セカンド スタート   作:ぽぽぽ

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後日談
後日談『ナギ・スプリングフィールド』


 

「ナギさん、話とはなんでしょうか? 」

 

 ナギさんは手元にある紅茶をぐいっと男らしく飲んでから、よくぞ聞いてくれた、という顔をした。

 窓からの斜陽が、彼の真っ赤な髪を橙色に染めている。生まれも育ちも海外だという彼は、顔の彫りは深く、肌の色は白身を帯びている。

 

 今日も天気は、晴れ。

 あの多くの事件が詰まった学園祭を終え、いくつかの爪痕や更なる問題を抱えながらも、私達は再びいつも通りに騒がしい日常を過ごせていた。

 そして、その合間である日曜日に部屋を訪れたナギさんの前に、私はこうして座っている。

 

 

「つーかよ、七海。別に俺に敬語使わなくてもいいんだぜ? 気軽にナギって読んでくれよ。一緒に一つの世界に居た仲じゃねぇか」

 

 他人に聞かれたら良からぬ勘違いをされそうな物言いで彼はそう言ったが、私は丁重に断った。

 

「いえ、ナギさんは年上ですし、私は敬語に抵抗がある訳ではないので」

 

 真面目だねぇ、とナギさんはしみじみと言う。

 何となく、彼の口元に私の目線は寄っていった。

 

 ネギ先生に、よく似ている。当たり前のことだが、何故か感慨深く感じた。

 性格や立ち振舞いは全くと言っていいほど違うが、街で彼らが揃って歩くのを見れば、家族だと思わない人はいないであろう。

 それはきっと繋がってる血筋だけが成せることで、遺伝学に詳しい私にとって親子の表現系が似ることは分かりきったことなのだが、そんな小さな発見だけで妙な嬉しさを感じてしまう。きっと、ネギ先生がずっとお父さんを探していた、という情報が私の中にあるからだろう。

 

 ネギ先生、確かにこの人は貴方の父親ですね、と心の中で語りかけてしまう。

 

 

「それでだな、話っつーのは、非常に重要な問題なのだか……」

 

 ナギさんはそう前置きして、机の上にぐっと身を乗り出した。その緊迫した雰囲気に、私は思わずごくりと息を飲みこむ。

 

 ナギさんの言う重要な問題。

 

 ここ数年で様々なことを経験した。魔法を知って、世界樹に関わって、過去の英雄の封印を解いた (狙ってそうなった訳ではないが) 。

 その英雄から重要だと改まって言われると、知った仲だと言っても緊張してしまった。彼がこれほど真剣な顔をしたのを初めて見たのだ。きっと、それほど重要な話なのだろう。

 

 私は息を整え、しっかり身構えて心の準備をした。私なんかが聞いていい話なのかは分からないが、相談されるからには彼の声を一言一句しっかり聞こうと集中した。

 

 彼は私のそう言った覚悟を持った姿勢を感じ取ったのか、いっそう表情を険しくさせた。

 いいか、よく聞けよ、と更に前置きを重ねるようにして、それから―――

 

 

 

「実は俺、住む家がねぇんだわ」

 

「……え。……はい。あの、それで?」

 

 

 

「いやそれだけだけど」

 

「……」

 

 

 話の続きを待つが、彼がそれ以上何か言う様子はない。

 カチカチと時計の針が過ぎる音や、虫籠にいる部屋の虫達が床材として引いた木の葉いじるようは音だけが響く。その後もいくら待っても、彼は私をじっと見るだけで何かを付け足すこともしない。重要な話とは本当にこのことだったらしい。

 

 

 私は思わず溜め息をつく。

 

 ネギ先生、残念なことに貴方のお父さんは、現在ホームレスらしいですよ、と私は心で語りかけていた。

 

 

 

 

 ○

 

 

 

 

 ナギさんの話によると、学園祭の日にこの世界に戻ってきたのはいいが、寝床もお金も全く持っていない状態だったという。いきなり戻ってきたというのだから当然と言えば当然で、学園長が何とか融通を効かそうとしたのだが、彼はそれを断っていたらしい。

 

「どうして断っていたんですか? 」

 

 こう言うのも無粋かもしれないが、学園長は権力もあり、資金も用意できないようには思えない。聞くところによればナギさんは世界を救うほどの働きをしていたと言う。そんな彼ならば、何を頼んでも誰かが文句をつけるとは思えなかった。

 

「七海。あのな。俺は別に世界を救いたいとか思って行動してた訳じゃねぇよ。気に入らないことが許せなくて、好きなことを好きなだけしたくて、やりたいようにやってただけだ。それを偉いことをしていたみたいに見せて、恩着せがましく何かを頼むのは嫌だったんだよ。俺はただ自分勝手にしてただけだから、その行為を褒められたりするのはむず痒くてあんまり好きじゃねぇんだ」

 

 そう言う彼は、とても堂々としていた。男らしい、と私は称賛の声を上げたくなる。

 

「それで、とりあえずはタカミチの家に世話になっててよ。生活するためにバイトやら仕事やらを探してたんだが中々見つからなくてな。なんせ俺は死んだことになってて、戸籍がない。それだけはじいさんに頼んだんだけど、俺の戸籍を作るのは相当難儀なことらしいんだわ。あんま騒ぎにしたくないのに、色々うるさいやつらが出てくるらしくてな。そんなことに手間取ってる内にタカミチが出張に行くことになってよ。流石に家主がいない家にずっといるのは気使うから、少しの間他の家に厄介になりたいんだよ」

 

 長々と自分の事情を説明する彼は、世界を救ったヒーローという状況とはあまりにかけ離れている。それでも、私の目には彼が輝いて見えた。生きていくために、どんな道だろうと自分の流儀を曲げずに胸を張って歩こうとしている。私はアニメや漫画でヒーローを見たときのような格好よさを感じていた。

 

 

「それでよ、ちょっと家探しだけ手伝ってくんねぇかな。俺はまだこの街に詳しくねぇし知り合いもすくねぇから当てがなくてよ」

 

「……ネギ先生と、一緒に暮らすというのは? 」

 

 親子ならば、そうなることが一番自然ではある。

 ナギさんは、自らの頬を人差し指で掻いた。

 

「あいつはあいつで今の生活があるだろ? 生徒と一緒にこの寮にいるらしいじゃねぇか。それを邪魔すんのも忍びなくてよ。俺とは今後ずっといれるだろうが、今のあいつの立場とか環境も大事にしてやりてぇんだ」

 

「……そのことは、ちゃんとネギ先生にも伝えましたか? 」

 

「あいつと、話し合った結果だ。少なくとも今の担当生徒が卒業するまで。それまでは。まぁ俺の家がないってことは伝えてないんだけどな」

 

 一緒に暮らすかどうか、という話し合いは二人でしたらしいが、自分の寝床すらないことはネギ先生に言ってないらしい。

 息子に知られるのってなんか恥ずかしいんだよ、と半笑いになりつつも彼はそう言っていた。

 

「それによ、あいつ今アスナと一緒なんだろ? 」

 

「……はい、そうですが。あの、それがなにか……? 」

 

 数年封印されていたナギさんは、明日菜とはほとんど関わりがない筈である。だが、彼の言う、アスナ、という言葉の響きには、親しみが込められているように感じた。

 

「……いや、とりあえず、ネギには悪いがあいつにはまだここに居て欲しいんだ。」

 

「……そうですか。貴方がそう言うなら、私は何も言わないです。分かりました。お手伝いしますよ」

 

 気にはなるが彼の家族の問題に深く口を出す気もないし、私としては断る理由はなかった。

 

「もし本当に家が見つからなければ、しばらくの間ならここに一緒でも私は構いませんが」

 

「おいおい、七海」

 

 私の提案を、ナギさんは深いため息で返した。

 

「それは問題がありすぎるだろうが。担任の父親と一緒の部屋で暮らすって、どんな状況だよ」

 

 確かに、考えてみればその通りである。そもそも、そんなところをクラスメイトに見られてしまえば、あらぬ噂が流れるに決まっていた。

 

「仮にも俺も男だしよ、お前もうちょいそう言うガードしっかりした方がいいぜ?」

 

 とまで言われてしまい、私は苦笑する他なかった。

 

 

 

 

 ○

 

 

 

 ナギさんをしばらく置いてくれる家を探すと言っても、簡単ではなかった。彼はまず資金がないのだから、金で物を頼む訳にはいかない。つまりは、彼のことを知っているものにお願いするしかないのだ。

 しかし、何年も封印され日本に住んでいなかったという彼には、知り合いがほとんどいない。いや恐らく彼のことを一方的に知ってる人間は多くいるのだが、そのほとんどがまともに話したこともない彼を、崇拝するような姿勢でいるため、彼としたら気まずく一緒に過ごすという選択肢はないのである。

 彼は自分の英雄としてのネームバリューを使わないでいくつもりなのだから、話を出来る相手すら限られていた。

 

 

 そして、何とか私達二人の共通の知り合いを見つけ、彼女の元に訪れたのだが。

 

 

 

「嫌に決まってるだろ」

 

 彼女の家であるログハウスの前で、エヴァンジェリンは仏頂面のまま即答で断った。

 

「エヴァ、そこをなんとか、もうちょい考えてみてくんねぇか」

 

 ナギさんとエヴァンジェリンはお互いに面識があるらしかった。そう言えば、いつの日かそんなことを言っていたことを私は思い出していた。

 二人が親しい仲かどうかは分からないが、古くからの知り合いであるならば、彼を泊めることにそこまで不自然な点はない。

 だが、玄関に立ったままのナギさんが両手を合わせて頼み込んでも、彼女は先程と同じトーンで、嫌だ、と言った。

 私は彼女と仲が良いこともあって、この瞬間に彼女の意志が相当に固いことを察し、これ以上の交渉は全くもって無意味であると分かってしまったのだが、とりあえずは彼女にどうして嫌なのかを訊ねることにした。

 

「理由? そんなもん、腐るほどあるわ」

 

 頬を不自然に釣り上げながらエヴァンジェリンはそう言い放った。苛々としているようだ。

 

「まずおまえ、ナギな。一体どういう神経してるんだ」

 

「神経ったって。多分運動神経は結構いいぜ? 」

 

「あほ。そういうことを言ってるんではない。普通な、振った女のもとに飄々とやってきて、しばらく泊めてくれ、なんて言えるか? 自分は妻もいてガキもいて私に全く靡く気もないくせに、利用出来るときは利用しようだなんて、間男もいいとこだなお前は」

 

 昼ドラのような展開を話しながらもエヴァンジェリンは未だに笑顔を崩していない。その顔が決して楽しいから笑っているという訳じゃないのは、ナギさんも分かっているだろう。

 

「つったってよぉ」

 

「つったってよぉ、ではない。私はな。昔ほど貴様に拘りがない。貴様が生きていると分かったのは良かった。貴様のことは未だに好意はある。だが、私の事情を押し退けて家に住み着かせるつもりはない」

 

 強い言葉で締めくくったエヴァンジェリンに、私からは何も言えない。これは、二人の問題である。

 私が気軽く、泊めてやってくれよエヴァンジェリン、だなんて言っていい状況ではなかった。

 

「……エヴァちゃん? お客さんが来てるの?」

 

 私とナギさんが目を合わせ、これは無理そうだな、と頷き合い彼女の家を出ようとした時、部屋の中からは、私のよく知る人物の声が聞こえてきた。

 

「……ネカネ。お前は出てこなくていい。さっさと洗濯物を終わらせてしまえ」

 

「もう終わらせたわよ。……ナギと、七海(・・)、じゃない。どうかしたの? 」

 

 私からしたら、彼女、ネカネ(・・・)がこの家にいることに驚く他なかった。

 彼女がエヴァンジェリンとそれなりに仲良くなっていたことは知っていた。だが、だからと言って、エプロンをつけたネカネがエヴァンジェリンの家で洗濯物、なんて日常的な会話をしているのは、全くもって知らなかったのだ。

 

 ナギさんは、ネカネとも知り合いではあるがエヴァンジェリンとの関係に特に疑問を持つ様子もなく、簡単に自分の状況を説明した。もしかしたら、知り合いであるネカネが何らかの力になってくれるのかも、と考えたのかもしれない。

 

「ああ、そういう話なのね」

 

 いつの間にかエヴァンジェリンの横について、ネカネも完全に会話に加わる形になっていた。

 

「……ごめんなさいね。私が今、エヴァちゃんの所に居候させてもらってるから……」

 

「違う。貴様がいることは関係ない。単純にこの男が気に入らないだけだ」

 

「エヴァちゃんはそう言ってくれるけど、多分実際は私に気を使ってくれてるのよ。私もいるのに男のこいつを家に入れるのは……って」

 

「誰もそんなこと言ってないだろう!」

 

「エヴァちゃん、ほんとはこの人のこと好きなのに、私が重荷でごめんね」

 

「おい! あんまりややこしくするな! 勝手に変な解釈をするな! 」

 

 

 エヴァンジェリンは怒鳴ってはいるが、怒っている風ではなく、ネカネの方もどこかそんなエヴァンジェリンを面白がっている様にも見えた。

 そんな二人はとても仲が良さそうで、大事な二人が仲が良いという事実が、私は嬉しかった。

 

 

 

 私は彼女が、二学期から麻帆良学園に教師として勤務することが急遽決まっていることは知っていた。

 高畑先生が長い出張に行ってしまうため、教師の人数か足りなくなってしまうらしく、ちょうどこの街にいた彼女が助っ人として頼まれたのだ。

 彼女は教員免許をこの世界でも取得していて、日本語も堪能であり、本場の英語も理科も強いということで教師陣からも中々期待されているらしかった。

 それに超のプランにも協力してくれるらしい。

 

 そんな彼女が今後麻帆良に住むことは当然私も知っていて、住む家はどうするのだろうか、と考えてはいたのだが、まさかエヴァンジェリンの家にいるとは思わなかった。

 

 

「……ねぇ、エヴァちゃん。本当に私には気を使わなくていいのよ? 彼は親戚だし、今更彼にどうこう思ったりしないわよ。もしあれなら、私はアパートを借りてもいいし」

 

「ネカネ、あのな。確かにお前のことを考えなかったと言ったら嘘になるが、それでもナギに言った言葉は本心ではある。それにお前に、家に来てもいいぞ、と言ったのは私だ。今更出てけとは言わん」

 

 

「分かった。分かったよ。急に来て悪かったな。エヴァンジェリン」

 

 ナギさんは二人のやり取りを見てから、頭を下げてそう言った。

 

「……お前には、随分迷惑かけたしな。今を楽しんでるお前の邪魔を、俺がするつもりはねぇよ」

 

 ナギさんは、ポリポリと頭を掻いた。

 

「すまねぇな、急に頼んで。次に当たってみるよ。……それと、ネギのこと、師事させてくれてたんだってな。今までサンキュな」

 

 

 

 

 そう言って、ナギさんは、背中を向けて先に行ってしまった。

 この会話の流れに、私にも言いたいことはあったが、無理に口を挟むつもりはなかった。

 

 私もナギさんに続いて彼女の家を後にしようとしたところで、袖を引き留められた。

 

「……おい、七海」

 

 くいっと、袖をひっぱり、彼女は私の耳を自分の方に寄せた。

 

「もし、だ。暫く歩き回ってそれでもあいつに住む場所がなければ、もう一度来い」

 

「……だが」

 

「ああは言ったが、家にあいつのいるスペースくらいは作れる。生活する場所は私達とは違うがな」

 

 ヒソヒソと聞こえるその声には、若干のしおらしさが混じっている。

 彼女の根本にあるその優しさに、私は微笑んでしまった。

 ネカネを見れば、彼女もまた微笑んでいるのが分かった。

 

 

「分かったよ。最後にもう一度当てにさせてもらうよ」

 

 

 私はエヴァンジェリンにそう伝えて、ログハウスから遠ざかった。

 

 

 

 

 ○

 

 

 

 

「あ、ななねぇ」

 

 私達は次に向かうべき目的地も定まらず、だからと言ってすぐにエヴァンジェリンの家に戻るのも出来なくて、ただただ道をうろうろとさ迷っていたときに、ういに声を掛けられた。

 

 私服姿でスーパー袋を手にかけている彼女は、どうやら買い物帰りらしかった。

 

「ああ、これはね! 今日の夕飯の買い物! 今日はね! 卵が安かったし、天津飯でも作ろうと思ったの! 」

 

 と、彼女は私が聞く前に説明してくれた。当然私は天津飯の作り方など全くもって分からない。こと料理に関して私は明らかに妹より劣っていたが、そのことに劣等感を感じることはなく、それどころか、料理の出来る彼女に尊敬の念を抱くばかりであった。

 

「あっと、それと……」

 

「ああ、ういちゃん。俺はナギ。ネギの父だ」

 

 ナギさんの方はういのことを既に知っていたらしく、簡単に自己紹介をしていた。彼が世界樹にいるときに、私を通してういのことを見ていたのだろつか。

 

「子供先生のお父さん! そういえば似てるねぇ、そっくりだねぇ、イケメンだねぇ」

 

 ういは遠慮なくナギさんの全身を見ながら感心しつつ言った。

 

「それでさ、二人は何してるの? もしかして、デート?」

 

「まさか」

 

「うん、そだよね。良かった良かった。流石にさ、担任の先生のお父さんとだなんて、私素直に応援出来ないよ。もう禁断っていうか、冒険のしすぎだよね。きっとそういうのが好きな人もいるんだろうけど、ななねぇにはまだはやい!」

 

 私にびしっと指を向けてういはそう断言した。何をもって、「まだはやい」と言っているのかはよく分からなかったが、どうせいつものように適当に言葉を並べているだけだろうから深くは考えるつもりはなかった。

 しかし、不本意であるが、年頃の女性であるういが私達二人のことをそう勘違いしてしまうのも、仕方ないことなのかもしれない。ナギさんの外見があまりに若すぎるので、二人で歩いていたら交際しているように見えたのだろう。

 

 それからもう一度ういが私達が共にいる理由を問いてきたので、簡単に説明する。

 

 

 

 

「家探し、ねぇ」

 

 ういは顎に指をつけて、考えるようなポーズをとった。

 

「ういちゃん、どっかそれっぽいとこないか? 」

 

 ういにそんな知り合いがいる筈もないと私は考えていたので、彼女が、うんあるよ、と答えたことに、驚いた。

 

「へへへ、私ね!いいところ知ってるよ! 」

 

 二人ともついてきて!、と声を上げながら走り出したういを、私達は追いかけることとなった。彼女が走る度にスーパーの袋が大きく揺れて、私はその中にある卵の無事が心配になる。

 

 

 

 

 

 ○

 

 

 

 

 

「……それで、君達は何しにきたんだい? 」

 

 

 ついた場所は、フェイト君の住む所だった。

 フェイト君は街から少し離れた所にあるアパートに住んでいた。新しく高級なアパート、というよりも、木材を中心として作られたそれは時代を感じる風貌であったが、不潔感はなく、落ち着ける場所であった。

 畳の敷かれた彼の部屋は殺風景で、一人で住むにしては広すぎる気もした。

 

「フェイフェイさ、一人でこんなとこに住んでたら寂しいでしょ? だからさ、お供がいたらいいと思って! 」

 

「僕が寂しいと言ったことがあるかい? 」

 

「俺はお供なんだな」

 

 じろりとういを睨むフェイト君の横で、ナギさんは笑いを堪えきれず口を押さえながら、くくく、と声を漏らしていた。

 

「お部屋もさ、何にもないし、つまんないなっていってるよ! だからさ! 二人で住めばきっとちょうどいいよ! 」

 

 相変わらずよく分からない理論で、ういは突き進む。

 私はひっそりとフェイト君の横につき、耳打ちした。

 

「……フェイト君、無理なら無理と言ってくれてもいいんだぞ。彼女はその、きっぱり言ってやらないと分からないんだ」

 

 フェイト君は、ゆっくりと私に視線を向けた。

 

「彼を泊めてあげたら、君達の助けになるかい? 」

 

「……いや、まぁ、助かると言えば助かるのだが」

 

「……君達には、迷惑をかけたからね」

 

 

 静かにそう言った後、フェイト君は彼女に向かって、わかったよ、とゆっくり頷いた。

 

 

「さすがぁフェイフェイ! 大人先生! フェイフェイオッケーだって!」

 

「大人先生?」

 

「多分、ナギさんのとこだ。子供先生の父親だから」

 

「ああ、そーいう。ういちゃんはおもしれぇなぁ」

 

 単純と言うか、どこか間違っているそのネーミングを拒否することなくナギさんは笑っていた。

 

 

「それじゃあよ、宜しく頼むぜ、フェイト。まさかお前と暮らすことになるとは、想いもよらなかったけどな」

 

「……少しの間だけだ。さっさと居場所を作って出ていってくれよ」

 

「わーってるって。それによ、お礼に応援するぜ」

 

「……応援? 」

 

「ういちゃんとのことだよ。好きなんだろ?」

 

 ナギさんが、ひっそりとフェイト君に喋りかけるその声が、私には聞こえてしまった。

 

 

 フェイト君は、きつい視線をナギさんに向けて、余計なお世話だよ、と言った。

 

 

 






これから何人かをピックアップして後日談をやっていこうと思います。

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