出し物決め…ただし、決まったのはAクラスのみ
「……雄二」
「なんだ? 翔子」
「……『如月ハイランド』って知ってる?」
「今建設中の巨大テーマパークだろ? それがどうかしたのか?」
「……そこがもうすぐプレオープンをするらしい」
「ほぅ……それは初めて聞いたな」
「……もしもプレオープンのチケットが手に入ったら一緒に行ってくれる?」
「んー、俺じゃなくて友だちと行けば……わかった。行くからそのどこからともなく取り出したトンファーをしまえ」
「……本当に一緒に行ってくれる?」
「あぁ、本当だ」
「……なら約束。もしも破ったら――」
「おいおい、俺が約束を破るわけが――」
「――婚姻届に判を押して貰う」
「――命に代えてもその約束、守らせて貰おう」
まだ肌寒かった季節が過ぎ、温かい陽気になり、新緑の芽吹きはじめたこの季節。
文月学園では、新学期最初の行事である学園祭『清涼祭』の準備のため、どのクラスも活気に満ちていた。
「多数決の結果、一番票が多かったのは『メイド喫茶』よ。この決定に異論がある人……いないわね。それじゃあAクラスの出し物は『メイド喫茶』に決定するわ!」
それは最優クラスのAクラスも例外ではなく、アリサが主導となって出し物を決めていた。
メイド喫茶か……当日は休憩のときに顔出しに行こうかな。
ん……? Fクラスは出し物について話し合わないのかって? いや、話し合おうにも……
「横溝! こいっ!」
「勝負だ! 須川!」
「へっ! お前の球なんざ、俺の一本足打法で場外に叩きこんでやる!」
「はっ! ほざけ! てめぇに俺のナックルが打てるかよ!」
Fクラスのやつらのほぼ全員がLHRが始まったと同時に、外に野球をしに行ったから話せないんだよね……というか草野球ですら無いのにナックルボールが出るってどんだけレベル高いの?
ちなみに教室にいるFクラスの生徒はなのはにフェイト、はやて、秀吉、姫路さん、島田さん、そして僕の7人だ。皆はそれぞれ呆れた表情を浮かべて、窓からFクラスの人たちを見下ろしていた。もう僕たちだけで出し物決めようかな……
「お前たち、学園祭の準備はどんな感じだ?」
そんなことを考えていると担任である西村……スネーク先生が扉を開けて入ってきた。
「ん? 吉井、今何か変なことを考えなかったか?」
心の中で言ったのに何故わかるんだろう……?
「いえ、考えていませんけど?」
「む……そうか。ならばいいが……」
表情を変えずにサラリと嘘を付くと、西村先生はすぐに引いた。どうやら確信はなかったみたいだね……
「それよりも……Fクラスの奴らがほとんどいないようだが、あいつらはどこに行った?」
気を取り直してそう聞いてくる西村先生。僕はそれに応えず、無言でグラウンドを指差す。
「あの馬鹿共は……」
僕が指差した方を見た西村先生は、それだけ言ってすぐに教室を出て行こうとする……っとその前に、
「西村先生」
「なんだ、吉井。今から私はあの馬鹿共を捕まえに行かないといけないんだが……」
「いえ捕まえるのに効果的な物があるので、それを渡そうかと」
扉を開けて出て行こうとする西村先生を引き止め、僕はあるものを西村先生に渡す。
「むぅ……確かにこれがあればあいつらの気を引くことはできるだろうが……ただ喜ばせるだけではないのか?」
「あぁ、大丈夫です。中身はあいつらに表紙とは別のものに差し替えていますから」
渋面を作る西村先生に僕はそう囁き、中身を西村先生にだけ見えるようにして見せる。
「これは……なるほど、確かにこれなら効果的だな」
「あ、それは返さずに後で捨ててもらって結構ですので」
「わかった。それでは行ってくる」
僕とのやり取りを終えると、西村先生は今度こそ教室から出て行った。
「明久君、何渡したの?」
「それは見てのお楽しみ、かな」
「えー……せめてヒントぐらい出してぇなー」
僕が西村先生が使うまで待つように言うが、はやてが渡したもののヒントを要求してきた。
「そうだね……強いてあげるなら、あいつらの大好物、かな」
「大……好物?」
僕の言葉に首を傾げるフェイト。それは島田さんや姫路さんも同じようで、みな一様に首を傾げていた。
「そ、大好物。でも食べ物じゃないよ」
「食べ物じゃない? ……! 明久、もしやお主が渡したのは……!」
僕がさらにヒントを出すと、秀吉はハッとした表情になって僕に何かを言おうとする。どうやら秀吉はアレの正体に気づいたようだね。
「貴様ら! 学園祭の準備をサボって何しておるかぁ!!」
しかし秀吉が答えを言い切る前に、西村先生が大声を上げたことにより、全員の意識がそちらに向く。
声が聞こえた方を見ると、西村先生がその表情を険しくし、怒髪天を突く勢いでグラウンドにいるFクラスのやつら目掛けて走っていた。その走りのその勢いは凄まじく、Fクラスとの距離を徐々に狭めて行っている……ってあれ? 今さっき教室から出て行ったばっかりだったよね!? 素の身体能力で身体強化を使った並の魔導師の身体能力に匹敵するっておかしくない!?
「げ、鉄人だ!?」
「なんだと!?」
僕が先生の身体能力に驚愕していると、グラウンドにいたFクラスの一部が西村先生の接近に気づき、大声を出した。
「くそ、どうする坂本!」
「落ち着け! 全員散開しろ! 誰かが鉄人の気を引いているうちに逃げるんだ!」
「「「「了解!!」」」」
雄二の指示に従って、蜘蛛の子を散らすように逃げるFクラス。
「ちぃ! 馬鹿共が、こういうときだけ頭が回りおって! これでも食らうがいいわ!!」
逃げるFクラスを見て、西村先生はそう毒づいた後、先程僕が渡したものをFクラスと西村先生の中間辺りに投げ捨てる。
「なんだ、鉄人が何かを投げたぞ!」
「気をつけろ! 何かの罠かもしれんぞ!」
Fクラスのやつらは逃げながらも西村先生が投げたものに視線を向ける。さて……うまく引っかかるかな?
「ん? あれは……本か? ……! まさか……アレは!」
「どうした? 何が見えたんだ?」
投げた物の正体に気づいた誰かが大きな声で叫び、逃げていたうちの数人が足を止め、その大声をあげた人に声を掛けたり、投げたものに視線を向ける。そして、
「アレは……アレは…………
「「「「なんだと!?」」」」
最初に気づいた人が大声で西村先生の投げたものの正体を叫んだとき、Fクラスのほぼ全員が動きを止め、視線を鉄人が投げたもの――
「お、やっぱり大半が動きが止めたみたいだね」
「やはり、お主が西村教諭に渡したものはアレじゃったか……」
Fクラスの状況を口角を上げながら言う僕に秀吉が呆れを含ませた声でそう言ってくる。
「でも、あれ以上にFクラスに効く手頃で効果的な罠は無いと思うけど?」
「はぁ……お主、いくら何でもそれはあやつらを馬鹿にし過ぎ『ウオオォォォ! あの
秀吉が僕に苦言を漏らそうとするが、秀吉の発言を遮るように大声を上げ、エロ本に向かって群がるように全力で走っていくFクラス。秀吉はその様子を見て、発言を撤回した……まぁあの光景を見て馬鹿だと思わない奴はいないよね。
「ば、馬鹿野郎共! どう考えてもそれは罠ってわかるだろ!? 早く引き返……ッチ! 聞こえていやがらねぇ! なら俺だけでも逃げ……」
雄二がエロ本に群がって行くFクラスを引きとめようとするが、制止の声が聞こえていないとわかり、叫ぶのを止める。そして直ぐ様自分だけその場から離脱し始めた。
「貴様が主犯か、坂本ォーー!!」
「げ、鉄人! なんで俺の方に来るんだよ!? あそこにいる馬鹿共のところに行けよ!!」
しかし引きとめようと大声をあげたことにより、西村先生に捕捉されてしまった……うわ、雄二もかなりの速度で逃げてるのにどんどん距離が縮まっていってるや。
「あいつらなど後からでも捕まえられるわ! だから止まらんか、この新大陸部の部長がぁ!!」
「俺をあんな幼馴染によく殺されかける奴と一緒にすんじゃねぇ! ていうかメタ発言するなよ!?」
鉄人の思わぬ発言に、足を止めて大声でツッコミを入れる雄二。まぁどちらも幼馴染にひどい目に合わされるっていうのはあってると思うけど。
「馬鹿め、動きを止めおったな! 食らうがいいわぁ、神砂嵐!!」
「いやそれただの捻りを加えた正拳突きじゃげぶぅるわ!?」
走りながら繰り出された西村先生の鉄拳をまともに喰らい、錐揉み回転しながら奇声を上げて宙を舞う雄二。
「おー……殴られたちゅうよりも投げられたって言わんばかしに飛んどるなぁ、坂本っち」
「そうですね……あ、今受け身も取れずに地面に堕ちましたよ……痛そうです」
西村先生に宙に飛ばされた雄二を人事のように解説するはやてと姫路さん……いや確かに人事だけど、もうちょっと慌てようよ、2人共。
「アンタたちのクラスのやつら、馬鹿ばっかりね……」
「あ、あはは……本能に忠実……なのかな?」
「まるで餌に群がる鯉だねー……こっちの方は可愛げは全く無いけど」
いつの間にか近寄ってきていたアリサ、すずか、アリシアがエロ本に群がって行くFクラスを見て思ったことを口々に述べる。皆中々酷いことを言うなぁ……事実だけど。
「そういえば吉井。あんた、なんであんな物持ってきてるのかしら? そこのところ、ちょっとポッキリと聞かせて貰いたいんだけど」
島田さんが指の骨をポキポキと鳴らしながら何故僕があんなものを所持していたのかを聞いてきた。島田さん? どうして聞くだけなのに、骨を鳴らしながら僕に近づいてきてるの? ……まぁいいか。どうせ、
「フェイトー、話が進まなくなりそうだからちょっと島田さん抑えるの手伝ってー」
「分かったよ、姉さん」
「ちょ、離してハラオウンたち! 今からウチは吉井に尋も……お話しないといけないことが……」
なのはたちの内の誰かに抑えられるんだし。ちなみに島田さんはなのはたちのことを苗字で呼んでいる。曰く、「明久(アキ)君(くん)に危害を加えるような人には名前で呼ばれたくない」らしい。
「まぁ簡単に言うと……対Fクラス用として用意していたもの、かな?」
「対Fクラス用……じゃと? あれはエロ本のはずじゃろう?」
僕の言った言葉に秀吉が反応して聞いてくる。まぁパッと見だとただのエロ本にしか見えないけど……
「実はあれ、表紙は服装が乱れた犬耳(狼耳?)の女性が飾られてて一見エロ本のように見えるけど……中身は肌が褐色でガタイのいい犬耳(狼耳?)を付けた男の人が色んなポーズを取ってる写真集なんだよね」
「「「「ギャアアアァァァ……!!」」」」
僕が本の中身を言うと同時に、中身を見たのだろうFクラスの絶叫が響き渡った。なまじ表紙が犬耳を付けた女性だったのだ。鉄人に捕まるかもしれない中、期待を込めて中身を見たら、中身は筋骨隆々で犬耳を付けた青年。絶望も一塩だろう。
「お主……存外鬼畜、いや外道じゃな……」
僕がいつもは見せないような黒い笑みを浮かべながら笑っているのを見て、秀吉がドン引きしながらそう呟いていたが、僕はそれを無視して西村先生にロープでまとめて引き摺られているFクラスの方を眺めていた。
――――おまけ――――
「そういえば、アキ君」
「ん? 何、はやて?」
「いやさっきの本の中身と表紙のことなんやけど……もしかして、被写体はアルフとザフィーラなん?」
「そうだよ」
「あれ? 明久とはやて、何の話してるの?」
「さっきの本の被写体が、実はアルフとザフィーラだっていう話」
「あ、やっぱりそうだったんだ……さっきなのはたちとそうなんじゃないかって話してたんだよ」
「あぁー……やっぱりわかった?」
「そりゃわかるで。アキ君の知り合いで犬耳付けた人なんてその2人しかおらへんやろ……けど、ようあの2人が写真撮るのを承諾しおったなぁ」
「アルフは顔写真を撮るだけだったから、肉料理を振る舞うって言ったら簡単に協力してくれたよ。ザフィーラははやてに近寄る奴らへのトラウマ用に、ってお願いしたらかなり複雑な顔をしつつも協力してくれたかな」
「アルフェ……簡単にモノで釣られすぎだよ……」
「ザフィーラェ……そんなことにまで協力せんでもええのに……」
前書きでも言っていましたが、更新が予定していた期日よりも
遅くなってしまい、大変申し訳ありませんでした。
次はできるだけ早めに更新できるようにします。