やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている   作:ichika

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比企谷八幡はその依頼を受ける

side八幡

 

屋上で無愛想な女生徒と出会ってからなんだかんだあって十日後・・・。

 

俺は奉仕部なる、途轍もなく胡散臭い部活に入れられていた。

部員は俺を含めて二名、いや、この前から押しかけてくる喧しい奴もいるから三人、か・・・?

 

この強制入部は無論、織斑先生の差し金では無い、ウチのクラスの担任である平塚静の陰謀だったのだ。

 

何でも、俺が提出した高校生活を振り返ってというテーマの作文を犯行声明と受け取り、捻くれ体質と腐った目の更生を目的としての強制入部だ。

 

俺の意思は関係なしですかそうですか・・・。

 

自分の時間が潰れるのが癪なので、織斑先生に何とかならないかと相談しに行った際、強制入部の件を初めて知った織斑先生は平塚先生に対してメチャクチャデカい舌打ちしてたな・・・。

あの人、どんだけ平塚先生の事嫌いなんだよ・・・。

 

まぁ確かに、ウルトラマンや怪獣関連の事や、そのために鍛えるためには束縛が少ない方がありがたいし、彼もそれを望んでいるだろうから、部活動は極力控えて欲しいのだろう。

 

織斑先生からは退部したかったらすぐに言えと言われたが、当然平塚先生もそれを許容する訳も無い、今や織斑平塚両名の間では毎日凄まじい火花が散っている。

 

しかしながら、織斑先生の方がキャリアが浅い事から、まだ勝ち得ていない点は多々ある。

だが、織斑先生の異常なまでに高い能力を使えば、すぐにそれも逆転し、学校を掌握する事ぐらいならできるだろうなとは踏んでいる

 

まぁ、そんな大人たちの事は、当人たちに任せてるんですけどねー・・・。

 

因にだが、俺は織斑先生とその仲間以外にウルトラマンである事を明かしてはいない。

 

やはり、怪獣とか言う未知の存在を倒せる力を持ってるんだ、そう易々と公表していいわけがない。

 

それに言っても誰も信じないだろうしな。

 

でもって、今俺は特別棟の三階にある奉仕部の部室で、この部の部長である女子生徒と一緒にいた。

 

「何かしら目が腐り谷君?そんな下卑た目で見ないで頂戴。」

 

「へーへーすみませんね、この目は生まれつきなんですよ。」

 

この暴言女は雪ノ下雪乃、二年J組に属する生徒で学年主席の成績を誇る才女だ。

容姿も人形のような可憐さを持っていて、男子からも高嶺の花的な人気を誇る。

 

だが、致命的に口が悪いのが玉に傷、いや、玉が割れてしまうぐらいの傷になっている。

 

口を開けば俺に対する罵詈雑言、そして言い返せば自慢と嫌味を兼ね備えた更なる言葉が飛び出してくる。

 

何処か頭の中の神経がおかしいんじゃねぇかと考えるあたり、やはり俺は捻くれていると思ってしまう。

だが、俺は寧ろこの捻くれ具合が良いと思うまである。

 

それに、織斑先生はこの捻くれ思考を何とも思わず、ある種の美徳として認めてくれている。

 

理由を聞けば、捻くれている方がいざって時に生き残り易いからと、軍人根性丸出しな答えを返されて、俺でも少し引いたのを覚えている。

 

「やっはろー!遅れてごめんね~!!」

 

そんな事を考えていると、喧しい声を上げながらもピンク髪御団子ヘアーの女子生徒が入って来た。

 

彼女は由比ヶ浜結衣、俺と同じクラスに属する生徒で、ウチのクラスのトップカーストである葉山のグループに属している。

コミュ力は高いし、純粋で素直だから友人も多い、更に空気も読める。

一見して、穴の無いいい女に見えるかもしれないが・・・。

 

ちなみに、葉山とは学年2位の優等生であり、容姿もイケメンのサッカー部の男の名だ。

 

つまり、リア充であり、俺の敵だ!!

なんで某タンクトップさんの言葉を取ってるんですかね、俺は・・・。

 

「よぉ、俺より出るの早かったのに遅かったじゃねぇか。」

 

「あら、視姦は犯罪よ比企谷君、いやらしい眼で由比ヶ浜さんを見てたのね。」

 

「なぁっ・・・!ヒッキ―の変態!!キモい!!」

 

「おいこら由比ヶ浜、なんで質問しただけでここまでいわれにゃならんのだ。」

 

この少女、由比ヶ浜は一言で表すならば、バカという言葉で言い表せた。

人の話は聞かない、人に流される、語彙力は無い、学習しない。

 

最悪の四拍子が揃ったとも言えるレベルだ。

 

まだそれならいいが、料理の腕も壊滅的に悪い。

 

そもそも、彼女がここに来る理由だって、渡したい男へのクッキーを巧く焼きたいから、やり方を教えてくれって依頼からだしな。

 

苦手な事を一足飛びにやるもんじゃ無いって教えたんだけどな、それが伝わってない様だから悲しくなってくる。

 

しかもヒッキーって呼び方はなんだ。

リア充はアダ名の一つ付けないと人の事を呼べんのか・・・。

 

取り合うだけ無駄とタメ息を一つ吐いて、俺は呼んでいたラノベに目を戻した。

 

こういうのは、関わらないが勝ちだ、黙っていれば余計に口出しされる事もあるまい。

 

そこから何事も無く、今日も無為な一日を過ごすモノと思っていた時だった、教室のドアがノックされた。

 

「どうぞ。」

 

「織斑だ、失礼するよ。」

 

部長である雪ノ下が入室を許可すると、内面で思ってる事を知らなければ一見人当たりの良さそうな笑みを浮かべた超人、織斑一夏先生が扉を開けて入ってくる。

 

「あ・・・、え、えと・・・、どうしたんですか織斑先生・・・・?」

 

彼の登場に、由比ヶ浜の表情が若干強張る。

どうやら、彼女は織斑先生が苦手らしい。

 

いや、その気持ちはよく分かる。

 

三日前の昼休みの話なのだが由比ヶ浜は、彼女のグループ内で煉獄の女王と呼ばれる生徒、三浦優美子に奉仕部入りしてから付き合いが悪くなったことを咎められ、半泣きにされかけていた。

 

生憎その日は雨で、普段は屋上かグランドに面した人通りの少ない場所で飯を食っていた俺も教室にいたんだが、その剣幕たるや、まさに大蛇のごとし、由比ヶ浜はカエルのように縮こまってしまっていた。

 

しかも不幸な事に、窓際の前から三席目に座っていた俺の真後ろの席でのイザコザだったから、一言助け船でも出そうと思った時だった。

 

『どうした?喧嘩か?ネチネチ口喧嘩するよりも素手で殴り合え!ただし、ボディオンリーな!!』

 

喧嘩のにおいにつられてやって来たのか、目を輝かせた織斑先生が、ボクシングの構えを取りながら割って入ったのだ。

 

教師とは思えない言葉とポーズを見た由比ヶ浜や三浦は勿論、周りで見ていた生徒や、三浦を糾弾しようと割り込みかけてた雪ノ下まで顔を引き攣らせていた。

 

俺も教師としてどうなのと思ったが、彼のその行為は二人のイザコザを収め、解決に導いていたのだ。

 

あとで彼にその事を尋ねたら、何も無しで終わったら終わったでつまらないな、と心底詰まらなそうに言っていた。

いや、傷害沙汰起きたら不味いでしょうに・・・。

 

それは置いといて・・・。

俺を除く奉仕部のメンバーは、織斑一夏と言う教師を良くは思っていないと考えられる。

 

俺はまぁ、色々世話になってる部分は有るから、今まで見てきた教師よりは幾分か信用出来る程度で好意はあると思うよ。

変な意味じゃないよ?

 

「ん、君らに依頼だ、依頼人の案内と八幡君の様子を見に来た、とはいえ、随分と暇そうにしてるな、部として存在する意味は有るのか?」

 

「先生、依頼するか嫌味吐くかどっちかにしてください。」

 

彼の発言に、俺は肝を冷やしながら突っ込んだ。

俺の背後から凄い冷気が伝わってきますよ、ねぇ、雪ノ下さん、織斑先生睨んでどうこうなる訳じゃ無いでしょ・・・。

 

まぁ、贔屓目抜きに見て、暇な事は事実だし、現に由比ヶ浜の依頼以降は依頼らしき依頼は来ていない。

 

有ったとすれば、俺が体育の授業でペアを組む事の多い横にデカいヤツ、材木座義輝が自作小説の感想を聞きに来たぐらいだ。

 

これもどちらかといえば依頼とは言えず、俺が主に担当する事で落ち着いてる。

 

だから、奉仕という名の下に動く事は殆どない。

これじゃただの雑用係を押し付けられたも同然なのは分かっている。

 

織斑先生も、そんな事をするぐらいなら、少しでも俺にウルトラマンとして戦う準備をしてもらいたいというのが本音であり、俺を引き離す口実を虎視眈々と窺っている事が伝わって来ていた。

 

だが、どうもそれだけじゃなさそうだな、どうやら彼は・・・。

 

「奉仕ってのは、相手が何だろうと、どう思われようとも、御節介だろうと、自分達から動いて物事に対処する事だろうに、指を咥えて待ってる事が奉仕と言えるのかね。」

 

持論、というよりは一般的な奉仕の概念を語りながらも、雪ノ下と由比ヶ浜を試す様に見ている。

 

恐らく、彼は試しているのだ、この部が存在するに相応しい場所かを、そして、彼女達が利用できるに足る存在かを・・・。

 

「変わりたい、変えたいと思って依頼する人の依頼だけを受け持つ、それで良いのでは?」

 

いきなりやって来て嫌味(表側はそう感じられる)を聞かされては黙っていられないのだろう、雪ノ下は苛立ちを籠めて彼を睨み、答えていた。

 

なんとまぁ、正義の女らしい返答だ。

求められたから手助けする、それだけだと。

 

「それは奉仕じゃなくて、ただのお役所仕事だ、そこを履き違え為さんな。」

 

だけど、その答えは不正解、彼にとっても、奉仕と言う意味においても。

 

奉仕部の理念は、飢えた人間に魚を与えるでは無く、獲り方を教える事である。

この場合、飢えた人間と言うのがポイントだな。

 

飢えている人間全員が助けを求められる状況にある訳じゃ無い。

自らの内に押し込み、それを外に出せない奴もいるのは、考えればすぐに分かる事だ。

 

だからこそ、そういう人間を見付ける事、そして、自分の事を二の次にして動く事こそ、奉仕と呼べるのだろう。

 

それを、どんな部活か分からず入って来た由比ヶ浜は兎も角、部長である雪ノ下が気付けないとは何とも言えないな・・・。

 

まぁ、初日に聞いた、世界を人ごと変えるという言葉から察するに、随分と尺度を間違えてるとも言えるな。

世界と人を変えようと思ったら、それこそ超人、ウルトラマンになる以外ないだろうがな。

 

俺は何で動かないかって?余計な厄介事に巻き込まれてたまるかってんだ。

 

只でさえ、ウルトラマンとして戦うんだ、余計な事は少ない方が良いに決まってる。

 

それは置いといて・・・。

恐らく、彼の中で答えは出ただろう、雪ノ下雪乃は、利用できないと。

 

もっとも、ぶっちゃけた話、俺も奉仕部自体に良い感情は持ってはいない。

こんな厄介事を押し付ける為だけに存在する様な部活なんざ、存在する意味なんてそれこそ無いに等しい。

 

「それで先生、依頼人て言うのは・・・。」

 

だから、ここでこれ以上話しても埒が明かない、依頼とやらを聞いて話を逸らさせてもらおう。

 

「そうだな、待たせては申し訳ない、戸塚君、入って来たまえ。」

 

依頼人の事を思いだしたかのように彼は扉の外に声を掛けていた。

 

すると・・・。

 

「失礼します、戸塚彩加です、ここが奉仕部で、良いの、かな・・・?」

 

とんでもない美少女が入ってきた・・・。

 

儚げで整った目鼻立ち、サラサラな銀髪、そして、愛らしいほどの体躯っ・・・!!

天使っ!!天使が降臨なされたぁぁっ!!

 

「あれ、さいちゃん?どしたの?」

 

「なんだ由比ヶ浜、知ってんのか?」

 

まぁ、由比ヶ浜ぐらいのコミュ力と女子ネットワークがあれば、顔を合わせた事ぐらいはあるか・・・。

くそっ、早く知り合いになっとくべきだったぜ・・・!!

 

「同じクラスでしょ!!もう二週間も一緒のクラスなんだから覚えようよ!?」

 

「お前、日数経過がちゃんと分かってるのか、生憎、クラスの人間なんて覚えてねぇよ、特に女子なんて尚更だ。」

 

「ひどっ!?」

 

同じクラスだったのか・・・、って事は、これから毎日、この天使を拝めるのか!!

へへへ、良いぜ・・・、楽しい学校生活の始まりだァ・・・。

 

「ははは・・・、八幡君もそう思うか・・・。」

 

ゲスい笑みを浮かべる俺に、織斑先生は苦笑し、戸塚は少し寂しそうに笑っていた。

 

一体どう言う・・・?

 

「僕、男の子、だよ・・・?」

 

「はっ・・・?」

 

男・・・?冗談だろ・・・?

どう見たって銀河レベルの美少女じゃねぇか・・・!!ほら見ろ、あの雪ノ下まで目を見開いて驚いてる!!

 

あ、お前がギンガだろってツッコミは無しで。

 

「いやぁ、それがどうもホントの事なんだ、俺も最初は信じられなかったさ、こんな可憐な子が、男の子だったなんて・・・、自分の目を疑ったよ。」

 

「もう!先生まで!僕は男の子ですよっ!」

 

「まっ、マジかぁ・・・。」

 

いやいや、そこらにいる女よりも女らしい仕草で言われても信じられませんて・・・。

ほら、織斑先生もどう反応しようか困ってる!

 

仕方ねぇ、ここは一手打つか・・・。

 

「と、所で、依頼って何だ・・・?」

 

やっべ、少し声が上擦っちまった・・・、自分でもキモいわ・・・。

 

「あっ、うん、僕、テニス部なんだけど・・・。」

 

彼女、間違えた、彼の話を纏めるとこうだ。

 

戸塚の所属するテニス部は弱小であり、彼以外の十名程度の部員もやる気が出ないのか中々部活に参加しないという有様だそうだ。

 

まぁ、部が弱いと上に勝ちあがる事も難しくなるし、そうなればモチベーションも上がらんわな。

 

「なるほど・・・、それで、依頼と言うのは?」

 

戸塚の説明に得心したのか、依頼内容を尋ねていた。

依頼内容を知れば、俺達の動き方も当然ながら変わってくる、故に真っ先に聞かねばならない内容である事は間違いないだろう。

 

「うん、僕が強くなれば、きっと部の皆も戻って来てくれるかなって・・・、だけど、今は練習相手になってくれる部員も中々いなくて・・・。」

 

「つまり、俺達に練習相手になって欲しいって事、か・・・?」

 

「そう、だね・・・。」

 

なるほど、それで何でも屋の奉仕部に依頼してきたって事か・・・。

ん・・・?でも、どうやって奉仕部を知ったんだ・・・?

 

「戸塚君から相談を受けてね、俺が相手しても良かったが、それじゃ意味が無いと判断してね、君達の事を推薦させてもらったよ。」

 

なるほど、確かにその通りだ。

戸塚に教えるには、織斑先生はフィジカル面で大きな差がある。

 

とは言え、何もしないでいるには寝覚めも悪い、という事で、俺達を推薦したのだろう。

 

「それで、八幡君、君がこの依頼を受けてやってくれないか?そちらの御嬢さん方じゃ、役者不足だ。」

 

「なんですって・・・?」

 

織斑先生の言葉に、雪ノ下はムッとした様な表情で言い返す。

由比ヶ浜は・・・、役者不足の意味が分かって無い様な顔をしていたから放置しよう。

 

「依頼なら奉仕部として受けます、そこの男だけに依頼するのは如何なものかと思いますが?」

 

確かに、奉仕部全体として動いた方が良いかもしれない依頼ではある。

だが、材木座の依頼を俺に丸投げしてしまっている以上、その言い分は些か苦しいものが有るぞ?

 

「テニスなんざ、壁役の相手が一人いれば十分だ、俺は比企谷君のフィジカル面の強さは知っている、それに、雪ノ下、聞く処によると、君の座学の成績は非常に優秀、非の打ちどころは見当たらない、だが、体育はそうでもない、これがどういう意味か分かるよな・・・?」

 

「っ・・・!!」

 

彼の言葉に、雪ノ下が何とも言えない表情で押し黙る。

痛い所を突かれたのか、次の言葉が告げないらしい。

 

体育の成績が、他よりも劣るって事は・・・、あまり運動が出来ないか、出来ても長く続かないってとこか・・・。

 

察せてしまう辺り、俺は彼と思考が似ているのか、それともただの捻くれ思考がそうさせているのかは分からなかったが・・・。

 

「まぁ、織斑先生からの紹介じゃ断る理由もありませんし、依頼なら受けるのがウチの部です。」

 

だけどまぁ、これ以上話を長引かせたら奉仕部と織斑先生の全面対決になるかもしれない、ここらで止めとかないとマズイな。

 

穏便に行っとかないと、俺の立場も危うくなりそうだ。

 

「ありがとう八幡!よろしくね!!」

 

俺が返答すると、戸塚は満面の笑みを浮かべて俺に向けて礼を言ってくる。

ぐはぁぁ・・・!!キラッキラしていらっしゃる・・・!!浄化されるぅっ!浄化されてしまうゥゥ・・・!!

 

って、八幡・・・?

 

「あっ、いきなり名前呼びは嫌だよね・・・?ご、ゴメン・・・・。」

 

俺の表情に驚愕が出ていたのか、彼は申し訳なさそうに項垂れた。

ウサギの耳とか生えてたら、間違いなく垂れていただろうな・・・。

 

なんだ、この・・・、この胸に押し寄せる罪悪感は・・・。

俺が悪いの?えっ、俺が悪いのか!?

 

ちらっと、織斑先生に助けを求めるけど、彼も苦笑するだけでどうにかしてくれる雰囲気ではなさそうだけど・・・。

 

「い、いや、いきなりでちょっと驚いただけだ、べ、別に、構わない・・・。」

 

「ホント!?ありがとう八幡!!」

 

うぉぉぉ!?さ、さっきの比じゃねぇぐらい輝いてらっしゃるゥゥ・・・!!

こ、これが戸塚ンザムバーストっ・・・!?

 

「それでね、早速だけど今日からお願いしていいかな?」

 

「おう!モチのロンだ!行こう、すぐ行こう!!」

 

そんなの、答えは決まってるぜ!さぁ、すぐ行こう!!

 

「もうすぐ下校時間だ、明日からにしたらどうだ?戸塚君も、最近は何かと物騒だ、あまり遅くまで残らせるわけにもいかんのだ、申し訳ないが、な・・・。」

 

そんな俺を宥める様に、織斑先生は時計を指差しながら苦笑する。

 

って、もうそんな時間なのか・・・。

あっ、そう言えば、俺今日は予備校じゃねぇか、付き合いきれねぇな。

 

「分かりました、明日までに俺がメニューを考えてくる、戸塚もそれで良いか?」

 

「うん!それじゃあ、よろしくね!!」

 

俺が確認するように尋ねると、戸塚は笑顔を振りまいて帰って行った。

 

あぁんもぅ・・・、癒されるぅ・・・。

 

「ほら、もう下校時間だ、気を付けて帰りたまえ」

 

ホンワカ戸塚フィールドに癒されていると、織斑先生が下校を促す。

まぁ、確かにこれ以上長居すると生徒指導がうるさいからな、従っておこう。

 

「そうさせてもらいます、帰りましょう、由比ヶ浜さん。」

 

「えっ、う、うん・・・。」

 

棘のある言葉で先生に返した後、雪ノ下は由比ヶ浜を連れて帰って行ってしまった。

やれやれ・・・、煽り耐性どんだけ低いんだよ、人を散々煽ったりするくせにな・・・。

 

彼女達の足音が遠ざかるのを認め、彼は扉を閉めて俺と向き合う。

 

「苦労している様だな、大丈夫なのか?」

 

半分以上が貴方のせいですけどね、なんて事は言わないでおこう、俺の身のためだ。

 

「まぁ、何とかうまくやれてますよ、毎日罵倒されますけど。」

 

「それ、上手くやれてるのか・・・?」

 

俺の言葉に、彼は苦笑していた。

絶対うまくやれてないだろと言いたげに思えるのは、やはり俺が彼に近くなっているからなのか・・・。

 

そういえば、彼もこういう風にヒロイン達に罵倒され続けたのかな・・・。

 

いや、それは無いな、断言できる。

この人は罵倒されたら確実に相手の口を物理的に封じに掛かっている、まだ付き合いは浅いけど、何となく分かる。

 

「すまないな、助けてやれなくて・・・。」

 

そんな事を考えている時だった、彼はポツリと謝罪の言葉を漏らした。

 

多分、彼は俺が奉仕部に入れられた事を嫌がってると思って、それを引き離せなかった事が悔しいのだろう。

 

どうして、俺にそこまで肩入れしてくれるのか・・・、ウルトラマンだからか・・・?

 

いや、彼はそんな分かり易い人間じゃない、だから・・・。

 

「別に、貴方に対して思う処は無いっすよ、でも、なんで俺に肩入れしてくれるんですか?」

 

俺は、知りたい、彼が俺をどう思っているか、そして、どうしてくれるのかも。

 

「君は俺の生徒だ、伸び白も多分にあるヤツを気に掛けて当然だろ?」

 

「俺、目が腐ってますよ?こんなやつの傍にいたらあなたも何て言われるか・・・、今まで、俺の周りにいた奴なんて、皆それが嫌で、近寄ったら逃げて行くんだ・・・。」

 

気に掛けてくれるのは嬉しい、だけど、俺の腐った目を見たら、クラスメイトも、教師も皆離れていく。

 

どうせそんなもんだ、自分の評価が墜ちるから、だから離れていく、だから俺に対してなにしても良い気になってる。

 

だから、そんな事すらされないボッチこそ、本当に至高なんだ・・・。

 

「君さぁ、その程度で腐ってるって、本気で言ってんの?気にするほどじゃないさ。」

 

だけど、織斑先生は気にするなと言わんばかりに呆れた様な顔をした。

 

何だよそれ・・・、人のコンプレックスとトラウマをその程度って・・・。

 

「学生の間なんて特にそんなもんだ、それに、俺も似た様なもんさ、見てくれだけで寄って来て、内面見たら勝手に憎まれてなんてよくある話だ。」

 

「だからって、それが許せるんですか・・・?」

 

仮にだ、彼が俺と同じ様にトラウマを持っているなら、どうしてそんなに平然としていられるんだ?

なんで、どうでもいいって風に笑えるんだ?

 

「許してないさ、だから、そんな奴はこっちから願い下げ、周りの目を、学内カーストなんざ気にしないくらい自分に入れ込んでくれる奴だけ見るって決めたんだ。」

 

「周りの目を、気にしない・・・。」

 

彼の言葉に怒りは感じられなかった、ただ、諦観だけが見て取れる。

選んだ末に、少数に限られてしまうという事を、当然だと諦めているのか・・・?

 

「選んだって良いじゃねぇか、俺だって人間なんだ、合わない奴だっている、嫌な奴だっている、皆揃って仲良しこよしなんて出来るもんじゃない、だから、分かり合えない奴に合わせるより、自分の汚い所さえ受け入れて、抱き締めてくれる奴の傍にいた方が良いに決まってんじゃねぇか。」

 

彼は、しみじみと、だけど、辛そうに語った。

 

彼もまた、失くしたモノ、得られなかった物があり、それを偲んでいるのだろうか・・・。

 

「君も見付けると良い、自分が本当に欲しい本物と言う物を、俺が見つけた答えと違う答えを、な?」

 

「本物・・・、俺が、欲してるもの・・・。」

 

彼は俺の背を軽く叩き、挑発的に笑んでみせた。

やってみろよと言わんばかりの表情だが、何処まで俺を試すつもりなのか・・・。

 

いや、これはどっちの意味でもあって、もう一つ意味があるな。

お前、時間大丈夫かって意味が・・・。

 

「何時になるかは分かりませんけど・・・、見付けますよ、それじゃあ、失礼します。」

 

席を立ち、彼に一礼した後、俺は部室のカギを預けて廊下を進んだ。

予備校あるしな、少し急がねぇとな。

 

その時の俺は、何かを知る事が正しい事だと思っていた。

 

でも、無知でいる事の方が、幸せな事もあるとは、想像すら出来なかった・・・。

 

sideout




奉仕部に関しては当たらずとも遠からずな評価ではないかと、個人的に考えています。
とは言え、不快になられる方もいらっしゃるとは存じ上げておりますので、五話目にして今更な注意書きです。奉仕部の扱いはそんなによくは無いですと、補足しておきます。

奉仕部属のヒロインファンの皆様は、あまり読まない方が良いと思います。

それでは次回予告

彩加の依頼を果たすために奮闘する八幡は、強くなる事の意味と、その裏の面に想いを馳せる。

次回やはり俺の青春にウルトラマンがいるのはまちがっている。

比企谷八幡はその力を見る

お楽しみに

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