「ん……ふぁ~……あれ、ここどこ?」
目を覚ました僕が、最初に見たのは見覚えがない天井だった…え~と、こういうときは確かこう言うのがテンプレって言う奴なんだよね?
「知らない天じょ『あ、お気づきになられましたか、マスター!』…」
あとちょっとで言い切れるというところで、エクスに遮られてしまった…最近こういうことが多いなぁ……
『マスター? どうかなされましたか?』
「いやなんでもないよ。それよりも、ここってどこなの? ちょっと記憶があやふやなんだけど…」
エクスの問いかけに問題ないと答え、ここがどこなのかを尋ねる。
『覚えていないのですか? マスターはこの屋敷に入った直後、転移魔法で管理外世界へ飛ばされて、その後……』
「あー…分かった。思い出したから、それ以上言わないでいいよ…」
エクスの話を途中まで聞いてここがどこで、どうして意識を失っていたのかを思い出した。僕が悪いとはいえ、まさかあそこまで苛烈に攻撃してくるとは思わなかったよ…
『マスターも現状を理解したようですし、居間に行きましょう。皆様がお待ちです』
僕が遠い目をして意識を失う前に行われていたことを思い出していることに気がついていないのだろう、エクスがそう促してくる。まぁもう終わったことだし、気にするのも無駄か。
「それもそうだね。それじゃあ行こうか」
『あ、マスター。少しお待ちを』
エクスの言葉に従って部屋から出ようとするが、その行動はエクスに遮られる。
「どうしたの、エクス?」
『いえ、その格好のままで行くのですか?』
「その格好?」
エクスに言われて自分の格好を見る。何か問題でもあったかな? そう思いつつも首を下に向け――エクスの言わんとする事を理解した。
「え…なんで僕、寝間着を着てるの?」
僕が着ていたのは屋敷に訪れたときに着ていた私服ではなく、寝るときに僕が使っている寝間着だった。
『気づいていなかったんですね…。マスターの服は袋叩き…、失礼、言い間違えました。お話によってボロボロに成っていたので、マスターが使っている寝間着に着替えさせてもらいました』
「あ、そうなんだ…ってなんで僕の家にある物がここにあるの!?」
一瞬納得しかけたが、ここにある筈がない服があるという事実に思わず叫んでしまう。え、本当になんであるの!?
『それについては居間に来てから説明する、とアリサさんから伝言を頼まれていました』
「そ、そうなんだ…他には伝言とかはある?」
『後はクローゼットの中に七着ほど着替えを用意しているらしいので、それを着てリビングに来るように、とのことです』
「了解、それじゃ早速着替えるとするよ」
僕はエクスから教えられた通り、クローゼットを開けて中の物を物色する。え~と…用意されてるのは…これか。どれどれ…
一着目:メイド服(ヴィクトリアンメイド風)
二着目:メイド服(エプロンドレス風)
三着目:メイド服(フレンチメイド風)
「………………」
『どうしました? マスター』
用意された着替えを見て固まる僕に、エクスが疑問の声を投げかけてくる。
「エクス」
『何でしょうか、マスター?』
「用意された服ってここのクルーゼットの中の物であってるんだよね?」
『? はい、私はそう言われましたが…それがどうかしたのですか?』
さっき聞いたのことを再度確認するように聞く僕に訝しみつつも答えるエクス。
「うん…三着ほど見たんだけど…」
『ふむふむ…それがどうかしたのですか?』
「三着ともメイド服だったんだよ、しかも違う種類のやつが」
『………………』
「………………」
予想外の僕の言葉に無言になるエクス。そして僕も再び無言となり、室内は無音になる。え、何これ、僕にメイド服を着ろということ?
『と、とりあえずマスター、もしかしたらお茶目でやったのかもしれませんので、残りの服をしっかりとご確認されてみてはどうでしょうか?』
「そ、そうだね…それじゃ他の物は…っと」
エクスの言葉で僕はなんとか気を持ち直し、再びクローゼットの中から服を取り出す。そうだよね、いくら何でも男の僕にメイド服なんて着させようとするわけが…
四着目:メイド服(エプロンドレス風 With 猫耳+尻尾)
五着目:メイド服(フレンチメイド風 With 胸パッド)
六着目:メイド服(ヴィクトリアンメイド風 With メイドプリム)
「オプションが増えてるーー!?」
新たに取り出した三着を見て、絶叫を上げる僕。え、本気なの? 本気で僕にメイド服を着せる気なの!?
『ど、どうしたんですか、マスター!? いきなり大声出して?』
突然大声をあげた僕に驚きながらもエクスが声を掛けてくる。いやだって…
「新しく三着取り出したら、それもメイド服だったんだよ…しかも猫耳とかメイドプリム付きの…」
『………………』
エクス、2度目の絶句。
『…さすがに…それは予想外でした』
「はぁ~…全くだよ」
予想外のラインナップに僕は溜息を吐く。なんでこんなにメイド服をチョイスするんだろうか…
「とりあえず、最後の1着を見てみようか…」
『そうですね…』
どこか疲れを感じさせながら呟く僕とエクス。せめて最後の一着ぐらいは男物であってほしい…そんなことを願いながらクローゼットから最後の服を取り出す。
「最後の一着は………よかった~」
『一体何だったのですか?』
やはり気になるのか、エクスが最後の一着について聞いてくる。
「うん、最後の一着だけど…―――だったよ」
『他の服と比べると一番まともですね』
「まったくだよ…これで最後もメイド服だったら泣ける自信あったよ」
最後の一着は男物だった。普通の服とは言えないが、メイド服よりはまだ許容出来るのでこれを着ることにしよう。
「それじゃ、これを着てみんなのところに行こうか」
『そうですね…伝言を頼まれてから既に8時間は経過していますし、目覚めたのでしたら早めに行くのが賢明でしょう』
「…もうあれからそんなに時間経ってたんだね」
気を失っていた時間が予想していたよりも長かったことに少し動きを止めてしまったが、今更なことだがこれ以上待たせるのも不味いと考え、急いで着替える。というかエクス、そういうのは早く伝えてよ。
「いらっしゃい、明久。…やっぱりそれを選んだのね」
着替え終わった僕がリビングに入って最初に掛けられた言葉はそれだった。
「いやあの七着からだったら、男性は普通これしか選ばないと思うよ」
僕が苦笑しつつそう答えると、それを聞いていたリビングの中にいる人たちの内の何人かがヒソヒソと会話をし始める。
「やっぱり執事服だったね…」←ヴィクトリアンメイド風をクローゼットに入れた人
「残念だね…今の明久もメイド服似合うと思ってたのに…」←エプロンドレスをクローゼットに入れた人
「せやなぁ…やっぱ狙いすぎてたのが悪かったんかなぁ」←フレンチメイド風をクローゼットに入れた人
「私とはやてはそうかもねぇ~」←フレンチメイド風 With 胸パッドをクローゼットに入れた人
「そうだね…はやてちゃんたちのは女性でも着るのは躊躇うもんね」←エプロンドレス風 With 猫耳+尻尾をクローゼットに入れた人
…………………。
「…ところで、なんで僕はここに呼ばれたの?」
「あの5人についてはスルーなのね…まぁいいわ、アンタをここに呼んだ理由は2つあるわ」
僕がアリサに話を始めるように促すと、アリサは苦笑しながらも呼んだ理由を話し始める。ふむ、2つか…1つはクロノたちがいるから管理局絡みだとわかるけど、あと1つはなんだろう? 考えたくはないけど、僕にお話するために呼んだとか?
「まず1つ目、これはアンタも気づいてるだろうけど管理局絡みよ。これについては後からクロノさんから話があるらしいわ」
アリサが1つ目の理由を言う。うん、まぁここまでは予想通り。問題は次だね。
「それで2つ目の理由だけど…まず最初にAクラス戦のことは覚えているわよね?」
「? 覚えてるけど、それがどうかした…!」
そこまで言って僕はあることを思い出し、口元に手をやる。そういえば僕…アリサに試召戦争で負けたけど…あれ、あのときの試召戦争って受けてもらうためにある条件を飲んで…え、まさかそういうこと?
そんな僕の雰囲気から察したのだろう、アリサが話を進め始める。
「わかったようね。だったら単刀直入に言うわ…アンタ、今日から執事としてこの屋敷で働いてもらうわよ、もちろん住み込みで♪」
そして僕の予想していた通りに、アリサはあのときの命令権を使って上機嫌で僕に何をさせたいのかを告げてきた。
「…ちなみに拒否権は?」
「無いわ…もうアンタの家の荷物もこっちに持って来ちゃってるし」
せっかく持ってきたのにまた戻しに行くのも無駄でしょう? と悪びれもせずに続けるアリサ。あぁ、だから僕の家にあった寝間着がここにあったんだね…。
「はぁ…わかったよ。そこまで手を回してるんだったらやるよ、執事」
すでに荷物も運び込まれていると聞いて、抵抗しても無駄と諦めた僕は執事として働くことを了承する。
「あら、意外ね。もうちょっと抵抗すると思ったのに…それじゃぁ、この書類にサインを書いてちょうだい」
アリサは意外そうに僕に目を丸くしつつ、手続きのためと思われる書類を渡してくる。意外と本格的なんだなと思いながら、中身に目を通す。え~と、何々…
【契約書】
・私、吉井明久は執事としてアリサ・バニングス、月村すずか所有の屋敷で執事として働くことを誓います。
・労働内容は上記2名の主に加え、高町なのは・ハラオウン姉妹・八神はやて他数名のために料理やマッサージ等のお世話、話し相手等をすること。また、土・日は休日として何をしても構わない。
・給与として月々――――――――etc…
書類に目を通しながら、必要なところにサインをしていく。ふむふむ、今のところは特にこれといった問題はないね…ん? なんだこの書類?
「アリサ、ちょっと聞いてもいい?」
「何かしら? 明久。不備でもあった?」
「うん、これなんだけど…」
そう言って、僕はある書類をアリサに見せる。それには名前を書く欄が2つあるだけで、他は何も書かれていなかった。そしてそれは1枚だけではなく7枚もあった。一体なんだろう、これ?
「んん…私も見た覚えがないわね…」
どうやらその7枚の紙はアリサにも覚えがなかったようで、首を傾げる。
「アリサちゃんとアキくん、2人揃って首を傾げてどうしたの?」
2人で首を傾げていると、内緒話をしていたすずかが話に加わってきた。見るとどうやら話は終わっていたようで、残りの4人もこちらを見ている。
「ちょっとよくわからない書類が混ざってたのよ」
「よくわからない書類…? ちょっと見せてもらえないかな?」
「別にいいけど…これよ」
そう言って例の書類をすずかに渡すアリサ。すずかはそれを受け取り、内容を見る。
「あー…多分これ、姉さんが用意したやつだよ」
「忍さんが…?」
「うん、そのはずだよ。最近、桃子さんやリンディさんと一緒にニコニコ笑いながら作ってたから間違いないよ」
「あ、それなら私も見たかも。お母さんが楽しみだわ~、ってニコニコしながら言ってた」
「私は直接見たわけじゃないけど、リンディ義母さんの部屋を通ったとき、楽しそうに電話してるのを聞いたよ」
「私は母さんが面白くなりそうねぇ…って悪人がするような笑みを浮かべてたのを見たよー」
すずかの言葉を発端に、証言を上げ始めるなのはたち。唯一この書類についてなにか知っていそうなプレシアさんにどういったものなのか聞こうとしようかと思ったが、実の娘に悪人のような顔をしていたと言われ、盛大に凹んでいて聞けそうになかった。
それにしても…あの4人が関わっている書類か…嫌な予感はしないけど、なんだかこれに名前を書いたら何か重要なことを決められそうな気がするんだけど…
「あの人たちが関わっとるちゅうのが気にはなるとこやけど…結局どうすればいいんや?」
僕と同じように何か感じつつも、すずかにどうするのか聞くはやて。
「えーと…確か左側に明久くんの名前、右側に私とアリサちゃんの2人に、なのはちゃんとフェイトちゃん、はやてちゃん、アリシアちゃん、それにアインスさんの7人の名前をそれぞれ書くように、って言ってたよ」
「私も…ですか?」
それまで守護騎士たちと一緒に僕たちのやり取りを見守っていたアインスが、名前を呼ばれたことにより、困惑しながら近づいてきた。
「はい、そうです。なんでも7人全員が書かないと文字が浮き上がらないようにしている、って言ってました」
「へー…そうなんだ。それじゃぁ書いてみようか」
すずかの話を聞いたなのはが特に何も考えていないのか、ペンを取って書類に名前を書く。他の皆も困惑していたが、なのはに釣られるようにペンを取って書類に自分の名前を書いた。
「ほら、ボーっとしてないで、明久も早く書いて」
「え、僕はちょっと…」
「お母さんたちが私たちにも危害が及ぶようなことはしないはずだから大丈夫だと思うよ、アキ」
「…わかったよ」
フェイトとアリシアに言われて渋々僕も名前を書いていく。さて…どうなることやら…。
僕が最後の1枚に名前を書き終えると同時に、それまで余白だったところに徐々に字が浮かび上がってきた。
「あ、文字が浮かび上がってきたね」
「なんて書いてあるんやろうね~」
「桃子たちのことです。私たちにとって悪いことにはなら…な……」
そこまで言ってアインスは口を閉ざした。え、どうしたの?
「どうしたんですか? アインスさん」
途中で口を閉ざしたアインスに質問するすずか。
「………(スッ)」
それに対してアインスは何も言わずに指先を震えさせながら、ある一点を指差す。僕らはその指差した場所に視線を移す。そこには【婚姻届】という字が書かれてあって…って【婚姻届】!?
「「「「「「「「………ええええぇぇぇぇ!!?」」」」」」」」
そこに書かれていた字を読み、その書類の意味を完全に把握した僕たち8人は、一寸の狂いもなく同時に驚きの声を上げたのであった。
どうも、ソルレインです。
とりあえず……更新一日遅れてしまい、申し訳ありませんでした!(ジャンピング土下座)
話はできてたのに昨日は忙しかったせいで、更新をするのをすっかり忘れていました……。
次からはちゃんと1週間更新を守れるようにしていきますので、どうかご容赦を。