二度目の中学校は”暗殺教室”   作:暁英琉

5 / 75
少しずつ、比企谷八幡は溶け込んでいく

 ぼっちにとって昼食とは一人で取るものである。プロぼっちであるところの俺もご多分に漏れずぼっち飯を堪能していたのだが……最近はなかなかそれもできなくなってきた。

 そもそもの原因が隣の席――席には座っていないが――の転校生、律であると言える。

 

「八幡さん、私とお話しながらご飯食べてくれないんですか?」

 

 固定砲台故に自由移動が不可能な彼女が昼休みに教室を出ていこうとする俺に、涙を浮かべながらそんなことを言ってくるのだ。あくまで“泣き”のグラフィックだと分かっていてもこう……割とクるものがあるわけで、仕方なく教室で昼食を取ることが日常になってしまった。

 さらに、彼女がマスターの命令に自らの意思で背いたあの頃から、やけに俺と他生徒の接点が増えた気がする。休み時間にはよく話しかけられるようになったし、昼食を食べようとしていると席を寄せてくる奴もいたりする。

 

「はっちゃんって、いっつもパンばっかりだよね。それでよく足りるね」

 

「私よりも少ないよ」

 

 特にこの二人、倉橋と矢田はよく俺に絡んでくる。今もこうして教室の対角線上にある俺の席まできて弁当をつついていた。

 

「いままでもこれくらいだったし、朝食夕食はしっかり食ってるからな。さして問題はない」

 

 実際、人間は十二時間ごと、一日二食取れば健康上は問題ないと聞いたことがある。つまりはあまり昼食を食べない俺は限りなく人間らしい生活をしていると言えるだろうな。自分でなに言ってんのか分かんなくなってきた。

 ところで、なぜ倉橋は頬を膨らませているんですかね?

 

「なんか私たちの方が食いしんぼうみたいでやだ」

 

「ねー、体育も暗殺もあるからE組に来て食べる量増えたよね」

 

 矢田も倉橋ほどではないが、不満そうな声を漏らしてお腹に手を当てていた。

 つまりはあれだ。訓練で運動量が上がって食欲旺盛になった分、カロリーが気になるという女子特有のサムシングだろう。

 

「運動すれば腹がすくのは当たり前なんだから、気にすることじゃないだろ」

 

「でも、はっちゃんは食べる量変わってないんでしょ? いいなー」

 

 まあ、確かに昼食の量は変わらんが……。そういう体質なんだろとか下手なことを言うと彼女たちの反感を買いかねないし、さてさてどうしたものか。

 

「……?」

 

 視界の端でチカチカと淡い光が映ったので視線を向けると、律がにこにこしながらなぜかマッカンを持っていた。なに? 電子部品を練乳漬けにしたいの?

 ……ああ、そういうことか。

 

「まあ、俺には千葉のソウルドリンクであるマックスコーヒーがあるからな。マッカンがあれば多少エネルギー消費量が増えても問題ない」

 

 冷たいマッカンを保つために用意した保冷バックから黄色と黒の警戒色の缶を取り出して、くいっと一口流し込む。うん、今日もマッカンは美味いな。

 

「あー、それすっごい甘いもんね。カロリー高そう」

 

「一本で大体ご飯一杯分くらいだったと思うぞ」

 

 エメマンの三倍くらいだったか、と昔調べたことを思い出して言うと離れた所から驚愕の声が聞こえてきた。声の主はどうやら茅野のようで、その手には――馴染みのある警戒色。

 

「あ! カエデちゃんもマッカン飲んでる!」

 

「だ、だって……なんか癖になるんだもん」

 

 分かる、分かるぞ茅野。それがマッカンの魔力というものだ。あいつも結構な甘党みたいだし、もうそれなしでは生きられない身体になってしまったな。いや、あやしいものなんて入ってないし、中毒性とか依存性とか全然ない安心な飲み物だから! 合法だから! あ、マッカン切れてきた……新しいの摂取しないと……。

 

「むぅ……」

 

 なぜか倉橋がまた頬を膨らませている。なんなの? フグなの?

 茅野に向けていたその視線はゆっくりと俺に移り、そしてその手元の缶に行きついた。そういえば、こいつもよく茅野と甘いもの談義をしてたわ。

 

「私もそれ飲みたい!」

 

「やらん。自分で買ってきなさい」

 

 ただでさえ自販機のないE組校舎ではこいつの入手は困難なのだ。大事な回復アイテムを失うわけにはいかない。

 それに、また間接キスとかそんなことしてたまるか。恥ずかしさで殺せんせーを殺す前に死んでしまう。

 ケチーと口を尖らせる倉橋を矢田が宥めるのを眺めながら、再びマッカンに口をつける。コーヒー風味の練乳の甘さが口いっぱいに広がって、喉を文字通り甘く濡らした。

 昼食とは一人で取るもので、俺はその方が好きだったはずなのに。

 やけにやかましいこの時間も、不思議といやだとは思わなかった。

 

 

     ***

 

 

 六月と言えば、祝日がない悲しい月である。あ、今はそういうことは聞いてないですね。

 まあ、六月と聞いて最初に思い浮かぶのは梅雨であろう。夏に向けて日に日に気温が上昇する中、湿度まで上がる地獄のような期間である。誰か早く梅雨前線を吹き飛ばす装置を開発してほしい。

 そんな梅雨の期間でも例外はあるというもので。

 

「お、今日は晴れてるじゃん」

 

 朝目を覚ましてカーテンを開けると、珍しく快晴だった。使用済みの傘を持って電車に乗ると、周りの人が濡れないように気を使わないといけないから一安心だ。

 

「けど、夕方からまた雨のようですので、傘は持っていった方がいいですよ」

 

「そっか、サンキュ」

 

 折り畳み傘入れとくかと思いながら鞄を開こうとして、ギギギと枕元に置いていたスマホに首を回す。その画面に映っていたのはいつも隣の席に鎮座している大型機械のディスプレイに表示されている顔で……。

 

「おはようございます、八幡さん!」

 

「律!? 何やってんだお前!!」

 

 あざとく敬礼なんぞしてくるAI少女はスマホのメインメニューを弄びながらニコニコと微笑んできた。

 

「皆さんとの情報共有を円滑にするために、携帯端末にダウンロードした“モバイル律”です!」

 

 どうやら、いつの間にかE組関係者全員の携帯に自分を忍び込ませたらしい。なんでもありだなこいつ。竹林風に言えば、「Dを失った少女に不可能はない」といったところだろうか。この子のグラフィック3Dだけどね。

 

「ハッキングは犯罪だぞ」

 

「情報共有を迅速に行うことで、皆さんの暗殺実行へのスピードも早くなることが期待できます。必要な措置だと思ったのですが、だめだったでしょうか?」

 

 いや、だめではない。むしろ彼女だから可能なこの方法は今後の暗殺に非常に有効になることだろう。複数人での暗殺作戦でイレギュラーが生じたとき、いち早く状況把握ができるのはでかい。

 

「ですが八幡さん、いくらロックをかけているとはいえ、あのような画像を所持するのは法律的にいかがなものかと……」

 

「個人情報を覗くのはやめろ!」

 

 やっぱ追い出すぞとスマホに手を伸ばすと、階下からドタドタと足音が聞こえてきた。階段を駆け上がってきた音は隣の部屋を通過して、俺の部屋の前で制止。

 

「お兄ちゃん! 朝から大声出さないでよ! ご近所迷惑だよ!」

 

「す、すまん……」

 

 あわやぶっ壊れるのではという勢いで開かれた扉から、小町がおたまを持って現れたので、慌ててスマホを耳に当てた。というか小町ちゃん、あなたの声の方が近所迷惑だと思います。

 

「あれ……ひょっとして電話中だった?」

 

「あ、ああ。クラスの奴からちょっと……っ」

 

 おいこら、「嘘はよくないですよぉ」とか言ってんじゃねえぞ。耳に通話スピーカーが当たっているせいもあって、囁かれているみたいでゾワゾワするからやめて!

 律の悪戯のせいで顔が熱くなるのを必死に耐えていると、小町がじーっと俺を見つめた後、むふっと笑みを浮かべた。なんだその笑い方、かわいいなお前。

 

「……どうした?」

 

「なんか、最近のお兄ちゃん結構明るくなったなぁって。ちょっと前まではご飯も一緒に食べてくれなかったけど、そういうのもあんまりなくなったし」

 

 ……そうだな。最近は少しずつ小町に対して今までに近い接し方ができるようになってきた気がする。ひょっとしたら、不良もどきをしていた頃の俺はだいぶ余裕がなかったのかもしれない。あの教室の明るい空気に影響されているのだろうか。これもあの担任が言うところの「手入れされた」というやつだとしたら、俺は気がつかないうちに手入れをされてきているということになる。

 ただまあ、安易にそれを認めるのも癪なのである。

 

「俺が明るかったら気持ち悪いだろ。むしろ周りのために大人しくしているまである」

 

「あはは、いつものお兄ちゃんだ」

 

 朝ごはんできてるからね、と部屋を後にした小町を見送って、スマホを置いた俺はタンスへ向かった。

 

「妹さんと、喧嘩されてたんですか?」

 

「いや、喧嘩とかそういうんじゃない」

 

 ただ、俺が逃げていただけだ。誰も信じず、小町すら信じずに馬鹿みたいに逃げていただけだった。やっぱりあの頃は余裕がなかったんだな。

 

「何があったのかは分かりませんが、また仲良くなれたのなら、それはいいことだと思います」

 

「そうだな……」

 

 前ほどではないが、また小町と過ごすことに苦痛を感じなくなったのは俺としてもうれしい。考えてみれば、あんなに長い間まともに口を利かなかったのは初めてかもしれない。離れて、戻ってみて実感する妹の大切さ。やっぱ妹って天使だわ。

 まあ、それはいいとして。

 

「着替えるからスマホから出て行きなさい」

 

「ごめんなさい、お断りします」

 

「こいつ……」

 

 液晶画面を下にひっくり返したスマホから漏れてくる抗議の声を無視して、今日も今日とて制服に身を包んだ。

 

 

 

「うへぇ……朝はあんなに晴れてたのに」

 

 午後から再び降りだした梅雨の雨は当然のように下校時刻になっても止むことはない。E組校舎には屋内で運動をする設備がないので、こういう日は烏間さんとの個別レッスンも休みだ。特にやることもないし、書店によってから帰って少し筋トレでもするかな。

 

「……そういえば、やけに静かだな」

 

 いつもは雨の日の放課後でも大半の生徒は残って雑談なり勉強なりしているはずなのだが、今日は既にほとんど教室に残っていなかった。

 

「磯貝君達はなんか連れ立って帰って行きましたよ」

 

「渚君や杉野も、茅野ちゃんや奥田さんまで一緒に帰っちゃったんだよね」

 

 残っていた片岡と赤羽がこぞって肩をすくめる。この教室のメンツは全体的に仲はいいようだが、大抵は三、四人のグループで行動することが多い。それが何人もぞろぞろと行動するのはちょっと珍しい気がするが。

 

「そういえば、殺せんせーも雨合羽を着て、一緒に帰ってました」

 

「一緒に……?」

 

 神崎からの追加情報で最初は暗殺かと思ったが、ターゲットに実行メンバーを晒すようなやり方をするとは思えなかった。

 

「悪巧みの匂いがしますね」

 

「同感だ。まあ、あの先生が引率してるなら大丈夫だとは思うが」

 

 主に機密情報的な意味で。やばい、俺の件でちょっと安心できない気がする。

 

「ま、面白そうなことになったら、そのネタで皆を弄ればいいでしょ」

 

 ケケケと笑うカルマに悪魔の角としっぽが見えるのは俺だけだろうか。

 まあ、なんだかんだ“先生”としての超生物のことは皆信用しているようだから、あまり気にしなくてもいいだろう。別れの挨拶をしてから、折り畳み傘を取り出して下駄箱に向かうと――玄関に人が立っているのが見えた。

 黒髪ショートカットの彼女は屋根の張り出し部分からぼーっと空を眺めている。何か考え事かと思ったが、その手に学校指定の鞄しかないところを見るに、立ち止まっている理由は別にありそうだ。

 

「傘忘れたのか、不破?」

 

「あ、比企谷君。……そうなんだよね、朝晴れてたからうっかりしてたのよ」

 

 恥ずかしそうに笑った不破は雨が止むのを待っているようだが、律の予報では少なくとも今日いっぱい天気は崩れたままだそうだ。それでは彼女が帰宅できなくなってしまう。

 

「下のコンビニで傘買って来てやろうか?」

 

 親切心で口にすると、なぜかしらーっとした目を向けられた。え、なんで?

 

「そこは、比企谷君の傘に入れてくれるところだと思うんだけど」

 

「なにそのラブコメ脳、無理無理アンド無理」

 

 女の子と同じ傘使って帰るとか、ちょっとぼっちにはレベルが高すぎる。ギガディンが覚えられるレベルのリア充力を内包していないとできない芸当だ。ちなみに俺はようやくメラを覚えたレベル。

 

「大体俺、この後本屋行くし」

 

「あ、私も本屋さん行きたいって思ってたんだよね!」

 

 なん、だと……!? ぼっちにはなかなか使う機会のない上級スキル、“用事があるからごめんね作戦”を使ったというのに、逆に逃げ場を失ってしまった。やっぱリア充系スキルはクソだな。

 まあ、コンビニで買ってくるなら、それはそれでまたあの坂を登らないといけないし、肉体的疲労と精神的疲労のどっちを取るかしかないわけだ。もはやどっちも回避するという選択肢はない。押してダメなら諦めろである。

 

「はあ、途中で傘買えよ?」

 

「やったー!」

 

 少し大きめのサイズの折り畳み傘をさすとスルッと中に入ってきた。ほんとナチュラルに入ってきましたね。中学の頃の俺なら余裕で勘違いしているレベルだわ。女子というものはやはり油断できない。

 

「近い……」

 

「相合傘なんだから近いのは当たり前でしょ」

 

「相合傘とか言うなよ……」

 

 “あいあい”って言い方が卑怯だよね、愛々傘かと勘違いしちゃうから。リア充たちにとってはそっちの方が正しそうだけど。

 

「あ、比企谷君照れてる!」

 

「うっせ。リア充じゃあるまいし、こんなの照れるに決まってるだろ」

 

 雨で少し空気がひんやりしていてよかった。晴れていたら恥ずかしさで熱中症になっていたかもしれない。晴れてたらこんな状況になってねえじゃん!

 

「だって、比企谷君ってビッチ先生のディープキスも毎回必ず真顔で拒否するしさ、やっぱり高校生だから私たちよりも経験あるのかなって思ってたんだよね」

 

「高校生ったって、お前らと一年しか違わんだろ」

 

 そもそも、ぼっちに女性経験なんて大層なものはない。むしろ男子との交流すらないまである。イリーナ先生はあれだ、誘惑が露骨すぎるから最初から警戒心の方が前に出てしまうのだ。警戒が強いと恥ずかしがることもない。

 それにしても、さすがに折り畳み傘だと二人とも完全に雨から守るのは難しい。少しだけ傘を不破の方に傾ける。はみ出した肩が雨に晒されるが、この程度なら問題はないだろう。

 

「ていうか、比企谷君って結構優しいよね」

 

 いきなりなに言ってんのこの子。

 

「そりゃあ、俺は優しいぞ。優しすぎて周りのために誰とも関わろうとしないまである」

 

 小町とかにするとドン引かれるのだが、不破はなにそれとクスクス笑うだけだった。

 

「最初はさ、比企谷君ってあんまり仲良くしようって感じじゃなかったし、ちょっと怖かったんだよね」

 

 一年しか違わないとはいえ、中学生から見れば高校生は未知の生物だ。それがこんな無愛想な奴となれば、恐怖心が出ても仕方がないだろう。

 

「けど、渚君達とか陽菜乃ちゃんや矢田さんとも仲良くなってさ。それに、律の時は誰よりも真剣にあの子のこと考えてたみたいだし……いい人なんだなって思ったのよ」

 

「……俺はそんなにいい奴なつもりはないけどな」

 

 そっけなく言ったつもりだったのだが、どうやらばっちり顔に出てしまっていたようで、またクスクスと笑われてしまった。

 

「今もさりげなく私が濡れないようにしてくれてる人がなに言ってるんだか」

 

「傘入れてやんねーぞ、ったく」

 

 それにしても……いい人、か。

 直接そんな事を言われても、枕詞のように“都合の”いい人と脳内補完してしまうのがプロぼっちだ。しかし、そういう評価をもらっているということは、クラスでの俺の印象は悪くはないということだろうか。

 

「それに、あんまり積極的に人と関わらないところとか、孤高の戦士って感じ! 絶対ライバルキャラだよね!」

 

「俺がライバルだとしたら誰が主人公なんだよ」

 

 そういえば、不破は漫画が好きなんだったか。よく杉野や倉橋に漫画を布教しているのを目にするし、毎週月曜にはジャンプも買ってきてる筋金入りだ。

 

「磯貝君?」

 

「……あのイケメンなら間違いなく主人公の器だな」

 

 むしろ、それなら俺は敵の雑魚兵士がお似合いである。

 

 

 

 書店につくと不破は一目散に漫画コーナーに向かっていった。まるでTASみたいな最短距離歩行だ。これがジャンプっ子の力か。ジャンプの力ってすげー!

 まあ、今こいつが見ているのはサンデーの棚なんだけど。

 

「お前、ジャンプ以外も読むのな」

 

「うん。雑誌で買うのはジャンプだけだけど、単行本でなら他の漫画も読んだりするよ」

 

 新刊を一冊手にとって次は少女漫画のコーナーに、本当に漫画ならほぼすべて網羅してそうな雑食っぷりだ。

 少女漫画コーナーは行きづらいから、不破と別れてラノベのコーナーに向かう。今季アニメで気になった作品とか、新刊とかを物色するが、ちゃんと考えないと金が際限なく飛ぶから油断ならない。なんだかんだアニメの販促効果は馬鹿にできないものがあるな。

 

「ほう、ラノベかぁ」

 

 優先順位を決めて五冊見繕うと、後ろからマジマジとした声を上げながら不破が覗きこんできた。どうやら彼女も物色が終わったようで、手元に三冊抱えている。

 

「私、ラノベって読んだことないんだけど、面白いの?」

 

「まあ、活字で読む漫画って感じで、俺は好きだぞ」

 

 堅めの文学も好きだが、こういう軽い文学も嫌いじゃない。そもそも、誰にも迷惑をかけずに自分の世界にのめり込める読書はぼっちのためにあるような娯楽と言える。

 漫画、という言葉に興味を持ったのか平積みされた表紙を眺めるが――

 

「どれが面白いのか分かんない……」

 

 まあ、そうだよなぁ。数が多すぎて、知らない人はどれがどれなのか区別もつかないよな。俺だって、なんとかかんとか48は誰が誰かわからないのに、シンデレラなガールズの区別はつくからな。

 ただ、同じ趣味の人間が増えたらいいなと思わなくもないわけで。

 

「なんなら、おすすめ貸してやろうか?」

 

 気がつくと、そんなことを言っていた。

 

「いいの!? じゃあ、私は代わりに漫画の方を布教しちゃおう」

 

 WinWinな関係ってやつだなと返すと、指で作った二つのピースをくっつけて、そうだねと返してきた。お互いの趣味に合うかは分からないが、案外人と同じ趣味に挑戦、というのも悪くないかもしれない。

 

「それじゃあ、どんなの紹介してくれるの?」

 

「そうだな、とりあえず“クズと金貨のクオリディア”から連なる“プロジェクト・クオリディア”を……」

 

「ステマが露骨!?」

 

 おう、お前案外知ってるじゃねえか。

 

 

 

 次の日、なぜか昨日先に帰った磯貝達が正座で烏間さんに怒られていた。殺せんせーも一緒に。……あれ、破壊生物とは言っても一応うちの担任のはずなんだけどなぁ。

 どうやら、前原相手に二股をかけていた女子と二股相手に暗殺技術全開で報復を食らわせたらしい。リア充なんてやってるからそんなトラブルに巻き込まれるのだ。やっぱぼっち最高。

 

「ほい。とりあえず一冊な」

 

 そんな怒られている奴らを放っておいて、不破にラノベを差し出す。漫画と違って一冊読み切るのに数時間かかるものだし、一冊で問題はないだろう。

 

「あ、ありがとう! じゃあ、私の方もっ。漫画だしとりあえず五冊ね」

 

 小さめの紙袋を渡される。紙袋が二重になってて、ビニールカバーも被せられていた。確かに今日も雨だけど、厳重すぎない? 漫画が俺よりVIP待遇な件。

 

「どんな漫画なんだ?」

 

「文庫版も出てる“魔人探偵脳噛ネ……」

 

「お前もステマが露骨じゃねえか!」

 

 どうやらE組きっての漫画少女は、同時にE組きってのメタ発言量産機のようだ。




不破さんメイン回でした。不破さんと八幡って相性いいと思うんですよね。八幡ジャパニメーションに明るいですし。

E組ではあまり目立つ方ではない不破さんですが、メタ発言担当っていう特殊な役は個人的についついにやっとしてしまいます。
あと、個人的にスモッグに「おかっぱちゃん」って言われて「ボブだし」って言ってる不破さんのコマが超可愛くてお気に入りです。

というわけで今日はここら辺で。
ではでは。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。