兄ぃに片想いしてる設定になっております。
「外の世界が見たい」と、ボーカルドールもそう願ったと言うけれど、私はそうは思わない。
プリパラからプリパラへ移動することはあっても、私だってボーカルドールと同じで、外を歩いたことはないけれど。
私の指先ひとつで叶う世界がここにはあって、それで笑ってくれるひとたちがいる。女の子たちが今日も夢を叶えてステージの上で輝いている、その姿を見るだけで私にはここが全てだと、それだけの価値のあることだと思えるから。私はシステムだけど、ちゃんと自分で感じたり考えたりしてこの場所を選んでもいるの。
だけど、だけれど……、人間でもない。
それなら理屈を無視した強すぎる近頃の感情はエラーなのかもしれないと、不安を抱えていた。
眼鏡を外して、レンズをふっと吹く。
気分転換にそうしたつもりだったのに、ため息なんかじゃないのよと自分に言い訳したような気がして、なんだかかえって憂鬱になってしまう。クロスで眼鏡を拭きながら、言い訳のしようがないため息をつき直した。
カチャリ、また眼鏡をかけて、すこしクリアになった視界でふと上を見上げた。
「今日も空が青いわ」
ぽつりと呟いて、当たり前なのにと自分で気がつく。
だって、今日を青空に設定したのは私なんだから。やっぱりどうかしてしまったんだ、と思った。
この夢の世界の歯車のひとつであることが、当たり前に幸せだったはずなのに。
……絶対、あれが良くなかったんだ。
アイドルデビューが良くなかったんだ、先日の。
数日前急にライブスケジュールに穴が開いて、隙間を埋めるために急遽、NPCでもある立場上、ステージに上がってライブをした。ただのプリパラ内キャラクターの私がそんなこと……それまでは考えてもみなかった。
完璧にできた。当然。システムだもの。
生きてるって思った。何故?システムなのに。
好きになってね、と歌いながら好きってなんだろうと疑問を持った。
声援を浴びて、サイリウムの海を見て、今まで懸命に守ってきたアイドルたちの見てきた世界を初めて知った。
気持ちよかった。だけどなんでここに立ってるんだろう。
私、多くを望みすぎているのかしら。
「めが兄ぃさん、どこへ行っちゃったのよ……」
セレパラになってから彼の姿がなくて、殆どの業務を私たちめが姉ぇが果たしている状態。人数は、足りてる。足りてるけど私しかいないの。私じゃないデータなら何を思うの?
セレパラは、なんだか不慣れでわからなくて、今まで管理して守ってきたプリパラとは全然違う。プログラムだからパーフェクトに従えるけれど、今までのプログラムとの統合はとれてない……。アイドルのため、女の子たちの夢のため、と仕事してきたのに、その守ってきた女の子たちの多くがステージに立てなくなった。私というプログラムに、意味ってあるのかな。
プリパラにセレパラが上書きされたことでこの世界のシステムに過剰な負荷がかかってることなんてわかってる。
それは、私も同じこと。
こなすことが絶対正しいって思ってた。
実際にそれでプリパラはうまくいっていたし、なんの疑いもなかった。
システムである自分の立場も、誇りだった。
こんなにこの世界のために目一杯働いたことって、セレパラになるまでなかった。それなのにどうしてこんなに惨めで悔しくて、いつだってクールに笑顔を浮かべていられるこのプログラミングが虚しく思えてしまうのか、私にはわからない。
めが兄ぃさん。
彼は私と違ってコピーデータじゃない。
余程人間に近い気がして、眼鏡を奪われて追放された彼のことが、私は心底羨ましかった。
私は逃げ出してみたところで、きっと私じゃない私がとらわれて使われるだけ。私の知らないところで、私が。
怖かった。過去形?いいえ、ずっと、今も。……怖い。
統合の取れない、破綻していくだけのシステムの檻の中。
私は彼と違って抜け出すことができなかった。このとおり眼鏡は取られなかったけど、セレパラでは基本的にサングラスだ。視界が暗く濁る気がして、全然好きじゃない。
何故逃げ出したくて仕方ないのか。ここの外に私というデータの居場所なんてないのに。
……そろそろ戻らなきゃ。
サングラスを取り出して、翳る視界に切り替える。
澄んだガラス越しの世界が消えた。
こんなとき眼鏡を失くしたあなたは今どこでどんな世界を見ているんだろう。ちょっとした気まぐれで、口を尖らせた。
「アイドルデビューしたんですよ、私」
アイドルみんなのめが兄ぃさんのはずなのにね。
私のこともあなたのアイドルにしてくれないかな、と拗ねた自分に高望みを許してみる。
ほんの少し、フレームの外に覗く景色が冴えた気がした。
お仕事に帰る足がちょっと軽くなった。