セカンド スタート   作:ぽぽぽ

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没ネタ1~3

 没ネタその1

『修学旅行の班決め』

 

 ○

 

 

 先日、修学旅行の班決めを行うということで、ネギ先生はホームルームの時間をそれにあてた。A組のメンバーの性格上二年も一緒にいれば皆仲がよく、特に誰かと軋轢があるということも少ないため、スムーズに決まるものだと皆が思っていた。しかし、そう簡単にはいかなかった。

 

「七海は私の班だ」

 

「七海は私達と行くんですわ」

 

 私が少し出遅れていた所で、いつの間にかエヴァンジェリンとあやかの対立が起こっていた。二人の間には見えぬ筈の火花が激しく散っていて、私は状況に付いていけずにぽかんとしていた。他の生徒たちはその珍しい組み合わせに好奇心を刺激され、なんだなんだと野次馬精神をたぎらせた。黒板前に立つネギ先生は、おろおろと戸惑っている。

 

「……それなら二人共同じ班に……」

 

「私の班にこんなうるさい奴はいらん」

 

「私の班ももう他のメンバーが決まっていますわ」

 

 私の案は即刻却下され、二人の睨み合いは強くなる一方だ。私が困った顔を浮かべていると、思わぬ所から助け船が入った。

 

「まぁまぁまぁお二人さん。それじゃどうしようか。七海に『どっちと行きたいか』なんて聞くつもりはないでしょ? 」

 

 朝倉が二人の間に割り込むようにして、突如仕切り始める。『どっちと行きたいか』、なんて問われたら一番困る質問だ。私はこの場でどちらと行きたいんだ、なんて言う勇気がなかった。中途半端だ、とまた言われそうでもあるし、はっきりとしている人こそが正しいと言われたらまた困るのだか、とりあえず今の私はこの状況が心苦しかった。

 

 それを察してくれたのか、朝倉の言葉に二人はうっ、と息を詰める。そこで朝倉はニヤリと笑みを浮かべた。

 

 

「なら、勝負しかないっしょ! 第一回! 七海争奪戦ーーー! 」

 

 

 わぁー! と、テンションに身を任せた生徒たちの歓声が上がる。いやいやそんな大事にしなくても、と私が口を挟んでも、当の二人がやる気のためどうしようもない。あっという間に生徒たちは机を移動して、教室の中央に広いスペースができた。彼女らはそこを囲むように観客を装い、こんな時のその団結力はなんなんだ、と私が愚痴る前に、私は最も見易い場所に座らされていた。

 いつもならあやかが抑えている状況だが、本人が当事者の場合はどうしようもない。ネギ先生助けて、と彼に目をやると、彼は私の横でうきうきとした表情で座っていた。どうやら、彼は生徒にうまく言いくるめられて、これを楽しい行事と勘違いしていた。

 私は諦めるように項垂れて、トトカルチョなどを始める生徒達の前で二人の様子を見守った。

 

 司会は当然のように朝倉が仕切り、競技を指定した。なるべく運要素の強いゲームということで、じゃんけん、アミダくじ、ポーカーの三種のうち2勝したら勝ちというルールになった。

 

 初めのじゃんけんでは、エヴァンジェリンが圧勝した。運とは言えないほど、連続で彼女が勝ち続けた。ふふん、と高らかに笑うエヴァンジェリンを見て、あやかは悔しそうな顔をした。

 

「肉まんあるヨー。いらんかネー」

 

 いつの間にか商売を始めた超が席を回る中、アミダくじが始まった。

 どうやっても盛り上がりようがないだろ、と言えるこのゲームも、朝倉のトークテクニックでまさに熱い勝負であった。ここでなんとかあやかが勝利を掴み、勝負はポーカーへと持ち込まれた。

 

「勝負! 」

 

 二人同時で手を見せる。

 あやかの手は、クローバーの1から5を揃えた綺麗なストレートフラッシュ。勝ったと確信の笑みを浮かべている彼女に対し、エヴァンジェリンは余裕そうな顔で手札を晒す。

 

「な、なんと! エヴァンジェリン選手!! ロイヤルストレートフラッシュです! よって、七海争奪戦の勝者は! エヴァーーンジェリーーン!! 」

 

 教室に歓声が轟く。あやかは、そんな、と短く呟いて膝をついた。エヴァンジェリンは満面の笑みを浮かべて私に振り向いた。

 

「七海! どうだ! 勝ったぞ!」

 

 教室では滅多に見せないようなその笑顔に、クラスメイトは、ほう、と息をはいた。

 

「エヴァちゃん、そんな笑顔できるんやぁ」

 

「ムスッとした顔しか見たことなかったでござるよ」

 

「うーん。やっぱり上玉だねエヴァにゃん」

 

「エヴァンジェリンさん、いつもそんな顔をしてればいいのに」

 

「う、う、うるさいぞ貴様ら! やめろやめろ! 」

 

 誉め尽くされているエヴァンジェリンは、顔を真っ赤にしながら生徒たちに怒鳴った。やいやいと騒いでいる中、教室のドアが勢いよく開いた。

 

「A組! 静かにできんのかぁ! 」

 

 その後、鬼のような顔をした新田先生に散々怒られたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 ○

 

 

 

 没ネタその2

『七海ラブラブキッス大作戦参加編』

 

 

 

 

 ○

 

 ……何の騒ぎだこれは。

 

 修学旅行二日目の夜、私は皆と時間をずらして温泉に入りそのまま部屋に戻ろうとしていた。しかし、部屋の前の廊下には、何故か必死に枕を投げ合うクラスメイト達がいたのだ。

 

「あ、七海もいるアル! 」

 

「ふむ、七海殿も行事を楽しむつもりでござるな。では、覚悟」

 

「まて、まてまて」

 

 現状も理解できない私をおいて枕を振りかぶる二人に静止を呼び掛けるが、彼女達の勢いは止まりそうにない。

 

「クーちゃんたち余所見してる! チャンス! 」

 

 彼女たちの横からまき絵と明石が飛び出してきて、二人に向かって枕を投げた。予想外の助けに混乱しながらも、再び始まった彼女達の枕投げを見ていると、後ろから袖を引かれた。

 

「七海さん、こっちです」

 

 その場から遠ざかろうと、夕映はどんどん私を引っ張っていった。かなり距離を取って廊下から見えないような角についたところで、私は夕映に説明を求めた。

 

 

「…………また朝倉の仕業か」

 

 どうやら『ラブラブキッス大作戦』という訳の分からぬ行事を企画したようだった。作戦も何も、勝利条件はネギ先生の唇を奪うという本当に訳の分からぬものだった。

 

「はい。まったくバカなことを企画するものです。せっかくのどかが勇気を振り絞って告白したというのに」

 

 盛大にため息を吐いて怒りを表す夕映に、横にいるのどかはまぁまぁと手を肩に置く。

 

「やめさせよう」

 

 少年の唇を総出で奪うなど些か非人道的であるし、ネギ先生がそれを許可したとは思えない。私が皆にそれを告げようとした所で、予想外にも夕映が私を止めた。

 

「七海さん、今までこのような騒ぎになって、A組が素直に辞めたことはありますか? 」

 

「……それは」

 

 私は手を顎にやり、これまでの過去を振り替えってから答える。

 

「……ないな」

 

「でしょう。皆に声を掛けても止まるかは分かりませんし、それを注意して七海さんが鬱陶しく思われる筋合いもありません」

 

 A組にそんな風に思う人がいるとは思えなかったが、とりあえず夕映の心配を受けとるように頷く。

 

「ここはやはり、主犯をどうにかするべきかと」

 

「つまり、朝倉を探し出せばいいんだな」

 

「ええ、もしくは、のどかに優勝させます」

 

「…………うん? 」

 

 ちゃっかり行事に参加しようとしている所に私が疑問を持った直後に、後ろから聞き覚えのある声がした。

 

「ふはははは! そこで隠れているつもりか! ばれているぞ! 」

 

 廊下の角から聞こえるその声はどう考えてもエヴァンジェリンの声で、彼女も参加しているのか、と私はがっくりと項垂れた。のしのしと、彼女が近付いてくる音が聞こえてくる。

 

「ま、まずいです」

 

「………ここは、私に任せてくれ」

 

「で、でも」

 

「心配するなのどか、さぁ、二人は先にいくんだ」

 

 私が笑いかけると、二人は私に頭を下げてからさっと奥へと移動していった。

 

「さぁ、見つけたぞ! 覚悟し…………て、七海じゃないか。こんな所で何をしているんだ」

 

 エヴァンジェリンは意気揚々と角から顔を出して叫んだあと、私と気付いて振りかぶった枕を下ろした。

 

「それはこっちのセリフだ。君まで一体何をしているんだ」

 

「枕投げとは、修学旅行の定番イベントだろ。これに参加せずにどうしろというんだ」

 

 くっくっく、と楽しそうに笑うエヴァンジェリンの後ろで茶々丸もしっかり枕を持っていて、私はまた溜め息を吐いた。

 

「そこまでネギ先生とキスしたいのか」

 

「アホなことを言うな。ただイベントだから参加しているだけだ。七海を誘おうと思ったが、いなかったので勝手に出てしまったぞ」

 

「すみません明智さん」

 

「いや、いい。頼むから謝らないでくれ茶々丸」

 

 私は痛くなった頭を片手で押さえながら告げた。よく分からないがこれだけやる気になっている彼女達をどう止めようか。と、考えていたその時。

 

「七海さん」

 

 トントン、と私の背中をつつく感覚がして、振り替えると、そこにはネギ先生がいた。

 

「……ネギ先生、こんな所にいたのですか。申し訳ありまけんが、クラスメイトが馬鹿なことをしてました、今はとりあえず逃げて……」

 

「僕と、キスしてくれませんか」

 

「……………………うん? 」

 

 …………私の聞き間違えでなければ、もしかして、キスしてくれと言ったのか? ならば、この計画はネギ先生も関わっていたと。紳士を目指すと言っていた気がするが、誰かに間違った紳士でも教えられたのか。

 

 と、私がネギ先生の不意討ちの言葉に思考を巡らせていると、彼は背伸びをして私の肩をぐっと掴んだ。

 

「明智さん」

 

「ネギ先生。バカな考えはやめなさい、まだ間に合う」

 

 顔まで近づけようとするネギ先生の頭を、私は力を込めて押さえる。だが、ネギ先生の方が力が強く、その顔はどんどん近付いてくる。

 

 私が、勘弁してくれ、と焦りを浮かべた所でピキリ、と音がなった。

 

 

「七海に何する気だこのくそ坊主が! 」

 

 叫び声と同時に横からエヴァンジェリンが思いっきりネギ先生を蹴り飛ばし、ネギ先生は廊下の奥まで飛んでいった。

 

「……エヴァンジェリン、ありがたいし助かったが、やりすぎじゃないか? 」

 

「はっ! 当然の報いだ」

 

「明智さんをゲームに誘おうとした人が言う言葉ではないような気がしますが」

 

 茶々丸の突っ込みを聞きながら、私はネギ先生の様子を見ようと近付く。すると、白目を向いたネギ先生が、ぽん、と音を立てて一枚の小さな札になった。

 

 

「……もう訳が分からない」

 

 

 理解できないことの連続に、私はまた項垂れることしか出来なかった。

 

 

 

 

 ○

 

 

 没ネタその3

『フェイト君と自販機』

 

 

 ○

 

 

 

 コーヒーが飲みたい。彼はそう言って、自販機を見た。この年でコーヒーが好きとは、中々通である。しかし、この自販機には録なものがないと、彼は言うのだ。

 どれどれ、と私とういも一緒に見てみると、確かに変なものしかない。ソース烏龍茶やドリアンミルクなど、見るに耐えないものが多い。

 

 

「七海じゃありませんか。こんな所で何をしているんです? 」

 

 

 私とういが、うえぇ、とその自販機に引いていると、後ろから現れた夕映が話し掛けてきた。

 

 チューチューと紙パックのジュースを吸っていて、パッケージには、「抹茶オレンジ」と堂々書かれている。

 

 それを見てまた少し引いたういを気にせずに、どなたです? 、と夕映が視線で私に訊ねる。私が両者の間に立ってそれぞれ紹介すると、妹さんがいたんですか、と夕映は意外そうな声を上げた。

 

「それ、美味しいんですかぁ? 」

 

「癖になる味ですね。この自販機にあるものは、追究心を擽るものばかりですよ」

 

 何故か夕映が自信ありげに自販機の商品を紹介していく。

 

「それで、お探しの商品は? 」

 

「この子が、コーヒーが飲みたいらしいんだ」

 

「……? この少年は? 」

 

「ちょっとした知人だ」

 

 私がそう紹介すると、フェイト君は一瞬私を見てから無表情に夕映のことを見た。目付きの悪い子ですね、と夕映は私にそっと耳打ちする。

 

「それにしても、コーヒーですか」

 

「ここになければ別なところで探すよ。そもそも缶コーヒーはそんなに好きでもないから」

 

「いやいや、ここの缶コーヒーをそこらのものと一緒にしてもらったら困ります。ほら、ここにあるじゃないですか」

 

 そう言って、夕映はある商品を指差した。そこには「海老味噌珈琲」と書かれた恐ろしい物があった。あまりの恐ろしさにういは私の後ろに隠れた。

 新商品で私もまだ試してないんです、と夕映は興奮した様子を見せる。

 

「ななねぇのお友だち、変っ」

 

「何が変ですか。ほら、少年。どうぞこれを」

 

「……やめとけ、お腹壊してしまうぞ」

 

「七海までそんなこと言って」

 

 フェイト君は私達の会話を聞きながら、ちゃりんと自販機にお金を呑ませた。それから、「海老味噌珈琲」のボタンを押す。

 

「……分からないけど、試してみないと未知のままだろう? それに、こんな風でもコーヒーはコーヒーだ」

 

 なんと勇気ある発言だろうか。この年でコーヒーにハマるほどのコーヒー好き魂が、刺激でもされたのか。その心意気は素直に称賛するが、無理しすぎな気もする。

 

 ガコンと出てきた缶を、フェイト君は取り出す。パッケージには、海老とコーヒー豆が一緒に写っている。パチンと音を立ててプルタブを返す。私とういは、その様子を恐る恐ると見ていた。海鮮とコーヒーの混じった臭いが鼻をなぞり、うっ、となる。

 

 フェイト君はゆっくりと缶を口元に持ち上げ、唇につける。

 

 私とういは謎の緊張感により、ごくりと喉を鳴らした。

 

 缶が傾き、フェイト君の喉が一瞬動いた。流れ込む灰色の液体が少し見える。

 

 フェイト君の目が、大きく開いた。

 

 缶を持った手をゆっくりと下ろす。顔を下に向け、表情が見えない。

 

「ね、ねぇ。だいじょぶ? 死んじゃった? 」

 

「失礼ですね。死ぬもんですか」

 

「いや、救急車呼んだ方が……」

 

 フェイト君はゆっくりと顔をあげた。いつも通りの無表情で、それが逆に私を安心させた。

 大丈夫じゃないか、と私が声をかけようとした瞬間。

 

 

 ばたりと、彼は綺麗に倒れた。

 

 

「えええ! やばいよやばいよ! 」

 

「うーん。おかしいですね。彼には耐性がなかったのでしょうか」

 

「いいから救急車だ! 」

 

 少ししたら、フェイト君は救急車に運ばれていった。

 

 

 

 


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