もしも誰かと体が入れ替わったら。テンプレートに行きましょう。

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よくある変わった話。

 なんだか最近は変な話をよく聞く。

 例えば、「見覚えのない同級生」に反魂法の話をしたクラスメイトがいたり、幽霊の男の子と出会って憑かれたみたいなクラスメイトがいたり。

 正直、僕には理解は出来ても納得はできない話ばかりだ。魂や幽霊なんてものを、僕は信じていない。それでも、みんなそういうものを体験しているものらしい。

 それでも僕、長良高には関係のない話なのだろうと思っていた。今朝、目が覚めるまでは。

「はぁッ!? 弟と体が入れ替わった!?」

「そうなんだ、萩。朝、目が覚めたら、これだよ。体が無類の抹茶好きだからなのかな、朝抹茶アイスも食べてきたし。あはは」

 僕は僕の弟、長良経の体で笑う。

「んー、でも、三つ子だし、ほとんど変わらなくない? それに、何ていうか、もうオチが見えてる気がするし。ねぇ、迷」

「誰に話してるの、紅葉」

「だから、前に説明した男の子だよ。ね、迷」

「あー、そっか、そう言えばそうだったね。……まぁ、確かに、僕らの中で問題が起こったら、基本的に姉さんが原因だからね」

「何か言った?」

 あざとく、耳ざとく、姉さんは僕らの雑談を聞きつける。

「何かっていうか、文句を言ったよ。どうせ、姉さんが原因なんでしょ」

「ははっ、ふざけないでよ、高……じゃなくて経」

「逆だよ」

「あれ? あ、そっか入れ替わってるんだったね。入れ替わってるのを前提に入れ替えてた」

「どんな間違え方なの!?」

「まぁ、ともかく、そんな勘違いをする私だよ? 運動神経しか取り柄のない長良麗よ? 入れ替わりなんて、そんな面倒臭そうな理屈のもの私に出来る訳がないじゃない」

 何故か誇らしげに、自分は馬鹿だとない胸を張る、姉、長良麗。

「運動神経しか取り柄のないトラブルメーカー、長良麗、でしょ。都合よく二つ名を改変しないで」

「あはは、まぁ、ともかく、どちらかと言えば、これは高の得意分野でしょ。巻き込まれ体質の天才長良高君。あ、今は若き天才画家の長良経って言うべきかな?」

「前者でいいよ。才能は人格に影響するのは、多重人格障害の傾向から分かってるし。……うん、まぁ、正直原因は分かってるんだ。理由は、僕の作った薬だね、『一時的ニューロンの間接接続擬似形成薬』を作ったんだけど、同じ瓶の薬を飲むとそれぞれの脳でニューロンの接続ができちゃうから、多分それが影響してるんだと思う。あの薬、量が少し減っていたから、間違いないよ」

「ニュートンの関節全力慈悲皆無キック? 何それ?」

「偉人の関節を砕くような聞き間違いしないで!? んー、まぁ、ともかく、僕の薬が何故か昨日の晩ご飯に混入してたみたいなんだよね。んー、やっぱり台所の調味料入れの隣に保管するのはまずいかなぁ……」

「絶対にまずいってことくらい分かるでしょ!? 馬鹿なのアンタ!?」

「……コイツ、こういうところ天然だからなぁ」

 はぁ、と百々兄妹に溜息を吐かれる。失礼な、僕は全教科満点なのに。

「それで、解決方法はあるんだろ、どうせ」

「勿論。どうなるか分からないから、とりあえず時間経過で治るようにしてあるよ。一滴で三十分。量的に考えて、大雑把にお昼までには治ると思う。あとは、本人同士のキスでも治るんだけどね」

「なんでキスで治るんだよ!? ってかキスで治るってどういう理屈だよ!?」

「いや、薬を作る前に恋愛ドラマ見ててキスしたいなぁって思ったから。理屈は簡単だよ、関節接続は特殊な免疫反応が起こると壊れるようにしてあるんだ。キスで口内の固有菌を交換する時の免疫反応がそれ。まぁ、それで擬似接続が切れるから元に戻るって算段」

「……分かんねぇ、オカルトならバッチこいだが、科学はてんで分かんねぇ」

「とりあえず、白雪姫を思い出したな。あれって毒りんごの毒が免疫反応の活性化で解毒されたのかな」

 分からないと嘆く萩と分かったらしい紅葉。隣で何やら通話をしている姉さん。

「……姉さん、何をしているの?」

「え? いや、キスで治るならさっさとキスした方がいいでしょ? だから経を呼んでるの」

「あはは、今から腹痛の予定があるからトイレに行ってくるね」

「逃がすかッ! リアル兄弟のキスキタコレっ! やっほぅ!」

 しまった、姉さんの前で、キスをすれば治るなんて言うべきではなかった。何しろ姉さんは、がっつりBLを嗜み好物としている系女子なのだから。

「くっ、こうなったらッ」

 制服のベルトの裏に仕込んでおいて薬品を入れておく為の小瓶の一つを割る。一気に煙が立ち込め、教室中に広がる。

「ふっ、煙幕にも用いられる赤リンをこういう時の為に持っていてよかったッ! さらばっ!」

「くそっ、逃げられた! 先生、今日の一時間目は体育にしましょう! 高を捕まえたら私達に単位一つ下さい!」

 馬鹿め。そんな無茶苦茶な事できる訳が――

「面白そうだし許可する」

「――くそっ、この学校はそうだったッ!」

 この学校は、ある種の才能を持つ人間を集める高校。故にクラスは一つしか無く、萩と紅葉の双子だったり、僕や経、麗の三つ子も同じクラスになることが出来る。そして大抵の人間が、面白いことを優先して動いている。ある意味馬鹿な学校で、ある意味最高な学校だ。特に、今この場合で言えば、最悪過ぎる。

 逃走者は僕一人、追跡者は僕を除いたクラスメイト三十九人中三十八人。経は基本的に自分のアトリエにこもって絵を描いているので不参加である。ちなみにアトリエはこの学校の地下にある。

「さて、鬼ごっこ開始だよ、高! 逃げ切るか経とディープキスするか、二者択一だよ!」

「なにげにハードルが上がってるッ!」

 

 という訳で、どうやら僕も変な話というものを体験するはめになったらしい。つまりは体の入れ替わりと、一人対クラスの鬼ごっこが。

 二十分後。

「…………」

 息を潜めて身動きを止める。

「おっかしいなぁ……、ここに来たと思ったんだけどなぁ」

 目の前にいるのは鈴來灯。反魂法の話を「見覚えのない同級生」にしたクラスメイトな訳だけど、まぁ、そんなことは関係ない。僕にもそして彼女にも関係はない。関係あるとしたら……、あるとしたら誰だろう。運命論的に言うならば物事の全てを決めた作者とそれを見ている読者なのだろうか。まぁ、今はそんな事を言っている場合ではない。とにかく僕は動いてはいけない。

 とりあえず巨大水槽の中に持っている化学薬品を幾つか混ぜて、屈折率を変化させて擬似的な光学迷彩のようなものを作った訳だが、下手に動くと波が起こってバレてしまうかもしれない。ストローを使って口呼吸をしながら、彼女が出て行くのを待つ。

「あ、もしもし、麗? この部屋にはいないよ。……え、うん、分かった」

 麗に電話、なるほど。麗が指揮を取った知能戦をしようとしているらしい。しかし、甘い。知能ならば僕はこのクラスで誰にも負けない自信が――。

「高って結構マニアックなエロ本持ってるんだね。ネクロフィr――「ぶふぉっ!? どうしてそれを!?」――あ、いたッ!」

「くそっ、しまった!」

 ――前言撤回。こういう時、姉の方が頭はよく回る。

 っていうかなんで僕のエロ本の場所知ってるの!? 指紋認証式の金庫に入れてたはずなのにッ!

「だけど、甘いっ!」

「うわっ、臭っ!?」

「あ、そこの薬を水道水に混ぜて頭から被ったら匂い取れるから!」

 ……若干自分が臭いって言われたような気がして傷付いた。バレた瞬間に水槽をアンモニア水にしたからだよね……? そうだよね?

 即座に窓からゆっくりと伝って、予め組んでおいた水に薬を入れて頭から被る。一気に濡れていた体は乾き、そしてアンモニアの刺激臭も消え去ってくれた。

「さて、残る薬は二つ。どうやって逃げるか……」

 考えに考えて、逃げる。トラブルメイカーの姉さんのせいで、体力だけは無駄にあるし、経の劇的集中力に感化されたおかげで集中力もそれなりにある。だから油断しなければ、大丈夫なはず。そう思って僕は逃げる。

 

 更に二十分後。

「さて、追い詰めたよ、高」

 追い詰められました。場所は奇しくも最初の逃亡先、自分達の教室。東向きの黒板に背を付けた状態で、三人に囲まれてしまった。

「っ、萩に紅葉に灯……。なんで三人が麗の味方をするんだ! いつもならやれやれみたいな感じで僕を助けてくれるのに!」

「あはははっ! なんでか教えてやろう! 金で買収されたの!」

「悪いな。最近ちょっと金無かったんだ」

「……えっと、私は、こっちの方が面白かったのと。アンモニアの件で」

「くそっ、この世界に正義はないのか!」

「正義も悪もクソ喰らえ、世の中は結局金よ!」

「正義なんて別になくてもいいんだよ。正しければそれでいい」

「とりあえずアンモニアを女子に掛けるような人に正義は味方してくれないと思うけど」

「アンモニア根に持ちすぎてない!? あと、そこの双子は悪役みたいな台詞とちょっといい感じの台詞吐くのやめてくれない!?」

「くっ、こうなったらとっておきだけど、仕方がない、こうなったらアレを使うしかない」

「なっ、まだ持ってやがったのか、薬」

「ふふっ、悪いけど、また逃げさせて貰うよ。後、十分で一時間目が終わる。君達に単位をあげる気もないし、キスをする気もないッ!」

「ディープキスでしょ」

「フレンチキスでもいいぜ」

「妥協してるようにみせてどのみち一緒の選択肢にするのをやめて!? と見せかけて、あー!!」

 と窓の方を指差す。自然に三人はそちらに視線を動かす。

「今だッ!」

 隙間を縫うように、あるいは転がるように扉を開けようとして――紙に描かれたその扉を突き破って手が伸び、僕の手を掴んだ。

「しまった!」

 どうして気が付かなかった。どうして違和感を覚えなかった。

 基本的に黒板は西向きであることくらい常識だというのに。

「流石は経。でかしたよ、愛しの弟!」

「くっ、騙された……、これは絵だったか……」

 そうだ。経が描いた絵はあまりにもリアルで故に天才と言われている。やはり、こういう時、姉さんは僕の思い付かない発想をする。何と言うか、土壇場に冴えているというべきか。だからこそ、スポーツにおいて優秀な成績を残しているともいうべきなのだろうが。

「さぁて、高、諦めてキスをしてもらう。ディープキス! 舌を入れて、なんなら吸ってッ!」

「ま、まって、経だって嫌でしょ! 男同士でキスなんて、そんなの、ねぇ?」

「え? 別に構わないけど? 減るものじゃないし」

 くっ、しまった。経は貞操観念が圧倒的に低いのだった。ああ、もう、何てことだ。最悪である。何しろ姉さんやその同志達は既に携帯で撮影の準備まで始めているのだから。

「ほらほらー、さっさとキスしちゃいなさいよー」

「い、嫌だーッ!」

 と叫んだ所で、チャイムが鳴った。そして同時に、入れ替わりが解除された。

「……時間経過、だ。……ふぅ、助かった……」

 全力で脱力。

 教師がパンパン、と手を叩いて注目させる。

「はいはい、それで終わりだ。二時間目はみんなで清掃だぞー」

「へーい」

 露骨テンションのさがったクラスメイト達をよそに、全力で安堵の息を吐く。 

「それじゃあ、俺はまたアトリエに戻るね。あと、姉さん、抹茶アイスよろしくね」

「……経はそれで協力したのか」

「あーあ、つまんないの。折角リアルBL見れると思ったのになぁ」

「頼むからそういうのは妄想か、ドラマとかのサブカルチャーの範囲にしてくれないかな」

「わかってるわよ。あーあ、やっぱりかぁ」

「……やっぱり?」

「あ、うん。やっぱり、もう一滴大目に入れておくべきだったかなぁって」

 

 こんなテンプレ―トな終わり方は、正直あまり好きではないのだが、それでも僕は言わないと気が済まない。それでは皆さまご一緒に。

 

「やっぱり姉さんのせいかーッ!!」




 高の性癖は死体性愛(ネクロフィリア)です。どうしてもっ! それだけがっ! 言いたかったんだッ!

 冗談です。よくある入れ替わりの話。みんな楽しく楽しみましたとさ。

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