グリムガルの冒険者   作:龍神王聖人

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プロローグ

 ーーー“目覚めよ(アウェイク)

 

 ふと、意識が覚醒する。

 気がつくと俺は薄暗い空間の冷たい人工物のような床で寝ていた。

 周りに視線を送ると、少し高い所に蝋燭の火が薄らと辺りを照らしていて、壁際に複数の蝋燭が一定の感覚である方向に並んでいた。

 

(ん・・・、どこだ?ここーーーっ!!)

 

 辺り見渡しながら寝ていた体を起こし、つい呟きながら、ふと、ある事に気がつく。

 あちらこちらから息遣いや僅かに身動きの気配を敏感に感じ取り、無意識に探り始める。

 

「・・・ざっと、俺を除いて12ってところか。息遣いからして、男が8、女が4、ってところか・・・ボソッ」

 

 どうやらここにいるのは俺だけじゃないらしい。全員人で亜人は居ないようだ。

 感じた気配にナチュラルに反応して探ってしまい、ついつい呟いてしまった。

 いやはや、暗闇といったら俺の場合ダンジョンが真っ先に上がるからな~、つい探ってしまった、ハッハッハッ。

 

「・・・ん?」

 

 そこまで思考を巡らせてある事に気づく。

 

「あれ?ダンジョンってなんだっけ?」

 

 思い出す事ができなかった。

 いや、正確には思い出そうとするが、頭の中で何かが引っかかりそうになって、だが、その何かがふっと消えてしまう。身近にあったのは感覚でわかるのだが、あくまで感覚だけであって、記憶にそれに関する(・・・・・・)事は一切残っていなかった。

 それ以外にも、この場所のことは勿論、ここに来た経緯も、ここにいる理由も、故郷や家族、築いてきた人生(物語)の記憶までも、全て思い出せなかった。

 いや、全ては適切ではないのかもしれない。ヴェルス、という名前だけが、唯一俺の記憶に残っていたためである。

 

 しかし、清々しいまでにモヤモヤだな、おい。出て来そうになって煙のように消えちまう。どんな焦らしプレイだよ。

 あるぇ?焦らしプレイってなんだっけ~。

 そんなくだらない思考の渦に飲まれようとしていると、

 

「・・・もしかして、誰かいる?」

 

薄暗い空間に恐る恐るといった感じで、少年のような声が響いた。

悩む頭を強制的に切り替えて、聞き分けに徹するとざっと、十代後半くらいだろうか。聞き分けには自信があるんだ ZE☆。

そんな、少年のその問いから次々と気配が膨れ上がり、声があちこちから聞こえてきた。

 

「あ、うん」

 

男の声が

 

「います」

 

少女のような声が

 

「ああ」

 

別の男の声が

 

「・・・やっぱり」

 

「何人いるんだ?」

 

「数えてみる?」

 

種類ある声を聞きながらも、その問いに

 

「13」

 

と答えると

 

「え?わかるの?」

 

問いかけた男が驚いた様子を感じさせる。

 

「ああ、男が俺を含めて9人、女が4人だ。」

 

俺は簡潔にそう答えた。

 

「うわぁ、凄いな~。何でこんな暗い空間なのにわかるん?」

 

驚いている?様子でホワホワな感じの少女の声が聞こえた。

 

「気配や息遣いから。これでも、冒険者だからね。」

 

自慢げに答えてやると俺は立ち上がる。

 

「ほぇ~、凄いな~。・・・所で冒険者ってなんなん?」

 

疑問を投げて来る少女をよそに、周りに気付かれないように、座り込んでいる人を踏まないように忍び足でその独特な喋り方(・・・・・・・・)をする少女の気配に近づく。こんな状況にやることではないのだが、悪戯してみたくなったのだ。

 

「さあ?思い出そうにもすぐ消えるから、なるべく考えないようにしてる。そもそも、自然と出てきた単語は理解しようとすると煙のように消えるからあまり気にしないほうがいいよ。

 大切な何が失われる気がするから。」

 

俺は何となくその問いをはぐらかすと少女の気配が動揺しはじめている。それに対して、ニヤリと口元を緩ませる。

 

「へぇ~、そうなんやな~。って、何で近くで聞こえるん!?」

 

「それはね」と一言言うと、薄明かりで明らかになった長い髪を二つに束ねてお下げにしている彼女の耳元まで口を近づけ、

 

「君の後ろに居るからさ!」

 

と囁いて答える。

 

「へあ?」

 

彼女は変な声を出すと、油が切れたブリキ人形のような様子で自分の後ろを振り返ってくると、彼女の顔は驚くほどに面しrーーーゲフンゲフン、驚くほどに真っ青に青ざめていた。

 そして、そのあと

 

「いっやあぁぁーーーーーーーーーーーーっ!?」

 

悲鳴をあげて、彼女は右手を振りかぶって来たが、その速度はあまり速くなく、簡単に彼女の手首を掴んで受け止めてしまった。

 

「ぶっ!!」

 

あまりの驚きように思わず笑ってしまった。

大成功というやつだ。

 彼女もその笑いに正気を取り戻したのか、真っ赤に頬を膨らませて怒り出す。

 

「ちょっといきなり、なんなん!?めっちゃビックリしたやんか!!」

 

「アッハハハハハ、わりーわりー、ちょっと魔が差しただけだ。アッハハハハ。」

 

「ちーとも、わるうとも思ってへんやないかー!!も~、トラウマになるやん、ちゃんと謝れ-!!」

 

薄暗いながらも、涙目で怒り出す彼女のその顔はなかなかに可愛かったりする。

 

「だって面白そうだからノリでやったら本当に面白かったんだもん。反省はしないZE☆」

 

「反省しろーーー!!」

 

尚も頬を膨らませて真っ赤に怒り出す彼女を何となくノリでからかいつつ、辺りの反応を探ってみると、先ほどの不安な雰囲気は何とか払拭されたようだ。

 

「・・・お前らこんな時に何やってる?」

 

 俺が内心で安堵していると、男性の声が聞こえてきた。その声には、苛つきと怒気、そして、僅かに呆れているように聞こえた。とりあえず、スルーすることにしたが、ナニカ?。

 

「ていうか、ここどこ?」

 

先程の騒動(笑)にドン引きした様子で周りに尋ねる女性。

 

「声の響き具合から普通に考えて建物の中。」

 

すかさず、未だに騒ぐお下げの少女をスルーして答える俺。

お下げの少女が「無視するなー」と、言っている気がするが、聞こえない。聞こえ無いったら聞ーこえなーい。  

 

「そうなのか!?ってか、わかってたし、最初から。」

 

何やら矢鱈ウザそうな少年が、何か言っていたが

 

「いや、どっちなんだよ」

 

最初に発言した少年の声が突っ込みを入れる。・・・あれ?弟に声がそっくりだな。・・・あれ?弟って誰だっけ・・・。

 ・・・考えるだけ無駄か。なんだか・・・寂しいな。

 

「誰か、わかるやついねぇの?」

 

「知りませーん」

 

「巫山戯るな。ガキか。」

 

「子供なら、君の斜め後ろの二人目にいるよ。十歳くらいの。」

 

「え?マジで?」

 

「何なんだ、このカオス」

 

 そんな状況の中、このままでは埒が明かないのでーーーまあ、自分が色々やっちゃったせいだがーーー周りに対して、

 

「ここにいても埒があかないからさ、とっとと、この明かりを壁際に沿って辿って見ようZE☆」

 

と提案して行動に移してみると、

 

「いや、あんただろ。この状況を作り出したの」

 

「ていうか、一々茶々入れてんじゃねーよ」

 

再び、ご丁寧に突っ込みを入れてくれた、ーーー文句を言っていた天パは無視するがーーー少年声(声弟似)も含み彼らは次々と立ち上がり、付いてきてくれた。

 すぐ後ろの銀髪の方がスゲーガン飛ばしてきてるけど、気にし無ーいっすぅ~。

 

「あの、逆方向にも行けるみたいだけど・・・」

 

少し高めの声だが気配は男だ。

 

「こういう場合は導かれるままのほうがいいぜ。行ってどんな落ちがあるかわかったものではない。それに冒険者でもないのに何の根拠も無しに冒険するのは愚の骨頂だ。」

 

真剣味を帯びさせながら理由を述べると「うん、・・・わかったよ」と男の方も納得した様子だ。

 

 やがて、蝋燭を辿っていくと、鉄格子が見えてきて、手をかけて開け、しばらく道を行くと、再び鉄格子が見えてきて、閉まっていたその鉄格子は鎧を着込んだ人が開けてくれた。

 

 そして、外に出ると、まず、目に映ったのは綺麗な星空だった。そして、その中でも不気味な赤い色を放つ月は印象的だった。

 

 そんな時、不意に視線が俺に集中しているのに気が付いた。

 

 周りを見ると、予想に違わず、8人の少年や男性に4人の少女や女性がいたが、彼ら彼女らの服装に凄い違和感がある。

 確証はない、しかし、確信的な自分の直感がかたっていた。

 

ーーー彼ら彼女らは自分と違う所から来たーーーと。

 

 その直感は彼らにもあったのかは不明だが、俺の服装を物珍しさにみている。

 自分の服装は紅いのマントの下に白い軽装備をきこんでいて、足にあるブーツは丈夫な皮が使われていて、くるぶし辺りと靴底辺りに二つの黄色と青い不思議な模様が描かれている。それから膝には青い膝当ての下に柔らかで丈夫そうなズボンをはいていた。所謂、冒険者の格好だ。

 ん?・・・冒険者って、なんだっけ?

 

 うーん、解説してみたがわからないことだらけだ。まずこの服装ってどゆこと?それに、周りと服装が違い過ぎてかなり浮いているんですけど・・・。

 

「と、とりあえず、そこに隠れている女性に案内を頼みましょうか。」

 

気まずさから、とりあえず、誤魔化すためにさっきから鎧の人以外に隠れてこちらの様子を伺っている女性に(・・・)対して、暗に問いかける。

ーーーバレてるからでてこい。

と。

 

「え?」

 

「ていうか、その声、ユメを驚かせたの自分やろー!!

 

それを聞いた、眠たそうな少年が思わずといった感じで、呆気にとられてる様子だ。ユメと自然と名乗ってしまった少女はすぐに声を聞き俺を見つけると、指を突き付けた。

 とりあえず、俺はそれをスルーして、しばらく待っていると、周りから色々な視線を向けられた。 

 そんなやりとりを終えるのを待っていたのか、それとも俺の言葉を受け取ってか、どこからかこの雰囲気とは似つかわしくない声が辺りに響いた。

 

「しゃらららーん♪、しゃらららららーん♪、ハイハーイ、皆さ~ん、グリムガルの世界へようこそ!案内人を務める、ひよむーといいまーす。よろしくね?きゃぴーっ

いや~それにしても、凄いね~、そこの君!隠れて驚かそうと思って完璧に気配を消していた筈なんだけどな~。私、自信なくしちゃうな~」

 

「うざっ」

 

「いや、お前、人のこと言えないからな。」

 

「うっさいぞ、眠たそうな眼をした弟め。」

 

「この目は生まれつきだ。あと、あんたの弟になった覚えはないからな。」

 

「うん、知ってる・・・と思う。俺に眠たそうな眼をした弟はいない・・・と思う。」

 

「なんだそれ。どっちだよ。」

 

「さあ?。まあ、ノリという奴だよ天パ君」

 

「天パって言うな!俺のことを天パと! それだけは言っちゃならねー禁止ワードだぞ、コナクソッ!」

 

「なんかウザい。コイツ」

 

「同感。あと、この眼は生まれつきだから。」

 

「レベルとしてはひよむー並?」

 

「ヒッドーイ!!私をそこの天パ君と一緒にしないでください。私はもう少しお淑やかですー!」

 

「どの口が言う、どの口が。」

 

「いいから、早く案内してくれよ。」

 

「いや、あんたが始めたんだろ。」

 

「なかなか、話が膨らんで面白かったよ。まあ、無駄な会話だったがな。」

 

「いやだから、あんたが始めたんだろこれ。」

 

「なあ、これ、いつ終わるん?」

 

「ひよむー、早く案内してくれ。」

 

「いや、この状況を作り出したあんたが言うな」

 

「いいから、早く案内しろ。」

 

 

ひよむーと名乗ったツインテールの女と眠たそうな眼の少年と天パと無駄に駄弁っていると、先程からイラついていたのがさらに悪化した様子で銀髪の男性がひよむーと何故か俺に睨みを効かせていた。

 

「あ~、はいはい、ちゃんと案内しますから、そんなに睨まないでください。ていうか、何で私まで睨むんですか!私だって被害者ですよ!!だから睨まない睨まない、せっかくの怖い顔に怖さが拍車をかけるだけだよ~。」

 

「ぶっ!!」

 

「ーーーああ”?」

 

ひよむーは銀髪の男性をおちょくりながらも、文句を言っているが、ひよむーの最後の言葉に俺は盛大に噴き出した。

 

ーーービキリ

 

と銀髪男が青筋を立てて睨んでいたが、何となく、ケンカしても負ける気がしなかったので、スルーすることにした。

 銀髪男がひよむーについて行ったのをきっかけに他の人たちも、ひよむーについて行くために移動を始めた。

途中でチャラチャラした野郎が「命知らずじゃなーい?あれに挑むなんてっさ。俺っちはしーらない。」的なことを言ってきたので、とりあえず、ステイタスを無駄にフルにつかって、アイアンクローをかましておく。

 ・・・ん?・・・いや、スルーしとくか。考えるだけ無駄無駄。

・・・ん?

 

「・・・あの、行かないんですか?」

 

立ち尽くして見えたのか、後ろから、控えめな声が聞こえた。どうやら声を掛けられたらしい。

 振り返るとそこにはなかなかの巨大果実ーーーじゃなかった、薄紫色の髪を真っ直ぐのばした少女がいた。

 少女の雰囲気は声の印象通りの大人しそうな印象で、こちらを恐る恐るといった感じで、何となく背の高さの関係か、上目遣いになって見ていた。

 そう問いかけられ、進路方向を見ると、少し俺達は遅れていた。

 

「ああ、行くよ」

 

俺は、簡潔にそう答えると彼らを追うために歩き始めた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 俺達がひよむー率いる列にこっそり合流すると、特殊少女ーーー特殊な喋り方をするためーーーこと、ユメが巨大果実の少女に話し掛けていた。

 この少女はシホルという名前らしく、ユメがホワホワな喋り方でシホルと打ち解けていた。

 俺はというと、さすがにこれ以上ふざけるのもあれなので、星を眺めながら周りにぶつからないように星の位置を確認しながら方角を仮定して覚えていく。

 

 移動をしている間、塔から丘の下へと向かう道があり、両側は背の低い草むらが生い茂り、丘を覆う草むらにあちこちに大きな白い石がちりばめられていた。近くの石をよく目を凝らせると何やら文字が刻まれていた。

 

「・・・墓か。」

 

「え?」

 

誰が呟くまでもなく、俺はそれ(・・)がなんなのかを理解した。

わかった。わかってしまった。例え記憶がなくとも、なくなる前からある固定概念がそれ(・・)が何なのかを理解させた。いや、定着した感覚だから、固定感覚か。とにかく、自然と理解できた。

 それを知ると、俺は僅かに目を細めてしまう。

 なぜ理解出来たのか。考えても結果がわかりきっていても、考えてしまう。

 しかし、やはり記憶はぼんやりと形になりつつも、触れようとすると再び煙のように消えてしまった。

 シホルの方も俺の呟きが聞こえたのか、思わず立ち止まって戦慄している様子だ。その表情に浮かぶ感情は、恐怖と不安、で、顔を少し青ざめさせてる。

 そりゃそうだ。こんな無数にある白い石群が全部墓だとすると、なにも思い浮かばないほうが可笑しいだろう。

 とりあえず、俺はシホルの頭を慰めの意味を込めて優しく撫でてやると、ユメにシホルを預けて、墓に手を組んで死者を慰めるために祈りを捧げた。

 シホルとユメもそれに気付いて条件反射で手を合わせて祈りを捧げていた。

 

「なにしてるのかな?」

 

さらさら髪にやたらと爽やかなイケメンが俺達に気づいたらしく、問いかけてきた。

 

「あ~、実はな~」

 

「いや、何でも無い。先を急ごう、置いてかれてしまう。」

 

ユメが事情を説明する前にその言葉を遮って台詞を被せておく。遮られたユメの方は少しむくれている様子だ。

 

「うん?そうかい?じゃあ少し急ごうか。」

 

「だな。」

 

爽やかイケメンはそう言うと、列に合流していく。去り際、なんとなくだが、あいつは何かを察していたような顔をしていた気がする。俺達も歩き始める。

 

「なあ、話さなくてよかったん?」

 

「ああ、少なくとも今の状況では話すべきことではないな。雰囲気を暗くするだけだ。まあ、もっとも気づいている奴もいるみたいだし、意味ないがな。」

 

ユメはその言葉を聞くと納得した様子で、「そうなんや~」と返事を返した。

 

「にしてもなあ、自分、キャラ代わりすぎちゃうん?さっきまで、あんなにユメをからかってたやんか。」

 

「ノリとは場を選ぶものだ。」

 

「う~ん、そんなもんなんやろーか、」

 

「・・・多分、彼の場合、何処でもやりそうだと思う」

 

「ヒドっ」

 

 

そんな他愛のない会話をしながら移動をしていると、ランタと名乗る少年が何やら喚きだして、さっきからイライラしっぱなしだった銀髪が殺気を滾らせた目で睨みつけると見事なジャンピングドゲザを決めた時はなかなか面白かった。ランタに向けるユメとシホルの呆れた様子の目も笑い所である。

 

 まあ、そんなこんなで、目的の場所に着いたようで、気配が止まったのを感じて歩みを止めてみる。

 目の前には石造建築二階建ての建物があり、その建物には白地に赤い三日月の旗が掲げられていて、看板には『オレタノ刀竟車義男兵口レソトムーノ』と書いてあるが、所々、薄れるかはがれ掛けている。

 しかし、その疑問はすぐに解消された。

 どうやら、『オルタナ辺境軍義勇兵団レッドムーン』と読むらしく、ここはその事務所らしい。

 すると、ひよむーは俺達をその事務所の中に入れるとブリちゃんという人に後は任せて、とっととどっかに行ってしまった。

 

改めて、ブリちゃんと呼ばれた人を見ると、そこには化けm、ゲフンゲフン、とても個性的な男がいた。

 それはもう、解説するのが嫌になるくらい個性的です。

 

 

 妙な緊張感の中、男は「ふーん・・・」となんどか頷いて、「いいわ」と上体を起こした。

 

「こちらへいらっしゃい、子猫ちゃんたち。一匹、とんでもない子も混じっているようだけど、歓迎するわ。」

 

男はそう言いながら、俺に流し目を送ってきた。ーーー気持ち悪っ。

 男はこちらを観察しながらも話を進める。

 

「アタシはブリトニー。当オルタナ辺境軍義勇兵団レッドムーン事務所の所長兼ホストよ。所長ってよんでもいいけど、ブリちゃんでもオッケー。ただしその場合は、親愛の情をたっぷりこめて呼ぶのよ?いい?」

 

暗に馴れ馴れしくブリちゃんと呼ぶなと語るブリトニー。

 いや、呼ばねぇからな。オカマ?変態?ノーサンキューだわ。マジで。だから、こっちに流し目すんな。しないでください、お願いします。マジ、かんべんなんで!!

 

 とりあえず、横に居た眠そうな少年を盾にすることにした。

 盾にした少年ーーーというより、眠たそうな眼の少年だったーーーが「えっ!?」とかほざいてやがるが知ったことではない。

 所長は「いけずねぇ」とほざくと、周りに視線を戻した。

 

「よかったな、少年」

 

「いや、なにがだよ。結構やばかったぞ!?目があってなんともいえなかったぞ。」

 

「うん、まあ、ドンマイ☆」

 

「男だから、気持ち悪ぃから!あと、ノリの言動も!」

 

「そいつはオレも同感だな。」

 

「ランタと意見が合うとか、何か複雑だな。」

 

「おい、ハルヒロ!それどういうことだ!おい!」

 

そんな、不毛なやり取りをしていると、銀髪の男がカウンターに歩み出て、所長に質問を始めた。

 

「質問に答えろ。ここがオルタナって町だってことはわかった。だが、辺境軍だの義勇兵団だのってのは何だ。なんで俺はここにいる。おまえはそれを知ってるのか」

 

「威勢がいいわねえ」

 

所長は愉快そうに含み笑いをした。

 

「アタシ、嫌いじゃ無いわよ、あんたみたいな子。あと、眠そうな子を盾にしている子もね。名前は?」

 

所長に言われて悪寒が走ったが、少年を再び盾にする。

無理無理。絶対無理。別の意味で震えが止まらない。

 

「レンジだ。俺はおまえみたいなオカマ野郎は好きじゃない。」

 

「そお・・・」

 

所長はどこからか取り出したーーー恐らく、カウンターの中ーーーナイフを滑らかな動きで移動させると、銀髪男ーーーレンジの胸倉を掴んでその喉元にナイフを突きつけた。

 ふむ、ナイフのスキルは上級者レベルの熟練度と体術もそれなりにレベルが高いな。ただ、まだ俺の目で余裕を持って追える程度(・・・・・)だとすると、大したことはないな。まあ、新入りに見せる熟練度がこの程度だとすると所長の実力はまだ序の口だろう。

 

 まあ、もっとも、こんな分析をしているのは俺くらいだろうけどな。

 

 周りを見渡すと案の定、全員一致(俺以外)の硬直空間の出来上がりだった。

 不意にナイフを突きつける所長と目が合ったが、欠伸を欠いてみせる。そして、ニヤリと笑うと、所長もニヤリと笑うと、レンジへ視線を移した。

 

「レンジ。良いこと教えてあげる。」

 

所長がレンジの喉元にナイフを突きつけながら、うっとりと目を細めていた。やっぱり気持ち悪っ。

 

「アタシをオカマ呼ばわりして長生きできたやつは一人もいない。あんたと彼は察しがよさそうだし、アタシが言っていることの意味はわかるはずよ。それともまだ突っ張ってみる?」

 

レンジは「そうだな」と言うなり、所長が突きつけていたナイフの刃を素手で掴んだ。掴まれたことによってガッチリと固定されたナイフの刃が当たって、親指の付け根から血が流れている。

 

「別に長生きしたいわけじゃないが、脅されて従うのは性に合わない。殺れるものなら殺ってみろよ、変態所長」

 

「そのうちね」

 

所長はそう言うと、どす黒い唇をひとなめして、レンジの頬をさっと撫でた。そのあと変態発言を連発しながらカウンターに戻って行った。因みにランタがそれに気付いたようで、何か盾にしている少年とユメに話している。まあ、どうでも良いけどな。

 

「しかし、今回は向こう見ずが多いみたいねえ。男が9人女が4人。女が少ないわねえ。まあ、アタシとしては良いんだけどね。男の方が戦力になる率が高いわけだし。」

 

戦力・・・ね。確かに、戦力としては男がなり易いだろうな。しかし、いよいよ焦臭くなってきたな。

 辺境軍、義勇兵、義勇兵の事務所にそこの所長、そして、戦力・・・これらのキーワードから今、俺達が置かれている状況は新兵の教育のようなもの。

 それに戦力の確率を測られているということは俺達は図らずも戦わされるのだろう。何かと。

 

 はてさて、記憶が事実上失われている俺達がなにと戦わされるのやら。

 

 そうこうしているうちに説明は次の段階へ進んでいた。

 

 所長曰く、事務所からのオファーを受けるなら、銀貨十枚とその袋、見習い義勇兵の団章をプレゼント。銀貨二十枚で義勇兵の団章が買えるらしい。

 入らないならあとは自由だそうだ。

 

 ふむ、なかなかの好条件に見えるが、記憶喪失の俺達からしてみれば、自由に動きようがない、どちらにせよ選択は一つしかない。

 

 俺はそこまで結論が出ると、カウンター越しの所長の前に出た。

 

「選択は事実上一つ。ならば、迷う道理はないな。迷うなどただの逃げだからな。」

 

そう言いながら、カウンターの上に置いてある見習い章と銀貨が入った袋を受け取る。

 

「それに、」

 

これは記憶が無くても自然と自覚していたことだ。自分が何をしたいのかを。

 

「俺は冒険者だ。義勇兵として、冒険に出るのも悪くない。討伐ならば、どこに行こうと勝手だろう?」

 

「ええ、見習い義勇兵は基本的に自由よお。ただ、義勇兵になったら、依頼や他のことも受けるようになるけど。それ以外はあなたがどこへ行こうと勝手よ。」

 

「そうか、ならばーーー」

 

俺はそのことを聞くと、自然と口元がニヤリと笑う。

ああ、俺はどうやら、喜んでいるらしい。俺がどこまでいけるか、どこまで強くなれるか、そして、どこまで最高の武器を作れるかを。

 それらを試すことのできる喜びが胸の内をしめていた。

 俺は手元にある袋と見習い章を握りしめ、言葉を紡ぐ。

 

 

 

 

 

 

「ーーー始めるとしよう。」

 

 

 

 

 

 

 

周りの視線を気にせず、悠々と出口に向かう。もうすでに

不安などはない。あとは突き進むだけだ。俺の人生をそしてーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺と仲間が紡ぐーーー」

 

 

 

 

 

 

そして、俺は扉を開ける。

 見習い義勇兵として、冒険者として、最初の扉を。

 

 

 

 

 

「ファミリア・ミィスを。」

 

 

 

 

 

高らかにしかし、静に言った。

 

 一度振り向き、同期になるメンバーを見る。

 

 半分近くの者は痛い者を見るような目で、それ以外はバラバラだ。不適に笑うレンジ。不安て心配そうに見るシホルとユメ、そしてマナト。欠伸を欠く幼女。などなど。

 

「じゃあな。先行ってるぜ、同期の同胞達よ。付いていきたい奴は付いてこい。ただし、我が道は過酷を極める。故に、強い覚悟と強い意思を持てぬ者は(・・・・・)者は来るな。」

 

そう言うと、事務所の扉を閉めるーーー直前に「あっ、そうそう、」と思い出した事を告げるために顔を扉のすき間から顔を出した。

 

「レンジは来るなよ。お前はリーダー気質だから自分でパーティーを編成した方が良い。」

 

俺はそう言い終えると、扉を閉めた。

 

閉めた後にランタが「あいつ、キャラ変わりすぎじゃね?」とか聞こえたが、後でシメることにしょう。

 あと、レンジが名を名乗れとかほざいていたが、無視しときましょ。

 

 さあて、始めるとしようか。まずは情報収集からだな。事務所の所長は教えてくれなさそうだったしな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーこれは、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーー元冒険者により紡ぐ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーー冒険譚である。

 

 

 

 

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