『注文いいですか?』
「はい、ただいま!」
『すみませーん。お愛想お願いします』
「畏まりました!」
3年生2人組による営業妨害から数十分。うちの執事喫茶はついさっき営業妨害が行われていた店とは思えないほど客で賑わっていた。
執事喫茶だから客層は女性客ばかりだと予想してたが、意外に男性客もやって来てるみてぇだな……
『2人ですが大丈夫ですか?』
「リア充爆発し――モゴッ!?」
『いらっしゃいませー! 席へお連れしますのでこちらの方へどうぞ!』
『あ、は、はい……その人、大丈夫ですか? 白目剥いてますけど』
「お気になさらず。この店のホールスタッフは頑丈ですのでこれぐらいなら問題ありません」
『そ、そうなんですか……』
ただ来る男性客のほとんどが女連れだから、今みたいに嫉妬に耐え切れなくなった男子の一部が客を罵倒しかけて、他の奴等に口封じされるといった光景が見られる(5組に4組程度)のが若干問題だが。
まぁそれでもこんだけ客が入ってるのは、あいつらのおかげと言っても過言じゃねぇな……
そんなことを考えながらとある方へと視線を向ける。
「いらっしゃいませ、ご主人様方。何名様でしょうか?」
そこでは新しく入ってきた客にメイド服を着た高町が笑顔で応対していた。
ふむ、今度の客は
「ご主人様……あ、ふ、2人です///」
少し頬を赤らめ、噛みながらも答える男子。その反応は思春期真っ只中の男子としては理解はできるが……隣にいる連れの彼女が如何にも不機嫌ですって顔をしてるぞ?
「2名様ですね。それではお席に案内いたしますのでついて来てください」
そう言って空いてる席へと慣れた様子で誘導する高町。流石実家が喫茶店なだけはあるな……あ、表情が歪んだ。こっからだとよく見えんからわからんが、多分彼女に脇腹を抓られてるんだろう。ま、彼女連れてんのに店の従業員に見とれてたんだから自業自得だな。
「それではご注文を繰り返させて頂きます」
彼女に折檻されながら高町に席に案内されている男子を爽やかな笑み(愉悦100%)で眺めていると注文を復唱する声が聞こえた。この声はハラオウンだな。
「ナポリタンとカルボナーラをそれぞれ1つずつ、そして食後にアイスコーヒーを2つ。以上でよろしいですね?」
「は、はい///」
「ま、間違いないです///」
「承りました。それでは失礼します」
思わず見惚れてしまいそうになるような凛々しい笑みを浮かべて礼をし、厨房の方へと向かうハラオウン。
こいつも高町と比べても染色がないぐらい手慣れた様子で接客をこなしている。なんでも高町の母親に料理を(自分の姉と母親と一緒に)教わる過程でたまに高町の家の手伝いをしていたらしく、そのときにやっていたことが未だに体に染み付いているらしい。
「横溝くん! 3番テーブルのお客さんのオーダーのクリームパスタが出来上がったから持ってってぇな」
「畏まりました、料理長!」
「料理長! 8番テーブルのお客様からハンバーグセットのオーダー入りました!」
「ほいほい。すぐに作り始めるから皿の準備だけお願いするわ。あ、須川君そろそろドリアが焼き上がる時間やからオーブンから出す準備しといてくれへんか?」
「「畏まりました!」」
そしてその2人に負けず劣らず働いているのが八神だ。さっきまではホールで接客をこなしていたが、今は厨房の方で料理長として働いている。その手腕は見事なもので、次から次へと来るオーダーを厨房班・ホール班の人員をうまく使いこなすことで手際よく捌いている。それだけでも凄いのだが、昼前で一番忙しい時間だというのに料理の質も落としていないようで、料理を食べた客は満足して帰っているらしい。
「すごいもんじゃな……皆頑張っておるが、この盛況ぶりはあやつらの働きのおかげと言ってもいいじゃろうのぅ」
いつの間にか近くに来ていた秀吉(メイド服着用)が3人の働きぶりを眺めつつ俺と同じような評価を口にする。ただ、まぁ……
「それでも一番この店に貢献してるのはアイツだろうな」
「いやいくらあやつらがよく働いているからと言ってもあやつと比べるのは酷じゃろうて」
そんな会話をしながら俺たちは視線を3人からある人物へと移す。
「お待たせいたしました、お嬢様。当店特製『執事長のシュークリームセット』でございます」
「あ、ありがとう……ございます///」
「いえ。それではごゆっくりどうぞ」
そこには執事服を身に纏い、今まさに女性客に給仕をしようとしている明久の姿があった。
普通ならばその程度のことで、いちいちあいつのことを話題にはしなかっただろう。しかしあいつの給仕、いや一つ一つの動作の全てが周りと、普通と違っていた。
ただ歩いている、給仕をしているだけなのに目を引くほど洗練された立ち振舞いやテレビなどでたまに見る本職を連想させるような所作。客に対しての言葉遣いも丁寧で、傍から見てると本当に従者としてそのお客に仕えているのでは、と錯覚してしまいそうになる。そして極めつけに注文を受け取った後に見せる、同姓でさえ魅了してしまいそうな柔らかな笑み。
それらが合わさっての接客は途中からホールに入ったにも関わらず、店内のほとんどの女性客が明久に魅了されるのには充分すぎるほどの効果があった。
現にさっき明久に給仕されていた女性客だけでなく、その様子を眺めていた何人もの女性客が立ち去っていく明久の後ろ姿を熱に浮かされたかのようにじっと見つめている。
……まぁ極少数だが男性客も熱っぽい視線を送ってるような気もするが、それは秀吉が男に告られるのと同じようなものだろうから気にしないでいいだろう。
「雄二よ……お主今何か失礼なことでも考えなかったかのぅ?」
「気のせいだ。それにしても料理の腕前がいいってことは知ってはいたが、まさかあんな特技まであったとは……どれだけ多芸なんだ? アイツは」
「じゃがあれでも本人曰く、昔に比べたら鈍ってると言っておったぞ?」
俺が呆れながらそう言うと、その程度で呆れるのはまだ甘いというように補足してくる秀吉。いやあれだけ出来て鈍ってるって……昔はどれだけできてたんだよ。
「すみませーん、注文いいですか?」
「はい、なんで御座いますか? お嬢様」
「……あ! え、えっとダージリンとモンブランを1つずつお願いします///」
「畏まりました。ダージリンとモンブランですね? 少々お待ちください」
「は、はい……///」
俺と秀吉がそんなことを話している間も明久は仕事をし続け、1人、また1人と女性客を落としていく。
……それにしてもこの場に島田がいないのは幸いだったな。今明久に向かって殺意を送ってる奴等なら女子の接客に当ててやれば多少だが抑えられるが、アイツの場合はそれができないからすぐにでも明久に攻撃を加えようとするだろうな――
「(ガラッ)遅くなってすみません。只今戻りました」
「ただいま。今帰っ――」
「手塚! 根岸! 藤堂! 大至急島田をこの教室から連れ出せ! 場所はどこでも構わん!」
島田の声が聞こえたと同時に、手の空いていた3人に指示を出す。客がいないときならまだしも、今暴れられたら店の評判に関わる!
『了解!』
指示された3人もそれを察したのか、いつも以上に早い動作で島田の手と足を縄で拘束、客からでは見えない位置へと移動させた。
「――たわよ、ってキャア!? あんたたち! 一体何を――」
『我慢してくれ! 島田!』
『確かに吉井はムカつくが、今お前に暴れられたら不味いんだ!』
「吉井? なんでそこで吉井の名前が――」
『馬鹿野郎! 余計なこと言ってねぇでさっさと空き教室に運ぶぞ!』
『『おう!』』
「(ガラッ)ちょ、ちょっと人の話を聞きなさ――(バタン)」
全て言い切る前に男子3人によって教室から運び出される島田。ふぅ、これでなんとか最悪の事態は免れたな……っとそろそろ時間か。
「秀吉、そろそろ次の試合の時間だから俺たちは少し抜けるぞ。八神たちとそこで固まってる姫路にもそのことを伝えといてくれ」
「む、もうそんな時間か。承知したのじゃ。頑張ってくるのじゃぞ」
「任せろ」
秀吉の激励に短く返事を返し、俺は明久の方へと近づいていった。
「そういえば雄二、次の相手って誰だっけ?」
会場へと向かう傍ら、隣を歩く雄二に対戦相手のことを聞く。1回戦が終わってからは雄二に呼ばれるまでずっと喫茶店のホールで働きっぱなしだったため、対戦相手の確認ができなかったんだよね。
「俺もどっちが勝ったかまでは調べてないが、対戦表を見た限りだと――お、予想通りだな」
対戦相手を見てニヤリと笑っている雄二の視線を追う。その先には、
「さ、坂本に吉井!? 2回戦の相手はお前らか!?」
僕らを見て顔を引き攣らせているBクラス代表の根本と、Cクラス代表の小山さんがいた。この2人、付き合ってるのかな? それならBクラスとの試召戦争のときにCクラスが協力してたのも納得がいくんだけど。
「何言ってるのよ、根本君。そんなの対戦表を見たら予想出来てたことでしょ? ……まぁできれば外れて欲しかったけどね」
根本君の反応に呆れたように言う小山さん。相手が彼氏? でも結構ズバズバ言うんだね。
「それでは始めてください」
2回戦の立会人は、英語担当の遠藤先生。多少のことなら多めに見てくれる稀有な先生なんだよね。
「「「「試獣召喚!!」」」」
Bクラス 根本恭二 & Cクラス 小山友香
英語W 199点 & 225点
V S
Fクラス 坂本雄二 & Fクラス 吉井明久
英語W 73点 & 754点
4人の召喚獣が同時に召喚され、その上に点数が表示される。
「……嘘だろ、おい」
「前よりもさらに高い……あのときの点数は調子が悪かった、それか本気じゃなかったってことかしらね」
僕の点数を見て早々に諦めムードに突入した根本と冷静に自分の推測を口にする小山さん。小山さんが冷静なのは意外だ、もっとチョロそ……扱いやすそうな人だと思ってたんだけどなぁ……点数も根本より上だし。
「どうする、雄二?」
「流石にこの点数差じゃ厳しいな……仕方ない、使うか。根本、これを見ろ」
雄二が懐から取り出したのはBクラスとの試召戦争で設備の代わりに行われた根本の女装写真で作られた門外不出の写真集、『【グロ】生まれ変わったワタシを見て!【注意】』だった。僕は見てと言われても見たくないけど。
「そ、それは……!」
それを見て引き攣っていた根本の表情が更に引き攣った。まぁ墓場まで持って行きたい汚点だろうから、その反応も仕方ない。
「おい、Cクラス代表の小山」
「なにかしら?」
「これを見ろ」
そう言ってページを捲る雄二。そこには女子の制服を着て恥ずかしそうにポーズを取っている根本が遠目のアングルで写っていた。
「ま、待て坂本! 降参でもなんでもするからそれだけは……!」
「明久、そいつを押さえておいてくれ」
「了解」
雄二の指示を受け、素早く根本の後ろに回って腕を捻り、その上でさらに関節技を極めて押し倒す。暴れられたら面倒だからね。
「よし、これで邪魔者はいなくなったな……んじゃ小山、この写真集が見たかったら降参してくれ」
「坂本、お前は鬼か!?」
「流石にこの点数差だと、俺は役に立ちそうにないからな。それにこの前はまんまとお前の策に乗りかけたし、そのお返しだ。ま、因果応報ってやつだと思って諦めろ」
泣きそうな声を上げる根本に対し、まさに悪役といった感じの笑みを浮かべながら残酷なことを告げる雄二。
問答無用で試合には負け、さらに自分の写真集を彼女? に見られる。同情しそうだけど、彼がやってた事を考えれば仕方ないか。
「ふぅん、それがあのAクラス集団嘔吐未遂騒動の元凶のやつなのね……いいわ。私たちの負けよ」
「オーケー、交渉成立だな」
悪役のような笑みを浮かべながら写真集を小山さんに渡す雄二。
「ゆ、友香!? 頼む! 見ないでくれ!」
根本君の心からの懇願。しかし小山さんはそれを無視し、写真集を開き目を通した――と思ったらすぐに閉じた。なんでだ?
「…………これはAクラスの人たちがああなるのも分かるわね」
口元を抑えながら呟く小山さん。心なしか表情も青い。なるほど、あまりにも見苦しい写真過ぎて見れなかったのか。
「明久。勝負はついたしとっとと戻るぞ。喫茶店も気になるしな」
「あ、了解。それじゃ遠藤先生、僕らの勝ちということで」
「あ、はい……さ、坂本君と吉井君の勝利です……うぷ」
小山さんと一緒に写真集を覗きこみ、同じように口元を抑え顔を青くさせていた遠藤先生が弱々しく勝ち名乗りを上げる。
これで3回戦進出。試合内容はあれだったけど……まぁいいか。早く店に戻ろう。
『……根本君、別れましょう』
『ま、待ってくれ! 友香! これには事情が……!』
『……うん、Fクラスとの試召戦争で負けたからっていうのは知ってる……けど、ごめんなさい。さっきのを見てあなたと付き合うっていうのは――ちょっと……生理的に、無理かも』
……去り際に聞こえた会話は聞こえなかったことにしとこう。
誤字・脱字、文章に誤りがありましたらガンガン感想に書き込んでください。
ではみなさん、良いお年を。