イトナ君がやってきたあの日、僕らE組にとっては意識改革の日になった。
今までは暗殺計画を練って実行しつつも、心のどこかで「誰かがやってくれる」と思っていた僕たちだけど、イトナ君に追い詰められていく殺せんせーを見て思ったんだ。
誰でもない、僕たちが殺したいって。
僕たちがこの教室で頑張ってきたことを証明するために、僕たち自身の手で答えを掴み取るために。
烏間先生に皆で進言したら、小さく笑って放課後の追加訓練をしてくれるって言ってくれた。一層ハードになる訓練だけど、意識の変わった僕らにはそれすら楽しい暗殺教室の一部だ。
「殺ス……」
「にゅやっ!?」
けれど、そんな中で彼は明らかに他の皆とは違っていた。いつもはどこか気だるげで、けれどどこか安心する声は呪詛のような感情を滲ませていて、眼光は見たこともないほどの鋭さを放っている。
「すごい気迫だな、比企谷」
「うん……」
杉野が言うように、確かにすごい気迫だ。鬼気迫るとはまさにこのことだろうか。素早くナイフを振るい、エアガンで牽制する。今まで僕たちの暗殺を傍観していただけだった彼の意外な戦闘能力の高さに驚かされた。そういえば、比企谷君はE組に来てすぐに烏間先生の放課後特訓を受けていたんだっけ。
ずっと息を潜めていた暗殺者の急襲に、不意を突かれた殺せんせーはだいぶパニクって動きが緩慢になってしまっている。
ここで僕たちが援護すれば暗殺成功率は格段に上がるだろう。
「ブッ殺ス」
けれど、それができない。彼の目が、全てを拒絶するような目が銃を持つことすら許してくれなかった。
どうして比企谷君は急に殺せんせーを殺そうと動きだしたんだろう。どうしてあんなに怒っているんだろう。
どうして、怒っているのに、あんなにつらそうなんだろう。
始まりはイトナ君が休学した次の日。心機一転した僕たちは各々で暗殺計画を練っていた。
「皆さん、おはようございます。イトナ君が欠席ですが、今日も楽しく学んで楽しく暗殺しま……」
ヌルフフフと教室に入ってきた先生の言葉は、だけど続くことはなかった。
――――ブヂュッ。
なぜなら、殺せんせーの脚がただれ落ちたから。床に転がっていた対先生BB弾をふんづけたのだ。
床には二、三個の弾が転がっていただけで、誰もが回収し忘れたものかと思った。たぶん先生もそう思っただろう。
「にゅやっ!?」
けれど、固まっている僕の横を何かが通り抜け、殺せんせーに対先生ナイフを向けたことで、それが意図的な犯行だということを教室の全員が理解した。
彼、比企谷君が振るったナイフをギリギリで殺せんせーがかわす。昨日の今日でいきなり暗殺をしてくるとは思わなかったのか、もう少しでかすりそうだった。
「ヌルフフフ、君が先生を暗殺しようとするのは初めてで……」
「黙レ」
体勢を立て直そうとした殺せんせーの声を遮ったそれが、最初誰のものか分からなかった。この一月割とよく聞いてきたはずなのに、いっそ機械かと思うほど平坦な声色を発したのが本当に目の前の彼なのか、確証が持てなかったんだ。
「殺ス……絶対ニ、殺ス」
「ひ、比企谷君っ」
しかし、その声は確かに比企谷君の口から漏れだしている。ポケットから引き抜いたエアガンが先生に向けられると、殺せんせーは大きく距離を取ろうとする。警戒している殺せんせーはE組きっての戦闘能力と頭脳を持つカルマ君の騙し打ちにも対応できた。当然のように放たれた数発の弾丸は軽々と避けられ――
――――ポシュッ!
「なっ……!」
これは……煙幕!?
真っ白に染まった視界の中、エアガンの発砲音が響く。比企谷君自身も殺せんせーは見えていないだろうから、狙わずに乱射、つまり弾幕を張っているんだと思う。
「にゅっ、あぶなっ!?」
生徒に危害が及ぶことを気にする殺せんせーが動ける範囲は自然に狭まる。狙っていなくても、先生を貫くルートを掠める弾丸は多いだろう。
やがて煙幕も晴れていき、うっすらと見えてきた比企谷君の影が先生に肉薄するけれど、高速で逃げた先生には当たらなかった。どうやらBB弾も被弾ゼロのようだ。
「ヌ、フフフ、なかなかの作戦ですねぇ。今まで暗殺に参加しておらず、先生に実力を見せていない比企谷君だからこその急襲。しかし、先生を殺すにはまだ足りな……」
余裕が出てきて緑と黄色の縞模様に顔を染め始めた先生は――
――――バチュッ!
横から飛んできたそれに全く反応できなかった。
豆腐のように細胞が破壊され、吹き飛んだ先生の腕。BB弾の飛んできた方向にその場の全員が目を向ける。
僕の後ろ、最初は律が援護射撃をしたのかと思ったけれど、彼女は銃火器を何一つ展開していない。発砲元はその隣、比企谷君の机の上に固定されたエアガンだろう。時計針タイプのタイマーとゴムを使った時限砲台。殺気を発することもなく、比企谷君以外警戒していなかった先生は発砲音にも気がつかなかったのだ。
「殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺スころスころスころスころスころスころスころスころスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス」
再び不意を突かれた殺せんせーに比企谷君は襲いかかる。絶えずその口から発せられる言葉はまるで呪いのようで。
その呪いで自分を必死に繋ぎとめているようだった。
けれど、そんなギリギリの状態が長く続くわけもなく――
「ハアッ、ハアッ……コロス……コロ、ス……」
ボクシングのラッシュのような無呼吸状態でナイフを振るい続ければ、そうなることは当然なわけで。完全に酸欠を起こしてしまった比企谷君は、膝から崩れ落ちてしまった。頭から床に倒れそうになる彼を殺せんせーが支える。
「……比企谷君を保健室に連れて行きます。皆さんは自習をしていてください」
気を失った比企谷君を抱えて先生は出ていった。
自習と言われても、あんなのを見せられた後にそんな余裕があるわけがない。教室はいくつものざわめきで埋め尽くされていた。
「どうしたんだろうね、比企谷君……」
「うん……」
誰から見ても、さっきの比企谷君は“らしく”なかった。まだ一ヶ月弱しか一緒に過ごしていないけど、それだけは断言できる。彼はどちらかと言えば理性的に動くタイプだし、律の時のように状況判断能力も高い。自分が倒れるまで無茶をするとは思えなかった。
そもそも、あんな目をE組で見たことがなかった。休学明けの頃のカルマ君とも、もちろん殺せんせーの煽りに皆が見せる目とも違う、本物の怒りの目。
「いや、あれは本物じゃないでしょ」
いつの間にか近づいてきていたカルマ君の声にハッとする。どうやら思考が声に漏れていたらしい。
「本物じゃないって?」
「んー、なんて言えばいいのかな。渚君はまともに喧嘩なんてしたことないから分かんないかもだけど、本物の怒りってもっとドロドロしてるんだよ。相手への恨みとか、自分のプライドとか、いろんなものが混ざるから」
確かに、さっきの比企谷君から感じた感情はどこか透明というか……そう、不自然なくらい綺麗に感じた。たぶん比企谷君の中にあったのは、「怒ろうとしている感情」だけだったんだ。他の感情を全てなくして、ただそれだけを抱いていたんだ。
「けどさ、さすがに殺せんせー相手でもあんなに感情的になることってなくないか?」
杉野の言うとおりだ。彼よりも二ヶ月近く殺せんせーと過ごしている僕たちだって、喧嘩っ早いカルマ君でさえあそこまで“怒ろうとした”ことはなかった。しかも、今日になって突然……。
昨日と今日の違いと言えば、やっぱりシロとイトナ君のことが思い浮かぶけれど、殺せんせーに怒りをぶつける理由はない気がする。となると、殺せんせーと比企谷君の個人間でなにかあったと考えるのが普通だけど、殺せんせーが生徒をあんなにするとは思えない。
そもそも、それならこうなる前に先生が対策を練っているはずだ。
「ま、俺も原因は見当つかないけどさ、知ってそうな奴は見当ついてんだよね」
ね、律。カルマ君が口にした名前に皆の視線が教室の後方に集まる。クラス中の視線を受けた律はにこりと微笑んだ。
「どういうことでしょうか?」
「……その顔を見て、今確信したんだけどね。笑顔、固すぎだよ」
「っ!?」
不自然なほど、いっそ機械的な笑みを浮かべていた律の表情が驚きに変わり、それを隠すように俯く。その態度こそ、カルマ君のカマかけが正しかったことを示していた。
「律、比企谷君がああなった理由って……なんなの?」
「それは……」
しばらく彼女は視線を泳がせ、唇をまごつかせていたけれど、一度何かを確かめるように瞼を閉じて、まっすぐに視線を向けてきた。
「その質問にはお答えできません。八幡さんと約束しましたから」
「約束、ね……」
約束。実質的な拘束力を持たないそれを、律は自分の意志で守ろうとしている。聞きだすことは困難だろう。
思えば、彼女がここまでE組に馴染めたのは比企谷君の存在が大きかった。彼がいなかったら、ひょっとしたらこのクラスは“自律思考固定砲台”を排除しようとしていたかもしれない。それが今や、AIとは思えないほど人間的な表情をするようになってきていた。まったく、比企谷君様様だ。そんな彼女と、何よりも彼の意志を捻じ曲げてまで理由を暴くべきではないだろう。
八方塞がりで口を噤む僕たちに、「ですが」とAI少女は言葉を続けた。
「このままでは八幡さんは“もたない”と思います。あの人は全部一人で背負いこもうとしているから」
だから、だから、と懇願するように。理由を話さない身勝手さを謝罪するように。
「八幡さんを見捨てないであげてください」
絞り出された声が、けれどしっかりと教室に響いた。
***
「ヌルフフフ、目が覚めたようですねぇ」
視界に飛び込んできたのが木造の天井だと認識すると、もはや毎日聞いているヌルヌル声が聞こえてきた。そういえば、朝こいつを殺そうとして……気絶しちまったっぽいな。
「俺、どれくらい寝てました?」
「ついさっき運んで来たばかりですよ」
時計を見ても、確かに十分前後くらいのようだ。身体を起こそうとするが、まだ多少眩暈がして、暗殺対象に止められてしまった。
「さっきの作戦は素晴らしかったですねぇ。このクラスで先生にダメージを与えたアサシンはそういない。先生は比企谷君の訓練の動きしか知りませんでしたから、だいぶ危なかったです」
「ご丁寧に教室から出ないし、生徒に流れ弾が行くことも避けるのを分かっていれば、ある程度動きは予想できますよ」
縛りプレイをすれば、普通の動きよりも選択肢が狭まるのは当たり前。それで予定位置に誘導し、律とも違う意志を持たない砲台から攻撃する。頭の中でシミュレートはしていたが、思いの外うまくいった。
けれど、結局それだけだ。
「危なかったなんて嘘つかないでくださいよ。結局ダメージを与えられたのはトラップだけだ」
直接攻撃はかすることすらなかった。本気で殺そうとしてこの体たらく、逆に超生物に介抱されるなんて、笑い話にもできない。
「ところで、どうして比企谷君は、先ほど皆に援護をさせなかったのですか? あれだけ取り乱した先生をクラス全員で攻撃すれば、ひょっとしたら暗殺できたかもしれませんよ?」
「それは……」
悩んだ。当の本人にどういうべきか。所詮は俺の想像にすぎないのだから、適当にはぐらかしてもいいのかもしれない。
けれど、はっきりさせたいと思う自分もいて……いや、もっと言うなら否定してほしい自分もいて、気が付くと喉が音を漏らしていた。
「年下に人殺しなんてさせたら気分悪いでしょ。それがたとえ“元”だとしても」
枕に深く頭を沈みこませたまま殺せんせーを見やって――酷く後悔した。これまでの人生、言葉を口にしてこれほど後悔したことはなかっただろう。
「な……っ!」
だって、疑惑の対象はこんなにも心を乱している。それだけで、答えとしては十分だった。
「そうでなくとも、あんたは“先生”をしすぎてる」
下手な先生より、いやたぶん世界トップクラスの“いい”先生をこのターゲットはやっている。この一月見ていても、生徒からの信頼はとても出会って三ヶ月とは思えないものだった。
「それを殺せなんて、殺すまではいかなくともプロなりなんなりが殺すための囮になれだなんて、酷な話じゃないですか」
なるほど、確かに今はターゲットと暗殺者としての絆でこの教室は結ばれていて、積極的に暗殺に取り組む生徒もいるし、その表情は明るい。
けれど、暗殺が終わった後は? 地球破壊生物の消滅と同時に信頼していた“先生”を失ったら? 暗殺が成功すれば、つまり死んでしまえばアフターケアだってできない。
「なら、せめて少しでも早く殺すしかないじゃないか」
この関係は毒だ。時間が経てば経つほど深く沁み込んでいく。もう沁み込み始めているそれを解毒する方法はなく、もはやどれだけ毒を少なくするかしか選択肢はないのだ。
あまつさえ彼らは受験生だ。なおのこと変な心労は与えるべきではないだろう。
「それは、比企谷君なら問題ないと言っているように聞こえますが?」
「そりゃあ、俺は暗殺教室じゃアウェーですから」
一番恐れるべきなのはクラスの誰かが暗殺を成功させることで、そいつを中心に教室がバラバラになる可能性だ。あくまでも可能性に過ぎないが、もしそうなってしまうなら、恨まれるのはあくまで部外者の俺でいい。
「やはり君は優しいですね、非情なくらい優しい」
なにを言われたのか分からなかったが、殺せんせーは軽く咳払いをすると、俺に向き直った。
「……確かに先生は地球を滅ぼすつもりで、その上でこのE組で教師をやっています。それは、比企谷君から見れば残酷なことかもしれません。――しかし、君は勘違いをしています」
勘違い? 首をかしげる俺に殺せんせーはいつも通りヌルフフフと笑いかけてくる。
「先生はある約束のためにこのクラスの担任になりました。その約束は、生徒たちと真剣に向き合うことは先生にとって、地球の終わりよりも大切なことなのです。そんな生徒達をないがしろにするつもりはありません」
それに、と破壊生物は一瞬保健室の扉を見やる。そしてズイッと丸い顔を近づけてくると暗い紫――間違いの時の色――に変色した。
「その“生徒”には当然君も入っているんですよ。君自身をないがしろにすることこそ、間違っています」
「俺は“生徒”じゃないでしょ。学年も違えば書類上も違う。端的に言って部外者だ」
書類上で言えば、俺は総武高校の一年生だ。ここでは所属していないはずのイレギュラー、明らかな異分子であることは間違いなかった。
しかし、当の担任教師は二本しかない指の片方を立てて、ちっちっちっと左右に振りだした。あんたがそれをやると、ランダムで技が出そうでちょっと怖いんだが。
「暗殺教室に学年も書類も関係ありません。先生が生徒と認めているのですから、君もこの教室の生徒です。それに、超生物が担任をしていて、国防省の人間が体育を教え、プロの殺し屋が英語を教えている異常な環境では、君の特異性なんて気にも止められませんよ」
……異常な環境を作っている最たる原因にそんな事を言われてしまうと、ぐうの音も出ない。マッハ二十で移動する担任教師がいるんだ。そこに高校生が一人混じったところで確かに気になることはないのだろう。
「それに、そんな事を言っていては彼らに怒られますよ?」
「は……?」
言葉の意図がつかめないでいると、閉まっていた扉が開かれた。
「はっちゃん……」
「比企谷君……」
……そこにいたのは、当然と言うべきかE組の生徒たちだった。殺せんせーの態度を見るに、先生の正体については聞かれていないと思うが……どうして皆一様に表情が険しいのだろうか。
「はっちゃん!」
「お、おう……?」
その中でも、頬を膨らませて顔全体で不満を表していた倉橋がベッド脇まで詰め寄って来た。ゆるふわウェーブな茶髪がかわいらしく揺れるが、そのなごみポイントも吹っ飛ぶほどの真剣な表情を向けられて、思わず息を飲んでしまう。
「はっちゃんがなんであんなに怒ってたのか私には分からない。でも、さっき言ったことは取り消してよ。高校生でも、はっちゃんは暗殺教室のクラスメイトなんだよ? 部外者なんかじゃないよ!」
「っ……」
今にも泣きだしそうな懇願に息が詰まりそうになる。なによりも自分が、自分なんかがこんな表情をさせてしまっているという事実が一番つらく胸の奥を抉った。
「私も、比企谷君とは友達だと思ってるんだよ。けど……比企谷君は違うのかな……?」
「矢田……」
倉橋を支えるように肩に手を乗せた矢田がまっすぐに見据えてきて、小さく目を伏せてしまう。
友達。それがどういうものなのか俺自身よく分からない。今までそう思った奴らには何度も裏切られたから、勝手に期待して勝手に失望してきたから、定義も何も分からない。だから、二人にどう返せばいいのか言葉にできなかった。
「あの、……」
口をもごつかせることしかできないでいる俺に、潮田が一歩前に出ておずおずと声をあげてきた。
「律から少しだけ聞きました、比企谷君の昔の話」
「あいつ……」
なるほど、こいつらが来た大元はAI娘か。何度も俺のスマホに不法侵入を繰り返していた律には昔の、黒歴史になった出来事なんかを話すこともあった。
まったく、一体いつの間におせっかい焼きプラグインなんて拡張したのやら。
「比企谷君はおどけて話していたみたいだけどさ、きっと当時は何度もつらい思いをしたんだと思う。僕たちのことを簡単に信用できないんだと思うし、それはきっと仕方がないこと。でも……僕たちは比企谷君のことをこのクラスの、仲間だと思っています。暗殺が終わるまで、いや終わってからも、僕たちがここを卒業してからもずっと」
比企谷君との繋がりは途切れない、そう続ける潮田の言葉は、先の二人のそれと一緒にジワリと温かく広がっていく。
これからどうなるかなんて分からない。また今までみたいに裏切られるかもしれない。けれど、こいつらは今まで会った“友達”とは違う、それだけは不思議と確信できた。
暗殺者として訓練を受けていても、こいつらは普通の中学生だ。けれど、普通の中学生であるからこそどこか普通ではない。もうずっと前から分かっていたはずだった。こんなにも俺の心に入ってきて安心する奴らはいないって。
それは、彼ら全員が“弱者”を経験しているからだろうか。
「俺は……何も持ってないぞ?」
「気付いてないだけだよ。比企谷君はたくさんのいいところを持ってる」
茅野はにっこりと代名詞のような明るい笑顔を向けてきて。
「協調性皆無だぞ?」
「それは困るなぁ。勝手に殺されたら楽しみが減っちゃうし」
「カルマだって溶け込んでるんだから問題ないでしょ」
赤羽はいつものようにカラカラ笑い、杉野はそれを流しながらムードメーカーらしく快活な声を上げる。
「口下手で面白いことも言えないぞ?」
「それ、私たちの前で言う?」
「確かに……」
スナイパー二人は呆れたように小さく笑い。
「捻くれた面倒くさい性格してるぞ?」
「元々キャラの濃いクラスですよ」
「なんてったってエンドのE組なんですから」
クラス委員二人は苦笑しながら頬や頭を掻き。
「毎週の楽しみがニチアサだぞ?」
「アニメ漫画好きドンと来いでしょ!」
「二次元を愛する者はみな兄弟だ」
不破はウインクを飛ばしながら胸を叩き、竹林は……ちょっと同意しかねるがいつもはあまり変えない表情をわずかに柔らかくした。
「……年下にこれだけ言わせるなんて、面目もくそもないなぁ」
けれど、これでようやく決心がついた。
友達の定義なんて未だによく分からない。裏切られるのも勝手に失望してしまうのもやっぱり怖い。
それでも、それでもせめてもう一回だけ、あるのかも分からないそれを求めてみよう。
「こんな俺だけど、改めて……このE組に入れてもらえるか?」
そう、だからまず一歩、控え目に踏み込んだ俺に。
「「「「もっちろん!」」」」
彼らは考えるまでもないと手を差し伸べてきた。
弱者としてE組に落とされたこの子たちは、その実強い。弱者が集まったからこそ、一人で乗り越えられないことは皆で支え合おうとする強さがある。
あるいはこいつらなら……真実を知っても大丈夫かもしれない。
「ヌルフフフ、まあ、先生は殺される気は微塵もないですがねぇ」
だから、緑と黄色の縞々に顔を染めるターゲットをまっすぐ見据えて、俺の言うことは決まっていた。
「殺しますよ。卒業までに必ず」
その日ようやく、俺は暗殺教室の一員になったのだった。
八幡が本当の意味でE組の一員になった話でした。
バランス調整がなかなか難しい。人一倍訓練に勤しんでいた八幡の成長を見せつつ、殺せんせーに過度なダメージを与えないレベルということで、カルマのようにトラップでの不意打ちを採用しました。
ここからもっと八幡と他の子達の交流を深められたらいいなと思っていたり。
ちょっと短いですが今日はこの辺で。
ではでは。