その日の夜、はやてに放送のことを聞いてみたところ、あの放送は、須川君が雄二から本隊が
前線に着くまでの時間稼ぎをするためにするように指示されてやったことだと説明してくれた。
しかし、途中ではやてに変わった理由が聞いた限りではわからなかったので、
その点について聞いてみると、どうやら僕の名前を使おうとしていたらしく、
それに一緒にきていたはやてが気づき、一瞬でしばらく動けなくなるまで叩きのめし、
放送を変わってやり、僕の名前のところを須川君に変えて言ったらしい。
その説明を聞き終えた僕は、はやてに感謝を告げるが気にしないでいいと言われた。
そして月曜日になり、教室に入った僕だが、誰かから視線を送られているのに気づき、
そちらを見ると須川君と目が合った、と同時に須川君が怯えた表情を見せた。
はやてがすでに手を下していたので、僕としてはもう須川君に何かをするつもりではないが、
ふと気づいたことがあったので、それを聞くために須川君に近づいた。
「須川君」
「な、なんだ?吉井、ど、どうしたんだ?」
僕に話しかけられ、上ずった声でそう言ってくる須川君。
「そんな怯えなくていいよ。僕は何もするつもりはないし」
「そ、そうなのか?」
「うん」
「そ、そうか。だったら、何の用なんだ?」
「いや、用はないよ。…ただ、今気づいたんだけどさ、次の補充試験って確か…」
僕が言おうとした瞬間に、1限目に始まりのチャイムが鳴り、
「船越先生が担当の数学じゃなかったっけ?」
それを聞いた須川君は教室を飛び出して行くのであった…。あ、西村先生に捕まった。
「では、そこまでです」
そう言われて皆は、筆を置いて書くのをやめる。そしてそれを確認した担当教諭が試験を回収し始める。
「ふー…さすがに疲れるなぁ」
「お疲れ様、明久君」
「お疲れ、明久」
「お疲れ様やで、アキ君」
「ありがと。3人もお疲れ様」
補充試験を終えてそう呟いた僕に労いの言葉をかけてくる3人。僕はそんな3人に礼を言って、
同じように労いの言葉をかけた。どうして、昨日補充試験をしていた3人も補充試験をしているのかというと、どうも昨日の昼に受けた試験が集中しきれずあまり出来が良くなかったらしく、もう一度受けなおしたいと言って再度補充試験を受けなおしていた。
出来が悪いといっても、その点数はBクラス上位だったので十分じゃないのかと聞いたみたら、得意科目なのにこの点数では不満、と言われた。
Fクラスのみんなもこんな風になってくれたらいいのに…そう思った僕は悪くは無いはずだ。
「みんな、これで朝の補充試験は終わりだ。昼休みはゆっくり休んで、
昼からの試験に備えてくれ。だが、ある程度は教科書を読んでおけよ」
「「「「おー…」」」」
そんなことを考えていると、雄二が全員に聞こえるような声で呼びかけるが、Fクラスはだるそうにそれに応えた。
さすがFクラス…次はBクラス戦だっていうのにブレないなぁ…、と呆れにも似たことを考え、ため息を吐いていると雄二が秀吉と康太を連れて、僕達のほうにやってきた。
「明久、俺達は今から昼飯を食いに食堂に行くが、お前たちはどうする?」
「あ、それだったら僕達も一緒に行くよ。それでいいよね、3人とも」
「「「いいよ(かまへんで)」」」
そう言って、食堂に向かおうとする僕達に、
「あ、あの、皆さん…」
姫路さんがモジモジとしながら声をかけてきた。
「ん?どうした、姫路」
「あの、昨日言ってたお弁当を作ってきたのですが…」
そう言って、お弁当が入っているのだろうバッグを僕達に見せた。
「あの…みなさん、どうしたんですか?」
あの後、今日も天気が良かったので僕達は屋上で姫路さんのお弁当を食べることにした。
今、屋上にいるのは、7人でこの場にいない雄二と島田さんは、昨日のDクラス戦を
頑張ったから、ということで飲み物を買いに行っている。
そして、雄二たちには悪いと思ったが、先に姫路さんのお弁当を頂くことにし、
「……(ビクンビクン!)」
康太が姫路さんのお弁当を口に入れた瞬間、この場は地獄と化した。
『(ね、ねぇ、やっぱりあれって…)』
『(なのはも気づいた…?)』
「(あぁ…やっぱり僕の気のせいじゃなかったんだね)」
『(間違いないで…この感じ…)』
『『『「(シャマル(さん)の料理と同じだ(や)!!)」』』』
僕たちは彼女のお弁当の中を見た瞬間、同時にとある人物の作った料理を
思い浮かべ、顔面蒼白にしていた。
その予感は間違っていなかったようで、僕達の様子に気づかずエビフライを一口食べた
康太は豪快に顔から倒れ、小刻みに痙攣していた。いきなり倒れこみ痙攣しだした康太に、
姫路さんは慌てたが、起き上がった康太が親指を立てたのを見て、それを『おいしいぞ』と
解釈したのか、彼女は喜んでいた。
『よかったらみなさん、食べてくださいね』
笑顔でそういう彼女が、僕達には悪魔にしか見えなかった…。
(どうするのじゃ、明久。ムッツリーニのあの様子、演技には見えんぞ)
口をほとんど動かさずに、かろうじて僕達だけに聞こえる声で話しかけてくる秀吉。
(だろうね…)
(お主、存外冷静じゃな。どうしたのじゃ?)
(いや、知り合いにこれと同じような料理を作る人がいてね…
前例があるからその分冷静でいられるんだと思うよ)
(…お主も苦労しておるんじゃな)
僕の言葉に同情してくる秀吉…。どうしてだろう、あんまりうれしくないや。
「待たせたな。お、これが姫路の弁当か、なかなかうまそうだな」
秀吉と弁当をどうするかの話をしていると、雄二が飲み物を持って屋上に現れ、
「んじゃいただき~」
止める間もなく、弁当の中にあった卵焼きを口に運び、
ドサッ ガシャシャン! ビクンビクン!
康太と同じように倒れ、缶ジュースをぶちまけた。
「さ、坂本!?」
島田さんがいきなり倒れた雄二に驚く。島田さんに驚かれた雄二は倒れたままの姿勢で、目で僕に問いかけてきた。
[どういうことだ、わかりやすく3行で教えろ]
[姫路さんの料理が
実力か入れた材料かはわからないけど
ヘタすると致命傷クラスの味]
とりあえず、どうして3行なんだ、というツッコミは入れずに僕も目でそう返事を返した。
それにしても、このままだと犠牲者がさらに増えそうだな…仕方ない、やるか。
「さ、坂本くん!?い、いったいどうし『ガシッ』吉井くん?」
突然倒れた雄二に姫路さんがまた慌て出すが、僕はそれには反応せずに
姫路さんのお弁当を手に取る。姫路さんは突然の僕の行動に何をするのか
わからなかったみたいだが、他の4人は違ったようだ。
「ま、まさか!?」
「明久!?待って!」
「待つんや、アキ君!」
「明久!お主、まさか!」
4人は僕がやろうとしていることに気づき、慌てて止めようとするが、
「ウオォォォォ!」
ガツガツガツガツガツ!
僕はそれに構わず、一気にお弁当を食べ始める。
「ちょ、吉井!あんた、何やってんの!」
僕が弁当を独り占めにしようとしている風に見えたのか、声を荒らげながら叫ぶ島田さん。
慌てて僕が弁当を食べるのを止めようとするが、それよりも先に、
「…ご馳走様でした」
僕は弁当をすべて平らげた…。そして、
「…(ニコッ)」
なのはたちのほうを向いて微笑えみ、親指を立てた。そんなことをした直後、
僕の意識がどんどん薄れ始めた。あぁ…昔もこんなこと、あった、な…。
『(マスター!?傷は浅いです!お気を確かに!え、衛生兵、衛生兵ー!)』
エクスのそんな叫びを最後に、僕は意識を失った。
―――― おまけ ――――
「や、やべぇ…ふ、震えが止まらねぇ…」
そう言って、震える体を抑えようとする生徒がいた。その生徒の名前は須川亮。
先日の放送で、船越先生を呼び出した(とされている)生徒であった。
彼は、明久から1限目の補充試験が船越先生だと言われて直ぐ様教室を飛び出したが、
あっさりと担任の西村先生に捕まり、Fクラスに逆戻りさせられた。今は、
処刑台に立たされようとする囚人のように、恐怖に顔を歪ませていた。
そして、そのときがきた。
「おはようございます。皆さん」
そう言いながら教室に入ってくる船越先生。その顔はどことなく嬉しそうだった。
「これより補充試験を始めますが、その前に…
このクラスにいる須川亮とは、どの人のことですか?」
(きやがったーーー!)
いきなり指名され、普段は使わない残念な頭でこの場をどうやって
乗り切ろうか必死に考えていると、
「「「あ、須川はこいつです」」」
(てめぇらーーーー!)
近くにいたやつらが一斉に自分を指さした。その顔を見ると、明らかにニヤついており、
これから起こる出来事を、面白おかしく傍観する気満々だった。
(こいつら、いつか絶対に殺す!)
そんなことを考えている須川であったが、
「あぁ、そちらにいたんですね」
そう言ってゆっくりとこちらに視線を向けてくる船越先生に、怯える須川。
「それでは、昨日の交際のお返事…を…」
そして昨日の返事をしようとしていた船越先生だが、完全に須川を視線にいれたとき、
途中で、言葉を止めてしまう。
そんな船越先生の様子を不審に思った須川が恐る恐る問いかける。
「ふ、船越先生…?どうしたんですか?」
「…あ、いえ、気にしないでください」
そう言う船越先生だが、その視線には先程まではなかった、残念なものを見るような
色を含ませて、須川を見ていた…。
「それで、昨日の交際のお返事なんですが…」
「あ、あの、それは…」
再びその話を話題に引き出されて慌てる須川に、
「…ごめんなさい」
船越先生はそう、言った。
「私では、あなたに釣り合うことはできません。それ以前に私たちは、
教師と生徒です。ですから、交際については断らせて頂きます」
そう言ったあと、補充試験の問題を配り始める船越先生。須川は、船越先生が
言ったことをすぐに理解できなかったようだが、徐々にその言葉を理解し、
(よっしゃーーー!なんか知らんが、船越先生が拒否してくれた!これで俺は勝つる!!)
と喜んでいた。…しかし、周りの反応は違ったようで、
((((なんか喜んでるけど…船越先生にすらフラれるとは…須川、哀れな奴))))
最初は交際を受けようとしていた船越先生が、須川の顔を見て交際を断ったのだと、
Fクラスのほぼ全員が理解し、須川に哀れみの視線を向けていた…。
第一、単位を盾に交際を迫ると有名な船越先生が、教師と生徒の交際はいけないことだ、
という理由で交際を断るのは明らかにおかしかった、それこそ、その噂を知る生徒なら確実に
交際を断ったのがそんな理由ではないという考えるぐらいには。
しかし、須川はそれに気づかず、いまだに喜んでいた。そんな須川をクラスメイトは、
もう、直視してやることができなかった…。
ここに、後に「不モテ王」「女版蚊取り線香」「同性として絶対に同程度に見られたくない人物」と呼ばれることとなる男の伝説が、始まりを告げるのであった…。
どうも、ソルレインです。
ご指摘があったのでここに書きますが、昔のシャマルの料理の腕前は
姫路並だったという設定となっております。
説明不足で申し訳ありませんでしたm(_ _)m
また最近、ストックが尽きそうになってきており若干焦っています。
そのため、おそらく近々毎日更新ができなくなると思われます。
執筆速度が遅い自分が恨めしい…。
PS.おまけについては…ちょっと暴走してしまいました。