とある兄妹の紡ぐ物語 作:リンク切り
「兄さん兄さん。」
「なんだ。」
「ピザって10回言ってください。」
「.....は?」
ある、休日の昼下がり。
突然、妹が懐かしいことを言い出した。
高校に上がった俺と文香は、相変わらず特に仲の良い親友ができることはなかった。
勘違いしてもらっては困るのだが、俺に友達は数人いる。
ただ、俺が深く馴れ合うようなことをしないだけだ。
「ですから、ピザって10回言ってみてください。」
「何でだよ。知ってるって、有名だから。」
「いいじゃないですか。ピザって10回言うだけですよ?」
静かに本を読んでいたと思えば。
俺が面倒臭いと言ってしまえばそれまでだ。
だが、読書ばかりであまり会話を長続きさせようとしない妹が自分から話を振ってきたのだ。
ここは文香の会話力が衰えないようにトレーニングでもしてやるか。
文香からしてみれば、余計なお世話この上ないだろうが。
「わかった。ピザピザピザピザ......」
指を一つずつ折って数えながら、10回言い終わる。
やはり、10回といえどもアホらしくなってくる。
「言ったぞ。」
「では、ここは?」
俺が言い終わったことを確認して、文香はひとつ頷く。
その後、スッと、文香はすらりとしている細い腕を曲げて自らのヒザを指さした。
「ひざだろ?だから、知ってるんだって。そのクイズ。」
「兄さん.....ここ、はひじですよ......?」
「.........ああ、そうだっけか.....?」
文香が、申し訳なさそうに言うと、俺は自分の失言に気がついた。
俺はさっき、文香は膝を指さしたと言ったな。
あれは嘘だ。
本当は肘を指していた。うん。肘だったな。
「間違えましたね、兄さん。」
「....そうだな、間違えた。」
自分でも、頬がほんのり火照っているのがわかる。
ここまでうまく騙されると、ムカつくとかじゃなくて情けなくなってくるな....
「じゃあ、次のクイズですよ。」
「まだやるのか?」
「はい。次は、ポットと10回言ってください。」
「まあ、お前が飽きるまで付き合ってやるけど。....ええと、ポット、ポット、ポット、ポット.....」
「では、最初に手紙を入れるのは?」
「えっと、ポスト?」
「違いますよ。ハガキはともかく、手紙はまず封筒に入れます。」
「ああ....そうか、確かに。うん、よく出来てるな。」
「では、次はスプーンを10回お願いします。」
「はいはいっと。スプーンスプーンスプーンスプーン....」
その後、10回クイズに数回付き合わされた。
たまに間違ったりもしたが、大体が昔聞いたことのある内容だった。
まあ、俺はやったりやられたりする奴らの話を聞いていていただけだったが....
「兄さん、絵踏みって知ってます?」
「馬鹿にするな。流石にそれくらいは覚えてるよ。えっと、確かクリスチャンを排除するための政策....だっけか...?」
「まあ、大筋はそうですね。詳しくは、江戸時代、江戸幕府ではキリスト教を信仰することを禁止していて...」
「わかった。わかったから。で、その絵踏みがどうしたんだ?」
文香は、本を読むからか記憶力がいいからなのか、無駄な雑学をよく知っている。
たまにうんちくを披露するのだが、いくら文香が可愛いからと言っても宗教の話なんぞ聞きたくなかった俺は話の先を促した。
「では、それと同じ意味のあるタスキ踏みって知っていますか?」
「...それは初耳だな。」
「新撰組が壊滅した後に、新撰組の信者をあぶりだすために行われたそうですよ。」
「ふーん....」
「では兄さん、タスキ踏みと10回行ってください。」
「結局またそれか。タスキ踏みタスキ踏みタスキ踏みタスキ踏み...」
「言ったぞ。...って、何嬉しそうにしてるんだ?」
「なんでもありませんよ。」
「ん?なんで録音してるんだ??」
「なんでもありませんよ。」
やけにニコニコしている文香を見て、不審に思いながらも俺はクイズの催促をする。
どうせなら、間違えてやった方が文香も楽しいだろう。
だからといってわざと間違えたりする気は無いのだが。
10回言ったあとすぐに質問を聞かないと10回クイズにならないしな。
「そ、そうか....で、クイズは?」
「ありませんよ、そんなもの。」
「ない?」
「はい、ありません。ちなみに、タスキ踏みなんていう文化はありませんよ。騙されました?」
「ああ、そういう系の方か....真顔でいうから、本当かと思った。文香は物知りだからな。」
「私は普通ですよ。兄さんが知らなすぎるだけです。」
「おい!!」
俺が抗議の意を唱えようとしたところで、文香が座っていた椅子から立ち上がった。
「では、そろそろいつもの時間なので。おやすみなさい、兄さん。」
「おい、文香ー。文香ー?」
時計を見ると、なるほど、もう23時になっていた。
文香はこれくらいの時間になると、俺の部屋から出ていく。
まあ多分、自分の部屋へ戻ってそのまま寝るのだろう。
俺はなんだか納得出来ないまま電気を切り、布団へ入った。