくなってしまったら、その子が可哀想である。

 

 

 よって、とりあえず彼の作戦を聞くくらいはしようと、尋ねてみると、彼は私に向かって人差し指を伸ばした。

 

 

「実はもう付き合ってる人がいる。んでその相手が明智」

 

「……」

 

 

 

 ……この人は一体何を言っているのだろう。

 

 

 

「私も中学生なんですが……」

 

「大丈夫大丈夫。お前はタッパもあるし顔も大人びてるから頑張れば大学生にまでは見える。……胸がないのがあれだが、まぁそういう大学生もいるだろ」

 

 物凄く失礼なことを言われている気がした。そういうところに気が使えないから、彼は独り身なんだろうとまで思ってしまった。

 

「その作戦、普通に断るのと何が違うんですか? 」

 

「相手は爺だからな。恋人が既にいて、愛だ恋だ言っておけば勝手に納得して、仕方あるまい、とか言いながら引き下がるだろ。ほら、昔の人間ってそういうドラマに弱いじゃん? 」

 

 甘すぎる見通しに、したり顔の教授が目の前にいるのに関わらず溜め息をついてしまう。そんな作戦をするくらいならば、普通に断った方がまだいいのではないだろうか。

 

 

 当然、私はその申し出を拒否した。

 彼の相手役など精神的にもそれを抜きにしてもまったくこれっぽっちもする気が起きないし、そんなものに巻き込まれるのは御免である。

 しかし、教授はあまりにしつこく、何度断っても私に許可を求め続け、最後には、

 

「あーあ。この実験室使わせてやってんのになぁ。誰のお陰で実験できてんのかなぁ」

 

 などとどうしようもなく大人げないことを言い出したため、私はもう断ることが出来なかった。

 

 

 

 

 この時、相手の名前を聞かなかったのが、私の失敗だったのだ。

 

 

 

 

 

 

 ○

 

 

 

 

「お見合い、ですか? 」

 

「そーなんよー。もう、またおじいちゃんが勝手にして……」

 

 放課後の教室で、このちゃんが困った顔をしながら呟いた。椅子に座りながら伸ばした両腕を机に乗せて、ほんまに嫌やぁ、とこのちゃんはまだぐちるようにいった。

 

「学園長、またですか……。断ってしまってもいいのでは? 」

 

「ほんまにひどいんよ。それにな、断っても断っても勝手にセッティングして、逃げたりしたら追われたりもするんよ」

 

「それは……」

 

 流石にやりすぎなのではないか。いくらなんでも、そこまでするのが許されるとは考えにくかった。

 

「分かりました。このちゃん、私も協力するので、一緒に逃げましょう。きっと追手も振り払える筈です」

 

「せっちゃん……っ! ありがとう!」

 

 このちゃんが顔をぱっと明るくして、私の胴に抱きつくようにして引っ付いてきた。

 

「へへー。まるで愛の逃避行みたいやな! 」

 

「こ、このちゃん」

 

 にまにましながら恥ずかしいことを恥ずかしげもなく言うので、私の方が照れてしまう。

 それに、今の発言がもし他のクラスメイトに聴かれたら誤解されてしまう。特に朝倉さんなんかには絶対に聴かれてはならない。

 

 そう思って、教室を見渡そうとしたところ、

 

「甘いな」

 

「ひゃう!? 」

 

 後ろからそっと呟かれて、思わず肩を跳ねるようにさせてしまった。

 

「あれ、エヴァちゃん。まだ教室におるなんて珍しいなぁ」

 

「ふん。タカミチと少し話をしててな。しかし、聞いていたぞさっきの話」

 

 エヴァンジェリンさんが、腕を組みながら何か企みがあるかのような笑みを浮かべている。

 

「あ、あの! どうかお願いですから朝倉さんには報告しないで頂けると……」

 

「そっちの話じゃない! お見合いの方だ! 」

 

 甘いな、と言う発言は私とこのちゃんの関係について言ったかと思ったが、どうやらお見合いの話に言った言葉らしい。

 

「……貴様ら、逃避行などしても、あの爺をどうにかしないと現状はずっと変わらないぞ? 」

 

「……まぁ、そうやよね」

 

 考えてみればエヴァンジェリンさんの言う通りであった。今ここで逃げ切っても、学園長がまた次のお見合い相手を見つけてくるだけで、なんの解決にもなってはいないのだ。

 

「だからな、いい案がある」

 

「いい案? 」

 

「そのお見合いの場を、滅茶苦茶にしてやればいいんだ」

 

 ニヤリと犬歯を見せながら、悪役のような表情でエヴァンジェリンさんが言う。

 

「でも、それやと相手にも迷惑がかかるんじゃ……」

 

「あほか。逃げても迷惑がかかるのは一緒だろうが。どうせならあの爺が二度とそんなことを考えられなくするくらい、暴れてやればいい。全部悪いのは爺だ」

 

「……うーん」

 

 心優しいこのちゃんは、その案を素直に受け止めることが出来ない。悩むように頭を傾けるこのちゃんに向かって、エヴァンジェリンさんが続ける。

 

「貴様がそんな曖昧な態度だからあの爺が図に乗るんだ。たまにはしっかりと自分の芯を見せてやれ。本当に嫌なら、正面から、はっきりと伝えてやるんだ。言葉ではなく、行動でな」

 

「……でもなぁ」

 

「このちゃん」

 

 それでも悩むこのちゃんの手を、私は包むようにして握る。

 

「……あの人を分からせるにはきっとそれくらいするしかないです。私も協力します。……お相手には、後で一緒に謝りにいきましょう」

 

「……せっちゃん……。うん、分かった。うち、もうお見合いとか嫌やもん。お相手さんには、ちゃんと謝って、その上で、その場で頑張ってみる」

 

「……このちゃん!」

 

 このちゃんは、決意を決めた表情をして、ぐっと拳を握って立ち上がった。後ろから光が射しているかのように、彼女の姿は立派に見えた。

 

 

 

 

「しかし、エヴァンジェリンさん。どうして急に私達に協力的に? 」

 

「ククク。あの爺の困り顔が見たいからな。あいつにはそのうちお灸を添えようと思っていたんだ。

 だから、私もこっそりお見合いの場に付いていかせてもらうぞ」

 

 

 

 

 ○

 

 

 

 お見合いは、料亭で行われた。

 部屋は和室で、壁にある掛軸や陶器に刺さった生け花がその料亭の質を確かに示していて、明らかに高級な店であった。

 

「ふぉっふぉっふぉ。木乃香もようやくその気になってくれたのう。わしは嬉しいわい」

 

「おじいちゃん、うち、何回も嫌やっていったやんな? 」

 

「まぁまぁそう言わんと。ここまで来てしまったらとりあえず一度お見合いしてみたらええ。いい出会いがあるかもしれんのだからの」

 

「……うん。もう、わかった」

 

 着物を来たこのちゃんが、普段は見せないような真剣な顔をして、ゆっくり頷いた。計画を遂行する覚悟を強めたという言い方であった。

 そんな様子を、私とエヴァンジェリンさんは庭の茂みに隠れながら見守っている。

 学園長に見つからないようにとかなり高額な魔法具まで使用して、いつでもここから飛び出せる準備をしていた。

 

「それで、どういう作戦にしたんだ? 」

 

「このちゃんが、お相手の前で初めにはっきりと意思を告げます。全て祖父が勝手に仕込んだことで、此方にその意思はまったくありませんと。私としては、こんなお見合いは金輪際やりたくありませんと。

 そして、万が一お相手が何かアクションを起こしそうになったら私が飛び出しこのちゃんを守ります」

 

 これだけはっきり拒絶すれば、このちゃんがお見合いに対してどう思っているかが伝わる筈だ。

 もし学園長がそれで諦めなくとも、お相手から噂は広まるだろう。学園長の孫は、お見合いの意志が全くないので、その席を用意されても無駄だと。

 

 しかし、突然お見合いを破棄されて、暴れだす相手もいるかもしれない。私は、そんな相手からこのちゃんを守るためにここにいる。

 

 

「……ぬるい作戦だな。もっと、こう、部屋を滅茶苦茶にして暴れるとか、刹那が相手に斬りかかるとか、そういうのを期待してたんだが」

 

「エヴァンジェリンさん、普段私達をどんな目で見てるんですか……」

 

 このちゃんがそんなことする筈ないし、私も一般人にいきなり斬りかかるような真似はしない。

 

 はぁ、とつまらなそうに息を吐いてから、エヴァンジェリンさんはお見合いをする部屋を覗いた。

 このちゃんと学園長が座っているが、お相手さんはまだ来ていない。

 

「相手の情報は? 」

 

「それが、私にもまだ分からないのですが……。あ、来ました」

 

 反対側の襖をすっと開けて出てきたのは、スーツを来た男だった。天然パーマの髪の毛をオールバックにし、少しきつい目をしている。何となくだるそうな雰囲気があり、スーツも、着こなせているようには見えない。少し猫背な姿勢が更にこの店との場違いさを強調していた。

 学園長が、個性的じゃろ、とこのちゃんへ確認するように呟く声が聞こえる。

 

「……あんな年上と、このちゃんを……! 」

 

「刹那、お前らは少し勘違いしているな。年が上であることは決してマイナス要素ではない。それだけ人生経験があり、歩んできた道のりがあるということだ。見てくれと情報だけで判断するようではまだまだだな。意外と付き合ってみたら、最愛の仲になるやもしれんぞ」

 

「……そんなことを言ったら、この計画は台無しなんですが」

 

 私は困った風に言ったが、エヴァンジェリンさんは返事の代わりに欠伸をした。もうこのお見合いに興味を無くしてしまったのかもしれない。作戦を提案したのは彼女だが、気紛れであるが故に、既にここにいるのすら面倒だと思っているのだろう。

 

 

 このちゃんの横に学園長がいて、その正面に位置する場所に男は座った。

 

 作戦通りならば、すぐにこのちゃんが話を切り出す筈だ。息を飲んでそれを見守ろうとしたところで、先に男が手をあげた。

 

「お二人さん。大変申し訳ありませんが、先に伝えなければならないことがあります」

 

「……ほ? なにかの? 」

 

 何となくその場を包んでいた空気が変わったのを感じたからか、興味をなさそうにもはや目を瞑っていたエヴァンジェリンさんは、少し耳を傾けるようにした。

 

「あまりに急なお誘いのため申すことが出来なかったのですが、私には既に結婚を決めた相手がいます。

 この場で伝えることが大変失礼なのは承知しているのですが、私はやはり彼女を裏切れません」

 

「……ふむ。確かに儂もなんの確認もせずお主を誘ったからの。お主としては、言いづらかったことなのかもしれんが……」

 

 意外な展開にも関わらず、学園長は動じる様子もなくその男をじっと深い瞳から見つめた。

 

 私達は勝手に終わってしまいそうなお見合いになっていることで、作戦も決行しにくく、とりあえず様子を見る。

 

「その話、本当なのかの? もしや、見合いを断るためだけに嘘をついているということはあるまいな? 」

 

 学園長の視線が、鋭くなった。この街トップクラスの実力者というのは伊達ではなく、その眼光からの威圧感は計り知れなかった。

 しかし、男はその言葉は予想していたと言いたげに、にやりと不気味な笑みを浮かべた。

 

「……実は、私の相方もここへ連れてきています。……おい、いいぞ」

 

 男が合図をすると、襖の扉が開く。失礼します、という礼儀正しい言葉遣いと共に、出てきたのは――――

 

 

 

「……へ? 」

 

「……え」

 

「……ふむ? 」

 

「……はい? 」

 

 

 

 

 

 

 皆の困惑の視線が集まる中、そこに立っていたのは、明智さんだった。

 

 

 

「え、っと。つまり、え? その人の恋人は、七海ってことなん? 」

 

「い、いや、違うんだ。これには、そのだ。理由があってな……」

 

「おい! ちがくねぇだろが! ちゃんとやれよ!

  いやいやすみませんね。彼女ちょっと緊張してるようで……」

 

「……とはいってものう。まさか七海君が出てくるとは……」

 

 お見合いの場は明智さんの登場によって明らかに混乱としていた。

 

 どういうことでしょうか、と私がエヴァンジェリンさんに話しかけてみる……が、その時には既にエヴァンジェリンさんは私の横にはいなかった。

 

 

 

「七海いいぃ!! 」

 

 風を置いてきぼりにするようなスピードで、 エヴァンジェリンさんは物凄い勢いで茂みから飛び出していった。

 

「おい! どういうことだ! どういうことなんだ!! 」

 

 

「エ、エヴァンジェリン……!君まで、どうしてここに」

 

「そんなことはどうでもいい! お前! 結婚とはどういうことだ! いつの間に! こんなやつと! 」

 

「エヴァ、お主どうしてここに! いや、それよりもまず落ち着かんか! 」

 

「煩いぞくそ爺い! 黙ってろ!! 」

 

「ああ! 学園長が氷漬けに! 」

 

「エヴァンジェリン、まて、これには訳があってだな……! 」

 

「訳だと?! 訳があったとしても! こんなパーマで覇気もなくスーツも着こなせんような奴と一緒になるなんて私が認めんぞ! 」

 

 さっきとは真逆なことを言いながら、エヴァンジェリンさんは叫び続ける。

 

「七海が自分で決めたのなら私だって文句は言わん! しかし! まだ結婚なぞは早すぎるぞ! それに、ちゃんと相手は選んだのか! 弱味か!? 弱味でも握られてるのか!? 」

 

「え、エヴァンジェリン……! だから、違うんだ! まず落ち着いて……! 」

 

 

 

 認めんぞぉ! と言いながら明智さんの肩を揺するエヴァンジェリンさん。

 それにより、ほとんど目を回しながらなんとか言い訳する明智さん。

 氷塊の中で固まる学園長。

 

 作戦を実行せずとも、この場は無茶苦茶である。

 

 

 

 

「……なぁ、おじさん。七海の知り合いやったん? 」

 

「……ああ、大学でちょっとな。あんたらは? 」

 

「うちらは七海のクラスメイトで、友達や」

 

「そーかそーか。あいつ、ちゃんと友達いたんだな。良かったわ。あんま明るいタイプじゃねーし、少し心配してたんだわ」

 少し心配してたんだわ」

 

「くす……。なんやー、おじさん、いい人やなぁ」

 

「あー。悪いが、惚れられても困るぞ。俺は年上の方が好きだからな」

 

「そんな心配いらんよー。うちはあんまり年上好きじゃないんやー」

 

「くくっ。はっきり言うじゃんか」

 

「……でも。おじさんとならお友達になれるかもなぁ」

 

「……ああ、いつでもクラスメイトの友達連れてうちのラボにこい。迷惑かけた詫びに爬虫類沢山みせてやるよ」

 

「ほんま! 楽しみやなぁ」

 

 

 混沌としている場所の中、このちゃんとそのお相手だけが、どこか楽しそうにそれを見守っていた。

 

 

 

 


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