あと、「肆」を「よん」とは読まないという本編に関係ないところで悩んでいたり。話数を普通の漢数字に直そうか考え中。
遮蔽シールドに包まれた第三アリーナの一角、多くの女子生徒が注目する先で、その戦いは行われていた。空を舞うのは碧と白。スラスターの光をたなびかせ、蒼天を自身の庭として縦横無尽に駆け回るその二人の姿に、多くの生徒達が目を奪われる。それは単純に男性操縦者二人の模擬戦と言う物珍しさからだけでない。夏希と一夏、二人の機動が目を見張るほど高い次元に達しているからであった。ただ一振りの剣のみで敵を切り裂かんとする一夏のIS“白式”と、多彩な武器を用いて虎視眈々と致命を狙う夏希のIS“廻天”は、互いに一歩も引かない接戦を繰り広げていた。
(くそっ、夏希の奴、隙が無い! これじゃ迂闊に零落白夜を使えないぞ!)
(流石の速さだな。それに、思い切りもいい。この勝負、気を抜いたら一瞬で負けるな)
互いに武器を構えながら心中でそう呟き、同時に動き出す。一夏は夏希を攪乱してその懐に飛び込もうと。夏希は一夏の動きを見抜き間合いの外に押し出そうと。対称的な二つの思惑によって、戦闘は膠着していた。現状存在するISの中で最も高い攻撃力を持つ白式は、その戦闘能力と引き換えに武装の汎用性を完全に放棄している。一撃必殺の技であるワンオフアビリティー“零落白夜”も、近付かなければ攻撃することすら出来ないと言う大き過ぎる弱点があり、距離を取り続ければそれほど怖いものではない。一方の廻天は、複合火器管制システムと言う独自技術を用いた万能機だ。その特性上廻天は武器を選ばず、あらゆる状況に対応することが可能であるが、その弊害として必殺の間合いと言うものを持っていない。どの距離でも無難に戦えるが、特化した機体には及ばない。何でも出来るが故に何も出来ない。その器用貧乏さこそが、廻天の弱点であった。そして、白式の突破力を前に対応を間違えれば、容易くその胸元に刃を突き立てられてしまうだろう。夏希の敷いた防衛線を一夏が食い破るか、或いは一夏の突進を夏希が押し返すか。多くの観衆が見守る中、膠着した状況を嫌った一夏が、白刃を煌めかせて夏希の元へと飛び込んで行った。そして、それをむざむざ許すほど夏希は優しくない。牽制用のアサルトライフルの陰に隠れて、夏希は右手にスナイパーライフルを呼び出す。それは本来なら両手で運用するものであるが、相手が回避を考えていなければ当てることは難しくない。
左右にフェイントをかける一夏の機動を見切り、最高のタイミングで引き金を引く。アサルトライフルの弾幕に紛れて放たれた高威力の徹甲弾は、多少弾道がぶれてはいたものの見事に白式のシールドへと突き刺さった。
「うお!?」
全く意識していなかった大ダメージと、再び撃ち込まれたエネルギーシールドを掠める徹甲弾に、一夏は呻き声を上げながら後退する。何度目かわからない刹那の攻防は、今のところ夏希の全勝で終わっていた。時にはスナイパーライフルを、時にはアサルトライフルを、時にはショットガンを、目まぐるしく武器を持ち換え、その手の内を読ませない夏希の行動に、対峙する一夏のみならず、観戦するシャルル達も舌を巻く。狙撃の精度、近接武器の立ち回り、射撃のタイミング、それらは決してその道のスペシャリストに及ぶものではない。しかし同時に、夏希は一つだけ、この場にいる誰よりも優れた能力を持っていた。それは、意識の空白を突く力。多くのISを、研究者と言う立場から観察し続けてきた夏希だからこそわかる、IS操縦者独特の癖のようなもの。視線の動きや姿勢の変化などを読み取り、死角を突いて思考を乱し、隙を作り出して攻撃を叩き込む。言わば真正面から不意打ちを行うようなその戦闘スタイルは、対峙する相手に言い知れぬ焦燥感を与える。それが彼の強さだった。
一夏の後退を受けて、夏希はスナイパーライフルを両手に持ち換えて引き金を引く。当てるつもりで放った銃弾は、しかし高速で移動する一夏を捉えることは出来ず、アリーナの遮蔽シールドを僅かに震わせるだけに留まった。やはり遠距離になると、練習不足が響いてくる。続け様に放った銃弾が全て回避されたことに、夏希は静かに凹んだ。
両者の距離が大きく開き、再び状況が膠着する。両者ともに有効打を持たないこの距離は、一夏にとっても夏希にとっても好ましいものではない。だが、夏希の方から距離を詰めると言う選択肢はない。彼からすれば、一夏の方から自分に向かって来ると言う状況が欲しいのである。そしてそれは、夏希の思惑通りにやって来た。
「うおおおおおおおおおおお!!!!」
スナイパーライフルの弾倉を交換するタイミングを見切り、一夏は鋭い雄叫びを揚げて突撃する。そのあまりの速さに少し面喰いながらも、夏希は冷静にスナイパーライフルを粒子化し、新たに二挺のサブマシンガンを取り出した。両手に保持した銃の引き金に指を掛けると同時に廻天のFCSが切り替わり、直進する白い機影を捉える。戦況を変える一手。これからの一夏の行動が夏希は想定通りであれば、天秤は大きく夏希の方へと傾くが、そうでなければ再び膠着状態に逆戻りするか、或いは食い破られて呆気なく地を這うことになるだろう。夏希は無意識にサブマシンガンのグリップを強く握りしめた。
軽快な駆動音を響かせ半ば抜き撃ち気味に放たれた無数の銃弾に、しかし白式を駆る一夏は怯むことなく、距離を開けようとする廻天の元に飛び込んで行った。小口径の弾丸を連続して撃ち出し敵を面で攻撃することを目的としたサブマシンガンは、その特性上一発一発の火力は他の武装に比べて非常に小さい。流石に至近距離で連続して被弾してしまえば損傷は免れないが、それでもサブマシンガンから受けるダメージよりも零落白夜によって与えるダメージの方が遥かに大きい。そう判断した一夏は、多少の被弾をものともせず愚直に突進を続ける。それは確かに正しい行動だった。間合いの遥か外側から撃ち続けられジリ貧となるよりも、ダメージを覚悟で前に出た方が、得られる結果は大きい。これまでの授業と時間外訓練を通して、射撃を主体とする敵への有効な戦術を学習した一夏は、自身の答えに従って勝利への道筋を組み立てた。その飛行速度は凄まじいもので、観衆達に一夏の勝利を確信させるに足るほどであった。
「あ」
夏希の手にした銃の特性を正しく理解し、一夏の犯した失態に唯一気付くことが出来た、フランス代表候補生の男子一人を除いて。
銃口が弾丸を吐き出す音に混じって、空気の抜ける軽い音が夏希の鼓膜を震わせた。まっすぐ飛び込んでくる白式の前に撃ち出されたのは、こぶし大の黒い塊。決して速度は速くない。しかし、高速で直進する白式は、何も知らずその黒い塊へと飛び込んでしまった。そして花開く紅蓮の炎。轟音と熱風を伴い大爆発したそのグレネード弾は、内部に仕込まれた無数の鉄片を振り撒きながら、周囲に絶大な破壊を巻き起こした」。
「うわああああああ!?」
絶叫。シールドが揺れ、慣性に従い白式が後方へ吹き飛ぶ。咄嗟に顔を庇った両腕に障壁を貫けた鋭利な鉄片が突き刺さり、白式の装甲に微細な損傷を与えた。一瞬の意識の空白。夏希は、その間隙を見逃すことなく、流れるような動作で次の攻撃に移る。
コール。突き出された両手に現れたのは、巨大なタワーシールドを思わせる多目的ミサイルランチャー。FCSを精密誘導に切り替え、ハイパーセンサーを頼りに爆炎の向こうにいる白式を照準、内蔵された64発の小型誘導弾を、標的に向けて解き放つ。それぞれが異なる軌道で、対象を囲むように飛行するショートレンジミサイル。有線ミサイルであるため飛距離が短く、その上撃ち切りであるため扱いにくいものであるが、その精度は一般的なIS用ミサイルのそれを大きく上回る。黒煙の中から飛び出した一夏が、いつの間にか形成されていたミサイルの檻に面喰いながらもどうにか回避行動に移ろうとするが、その行動は遅きに失した。近接信管ミサイルの起爆範囲に引っ掛かりその爆発に巻き込まれ、後は為されるがままミサイルの雨をその身に受けるのみ。種別の異なる複数のミサイルは効果的に白式の足を止め、一切の回避行動を許さない。ある程度場数は踏んでいるとは言え、射撃武装に関してはブルーティアーズの光学兵器と甲龍の衝撃砲、後は訓練機にプリセットされている機関銃や散弾銃、あるいは突撃銃程度しか相手にしたことが無い一夏では、視界を埋め尽くす誘導兵器への対処法などわかるはずもなく。爆風に揉まれ続けた白式のシールドエネルギーは、当初の膠着した状況から想像も出来ないほど呆気無く、あっさりと尽きてしまった。
鋼の天蓋
第肆話 敵を知り己を知らば何とやら
「最後の突撃は少し迂闊だったな」
「いやいやいや、だってサブマシンガンの弾がいきなり爆発するなんて普通は思わないだろ。あれって連射は速いけど威力は低いって授業で習ったし」
地面に降りて開口一番に放たれた言葉に、一夏は疲れたような表情で自身の正しさを夏希に訴えた。土曜日の放課後、第三アリーナの片隅。一夏達の間で既に定例となっている土曜日の長期訓練の輪の中に、夏希とシャルルの二人も混ざっていた。一夏に連れられて件の女子三人と対面した時には彼の鈍感さを恨んだりもしたが、意外や意外、いきなり降って湧いた異物である二人に対し、箒もセシリアも鈴音も、特に不平を漏らすことなく参加を歓迎する言葉を投げかけた。元よりISに対して大きな興味を持つ三人であるから、量産機を強化・改修したシャルルの専用機も、見慣れぬシルエットを持つ夏希の専用機も、強い興味の対象なのであった。そして、名目上は一夏の特訓の場である訓練の中で、夏希と一夏の対戦カードが組まれたことは、ある意味必然と言えた。
「つーかあんなの予想できるかよ。普通の武器ならまだしも、初めて見る専用武器なんてさ」
唇を尖らせながら、不平を漏らす一夏に苦笑を浮かべる夏希。そこに、シャルルの声が飛び込んだ。
「一夏。夏希が使ったサブマシンガンは多分専用武装じゃないよ」
「本当ですの?」
セシリアが首を傾げて夏希に問う。専用武装の運用を第一とするセシリアとて、一般的な武装の知識に疎いわけではない。知る事の重要性を不足なく認識している彼女は、代表候補生になり専用機が与えられてからも、世に出た武装の情報収集は決して怠ることなく続けてきた。運用頻度が多い強力な武装は、ほとんど全て把握している。にもかかわらずセシリアの知識にあの短機関銃の情報は存在しなかった。故に、あれは廻天の専用兵装だと判断したのであるが……。
「ん、本当。結構マイナーな銃だから、知らないのも無理はないけどね」
夏希の答えは、セシリアの予想を覆すものだった。
夏希は先ほど使用した銃を呼び出すと、興味深そうに手元を覗き込むセシリアへと手渡す。板のような独特のフレームに短く切りつめられた銃身、樹脂製の短いストック、フレーム上部のピクティニー・レールに取り付けられた小型の擲弾筒と、ずんぐりとした印象を与えるそれに、全員の視線が集中した。
「シャルルはこの銃の事、わかるか?」
夏希の質問に、シャルルは僅かに首を傾げながら答えた。
「H&K MP9、でいいのかな。あんまり見ないから、少し自信無いけど」。
「その通り、この銃はドイツのH&K社が設計したPDWだ。元々生身の歩兵が運用していた銃をIS用に再設計したものなんだけど、色々と問題があって正式採用は見送られた。だから、知らないのも無理はない」
「PDW、ですか。確か、片手で取り回せて、ある程度対物貫通能力が大きいサブマシンガンの事ですわよね? 問題とは、どういったものですの?」
PDW、と言う単語に反応できたのは、セシリアとシャルルのみだった。元々IS用武装としてはマイナーカテゴリに属するこの銃は、教科書でも隅に軽く説明が記載されている程度で、記憶している生徒はそう多くない。故に、銃に関しては素人の一夏や大雑把な性格の鈴音のみならず、勉強熱心な箒ですら知らないのは当然であった。
セシリアの質問に、夏希は僅かに沈黙し脳内で回答を組み立てる。彼と交流を始めて一週間にも満たない一夏達であったが、夏希が何かしらの問いを投げかけられた場合、答えの整理の為に少しばかり黙り込む癖があることは分かっていたので、特に回答を急かすでもなく黙って夏希の答えを待った。その視線に気付いた夏希は、少々居心地悪そうに身じろぎをすると、周りに言い聞かせるためにゆっくりと話し始める。
「単純に、PDWと言うカテゴリがIS同士の戦闘に適してなかったんだよ。携行性でサブマシンガンに劣り、攻撃力でアサルトライフルに劣り、専用のアクセサリもISだとイマイチ使い所がない。持ち運びできる武器の数に制限がある歩兵が運用するなら、サブマシンガンとアサルトライフル両方の特性を持つこの武器はとても効果的なものだったんだけど、ISには量子変換がある。携行する武装の制限が歩兵よりも遥かに緩いISにとって、PDWの性能は中途半端だ。なら、PDWを持つよりもサブマシンガンとアサルトライフルを別々に持って場面場面で切り替えた方がいい。実際にコンペでもそう指摘され、実働部隊からも同様の評価が下されたこの武器は、正式採用には至らなかった。それをウチの研究所が買い取ったんだ。設計した側からしても、歩兵用武器をスケールアップしただけの没兵器が倉庫を圧迫するより、値段をつけて外に売り払った方が幾分かはマシだったみたいで、結構あっさりと売ってくれたよ」
廻天が夏希の専用機になった時、彼はこの類の実験兵器を片っ端から買い漁り運用方法を考え抜いた。勿論その中には話にならないレベルの駄目兵器もあったが、逆に少し手を加えるだけで一線級の武装に化けたものも多かった。このMP9もそんな武器の一つで、実は夏希の密かなお気に入りであった。
「それじゃあ、一夏はそんな残念武器に負けたのね」
夏希の説明を聞き、鈴音は口の端を吊り上げて少し茶化したように言う。流石にむっと来た一夏であったが、失敗作との説明を受けた以上、言い返すことも出来ない。夏希はそんな二人の様子に苦笑を漏らしながら、一先ず一夏に助け船を出すことにした。
「確かにこいつは本来の目的から考えると失敗作だけど、見方を変えればかなり有用な武器に化けるよ」
先ほどとは反対の評価に、視線が再び夏希に集まる。さて、どう説明したものか。再び思考を整理しようと夏希が沈黙する前に、シャルルがはっとした様子で口を開いた。
「……そうか。グレネードを本命に、MP9を目くらましに使うんだ」
それはまさしく、夏希が用意しようとしていた答えだった。
「その通り。さっきやったみたいにね」
シャルルの言葉を肯定し、セシリアからMP9を受け取った夏希は、両手にハンドグレネードとアサルトライフルを呼び出すと、言葉を選びながら口を開いた。
「いくらハイパーセンサーがあったところで、人間が処理できる視覚情報は限られている。目まぐるしく変化する状況の中で、無数の銃弾の奥から飛来する小さなグレネードを見切れる人間はそう多くない。実際、アサルトライフルの弾幕に隠れて手榴弾を投げ付ける戦法の有効性は証明されているんだから、それを銃一本で行えると考えれば、こいつ以上にこの戦術に適した銃はない。まあ、グレネードランチャーの有効射程を考えると扱いは難しいんだけどね」
オプションであるグレネードランチャーには、仰角30°の傾斜が設けられている。これは元々の仕様ではなく、第八研究室による改良の結果であるが、そのおかげで銃弾とグレネードで同時に同一対象を攻撃できるようになっている。だが、だからと言ってグレネードランチャーの問題点が完全に解決されたわけではない。MP9の有効射程が200mほどであるのに対し、グレネードが届く水平距離はおよそ100m。その発射速度は遅く、またライフリングが刻まれていないため弾道も安定しない。その上撃ち出されるグレネードの炸薬量を確保するために機構の複雑化が図れず、近接信管の類も採用できない。これらの弱点は、その機構上解決できるものではなく、それ故にこのグレネードランチャーは、敵の動きに合わせて予測軌道上にグレネードを置いておくという使い方しか出来ないのである。夏希がこの武器を近接攻撃に対する迎撃兵装として扱っているのもその欠点が理由であり、本来のPDWの用途からすれば少々物足りないものである。が、そもそもオプションでグレネードランチャーなんてものをくっ付けている時点で元々の仕様から逸脱しているのだから、その辺りのことは気にしないことにしていた。
「すごいね、夏希は。僕も銃には結構詳しい自信はあったけど、そんなこと、考えたこともなかったよ。今度真似してみようかな」
シャルルによる手放しの称賛に、夏希は恥ずかしそうに視線を逸らした。正面から褒められることが苦手な彼にとって、この空気はとてもむず痒いものである。努めて真顔になろうとする夏希であったが、彼が照れ隠しをしようとしていることは既に見破られている。この光景を見ていた生徒たちによって、『鹿島君は実は恥ずかしがり屋』と言う情報が瞬く間に学園全体に広められていくのだが、彼がそれを知るのはまだ当分先の事である。
それから一夏の動きに対して一通り採点が行われ、箒の抽象的すぎる説明やセシリアの細かすぎる説明、鈴音の色々とぶん投げた説明に、一夏が混乱を深めたところで次の模擬戦の話に移る。アリーナの使用時間はあと少し、もう一組が戦うくらいが限度だろう。箒、セシリア、鈴音の三人の中では、一夏の続投は確定事項。その相手を誰がするかで熱い火花を散らす面々であったが、そのにらみ合いは、予期せぬ第三者の介入によって終わりを告げた。
「――おい」
アリーナを静かなざわめきが満たす。突然人波が左右に割れ、その奥から現れたのは一機のIS。声の主である黒いISを纏った銀の髪の少女、ラウラ・ボーディッヒは、自身に集まる視線を意に介すこともなく、片方だけの赤い瞳で一夏を睨み据えていた。転校初日の一夏とラウラの騒動を知らない夏希は、そのあまりに険悪な雰囲気に気圧されてしまう。
ゆっくりと周囲を威圧するように、ラウラは一夏の元へと歩を進める。無言で一夏を庇うように前に出た箒たちに一度冷めた視線を送ると、銀の少女は殺気の籠った眼差しを一夏に向けながら、凍えるような声で言葉を発した。
「貴様も専用機持ちとは都合がいい。私と戦え、織斑一夏」
「嫌だね。理由が無い」
「貴様に無くとも私にある」
唐突すぎる物言いに身構える一夏の言葉をラウラはバッサリと切り捨て、苛立ちの混じった声音で言葉を続ける。
「私は貴様の存在を認めん。教官の汚点、教官の栄光を阻んだ貴様を。貴様さえいなければ、教官はモンド・グロッソ二連覇の偉業を成し遂げることが出来たのだ!」
ロックアラート。白式のシステムが搭乗者に危険を伝え、システムを戦闘状態へ移行させる。しかし、白式のシールドエネルギーは先の模擬戦で尽きており、このまま戦闘を行うことは不可能である。自身へと向けられる長砲身のレールキャノンに一夏は無意識に身を固くする。だがそれを、周囲の人間が許すはずがない。
不意に放たれた弾丸が、ラウラのIS、シュヴァルツェア・レーゲンへと突き進む。だがそれは、ラウラが僅かに身を捻ったことで虚空を穿つのみに留まった。
「さすがに短慮が過ぎるんじゃないかな? 軍人さん」
小さく煙を発するライフルの銃口をラウラに突き付けたまま、シャルルは僅かに口角を吊り上げた。その嘲笑するような表情に苛立ちを大きくしたラウラは、レールキャノンの照準をシャルルに合わせて口を開いた。
「第二世代のガラクタが。貴様の相手をしている暇はない、そこをどけ」
「貴方に貴方の理由があるように、わたくし達にも理由があるのですわ。貴女の考えは知りませんし知りたくもありませんので、さっさと引いてくださいまし」
セシリアの言葉とともに、四基のブルー・ティアーズがシュヴァルツェア・レーゲンをロックする。箒は無言で太刀を構え、鈴音は衝撃砲をスタンバイ、対するラウラはゆっくりと右手を上げ――
『そこの生徒、何をやっている! 学年とクラス、出席番号を言え!』
アリーナに響き渡る教師の声に、一触即発の空気が霧散した。
「……ふん。今日は引こう」
武装を量子化し踵を返したラウラに、シャルル達は警戒を解かずに各々の武器を下した。
「織斑一夏。私は貴様を許さない」
去り際に、ラウラの鋭い声が一夏に突き刺さる。それは明確な宣戦布告。一夏は小さくなってゆくシュヴァルツェア・レーゲンの背中を睨み据えると、拳を強く握りこんだ。夏希は最後まで空気だった。