「雄二ごめん、負けちゃったよ」
みんなのところに戻った僕は最初にそう口にした。
「気にするな。明久、お前はよくやってくれた」
「そうじゃよ。あれはどちらが勝ってもおかしくない試合じゃったからのぅ」
「…いい勝負だった」
雄二たちは戻ってきた僕にそんな励ましの言葉を掛けてくれた。そのおかげで若干沈みがちだった気持ちが和らいだ。
「それよりも明久、体の方は大丈夫なのか?」
「大丈夫だよ、こう見えて体は丈夫だか…ら?」
「あ、明久!」
「…明久!」
フィードバックを心配して雄二が僕の体調を聞いてきたので、僕は大丈夫だと返そうとしたが、その前に体勢を崩しかけてしまい、それを見て慌てた秀吉と康太に支えられた。
「あれ、なんで?」
「おそらく試合が終わって興奮が冷めたから、フィードバックの影響が今出てきたんだろ。高町」
雄二が僕の体に起こったことを推測して僕に伝えてくれた後、なのはを呼んだ。
「何?坂本君」
「すまんが、明久をどこかで休ませてやってくれないか?さっきの試合のフィードバックのせいで肉体的に消耗しているらしい」
「え、そうなの!?わかったよ、すぐに休ませるね!」
雄二はなのはに僕を休ませるように頼み、なのはは快く了承した…というか僕の意思は無視?
「あの雄二?僕も次の試合「駄目だ、いいからお前は少し寝て休んでろ。最終戦になったら起こしてやるから」…」
次の試合を観戦したいと言おうとする前に切り捨てられた…せめて言わせてよ。
「いやだから体は大じょ「うるさい、黙れ。姫路、次に出るのはお前だ。頑張ってくれ」…」
「は、はい、精一杯頑張ります!」
「雄二、せめて話を…」
「高町、やれ」
「わ、わかった…えい!」
ゴスッ!!
雄二に無視されても諦めることなく言葉を続けようとしたとき、雄二がなのはに何かを指示した。すると後ろからなのはの声が聞こえた後、僕は頭に鈍い衝撃を感じて意識を失った。
「ふぅ…これでうるさいのが静かになったな」
高町に後ろから鈍器(広辞苑)で気絶させるようにいつの間にか指示を出していた雄二は、高町が意識を失った明久を引き摺って行くのを見ながらそう呟いた…明久も聞き分けがなかったとは思うのじゃが、いくら何でも強引過ぎはせんじゃろうか?
「さて…それじゃ改めて、姫路。次の試合はお前が頼りだ、頑張ってきてくれ」
「は、はい!絶対に勝ってきます!」
雄二の言葉にそう返し歩き出す姫路、しかし行き先は高橋教諭と現Aクラス次席の久保がおるところではなく、
「Zzz…Zzz…」
「♪」
「「「「(ギリギリギリギリギリッ)」」」」
目を瞑った高町に後ろから抱きしめられる形で眠っておる(意識を失っておる)ために、この教室にいる男子ほぼ全員から殺意と嫉妬の視線を向けられている明久のところじゃった…一体何をするつもりなんじゃ?
「なのはちゃん…ちょっといいですか?」
「ん?何、瑞希ちゃん?」
「吉井くんの手を、握らせてもらってもいいですか?」
明久たちのところにたどり着いた姫路はそう言って高町に話しかけおった。
「うん、瑞希ちゃんならいいよ」
「ありがとうございます」
高町の許しをもらい、両手で明久の右手を包み込んで胸の近くまで持っていく姫路。明久の手が胸に近づくと共に、殺意が上がっていっておるのは気のせいではなかろう…その証拠に、Aクラスの男子まで異端審問会の衣装を着込み始める者まで出てきておるからのぅ。
そんなことが行われているということには全く気づかずに、姫路はある程度の高さまで手を持ち上げた後、目を瞑って頭を下げる。それは傍から見ると祈りを捧げているようにも見えた。
「…それでは行ってきます、明久くん」
少しの間姫路はそうしていたが、徐に目を開けて明久の名前を読んだ後、その体勢を解いて今度こそ対戦相手の久保が待つ場所へと進んで行った。
「遅くなってしまって申し訳ありませんでした」
「いえ、お気になさらなくても結構です。あれほどの試合をフィードバックがある状況で行ったのです。普通の人なら心配になるのは当たり前です」
「高橋先生…ありがとうございます」
姫路は遅れたことを謝罪するが高橋教諭は気にしないでいいと言う。その高橋教諭の対応に礼を述べる姫路。ちなみに高橋先生の言葉を聞いたFFF団はショックを受けていたようじゃが…よもやお主ら、自分のことを普通の人だと思っておったのか?
「コホン…それでは、第6試合を始めます。科目は何になされますか?」
礼を言われて少し照れたのか、小さく咳払いをして科目を選択するように言う高橋教諭…確かにいつもの高橋教諭ならあんなことは言わんかったじゃろうからのぅ。
「それでは…総合科目でお願いします!」
姫路は先の試合でバニングスが選択した教科と同じ、総合科目を選択する。
「不味いな…」
「…どうした、雄二?」
姫路が教科を総合科目と選択したのを聞いた雄二が苦々しげに漏らした呟きに、ムッツリーニが反応しおった。各言う儂もその呟きが気になったので聞いてみる。
「雄二よ、不味いとはどういう事なのじゃ?」
「1年の最後の試験で確かに姫路は学年次席ではあったが…実際のところ、そのとき3位だった久保との点数差は20点あるかないかだったらしい」
「それはつまり…この試合どちらが勝つかわからん、ということかのぅ?」
「そういうことだ…だが姫路がこの科目を選んだのには何か意味があるはずだ。今回はそれに賭けるしかない」
「…吉と出るか凶と出るか」
「では召喚を始めてください」
「わかりました。試獣召喚!!」
どうやら儂らが話をしている間に試合が進行しておったようで、高橋教諭は召喚獣を召喚するように促す。その指示に従って姫路は召喚獣を召喚したが、久保は召喚せずにジッと姫路を見ていた…久保は一体どうしたのじゃ? 優等生のあやつなら教師の指示は素直に聞くはずじゃのに…
「姫路さん…まさか僕の相手が君とはね…僕たちには何か因縁でもあるのかもしれないね…」
突然そんなことを言い出す久保…ふむ、確かに久保の言う通りこの2人には因縁がありそ「まぁ、そんなことはどうでもいいだんけどね…」う…じゃ、な?
「姫路さん、AクラスがFクラスの一騎討ちを受けるときにした条件のことを覚えているかい?」
久保は微笑みながら姫路にそう語りかけ、
「条件…ですか? 確か7対7の試合で、そのうち4回はFクラス、3回はAクラスが指定するということでしたよね?」
姫路は久保の質問に疑問を感じながらも霧島が言い出した条件を口に出す。確かに霧島が試合を受けたときに提示した条件はそのはずじゃったな…儂がそう考えていると、
「ククク…姫路さん、まだ条件はあったよ?
『負けた方は、なんでも1つ言うことを聞く』があったじゃないか!!」
久保はそれまでの微笑みを消して、目を見開かせてそう叫びおった。その目は血走っており、見る人には狂人に見えたかもしれぬほどの豹変ぶりじゃった。
「姫路さん! もしこの勝負で僕が勝ったら…吉井君に近づかないようにしてもらおう!」
「な!? なんでですか!」
「なんで、か…それはね…吉井君の近くに女人など不要だからだよ!彼の周りに女性がいるだけで彼という存在は汚れてしまう!
…それなのに彼の近くにはたくさんの
僕はそのことがとても許せないんだよ!
彼の隣に立つのは僕が、僕こそが相応しいんだ!
…だかラそのタメに…彼ノ隣ニ立つタメに、僕ハカレに纏わりつくオンナドモを近寄れないように排除すると決メタ! …ダカラ最初ハ君カラツブサセテモラオウ、ヒメジサン!!」
久保は見開かれていた目をさらに開き、表情を鬼気迫る顔へと変えて心の底から絞り出したかのような怨嗟の声を上げる。そのあまりの豹変ぶりに両クラスの生徒はあまりの豹変ぶりにドン引きしておったり、涙目になったりと様々な反応をしておった…明久に興味があるとは噂では聞いておったが、まさかここまでとは思わなんだ…
「く、久保君? よろしいでしょうか?」
「ナンデスカ…タカハシセンセイ?」
「す、すみませんが、試合が始まらないので…は、早く召喚をしてください」
高橋教諭が久保のあまりの豹変ぶりに口元を引き攣らせながら果敢に久保に話しかけ、久保はそれに片言の返事を返す。これは…話しかけていない儂らですら恐怖を感じるのぅ…
高橋教諭は久保の返事を聞いてさらに口元を引き攣らせるが、噛みながらも召喚するように促しおった。今日は高橋教諭の珍しい姿の大盤振る舞いじゃな…
「ワカリマシタ…ヨシイクン、ミテイテクレ。ボクハコノショウブニカッタアトモ、キミノチカクニマトワリツクオンナドモヲハイジョスルヨ。ソシテ、キミノマワリニオンナガイナクナッタソノアトハ…クフフフフ…ケヒャヒャヒャヒャヒャヒャッ!」
高橋教諭に片言で了承の意を返した久保は血走らせた目を明久の方へと向ける。そして話しかけたと思うたら突然哄笑を上げ始めおった…この短時間で完全に優等生だった久保のイメージが無くなってしもうたぞ。
声をかけられた当人である明久は意識がないはずなのに久保の言葉を聞いたためか、顔色を悪くして体を震えさせ始める。眠っているのにこれほどの反応を示すのならもし起きておったらと考えてみる…明久、強く生きるのじゃぞ。
「ヒャヒャヒャヒャヒャ…ふぅ、それでは姫路さん試合を始めるとしようか。試獣召喚!!」
久保はしばし笑い続けておったが、一息吐いて表情を優等生だった頃に戻し、直ぐ様召喚獣を召喚する。この光景を見ていた者はあまりに急展開すぎて呆然としておったが、それには構わず久保の召喚獣が姿を現す。
召喚された久保の召喚獣は呪術師のような服を纏い、両手で大きな処刑鎌を握っており、禍々しく見えた。
「久保の召喚獣の武器は処刑鎌か…見るからに切れ味がよさそうだな」
「そうじゃのぅ。しかし、身に着けている服は高得点保持者とは思えん代物じゃな」
「…だがさっきの久保の様子を見たら、今着ている服以外の物を召喚獣が着ていたら違和感しか感じない」
儂らは久保の召喚獣を見てそれぞれ思ったことを感想を口々に言い合う。よくよく耳を澄まして周りの声を聞いてみると、表現は違うが同じようなことを全員言っておった。
「さて…試合は始まったばかりだけど、一気に勝負を決めさせてモラオウ、姫路サン!!」
久保はそう言うと自分の召喚獣に鎌を肩に担ぐように構えさせた後、跳び上がらせ鎌を姫路の召喚獣目掛けて振り下ろさせる。その速度は先程の試合で明久たちが見せた(実際は見えなかったのじゃが)ほどの速度ではなかったが、それでも十分に速かった。
不味い!あれほどの速度で攻撃されてはいくら姫路でも反応できな…
「遅いですよ、久保君」
ガギイィィン!
「ナッ!」
何の反応も起こせずに一撃で姫路の召喚獣を屠るだろうと思われた久保の振り下ろしの斬撃は、しかし容易く受け止められた。
「バ、バカナ…ナゼボクノ渾身ノ一撃ガ簡単ニ防ガレル…?」
「どうやら気持ちが先行しすぎて冷静な判断ができなくなっているようですね、久保君。いつものあなたでしたら、相手の点数を見てから行動していたはずです」
驚きを隠せずに狼狽する久保に、姫路は淡々と思ったことを口にし、
Aクラス次席 久保利光 VS Fクラス 姫路瑞希
総合科目 3997点 VS 4407点
2人の召喚獣の動きが止まったことによりそれぞれの点数が表示されおった。
「マジかよ!?」
「あの点数、代表にも匹敵するぞ!?」
「最低クラスのはずなのに高得点保持者が何人もいるなんて、今年のFクラスは本当にどうなってるのよ!?」
そして、表示された姫路の点数にまたもや至る所から驚愕の声が上がる。戦っている久保も姫路の点数に驚きを隠せなかったようで一瞬召喚獣の動きが止まりおった。
「腕輪発動!」
「ッ! マズイ、一旦離レ…」
「逃がしません!」
ガシッ!
そして姫路はその一瞬の隙を見逃さずに腕輪を発動させる。姫路が腕輪を使おうとしているのに気づいた久保は慌ててその場から召喚獣を退避させようとするが、その行動を読んでいた姫路の召喚獣が腕輪を付けていない方の手に持っていた大剣から手を離し、空いた手で久保の召喚獣の鎌を持っている手を上から握りつぶすと言わんばかりの力で掴んで逃げられないようにしおった。
「クッ! ハ、ハナセ!! コノママデハ…!」
久保はなんとかして離れようと藻掻いておったが、武器を使って引き剥がそうにも完全に懐に入られ、鎌を持っている片方の手を上からさらに握られているために満足に振るうこともできず、打つ手が無いようじゃった。そして、それを裏付けるかのように姫路の召喚獣は腕輪をつけている方の手を久保の召喚獣の胸に押し当て、腕輪を発動させた。
キュイィィィン…キュボ!!
腕輪の能力により放たれた熱線はゼロ距離で久保の召喚獣を焼き貫く! …熱線が収まった後に残ったのは上半身を失い、下半身だけになった久保の召喚獣だけじゃった。
Aクラス次席 久保利光 VS Fクラス 姫路瑞希
総合科目 0点 VS 3967点
そして点数が更新され、久保の召喚獣が戦死したことが確認されたことによりあっさりと第6試合、学年トップクラスの勝負の幕が下りた。
どうも、ソルレインです。
今回は第6試合、姫路と久保の勝負でした。
え、久保がおかしい?そんなはずは…ただちょっとZeroのキャスターさんを
モデルにして書いてみただけなんですが…(おぃ
まぁ気にするほどのことでもないでしょう。
次話はいよいよ最終戦、雄二と翔子の勝負となります、どうかお楽しみに。