聖十字の盾の勇者   作:makky

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黒き波

―翌日―

 

―城下町―

 

 視界に入っている数字は『00:17』

 つまり、後17分でこの世界にきて初めての『波』が訪れる。

 城下町ではすでに準備が終了しているようで、騎士団と冒険者は出撃体制を整えており、住民は家の中に避難していた。

 

「……」

 

 左腰につけている剣を握りしめながらラフタリアはアンデルセンとともに待っていた。

 

「怖いか?」

 

 少しだけ震えている彼女に声をかける。

 

「…大丈夫です」

 

 深呼吸をして緊張をほぐす。

 

「前に、私の身の上の話をしましたよね?」

「…魔物に両親が襲われたと言っていたな」

「そうです、今から一ヶ月前の最初の波で」

 

 そう言って彼女は波が到来する前のことを話し始めた。

 

「私はこの国の辺境、海のある街から少し離れた農村部にある亜人の村で育ちました。この国は人間至上主義を掲げていて、お世辞にも良い生活を送っていたとはいえませんでした」

 

「それでもお父さんとお母さん、そして私の三人で暮らしていました。…あの波が発生するまでは」

 

 ラフタリアの住んでいた村に、波で発生した大量の魔物が現れた。冒険者も必死に戦ったが、それを上回る魔物の数とたった一匹の三頭犬の魔物に蹂躙された。

 彼女の家族は必死になって逃げたが、崖の上に追い込まれる。 

 その時彼女の両親は彼女にこう言った。

 

「ラフタリア……これから、お前はきっと大変な状況になると思う。もしかしたら死んでしまうかもしれない」

「でもね。ラフタリア、それでも私達は、アナタに生きていて貰いたいの……だから、私達のワガママを許して」

 

「いやぁ! お父さん! お母さん!」

 

 ドン!

 

 気がつけば、ラフタリアは崖の上から海へ落ちていた。両親の『生きて欲しい』という願い、二人はラフタリアを海へと突き落とした。

 そして、両親が魔物たちに襲われる瞬間をこの目で見ていた。

 

 近くの浜に流れ着き彼女は両親と最後にいた崖へと戻ってきた。

 夥しい血の跡、かろうじて肉片と分かるそれは、彼女の両親がこの世にもういないことを示していた。

 

「イヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」

 

 

 

 

「気付いたら、私はあの奴隷商人のテントにいました。それまで自分が何をしていたのか、ほとんど覚えていませんでした。多分人さらいに売られたのではと思っています」

「……」

「それからは、まさに地獄のような日々でした。誰かに売られては払い戻されの繰り返し、神父様に出会う前の人なんて私を鞭打って楽しむような人でした」

 

 それに加えて毎晩のように絶叫する、正直に言ってここにいることが奇跡だった。

 

「私は神父様に出会えて幸せです、本心からそう言えます。お父さんとお母さんを奪っていった波を許せない、そんな理由で私はここに立っているのかもしれません」

「それを否定できる奴は、心が貧しいのだろうな」

「進み続けてみます、生き残ってしまった私が出来る唯一のことだと思いますから」

 

 微笑んで彼女は言った。

 

「…来るぞ」

 

 数字は『00:00』を示し、いよいよその時がきた。

 

 

 

 

 先程までと違う場所、空には大きな亀裂が走り、まるで葡萄酒のように赤く染まっていた。

 

「ここは…?」

 

 ラフタリアが呟く。すると三つの影が飛び出す、他の勇者たちだ。ついで仲間たちが追っていく。

 アンデルセンは素早く周りの地形を確認する。

 

「城外の、リユート村近辺のようだな」

「リユート村は農村部の村で、多くの住民が住んでいます!」

「避難の状況はどうなっている」

「波は何処で発生するか把握出来無いらしく、事前に避難することは不可能のはずです!」

「チッ」

 

 つまり住民は丸々残っているというわけだ。

 

「あ、神父様!」

 

 ラフタリアが叫び指をさす。見ると先ほどの勇者たちが何処かへと向かっている。

 

「放っておけ」

「しかし!」

「あいつらは確かにガキだが、こんな時に隣町まで装備を買いに行くような間抜けではない」

 

 おそらくこの波を止める方法を知っているのだろう。時間が惜しい今、一々確認している暇はない。

 

「村へ向かうぞ」

「はい!」

 

 二人は魔物が向かっているリユート村へと向かった。

 

 

 

 

 

―リユート村―

 

 到着して目に入ってきたのは、この村に駐屯していたであろう騎士と冒険者が必死に魔物どもを抑えているところだった。

 

「ラフタリア!お前は住民の避難を優先して行え!」

「分かりました、お気を付けて!」

 

 ラフタリアは村の中へと走り去っていった。

 アンデルセンは魔物たちが群がっている方へと目を向ける。

 

「キィィィィィィィィィィィィイ!!」

 

 銃剣(バイオネット)を抜き、一気に飛びかかる。イナゴに似た魔物を二体切り裂くと、からだを回転させて周りにいた数体の魔物も切る。

 

「ゆ、勇者様?」

「お前らは下がれ!体制を建て直してから戻ってこい!」

 

 疲労困憊と言った感じの男たちに怒鳴りつける。

 

「は、はい!」

 

 ついでと言わんばかりに対して怪我を負っていない奴まで下がるが、アンデルセンに取ってはどうでもいいことだった。

 

「我らは神の代理人、神罰の地上代行者。我らが使命は我が神に逆らう愚者を その肉の最後の一片までも絶滅すること…AMEN」

 

 銃剣(バイオネット)を正十字に重ねてアンデルセンは魔物たちに突っ込んでいった。

 

 

 

 そこには、蹂躙というのもおこがましい光景が広がっていた。

 アンデルセンが銃剣を振り回せば、多くの魔物が切り伏せられ、飛びかかろうとすると串刺しになる。

 

「おおおおお!爆導鎖!」

 

 鎖に付いた銃剣が魔物に突き刺さると、突如として爆発していく。阿鼻叫喚の地獄とはこのことを言うのだろうか。

 

「生憎と出し惜しみするつもりはない、貴様らは皆殺しだ」

 

 そんな時であった。

 

「た、助け――!!」

 

 後ろの方から叫び声が聞こえてくる。どうやら何体かの魔物が後ろに回りこんで、住民を襲っているようだ。

 アンデルセンは特に慌てることはなかった。何故なら――

 

「ヤァッ!!」

 

 住民の避難を担当していたラフタリアが、今まさに住民を爪で切り裂こうとしていた魔物を斬り倒した。

 

「大丈夫ですか?早くこちらへ」

「……あ、ありがとう」

 

 なんとか立ち上がりラフタリアの支持で家族と一緒に避難していく。

 

「きゃああああああああああああああああ!」

 

 絹を裂くような悲鳴が響き渡る。

 逃げ遅れたであろう女性に魔物が群れをなして近づいていた。

 

「舐めるなぁ!!」

 

 服の袖から銃剣を出し、投げナイフの要領で投げていく。

 次々と魔物の頭に刺さり、残っていた魔物もアンデルセンは斬り伏せた。

 そこに頭上から火の雨が降り注ぐ。

 どうやら到着した騎士団が魔法とやらを使っているようだ。

 まだ自分が魔物たちの中心にいるがお構い無しだ。

 

「温いわ!!」

 

 切り裂きながら火の範囲外まで移動する。

 昆虫のような見た目をした魔物が次々と燃えていく。効果覿面だ。

 アンデルセンは防衛戦の内側へと戻り、燃え盛る魔物どもを見下す。

 

「ふん、盾の勇者か……頑丈な奴だな」

 

 誤射ではなくやはりわざと巻き込んだようで、悪びれもせず騎士団の隊長らしき奴は言った。

 

「神父様、住民の避難が完了しました」

「思ったより早かったな」

「皆さん事前に準備していらしたようです。それより大丈夫でしたか?魔法攻撃を受けていたようですが」

「ん?そうだったかな、生憎そんな小さなことを気にしている時間はなかったからな」

 

 お前らの攻撃なんぞ大したことなかった、と言外にそう言うと隊長らしき男が顔を真っ赤にする。

 

「貴様、盾の分際で!」

「おや、あれは誤射だったと思うのですが。違うのですか」

 

 軽蔑の目を向けてラフタリアも言う。

 

「盾の勇者の仲間か?」

「お初にお目にかかります。神父様、もといアンデルセン様の従者をさせていただいております。それと先ほど『盾の分際で』とおっしゃっていましたが、そのような無礼は見逃すことが出来ませんね」

「……亜人風情が騎士団に逆らうとでも言うつもりか?」

「倒すべきは魔物のはず、あろうことか味方を巻き込んで魔法を使うとは常識を疑いますね」

「五体満足なのだから良いじゃないか」

「それを家族や家、財産を失った民の前で言えるのなら、大したものですがね」

 

 敵意を剥き出しにして、らしくない言い合いをするラフタリア。家族を失った身としては、今の発言は受け入れられないものだろう。

 

「そこまでだラフタリア」

「っ、失礼致しました」

 

 アンデルセンが静止するとおとなしく従う。

 

「くだらん言い争いなんぞに一々反応する必要もない」

「な、貴様――」

「化け物共が目の前にいるのに無駄話を続けて国を滅ぼしたいのなら勝手にやってろ」

 

 アンデルセン憎しで動くのは勝手だが最低限のことをしないのなら只の無能だ。

 

「犯罪者の勇者が何をほざく」

「ほう、お前たちは俺とともに戦うのがそんなに嫌か。ならばここを任せても大丈夫だな?」

 

 後ろを見れば、先ほどの魔法をくぐり抜けてきた魔物たちがアンデルセンに襲いかかる。

 その全てを銃剣で斬っていくアンデルセンに騎士団は恐怖を覚えた。

 

「ラフタリア、住民の避難が本当に完了したか確認してこい。取り残されている奴がいると厄介だ」

「分かりました、神父様は?」

「俺はこいつらを相手しておこう」

 

 次々と防衛戦を乗り越えてくる魔物を見据えてアンデルセンは銃剣を構える。

 

「ではまた後でお会いいたしましょう!」

「ああ、気をつけろよ」

 

 そして再び蹂躙が始まった。

 

 

 

 

 しばらくして、最後の確認から戻ってきたラフタリアと、騎士団の連中とともにアンデルセンは攻勢に転じた。

 アンデルセンが道を作りラフタリアが広げ、周りの魔物を騎士団が倒すといった風に役割は別れた。

 そうして、数時間後に空の亀裂は閉じた。

 

「ま、こんな所だろ」

「そうだな、今回のボスは楽勝だったな」

「ええ、これなら次の波も余裕ですね」

 

 波の最前線で戦っていたらしい勇者たちは、一際大きい魔物を前で談笑していた。

 

「なるほど、あのように中心となる魔物を倒せばその時の波は収まるのですね」

「わかりやすいことで」

 

 

 

「よくやった勇者諸君、今回の波を乗り越えた勇者一行に王様は宴の準備ができているとの事だ。報酬も与えるので来て欲しい」

 

 どうも毎回波の後に宴会が開かれるようだ。そして報酬の受け渡しも王城で直々に行われるそうな。

 

「どうされますか、神父様?」

「いかんわけにはいくまい、面倒だがな」

 

 はっきり言ってしまえば報酬がなかったとしてもやっていけるのだが、理由をつけて面倒を起こされるのも腹が立つ。

 

「あ、あの……」

 

 その時、防衛していたリユート村の住民が話しかけてきた。

 

「何だ?」

「ありがとうございました。あなたが居なかったら、みんな助かっていなかったと思います」

「するべき事をしたまでだ、褒められるようなことではない」

「いいえ」

 

 話しかけてきた住民と別の住民が話しかける。

 

「あなたが居たから、私たちはこうして生き残る事が出来たんです」

「それで構わないのなら、そう思っていて構わん」

「「「はい!」」」

 

 住民たちは頭を下げて村へと帰っていった。

 

「…嬉しいものですね、人から感謝されるということは」

「…だな」

 

 アンデルセンとラフタリアは王城へと向かうことにした。

 

 

 

 

―王城―

 

「いやあ! さすが勇者だ。前回の被害とは雲泥の差にワシも驚きを隠せんぞ!」

 

 日もどっぷりと落ち、あたりは暗くなりすでに夜になっていた。

 王城で開かれた宴会で国王は高らかに宣言した。

 今回の損害は、準備が何もできていなかった前回に比べて大幅に少なくなり、死者数も一桁に抑えられたらしい。

 

「何と言うか、釈然としませんね。頑張っていたのは騎士団の皆さんや冒険者の方達も同じなのに」

「わかりやすい偶像があるからな、そいつらがどれほど頑張っていようと殆どが奴らの手柄に早変わりだ」

 

 そもそも連中に騎士団や冒険者と共同戦線を張るという考えがあったのだろか。疑問はそこからだ。

 波については、案の定ヘルプに記載されていた。

 

『 波での戦いについて』

 砂時計による召集時、事前に準備を行えば登録した人員を同時に転送することが可能です

 

 この内容は勇者の仲間に限定してはいないので、騎士団だろうが冒険者だろうが一緒に転送できるはずだ。

 

「連中にとって一番気になっていることは、どうやって目立つかだろうからな。言うだけ無駄だぞ」

「そうかもしれませんが…」

 

 納得しない様子でラフタリアは呟く。

 

「しかし、すごい料理ですね」

 

 机の上に並んだ数多くの料理、いかに勇者に期待していたかが分かる。

 そんな風にすごしていると、見ただけで怒り心頭なのが分かる形相でキタムラがこちらに向かってくる。

 

「おい! アンデルセン!」

「そんな大声出して、どうした」

 

 手袋を片側だけ外してアンデルセンに投げつける。

 

(…ほう?)

 

 決闘を意味するその行為、どうもかなり頭にきているようだ。

 

「決闘だ!」

 

 その言葉に周りがざわめいた。

 

「いきなり何を言い出すんだ、お前は」

 

 少々呆れたように見せる。

 

「聞いたぞ! お前と一緒に居るラフタリアちゃんは奴隷なんだってな!」

 

 声を荒げてアンデルセンを糾弾する。

 

「……」

 

 そこには無表情になってしまっているラフタリアがいた。

 

「例えそうだったとしてだ、お前になんの関係がある?」

「お前、本気で言ってんのか!」

「是非教えてもらいたいものだな」

 

 どこから聞いたのか分からないが、正義感が我慢できなかったらしい。

 

「ラフタリアが奴隷だと、なにか不都合なことがあるのか?」

「人は……人を隷属させるもんじゃない! まして俺達異世界人である勇者はそんな真似は許されないんだ!」

「くははは、まさか大量の女を侍らせている貴様の口からそんなご高説が聞けるとはな」

 

 見聞ならばどちらもいい勝負だろうに。

 

「この世界では許されているのだぞ、なんの問題も有るまい。それとも貴様はそうでない理由を言えるのか?」

「き……さま!」

 

 完全に堪忍袋の緒が切れたらしく、キタムラは矛を構える。

 

「勝負だ! 俺が勝ったらラフタリアちゃんを解放させろ!」

「面白いことを言うな、貴様が負けたらどうするのだ?」

「そんときはラフタリアちゃんを好きにするがいい! 今までのように」

「決闘の最低条件すら満たしていないな」

 

 何かを賭けるなら、それと同等のものを相手に賭けさせるのが基本だろうに。気に入らないから奪い取るとは、本当にガキにような発想だな。

 

「モトヤス殿の話は聞かせてもらった」

 

 人混みが割れて、国王が前に出てくる。

 

「勇者ともあろう者が奴隷を使っているとは……噂でしか聞いていなかったが、モトヤス殿が不服と言うのならワシが命ずる。決闘せよ!」

「ふははははは、まさか、まさか獣人や亜人を虐げている国の長が、そのようなことを言うとはな。これは傑作だ」

 

 ラフタリアが奴隷になったのは、この国の方針が原因なのにそれを棚に上げてこいつは何を言っているのだ。

 

 国王が指を鳴らすと、兵士たちが出てきてラフタリアを取り囲んだ。相変わらず無表情のままだが。

 

「これはどういうことかな、国王?」

 

 わざとらしく聞くが、要するに決闘しろということだろう。

 

「この国でワシの言う事は絶対! 従わねば無理矢理にでも盾の勇者の奴隷を没収するまでだ」

「ふん、そんなことをしなければいうことを聞かせられんとは。底が知れるな」

 

 本当に呆れたものだ。

 

「……」

 

 だからせめて何か発言して欲しいところだが、この状況でも無表情だった。

 

「では城の庭で決闘を開催する!」

 

 夜も遅くなり始めているというのに、ご苦労なことだとアンデルセンは思った。

 

 

 

 

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