とある兄妹の紡ぐ物語   作:リンク切り

6 / 6
5ページ目 記念日の話

 

 

 

 

 

「文香。今日何日か知ってるか?」

 

「23日ですよね。」

 

「そう。じゃあ何月?」

 

「・・・・、11月ですけど・・・・」

 

ぶすっと、不機嫌そうな顔で応える文香。

そう、本日は11月23日。

あと一ヶ月と数日経てばクリスマスだ。

 

「うん、今日は11月23日だな。間違いない。」

 

「・・・・何なんですか?」

 

「良い兄さんの日だ!」

 

「はあ・・・・」

 

あからさまに会話に飽きた、とでもいうような反応をして、本を開こうとする文香。

 

「ちょっと待て、ため息をつくな。」

 

「聞いていても、きっと碌なことがありません。」

 

「酷すぎる!?兄ちゃん、何年たっても文香の塩対応には慣れないわ。」

 

「経験談ですよ。」

 

文香は、結局しおりが挟まれている本を開いて読み始めてしまう。

 

「ほら、良い兄さんの日は休日になるくらい有名な日なんだぞ。」

 

「嘘を言わないでください。11月23日は勤労感謝の日です。」

 

「ふーん、文香は物知りだな。」

 

本を読む文香に話しかけると、しっかり返事をしてくれる。

ん、意外とこっちの話に興味あるのか?

 

「どうせ、兄さんの日頃の労をねぎらってくれ、なんて言うんですよね?」

 

「まさか。」

 

「・・・違うんですか?」

 

文香が顔を上げて本から目を離し、俺の方を見つめる。

予想が外れたか?

違うんだよ、文香。

 

「良い兄さんって、ほら、妹に色んな事してあげる優しい兄だろ?」

 

「まあ、そうかもしれませんね。」

 

「と言う事で、文香。何かお兄さんにやって欲しいことがあればどんどん言ってくれ。」

 

「・・・では、読書の邪魔なので黙っていてもらえますか?」

 

「それ以外で、何かないのか?」

 

「ありません。」

 

「即答か・・・・・」

 

うーん、困った。

これだと本当に黙ってるしかない。

本当に文香のことを思うなら、言う通りに静かにしていた方が一番なんだろうな、と思う。

読書をしている時に話しかけたり邪魔する奴がいたら、俺なら一発ぶん殴っている。

だが、俺は文香をかまったりかまわれたりしたいのだ。(本音)

 

「ほら、肩凝ってたりとかしないか?本持ってると、意外と疲れるだろ。」

「あっ・・・・・」

 

椅子に座っている文香の背後に回り、肩を優しく掴んでみる。

すると、意外と好感触なのか、文香が小さく声をあげる。

文句とか言ってこないし、これはOKっていうサインか?

俺は、優しく文香の肩を揉み始めた。

 

「あー、これはすっごく凝ってるな。兄さんが解してやるよ。文香はそのまま、本読んでて良いから。」

 

俺はマッサージのことや、ましては肩のことなんてさっぱりだから全部適当に言っているだけだ。

どういう肩が凝っているのかとかどうやってわかるんだろう。

 

「ダメだぞ、文香。肩が凝ったらその度に疲れが溜まるんだから。」

 

自分でも、よくこんなペラペラと嘘が口から出てくるなと思った。

まあ、毎日色んなことをよく知ったかぶってるからな。

その点今回は、文香の間違いの指摘がこない。

奇跡的に合っているのか、それともマッサージのことは流石に知らないのか。

まあどちらにせよラッキーだな。

 

「んっ・・・・」

 

肩に親指を押し込むようにあてがうと、文香が小さく声をあげる。

痛いのか気持ちいいのかさっぱりだ。

痛かったら悪いので、強くはしていないから大丈夫だと思うが・・・・

 

「それだけでかい塊を胸に付けてれば、そりゃあ肩も凝るよな。」

「・・・・・最低です。」

 

小さく、ぽつりと呟く文香にいつもの調子はない。

さっきまでは元気だったので、多分やめてほしくないためあまり強くは言えない、とかなのだろう。

 

「ごめんごめん。」

 

こういう、バサバサと言わない文香は珍しい。

まあ、外ではずーっとこんな調子なのだが。

でも、俺と2人きりで、しかも家の中でのこの状態の文香はあまりない。

 

「文香、どこが気持ちいい?」

「・・・あ、その、さっきの・・・・・・あっ・・・・・」

 

色々と、親指で押してみたり、人差し指をグリグリ回したりと思いつくことは全部やってみた。

文香は、俺が触る度に「んっ」だとか「あっ」だとか「ひゃっ」だとか、色々な反応を見せてくれた。

文香自身はどうだったのかはともかく、俺は存分に楽しめた。

 

「ん、よし。これくらいやれば十分か?」

 

5分くらい揉み続けて、パッと文香から離れる。

これだけ揉んでいたもんだから、今度は俺の手が疲れてしまう。

まあ、揉むというよりは押していた、くらいが適切な表現かもしれない。

ああ、でも、季節が冬じゃなければ、文香の柔肌を揉んだりこねたり出来たのにな。

 

「んで、他にやって欲しいことなんかないか?」

 

次の頼みごとを聞くため、俺は文香の正面に立った。

文香の顔を正面から見て見ると、頬は火照っていて薄く赤いし、目は少し潤んでいるしでとてつもない顔を晒していた。

 

「あの、もうちょっとだけ、また・・・・」

 

文香は、持っていた本で口元を隠しながら文香はお代わりを希望した。

うん、とことんやってやろうじゃないか。

 

俺が理性を保てたのは、ただの奇跡だ。

 

 

 

 

 

「兄さん、これ、お礼です。」

 

文香が、いつも部屋に帰る時間になり。

今日もそのまま帰るのだろうと思っていたのだが、その前に何か用があるようだ。

文香はポケットから小さな舗装された箱を出だして、俺の手に乗せた。。

 

「これは?」

「兄さんは、どうせそんな事を言うだろうなと思ってあらかじめ買っていたものです。」

「そんな事?」

「良い兄さんの日の話です。」

「ああ・・・・」

 

なんか、見透かされていたみたいだな。

 

「それでは、また明日、です。兄さん。」

「え?あ、ああ。」

 

文香は、いつもよりもいそいそと部屋を出ていった。

恥ずかしかったのかな、やっぱり。

妹の可愛い姿を見て、ふふっと少し笑いが漏れる。

 

さて、文香は何を俺にくれたんだろうか。

俺は、期待しながらその小さな箱を開けた。

 

 

 

 

 




文香さんが何をあげたのか、それは2人のみぞ知る・・・・

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告