セカンド スタート   作:ぽぽぽ

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没ネタ7~9

 没ネタその7

『姉妹』

 

 

 ○

 

 

 

「ねー、ななねぇー」

 

「……どうした」

 

 ゴロゴロと、私の部屋のフローリングの上で寝転がるういは、まるで猫のようだった。クッションを両手で抱き締めて、うろちょろと部屋を見渡している。

 

「ひまー」

 

 だらけきった様子でういは間抜けた声を伸ばした。怠惰、という言葉は今の彼女にこそあっていた。

 

「……外にでも出たらどうなんだ? 」

 

「ええー。そんな気分じゃないんだよなぁ」

 

 ゴロゴロと転がってきたういが、私の読んでいる科学雑誌のページを勝手にペラペラと捲った。構って欲しいのだろう。しかし、だからと言って私の休息時間を邪魔していい訳ではない。ういのせいでちょうど読んでいた文章が繋がらなくなり、ジロリと睨むと、こわーい、と声を上げながら転がって遠ざかっていった。

 

「しかし、あれだね。ななねぇの部屋は殺風景だ」

 

 面白いものが何もない、と言いたげだった。

 

「そこの壁を見てみるんだ。新しい標本があるぞ」

 

「虫はパスでーす」

 

 珍しい『ゾウムシ』を集めて標本にしたものを作ったのだが、彼女は見てすらくれなかった。

 

「てかさ、ななねぇいつまで虫が好きなんて言ってるの? そんな女の子、絶対モテないよ」

 

「別にモテようと思ったことはない」

 

「はぁー。宝の持ち腐れとはこのことなんだねぇ」

 

 やれやれとため息をつくその姿は、どこが諦めが込もっているように見えた。

 

 

 そこで、インターホンがなった。

 

「あ! 誰かきたよ! 」

 

 新しい来訪者がこの何も変化のない空間に新たな風を与えてくれると思ったのか、ういはテンションを上げてドアを見つめた。

 

 明智、いるかー、とドア越しに声を掛けてきたのは、長谷川さんだ。

 

「千雨ちゃんだ!! 」

 

 ういはばっと立ち上がって玄関まで走っていき、勝手に力強くドアを開けて長谷川さんを迎え入れた。

 

「千雨ちゃんいらっしゃい! 」

 

「お、おお。ういか」

 

 乱暴に空いた扉に驚いている長谷川さんを無視して、ういは、どうぞどうぞと中に入れた。

 

「千雨ちゃん、今日はどしたの? 」

 

「いや、明智に借りてた本を返しにきたんだが。明智、サンキュ。面白かったぜ」

 

「それはよかった」

 

 長谷川さんは肩から掛けた鞄から丁寧に文庫本を取り出して、私に渡した。

 

「んで、ういはなんでここにいんだ」

 

 そう訊かれたういは、よくぞ訊いてくれた、と胸を張った。そんなういに対して、長谷川さんは、はやく言えと適当な物言いで急かす。

 

 長谷川さんとういは、私達が小学生の頃に出会った。長谷川さんが我が家に遊びに来たとき、私でさえ仲良くなったばかりの長谷川さんに向かって、ういはいつもの調子で距離を詰めていった。

 そんな彼女に最初は戸惑いを感じていたようだが、もう慣れてしまったのか、ういには気を使う必要がないと気付いたのか、長谷川さんはいつの間にか妹に対して心を開いていた。

 

「実はね! 暇だからななねぇのとこ来たんだけどね! 驚くことにここに来ても暇なんだよね! 」

 

「そーか」

 

「そーか、じゃなくて! ねね、私はどーすればいいの? 」

 

「もう自分の部屋に戻ったらどうだ? 」

 

「ななねぇひど! そんなこと言われたらもう逆に絶対帰らない! 泊まってってやるぅ」

 

 ぴょんと跳ねて私のベッドにダイブしたので、部屋に埃が少し舞う。

 

「……うい、冷蔵庫にプリンがある」

 

「へっ! プリン!? 」

 

「帰るか帰らないかは置いといて、とりあえずそれでも食べていったらどうだ? 」

 

「そだね! とりあえずお腹を満たさないと何も考えられない気がしてきたよ」

 

 ベッドから飛び起きて、トタタと足音を立てながらういは冷蔵庫に向かっていった。

 

「……ん? どうかしたか長谷川さん」

 

 長谷川さんは、何か思うところがあったのか、じっと私達のやり取りを見つめていた。

 

「いや、そのよ。お前ら姉妹は仲良さそうだなぁって」

 

「……どうしたんだ急に」

 

「私は兄弟ってのがいないからな。どんな感覚か分からんし、1人が嫌いじゃないから別に羨ましくもないんだが……。むしろ、家にこんな風に図々しく居られたら鬱陶しく思わねぇのかなってよ」

 

「まぁ、思わなくはないが……」

 

「ええ! 思わなくはないの! 」

 

 プリンの容器にスプーンを刺しながら、ういが私達の間に顔を出した。

 

「二人は喧嘩とかしないのか? 」

 

「喧嘩……。したことあったか? 」

 

「千雨ちゃーん。相手はななねぇだよ? 」

 

「ああ、そりゃ喧嘩なんぞしないか」

 

「それはどういう意味の納得なんだ」

 

「私が勝手にわがままいって騒ぐ時はあるけどななねぇはいつも冷静だし、そりゃ私が悪いことしたらななねぇは叱るけど、私もななねぇに言われて言い返そうとは思わないもん」

 

 ういがプリンを持ったまま、私に身を寄せる。

 

「ななねぇは優しいからねぇ。これで虫好きじゃなければ完璧の姉だったよ」

 

「虫好きの何が悪いというんだ」

 

「悪いというか、悪趣味だなぁって」

 

「……プリンは没収だな」

 

「ああ! それだけは! 」

 

 私に必死に頭を下げるういを見て、長谷川さんが噴き出すようにして笑ってから言った。

 

「ま、なんにせよ仲良さそうでなによりだな」

 

 

 

 ○

 

 

 

 没ネタその8

『ハロウィン』

 

 

 

 ○

 

 

 ハロウィン。

 子供が仮装をして、大人に向かって「お菓子をくれなきゃイタズラするぞ」などと脅迫じみた事を言い、お菓子を貰う。僕の記憶では、確かそういう行事であった筈だ。

 僕のいた村でも、その日には仮装をした子供達が家という家を訪れていたが、僕自身はあまりそのような行事には参加したことがなかった。

 お世話になっている方々に迷惑を掛けたくないという思いが先にあったからだ。姉にいえば、もっと子供らしくていいのに、と溜め息をつかれたことを覚えている。

 

 ともかく、日本に来てもその行事の意味は変わっておらず、しかも麻帆良はその人口と学生の多さ故か村とは比べ物にならないほどのイベントとなっていて、街には仮装をして歩き回る人しか見当たらないほどだった。

 

 そんな街の人達を書類を手にしながら、学校の窓より見ていると、後ろから声をかけられた。

 

「トリック オア トリート! お菓子をくれなきゃイタズラするぞ! 」

 

「……へ? 」

 

 振り返れば、そこには黒い三角帽子とローブを羽織り、杖を持った少女がいた。妙に親近感の涌くその格好は、魔法使いの仮装なんだろうか。

 少女は片手の掌を僕に向けて、くいくい、と動かしている。

 

「あの、ういさん? 」

 

「こどもせんせ! トリック オア トリート! ハロウィンだよ! 知らない? 」

 

「はい、あの、ういさん。それは分かるんですが、一つ分からないことがあってですね」

 

「え、何が? 」

 

 ういさんは、僕の発言に首をこてんと傾げた。

 

「僕もまだ一応子供なんですが…… 」

 

 そう。僕の記憶が正しいのならば、ハロウィン恒例のおねだりは大人に対してやる筈なのだ。少なくとも、子供相手に、それも自分より年下相手にはやらないものだと思っていた。

 

「でもさ。子供先生スーツ着てるし、先生だし、いいかなーって」

 

 まったく気にする様子もなく、ういさんはあっけらかんと答える。随分と適当な子だなぁ、と思わず笑ってしまいそうになった。

 

「でも、すみません。僕お菓子持ってないですし、それにきっと、ちゃんと大人から貰った方がいいですよ? 」

 

「うーん。まぁ確かに。それもそうかぁー」

 

 腕を組むようにして僕の言葉を受け止めてから、ういさんはキョロキョロと辺りを見渡した。

 

「お! あそこに大人の人発見! お菓子貰いにいこーかな! 」

 

「あ、あの人は大人じゃないですよ! 確かに大人っぽいですが……! 」

 

「え? あれ? よく見れば中学生の制服着たコスプレしてるし、子供ってこと? ん?でもわざわざ中学生の制服着るコスプレしなきゃいけないってことは、大人なんじゃない? あれ? 混乱してきた」

 

「だから……! あれはコスプレでも何でもなくて、正真正銘の中学生なんですって! 」

 

 

 

 

 

「……ネギ先生。私が、どうかしましたか? 」

 

「ひぃぃ! 」

 

 かちゃり、と、どこからか物騒な音を立てて、いつからか僕らの会話を聞いていた龍宮さんが、いつの間にか僕達の後ろにいた。

 その顔は、冷静そうに見えて、ゴゴゴという音が聞こえると勘違いしてしまうほど、恐ろしいものだった。

 

「「すみませんでしたーーー! 」」

 

 僕らは同時に叫びながら、両手を上げて猛ダッシュでその場から離れた。

 

 

 

 

 

 

 

「……ういさん。貴方のせいでとても怖い目に会いましたよ……」

 

「あははー。ごめんごめん。でもほんとに怖かったねー」

 

 玄関まで逃げ出した僕らは息を整えてから話をしていた。ういさんは相変わらず能天気な感じで、明るく笑っていた。

 

 

「……何をしているんだい。君達は」

 

「あ、フェイフェイ」

 

 次に僕らに声を掛けたのは、フェイト君だった。どうして中等部に彼が、と疑問に思っていると、察したフェイト君が、学園長に呼び出された、と説明してくれた。

 

「あー! そーだ、フェイフェイ! トリック オア トリート! お菓子くれなきゃイタズラするぞ! 」

 

「えー……。結局見境なしに言ってるじゃないですか」

 

「フェイフェイは大人っぽいからいいの! 」

 

 よく分からない自分ルールで彼女はまたしても対象を決めていた。このような行事で私情を挟みまくるのはどうなんだろうか。

 

「……色々突っ込みたいことはあるけど、とりあえず置いておくよ。結論から言うと僕はお菓子は持っていない。それで、お菓子がないとどういうイタズラをされるんだい? 」

 

「え。イタズラ? どうしよ」

 

 ういさんは、うーんと悩んでから、そうだ、とポンと手を叩いた。

 それから、着ているローブについていたポケットをまさぐって、一つの飴を取り出す。

 

 ういさんはその飴をしっかりと確認し、封を軽快に切ってから、はい、と無理矢理フェイト君の口に押し入れた。

 突然のういさんの行動に呆然としたフェイト君は、一度だけコロコロと口の中で飴を動かしてから、ういさんを睨んだ。

 

「……どういうつもりだい? 」

 

「私の嫌いな味の飴を勝手に食べさせるイタズラだ! どうだ! 」

 

「……」

 

 コロコロと、フェイト君はまた飴を口の中で動かす。その様子が余りにも不似合いで、僕は笑ってしまいそうになった。

 

 

「……これは、本当に不味い飴だ」

 

「でしょ! 」

 

 フェイト君が不快そうにした顔を見て、ういさんは、してやったり、と何故か嬉しそうに笑った。

 

 

 

 

 

 ○

 

 

 

 没ネタその9

『クリスマス』

 

 

 

 

 ○

 

 

「またきちまったなぁ、この時期が……」

 

「ああ、また来たな……」

 

 

 教室の端で、長谷川さんとエヴァンジェリンが深い溜め息を吐きながら教室の様子を見守っていた。諦めと呆れの混ざった表情をしながらだるそうにしている二人は、背丈も顔も似通っていないのにも関わらず、まるで双子のようにそっくりに見えてしまった。

 

「……何を気落ちしてるんだ、二人は」

 

 私は手元にある折り紙を畳みながら、声を掛ける。すると長谷川さんが、だってあれみろよ、と顎をくいっと動かして私の視線を誘導した。

 

 教室の真ん中には、天井にも届きそうなほど大きなクリスマスツリーが飾ってあった。

 クラスメイト達は、真っ赤な鼻のトナカイを呼んだり、 ベルが鳴るやら鈴が鳴るやらと大きな声で歌ったりしながら、大いに盛り上がっていた。

 何人かはサンタクロースのコスプレまでして、飾り付けを楽しんでいる。

 

 

 私達は今、クリスマスパーティーの用意をしていた。

 教室で開催することを許されたため、あやかがなんとかして木を室内に持ち込み (それは教室の窓やら壁やらをくり貫くほどの大工事であり教師達も皆集まってそこでも一悶着あったのだが)、食事班やら飾り班やらに役割を分けて着々と準備は進んでいた。

 因みに私も飾り班である。

 

「皆楽しそうにしているじゃないか」

 

「それが嫌なんだよ」

 

 私の言葉に、また長谷川さんが溜め息を吐いた。

 

「何かにつけてはやれパーティーだ宴会だと盛り上がりやがって。一年で何回騒げば気がすむんだ」

 

「分かる。分かるぞ、長谷川千雨。大体こいつらは、クリスマスが何のためにあって本来どういう行事かも分かっていないのだろうな」

 

 二人でこの季節に合わない負のオーラを撒き散らしながら、ぐだぐだと愚痴る。いつの間に二人はこんなに仲良くなったのだろうかと感じるほど、同調した掛け合いをしていた。彼女達は、あまり群れるのが好きではないのは知っている。だからこそ、強制的にこのようなイベントに参加させられたことに憤りを感じているのかもしれない。

 

「キリストの降誕祭だってのに、どうしてあいつらが着替える必要があるんだよ。しかも安いコスプレしやがって。質がいいんだから、もっとこう上手いことしてだな……」

 

 ぶつぶつと言う愚痴はまだ続いていたが、私はあまり気にすることなくせっせと折り紙を折っていた。ちょうど今、カブトムシが作れた所だ。

 

「ていうか、クリスマスっていったら普通恋人と過ごすんじゃねーのかよ」

 

「こいつらにそんな相手がいると思うか? その事実を認めたくないがゆえに、こうしてここで大騒ぎしているという部分もあるだろうな」

 

 この瞬間に、二人の会話を掻き消すように皆の歌の声量が大きくなる。まるで、その言葉は聴きたくない、と反抗している風にも聴こえて、長谷川さんは、図星じゃねーか、と突っ込みを入れた。

 

「……二人共、そんなに卑屈にならなくてもいいじゃないか」

 

 私が折り紙にそっと折り目をつけながら言うと、彼女達は同時に此方を向いた。

 

「確かに本来の行事のあるべき趣旨とは離れていってるかもしれないが、それでも別にいいじゃないか」

 

 世の中には間違っていることなど沢山ある。

 しかし、だからと言って全てを正さねばならないということもないだろう。それが正しいか間違っているかというよりも、ある程度を許容し、何かをするという行為に自ら楽しもうとする心こそが大切なのではないか。

 

「それに、友とこういう行事を経験していくことも、恋人と過ごすことと相違ないほど貴重な経験になると私は思う」

 

 

 私がそこまで言うと、二人は顔を見合わせた。

 それから、はぁ、と合わせて大きく溜め息を吐いた。

 

「お前はあれだな。相変わらず、おおらかというか、寛容というか……」

 

「明智と話してると、たまに自分が小さくみえることあるわ……」

 

 

 やれやれ、と何故か諦めたような顔をして二人は息をついた。その姿がまた二人ともよく似ていて、私は思わず苦笑してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あーっと。明智、それと、だな。これは言おうか迷っていたんだが……」

 

「……ん? 」

 

「多分、クリスマスの飾り付けに昆虫の折り紙を飾るのは間違っているぞ」

 

 私は、自分で作った折り紙達を見た。バッタや、トンボなど、自ら言うのもあれだが、良くできている。

 

 

「……長谷川さん。あれだ。間違っていることよりも、楽しむということの方が大事であってだな」

 

「いや、だとしても虫はだめだろう。そもそも今冬だぞ」

 

 エヴァンジェリンが私の言葉を遮るようにすぱりと言い放つ。

 私はもう一度確認するように自作の折り紙昆虫を見てから、彼女達に視線を戻した。

 

「……駄目かな」

 

「駄目だな」

「流石にな」

 

「…………やはりか」

 

 正直そんな気はしていた、と呟きながら、次から鶴を折ることに決めた。

 


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