い、今起こったことをありのままに話すぜ!
2つの名前を書く欄以外に何もない書類に名前を書いたと思ったら、いつの間にか婚姻届に名前を書いていた!
…何を言ってるのか…(中略)…超能力とか手品なんて眉唾なもんじゃない。もっと恐ろしい、けれど身近に感じたことのあるものの片鱗を味わったぜ…」
『それはそうでしょう。魔法に属する技術が用いられているのですから』
「……だよねー」
混乱して頭の中で変なことを考えていた僕にエクスが冷静かつ的確なツッコミを入れてくる。そのツッコミのお陰で頭が冷え、少し冷静になれた……というか、
「エクス、何故頭の中でしか言ってない言葉に対して的確にツッコミを入れれるの?」
『最初から口に出してましたよ?』
どうやらまた思っていたことが口から出ていたらしい。最近ようやく治ったと思っていたのに、驚きの余り再発してしまったようだ。
「そういえば他の皆はどうなってるのかな……?」
エクスとのやり取りを中断し、他の皆の様子を伺う。
「「「………………」」」
なのは・アリサ・アインスの3人は顔を真っ赤に染めて硬直していたが、
「「「! ……ッ!! (サッ!)」」」
視線を向けられていることに気づくと3人はいつ打ち合わせしたのかと言わんばかりに同時に顔を伏せた。そしてそんな反応を示した3人の隣では、
「……すずかちゃん、どう思う?」
「……私はチャンスだと思うけど……はやてちゃんは?」
「……私もそう思うで。なのはちゃんたちを説得する手間も省けるし、一石二鳥や」
「……だったらこの機を逃す手はないね」
すずかとはやてがヒソヒソと話をしていた。一体何話してるんだ?
「「(お)母さん!!」」
「アリシアに悪人顔って言われた、アリシアに悪人顔って言われた、アリシアに悪人顔って……あら? フェイトにアリシア、何かしら?」
フェイトとアリシアはこのことを事前に知っていたと思われるプレシアさんにソニックブーム顔負けの勢いで迫っていた。プレシアさんはさっきのアリシアの言葉で凹んでいたが、娘2人に迫られていることに気づき、それまでの様子が嘘だったかのように普通に対応していた。
「母さん! あの書類、どういうことなの!?」
「書類……?」
「私たちの名前を書いたら字が浮き上がってくるやつのことだよ! あれにはリンディ養母さんや桃子さんだけじゃなくてお母さんも関わってるんでしょう!?」
「……あぁ、あの書類のことね。そうだけど……それが何か問題あったかしら?」
「大有りだよ!! こ、こ、婚姻届だなんて!! なんであんなことをしたの!?」
「あら? 明久くんが相手じゃ不満だったかしら?」
「そ、そうじゃないよ! 明久が相手ならむしろ嬉しいよ!」
「そ、そうだよ! アキが相手なら私だって嬉しいよ!」
「あらあら、私の娘も大胆になったわね……本人がいる前で大声でそんなことを言うなんて」
「「~~~~ッ!!」」
プレシアさんに言われたことで、自分たちが直前に言った言葉を思い出して顔を赤くして絶句する2人、プレシアさんはそんな2人の様子を面白そうに見つめている。完全に遊ばれているなぁ…
『マスター』
一通り周囲を見終わった僕に、エクスがタイミングを見計らったかのように声を掛けてくる。
「? 何、エクス?」
『誰かが召喚魔法でその婚姻届を転送しようとしていますよ?』
「「「「「「「「……へ?」」」」」」」」
僕だけではなくそれまで色んな反応を示していた7人もエクスの言葉に反応し、婚姻届があった場所に視線を向ける。そこで僕らの視界に入ったものは、
――――シュン!
短い音と共に何処かに転送される婚姻届×7(名前記入済)だった…っていうか召喚!? 一体誰がそんなことを!?
僕は誰が召喚魔法を使った人が誰なのかを考えてようとしたが、次の瞬間、その答えはすぐにわかることになった。
――ブウゥン!
僕らの真上に空間モニターが開かれ、この場にいない面子の中の1人、リンディさんが映し出された……ってリンディさん? ……! まさか婚姻届を召喚したのって!?
「あら、リンディ。あなたが通信をしてきたってことは、ちゃんとそちらに召喚できたようね?」
『えぇ。ぶっつけ本番だったけれど、ちゃんと術式が組めていたようでこちらに届いたわよ、皆さんの【婚姻届】♪』
「「「「「「「「やっぱりあんた(あなた)(です)か!!」」」」」」」」
全員分の婚姻届を手に、イイ笑顔で言うリンディさんに僕たちは同時に大声を上げた。そうだよね! このことに関与してるって言われてたのに、あなたが何もしないなんてことはないよね!
「どういうことですか、リンディさん! 私はこんなこと聞いていませんよ! 説明してください!!」
「そうです、リンディ! いくらあなたでも事と次第によっては……!」
アリサとアインスが声を荒らげて問いかけるが、
『あらあら そんな興奮しちゃって……何か問題でもあったのかしら?』
ニコニコと微笑みながら、何故大声を上げているのかわからないというような反応をするリンディさん。くっ、分かっている癖に白々しい真似をする、この若作りの年増――――
『明久君? 今、何か失礼なことを考えていませんでしたか?』
そんなことを考えている僕に、モニター越しにも見える黒いオーラを出しながら声を掛けてくるリンディさん。はやてといいリンディさんといい、僕の身近にいる人たちは特定の単語に対して異常なまでに勘が良すぎる気がする。
「お久しぶりです、リンディさん……気のせいじゃないですか? 僕はそんなこと思ってはいませんけど」
動揺を表に出さないようにして、リンディさんの質問に答える。このとき、困惑な表情を作るのも忘れない。
『………………』
リンディさんはそんな僕を微笑みながらも笑っていない目で少しの間見ていたが、
『……どうやら嘘は言ってないようですね』
と言って、背中から出していた黒いオーラを消した。ふぅ……どうやらなんとか誤魔化せたようだ。
「リンディ、できれば先程の話の答えを聞かせてもらいたいのですが?」
『あ! ごめんなさい、聞かれてる最中だったわね。コホン……どうしてこんなことをしたのか、でしたね』
リンディさんは軽く謝罪の言葉を口にした後、咳払いをし、今回どうしてこんなことをしたのかの理由を話し始めた。……まぁ、理由のおおよその検討は付いてるんだけどね。
『今回のことを実行するに至った理由はいくつか挙げられますけど……一番の理由はそこにいるプレシア、そしてこの場にはいない桃子さんと忍さん、そして私を含めた4人からの明久くんへの罰、ですね』
僕の方を向いて、少し表情を綻ばせながら理由を語るリンディさん。やっぱりそうだったか……この人たちは僕がまだ海鳴にいた頃、フェイトたちが僕に好意を寄せていることを知っており、「将来はフェイトたちのお婿さんに来ない?」等と言って、それに対する僕たちの反応を楽しんでいた。今回もおそらくそんなノリでやったんだろう……
「……ちなみに拒否権はありますか?」
一応拒否権があるかどうかを聞いてみる。まぁ、あの人たちの性格上、おそらくそんなものは……
『ありますよ』
「ですよね、やっぱりありますよね……って、あるんですか!?」
『えぇ!?』
しかしリンディさんからは予想していなかった返答がされ、僕は一瞬聞き間違ったかと思って聞き直してしまった。そんな反応をしたのは僕だけではなく、なのはたちや若干空気になっていたクロノたちも驚いていた。
『皆さんのその反応がどういう意味か聞きたくはありますが……えぇ、ありますよ。いくらあなたへの罰だからといって、これはあなただけじゃなく、なのはさんたちの人生にも大きく関わることですからね。さすがにどちらかに嫌だと言われて無理に推し進めるほどのことはしませんよ……まぁ先程の様子を(こっそりと)見ていた限り、女性陣の方々は異論は無さそうですけどね』
『っ――――!!』
僕らの反応に憮然としながらもリンディさんが説明をしてくる。……いや確かにその通りだけど……あなた方がここまで手の込んだ計画をしたのに拒否権がある、なんて言われても信じ難いのですが。それともうなのはたちを弄らないでください、彼女たちの平常心は既に0ですよ。
『どうやら今の話の中に疑問に思うようなことがあったみたいですね? 明久くん』
「えぇ、まぁ……こんなことをなのはたちにも知られないようにやっていたのに、どうしてそれを全部無駄にするような選択肢を与えるんだろう、とは思いましたけど……」
僕の様子に目ざとく気づいたリンディさんからの指摘に対し、正直に思ったことを告げる。するとそれに対しリンディさんは、
『あぁ、やはりそのことについて疑問を抱いていたんですね。それについては先程話した通り、あなた方の将来に大きく関わるから……とは言いましたが、折角の計画が水の泡になるのは忍びないということで当初は拒否権は無かったんですよ」
と最初は拒否権は無かったとサラッと暴露する。というかやっぱり拒否権は無しにするつもりだったのか、この人たち……しかし、それならなおさらここにきて何故拒否権を与えることにしたのかがわからない。どういう心境の変化があったのだろう?
『ですが先程、明久くんが寝ているときにプレシアから興味深いことを聞いてその話を他の2人にも話した後、拒否権を有りにしても明久くんは受け入れると判断したので急遽拒否権を与えることにしたんですよ』
「……興味深いこと?」
リンディさんの話の中で出た『興味深いこと』という言葉に反応し、聞き返すように口に出す。『興味深いこと』? 一体何のことだろ? それにその話を聞いただけで拒否権を与えてくれたって言うのも気になるな……
「……リンディさん。その『興味深いこと』っていう話なんですが……」
『何ですか?』
「いえ、詳しく聞かせてもらってもいいですか?」
リンディさんたちが方針を変えるほどの話というのがどうしても気になったので思い切って尋ねる……が、すぐに聞いたことを後悔することになった。だって……だってこの人……
『(ニッコリ)♪』
よくぞ聞いてくれたと言わんばかりに、今まで僕に見せた『イイ笑顔』の中でも一番といっても過言じゃないぐらいの笑みを浮かべてるんだよ、この人!? リンディさんを含めた保護者勢がこんな顔をするなんて絶対に何かあるとしか思えない!! ど、どうにか話を逸らさないと……!
「すみません、変なことを聞きました。だから今のは聞かなかったことに……」
『実はですね……明久くんが気絶している間に、プレシアがエクスさんのメンテナンスを行なっていたんですよ』
このままでは不味いと感じた僕はこの話を終わらせようとするが、すべてを言い切る前にリンディさんが話し始める……って、エクスのメンテ? なんでいきなりそんなこ……
『そのメンテナンスの一環で、会話ログを調べていたらしいんですが……明久くん、あなたはお話を受ける直前に中々興味深いことを話していたみたいじゃないですか。そうですよね、プレシア♪』
リンディさんのその話を聞いた瞬間――――僕の思考が一瞬止まった。……今、会話ログって言った? しかもエクスの?
「えぇ。そうよ、リンディ。まさかあの直前にあんな死亡フラグを立て……コホン、いじり甲斐のある話……もとい、興味深い会話をしていたなんて思ってもいなかったけど……おかげでこの計画の最後の難問、どうやって明久くんに首を縦に振らせるか、が簡単に解決したのだからあのときのお話も無駄じゃなかったわね♪」
プレシアさんがなんだか上機嫌に何かを言っているようだが、僕はさっきのリンディさんが話していた会話のある一部分、『お話される前に言っていた興味深いこと』ということについて考えてるので精一杯だった。
え? え? お話される直前にしていた、会話? それに死亡フラグって、もしかして…………告白云々、とか言ってたアレ? それをリンディさんたちに知られた? よりにも寄って一番知られたくない人たちに?
お話の直前に思わず僕が口走ってしまった本音をエクスが記録していて、それをリンディさんたちが聞いたというところまで頭が回ったところで、鏡を使わなくても僕の顔からサーッと血の気が引いていくのがわかった。
『「さて……それではここまでの話を踏まえて、返事を聞かせてもらってもいいですか(かしら)? 明久くん(君)♪」』
そしてそんな僕へ畳み掛けるように決断を迫ってくる満面の笑みのリンディさんとプレシアさん……その2人の表情は異性なら特殊な性癖を持つ人以外なら見惚れる程のとても綺麗な笑顔だったが、僕にはその笑顔が何故か罠にハマった哀れな獲物を見る狩人のように見えた。
この後、明久がどうなったのかは……読者の方々の想像にお任せします。
5月11日 最後の方を修正しました。