グリムガルの冒険者   作:龍神王聖人

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きりが良かったので投稿します。
 
 


第十話 とある森の戦役Ⅲ 

 影森中央区に夜の帳が降りる。

 

 先ほどのやり取りを見ていたアキラさん達にからかわれながら、なんとか振り払うと、俺とメリイは武器を提供してくれるというエルフをアキラさん達から教えてもらい、そのエルフの元へ訪れていた。

 そこは義勇兵団影森支部の武器庫らしく、アキラさんが話を通してくれたのだと思う、見張り役がすんなり通してくれた。

 エルフ部族の伝統建築という、木造建築の建物に入ると、広間の中央部分に石畳の階段が地下へ続いていた。その前で俺達を出迎えたのはリヴェリアさんにも引けをとらない水色の長い髪と瞳をしたエルフの美女であった。 

 思わずそのエルフの美女に見惚れそうになるが、後ろから絶対零度の視線を身体全体で感じ取り、無理やり正気に戻された。

 

「初めまして。義勇兵団影森支部の団員、武器庫の管理を任されています、リュネ・フロートです。」

 

リュネと名乗った女性はクールビューティーを思わせるその容姿からは想像もつかない満面の笑みを浮かべながら、案内してくれた。

 俺はその不意打ちに今度こそ、見惚れてしまい、メリイに俺の足を踏み抜かれた。

 俺が悲鳴を上げるのを無視して先に進むメリイ。

 その光景をリュネさんは苦笑いすると、「こっちです」と案内を続ける。

 いや~、苦笑いでも絵にーーーって!?すいませんしたー!!謝ります!謝りますから、睨まないでくださいメリイさん!! 

 

「何やってるの?」

 

「はっ!?いつの間に!!」

 

メリイにそう聞かれ、思わず土下座していた情けない自分に気付いた。

 穴があったら入りたい。

 そんな気分だった。

 

「あっははは・・・仲、良いんですね。」

 

リュネさんは再び苦笑いをもらしていた。 

 そんなことは置いといて、俺達は石畳の階段を降りていく。ひんやりとした風が肌を撫でた。地下には小さい通気口があるらしく、僅かだが風が通っている。

 武器庫に保管してある物は緊急時用の兵士達の武器をはじめ、引退した正規兵や義勇兵のお古、引き取り手がない遺品やいわく付きの物まであるらしく、様々な武器が保管してあり、地下という特徴上、いくら通気口があっても湿気が室内に籠もり、武器が錆びてしまうため、毎日手入れを欠かさないらしい。

 武器庫の中に入ると、俺は棚にかごの中に入っている物から棚に並ぶ物まで、慎重に吟味し武器を選んでいく。

 ある程度、めぼしい物をいくつか選び、重さや重心などを見極めるために軽く素振りしたり、構造や丈夫さを確かめるために金具や武器の刀身の腹を軽く叩いてみたりしながら慎重に選んだ結果、中々の業物が手に入った。

 

「メリイはどうする?」

 

俺は退屈そうに欠伸を控えめに欠いているメリイにそう尋ねてみた。

 暗に、武器を変えてみないか?という提案だったが、メリイは少し考える素振りを見せると、一つ頷いた。

 

「そうね、持ってきた荷物は宿に置いてきちゃったままで取りに行けないし、持ち出してきたこれも、休日だからということだったから護身用のままだし・・・、せっかくなので、私ももらってもいいですか?」

 

「ええ、大丈夫ですよ。」

 

メリイはリュネさんにそう尋ねると、了承の言葉が返ってきた。

 それを聞くと思わず一気に軽く息を吐くようにわらった。

 

「メリイならそう言うと思って選んで置いたよ。」

 

実はさっきの質問はほぼ建前に等しかった。

 戦闘に置いて、強者と迅速性を求める俺と違ってメリイは安定と安全を戦闘に求めている節がある。それは共に戦闘をしていると時々見られた。その二つの中でもメリイは特に安定を求めていた。今でこそ、俺と言う名のイレギュラー(理不尽)の影響か、かなり戦闘が安定してきていて、ーーー単に俺より弱すぎるだけだがーーーその意識は低くなり始めてしまっているが、未だに高い水準をたもっていた。

 今回の襲撃でそのメリイが求める安定の水準は言おうなく上がっていて、間違いなく、頼りない護身用のメイスより、質が高いここのメイスと交換するだろうと確信していたのだ。

 

 俺は事前に見繕っていたメイスをメリイに見せる。

 

「私のも見繕ってくれたんだ。・・・ありがとう。」

 

と武器のデザインか質か或いは両方かが気に入ったようで、すこし嬉しそうに青い宝玉が中心に填め込まれたメイスを何故か大事そうに受け取った。

 空気が何故か暖かくなっていく中、

 

 

「では、あまりお邪魔していると、馬に蹴られると聞きましたので、私は失礼します。ごゆっくりご覧ください。あと、リア充爆ぜろ。」

 

リュネさんはそう言い残すと、アルカイックスマイルで退室していった。・・・若干、最後の方に淑女らしからぬ暴言を吐くような口調で何か言っていたが、『リア充』ってなんだろうか?

 室内に残された俺達はしばらく唖然としていた。因みに何故か、メリイが若干顔が紅い。・・・風邪でも引いたか?

 

「・・・馬に蹴られる、馬に蹴られる・・・どっかで聞いたな。何処だっけ?ってか、どういう意味だっけ?」

 

リュネさんが残した言葉について考えてみるが、やはり、考えても考えても、思い出せそうで思い出せないもどかしさしか残らず、結局、『わからない』という結論を出さざるおえなかった。

 

「・・・べ、別に・・・ヴェルスとは、まだ、そ、そういう仲じゃないし、あの時もブツブツブッ」

 

メリイはメリイで、なにやら訳わからないことを呟いていて、途中から聞き取れない。

 

「メリイ?」

 

「ひゃい!?」

 

紅潮しながら何やら呟き夢中になっているメリイにびっくりさせないように声をかけたつもりだったが、驚かせてしまったらしく、普段は滅多に聞かない可愛らしい悲鳴を上げていた。

 

「馬に蹴られるってどういう意味だっけ?」

 

純粋に本当に純粋に聞いたのだが、

 

「・・・知らない」

 

疑問解消の為に聞いたのだが、何故か不満げに答えると、拗ねたようにそっぽを向かれてしまった。

 別に怒っている訳では無いようだが、拗ねているというより、照れ隠しのような気がしたが、少しだけ、ほんの少しだけショックを受けたのは内緒である。

 しかし、知らないときたか。何か知っているから、それを聞かれた後に紅潮していたのだろうが、もしかして、恥ずかしいやつなのかな?まあ、いいか。

 

「・・・じゃあ、外で待ってるから。」

 

気を取り直すためなのか、それとも、恥ずかしさを誤魔化すためなのかはさだかでは無いがメリイは小さく咳払いをするとそう言って、返事を待たずにそそくさと退室してしまった。未だに耳が紅かったが、それを本人に指摘するのは藪蛇な気がするので止めとく。まあ、可愛いからいいか。

 それに、俺が選んだメイスを受け取った時のあのセリフと仕草は反則なまでに可愛いかったからな。・・・おっと、いけないいけない、待たせちゃ悪いからとっととサブを選ぶか。

 

 俺は少し照れ臭くなりながらも、慎重に自分の武器を選んでいく。部屋に野郎一人で照れながら武器を選ぶ。うん、気持ち悪いな。ブリスケには負けるけどな。あ、ブリスケって言うのは、ブリトニーのことな。

 しばらく没頭していたのか、作業を終える頃には大分地下に籠もっていたらしく、体のあちらこちらが固くなっていた。

 体を軽くほぐしながら、地上へ向かう石畳の階段を上り、武器庫の出入口に向かうとそこにはメリイがアキラさんとミホさんの二人と少し緊張した様子で話をしていた。まだ、知り合って間もないから仕方が無い。アキラさん達は大方、俺達の様子を見に来たのだろうかと推測した。

 

「ーーーあ、ヴェルス?終わった?」

 

階段を上る足音に気付いたのか、それとも気配に気付いたのかは定かではないが、俺に気付いたメリイが助かったと言わんばかりに安堵して話かけてきた。それを見たアキラさん達は苦笑いを浮かべながら、アキラさんが片手を上げて挨拶してきて、ミホさんが隣で笑みを称えていた。挨拶された以上、返すのは礼儀、俺は目礼で返した。

 どうやら、メリイは相手が大物過ぎて、どう接したらいいのかわからないらしく、しばらく緊張したまま会話をしていたようで、少しだけ疲れているようだ。

 それに緊張している他に、年齢が離れていて、余程話題選びに困っていたのだと窺えた。

 

「ああ、お陰さまで良い武器をもらったよ。」

 

とメリイにもらった槍と剣を見せながらそう返すと、俺はアキラさんに今回、便宜を図ってくれたお礼を言うために姿勢の向きを変えた。

   

「アキラさん、武器庫を見せてくれるよう話しを通して頂きありがとうございました。お陰で良い武器を頂くことができました。」

 

懇切丁寧に自分に出来る限りのお礼を言うと、アキラさんは、首を横に振った。

 

「いやいや、感謝するのは私では無く彼女にしてくれ無いか?私はあくまで話は通してあると言っただけで、実際には彼女が話を通してくれたんだよ。」

 

「そうよ?この人は貴方達に伝えただけなのだから、気にしなくていいわ。」

 

アキラさんとミホさんはそう言って、二人が視線で示す先には先ほどまで戦場で共に行動していた義勇兵団影森支部の副団長、リヴェリアさんがいた。

 

「そうでしたか。リヴェリアさんありがとうございました。」

 

リヴェリアさんに向き直ると俺は改めてお礼を述べた。

 

「いや、住民達の避難が完了するまで戦線を支えてくれていたのだ。これくらいの事は当然だろう。それにオルタナの援軍が来るまで、戦線を支えてくれるのだ。彼らが万全の体制で挑めるなら我々は支援を惜しまない。

 それと、腹も空いたろう、食堂は向こうにある。あと、お前たちが泊まる場所だが、なにぶん今回の襲撃だから、大した場所は用意できそうになかったが、なるべくマシなのを選んだつもりだ。そこで勘弁してくれ。」

 

この人、もしかして世話好きか?、・・・あと、なんか母性を感じるのは俺だけなのか?

リヴェリアさんは淡々とそう述べたあと、母性が溢れた微笑みを見せると、その場を後にした。

 

 

 しばらく、アキラさんとミホさんの四人とで、リヴェリアさんの世話好きと母性について雑談を交わした後、その場で二人と別れると、少し遅れた夕食を済ませる為にメリイと建物内にある食堂に入ると、三人先客がいた。

 使い古されたというより年季が入った神官服を着たゴッホさんと、同じく年季が入った装備を纏ったカヨさん。そして、確か、あの軽装のエルフの美少年は確か、タロウと言ったはずだ。自身の武器である弓矢は隣の席に置いてある。

 すると、三人の内、ゴッホさんが出入口に突っ立っていた俺達に気付いた様子なので、俺は軽く会釈をし、メリイもそれに続いた。何となくだが慌てていたような気がするが、恐らく、会釈を交わしたことが久しぶりなのだろう。

 

「ああ、君たちか。今日は休日だったのに災難だったな。」

 

「はい、ですが、襲撃される側としての良い経験になったのとも捉えられるので、俺達としてはプラスマイナスゼロなので、大丈夫です。」

 

とゴッホさんが自己流の労いをかけると、四人用テーブルの自分たちの以外にないので、隣のテーブルを勧めると俺達はその行為に甘えて座ると、ゴッホさんの問いにそう答えた。

 ハッキリ言って、今回の襲撃で出た俺達の損害は宿屋の荷物を除けば、大したことはない。

 精々、休日用に持ってきた普段着が汚れた程度(・・・・・)の被害で服自体は全く破れていない(・・・・・・・・)のだから、洗えばなんとかなるだろう。

 

「なかなか生意気なことを言うじゃないか。しかし、今回の襲撃は被害がかなり大きくでたようだねぇ。

 あたしらは中枢地区に入って来た敵を相手にやり合っていたから、人伝いにしか知らないからさ、そこの所、教えてくれるかい?」

 

食事を終えたのだろう、口元を備え付けられた布でふくと、会話に参加して、被害について尋ねてきた。

 

「そうでしたか。軽く見渡しただけでも甚大と言って過言ではないのは確かです。

 俺も町全体の被害状況を把握している訳ではないので、あくまで俺達がいた地区の状況を見てですが。戦闘は順調でした。」

 

「・・・」

 

「タロウ、そう思い詰めるな。」

 

その故郷の惨状を情報として聞いたからなのか、それ以外の理由でなのか、俯いて唇を噛んでいる様子のタロウ君。

 故郷を襲撃されたからなのか、それとも仲間の足でも引っ張ってしまったか。理由は定かでは無いが、その表情には悔しさで溢れていた。

 タロウ君の前に出された料理を見れば、食べ物にあまり手が付けられていないような印象を感じた。険しい表情ながらも、父親のような優しさを含んだ眼差しでタロウ君に声を掛けている。

 

「どうしたんですか?」

 

「ちょっ、ヴェルス!?」

 

タロウ君が出す雰囲気から、何となく察してはいるものの、あえて気づいていないふりをしつつ、視線でタロウを示しながら小声でカヨさんに訳を尋ねた。

 捉え方によっては失礼とも取られる質問にメリイが焦ったような様子を見せるが、メリイが次の言葉を口にするよりもはやく、カヨさんがそれを遮るように答えてくれた。 

 

「ああ・・・、息子がね、見ればわかるけど、ちょっと落ち込んじゃってね。」

 

あれをちょっとで片づけるか。空気を読んで俺は内心で呟くに抑えた。

 

「そうなんですか?・・・差し支えなければ、聞かせてもらってもいいですか?」

 

と、俺が質問すると、カヨさんは少しだけ考える素振りを見せると、やがて頷いてくれた。

 

「いいよ。あたしにも身に覚えがあるからねぇ」

 

 カヨさんは落ち込むタロウさんの方を見やると苦笑いしながら、頷いた。

 それはカヨさん自身にも身に覚えがある、あるいは体験したことのあるような悩みだと推測できた。というか、言ってるし。

 

「簡単に言うとタロウはあたしらの足を引っ張っているんじゃないかと思っているんだよ。」

 

とタロウ君の頭を撫でながら、優しげな笑みを浮かさべてカヨさんは言う。

 

「タロウはあたしらの中では経験が浅いからね。しょうが無いちゃ、しょうが無いんだろうけど、ああいう年頃はどうしても気にしちゃうもんなのさ。」   

 

「そういうというものなんですか?」

 

「そんなもんさ。」 

 

そう言いながら、愛おしそうにタロウ君を撫で続けるカヨさんとその光景を微笑ましそうに見つめるゴッホさんはやはりタロウ君の両親というだけあって、家族愛に満ちていた。

 家族水入らずの場をいつの間にか邪魔をしていたらしく、それに気付いた時はメリイから少し非難が混じったような視線を浴びていた。翌々思えば、この一瞬の油断もならない戦場で束の間の休息を親子水入らずで過ごすこの少ない時間は貴重なものだ。その時間を邪魔していたことによる非難だった。

 ただ、非難が控えめだったのは、恐らく、相手が対して気にしていなかったことなのだろう。

 しかし、邪魔してしまったのも事実。謝罪の一つもあるべきだろう。

 相手が気にしていない以上、形だけになるが、一応謝罪をすると、カヨさんはカラッとした笑いを浮かべて、許してくれた。

 結局、この日の夕食は何とも居心地の悪い食事だったことを言っておく。

 

 

 

 

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 綺麗か虫の音が漆黒の夜闇に心地よく鳴り響いている。

   

 戦場となったこの街から緩やかに吹く夜風は血の臭い、既に臭い始めた腐敗臭、ポツリポツリと見える揺れるような赤い光からくる煙の臭い、遺体が焼かれた悪臭い、などの様々な臭いを運び込み、不快な気分にさせてくれる。

 そんな不快感溢れている戦場の臭いにさらされながら、俺とメリイは塀の櫓に立ちながら見張り番を真面目務めていた。

 

 なぜ、俺達が深夜の見張り番をしているかというと、始まりは夕食後に遡る。

 

     

 

 居心地の悪いーーーもちろん俺のせいだから自業自得だが、ーーー夕食を終えた俺達は、風呂に入ったあと、戦場で失った正規軍、及び、義勇兵の兵士の人員不足により、見張りに廻す人員が足りないため、暇してた俺達も見張りに参加することになったというわけだ。

 

「はあー、暇だな~。なんでこんな任務を引き受けたんだろ、俺」

 

「・・・しょうが無いでしょう。・・・人員不足なんだから。・・・暇なことには変わりないけど。」

 

暇そうに、実に暇そうに思わず盛大な欠伸が出てしまう。 

 メリイは呆れた様子で俺を見てくるが、やはり、暇なことに変わりは無いのか肯定した。

 見張りは、二人一組で行う。俺達は一人が立って区外を見張り、もう一人は座って休むという形式を取っている。この方が体力的に余裕が出やすく、長時間対応できる。まあ、常識らしいから自慢にはならないがな。

 あと、見張る時間は俺の方が長い。ヒーラーであるメリイは今日の襲撃で出た重軽傷者の治療に借り出されて、食事も風呂も遅くなっていた。今回の見張り番も本当は休んでもらいたいのだが、何故か参加して来たのだ。

 参加した理由をメリイに聞くと、メリイ曰く「貴方は何だかんだで無茶しそうだから、ストッパーの私がいないと駄目でしょ?」と言われた。

 もちろん、反論をしようとしたのだが、反論を許さないとばかりの迫力ある視線をまともに受け、喉から出かかった反論はあっさり飲み込むことになった。

 ふと、あることを思う。

 ああ、もし将来、俺がメリイと結婚することになったら絶対に尻に敷かれそうだ。メリイって、押しには弱そうだけど、時折見せるあの睨みはヤバイ。逆らわせない何かがある。それだけは確信できる。

 でも、メリイと結婚か。・・・いいな。

 って、何考えてんだ俺は。

 俺が良くてもメリイが俺のことをどう思っているのかも知らないで勝手に思い上がってどうすんだ。、べく体力は温存しときたい。

 だいたい、メリイにだって、好きな人がいても可笑しくは無いだろうし、美人だから、男も寄ってくるだろう。その中にお気に入りがいても何ら不思議ではないのだ。   

 いくらパーティー組んでいるからって、そんなことに直結させるのはメリイに失礼だろう。

 それに、知り合ってまだ、一ヶ月も経っていないのだ。

 まだ、お互いに知らないことの方が多いだろうし、こういった考えはお互いの事を知った上で考えるべきだろう。

 でも、もし、メリイに俺以外に好きな奴がいたら・・・。

 

 俺はそこで考えるのをやめた。

 寧ろ、考えたくない。メリイに好きな奴がいるとか。

 そう考えると胸がチクリと痛んだ。

 そこで、ふと、不意にある結論に思い至った。

 

ーーーやっぱりそうか、俺は・・・

 

俺は自身の感情に鈍感だったり、目を背くタイプでは無い。今、確認しただけだ。

 故にその感情に今、確信(・・)したのは必然だったのかもししれない。 

 思えば、俺はあの日(・・・)以来ずっと彼女(・・)の姿を何処か追っていたのかも知れない。

 彼女に一目惚れしたあの日から(・・・・・・・・・・・・・・)

 そこまで考えて、ふと自身の口元に笑みが浮かぶ。

 

ーーー鈍感じゃないと思っていたがやっぱ鈍感だわ、俺。

 

何せ、その感情に今日の今日にようやく気付いたから。

 共に行動し、この世界来てから最も交流がある人と言っても過言では無い彼女への想いに気付けてうれしい反面、照れ臭い。

 目の前で背筋が伸びた立ち姿で見張りに立つメリイを眺めながら、そう思った。

 

 そんなことを思い眺めていると、こちらをチラ見するメリイと不意に目が合った。

 

「ヴェルス?どうかした?」

 

メリイがこちらの顔を覗き込み、聞いてくる。

 

「ん?いや、そろそろ、交代だろ?」

 

気まずげに俺は誤魔化すように若干目をそらしながら、答えた。

 

「うん、そうだったわね。」

 

思い出したように頷くメリイに

 

「ああ。だから、そろそろ休め。疲れてるんだろ?」

 

と提案して言ってみる。

少しまだ、早い気がするが、空気を切り替えたい俺には都合がよかった。 

 

「ううん、まだ平気。」 

 

首を横に振りながら、その提案を断った。

 別に他意は無い様子。

 

「いいから、休め。」

 

とりあえず、もう一度言ってみるが、

 

「・・・クスッ、どうしたの?」

 

笑われてしまった。

 

「なんでもない。」

 

今度は完全に顔を隠すようにそらしながら、誤魔化すが、最早、誤魔化そうとしていることはバレバレだろう。

 

「フフッ・・・変なの」

 

メリイは可笑しそうに小さく笑いながら、俺を見る。

 俺としては、さっきまで、あんなことを考えていたためか気恥ずかしくて、なんとなく今だけはこの表情を見られたくなかった。

 

 

 

 

 

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 しばらくの沈黙が二人を包み込む。

 交代して、もうすぐ一時間が経過しようとしていた。

 辺りは闇に包まれ、たまに巡回中の二組のエルフ兵がやってきて、片方が持っていた薪をすぐ近くにある松明の薪を入れる箱に継ぎ足していく。俺はお礼を言って薪を手に取り松明に焼べる。

 ふと、空を見上げる。夜空は生憎の曇り空。あの赤い月は見えない。

 それを見て、短く吐き出すように一つ息をつく。

 時折遠くから聞こえてくる虫の音を聞きながら、暗闇に目を凝らしていると、先ほどより、火が燃えているところは少なく感じられた。

 

 

 

そんな中、先ほどから続いていた沈黙が唐突に破られた。

 

「ねえ」

 

メリイが俺に声を掛けてくる。

 その声音には、迷い、緊張、そして不安が隠されていた。そして、なんとなく、この会話の内容は重くなると確信した。

 

「何だ?」 

 

明らかに俺に話し掛けてきたのは明らかなため、首だけ振り返り応じてみる。

 しかし、メリイは迷っているのか、少し考える素振りを見せる。

 珍しい。その様子に俺がまず、思ったことだ。

 普段は迷う素振りを見せても、すぐにきいてくるか、「なんでもない」と言って、否定するが、今のメリイは余程重要な事を聞きたいのか言うか言うまいか迷っている様子だ。

 

 だから、俺は言ってやる。いつか酒場で言ったことを。

 

「言っただろ。もう俺に怯えるな、ってな。メリイ、俺はお前の仲間だ。どんなことを聞かれたって受け止めてみせるさ。絶対にな。」

 

絶対な根拠はない。だが、受け止めてやるという覚悟と精神力はあると確信している。

 俺はそういって、メリイに笑いかけた。

 それを聞いてメリイは驚きの色を示すと、笑みを浮かべた。

 そして、

 

「うん、ありがとう。でも・・・ううん、やっぱり何でもない。」 

 

「・・・そうか」

 

と、気遣いに対する礼をいうと、メリイは僅かにほんの僅かに寂しげに笑みを浮かべると、首を横に振って、そう言いながら誤魔化し、答えてはくれなかった。

 

ーーーまだ、そこまでは信用してないといった所か。

 

そう思うと僅かに、胸がチクリとしたような気がした。

 表情が暗いとわかりながらも、好きな相手から何か相談されるのかと思い、頼りにされた事に不謹慎ながら嬉しく思ったが、まだ、出会って一ヶ月も経っていないのだ。出会いが出会いなだけあって、俺はともかく、メリイは未だに気まずく思っているかもしれない。自身の古傷を話すほどの信用はまだ、得られないのは当然と思えるから、俺はそう思うことにした。

 こういう戦場に置いて、互いにシコリを残すようなことはやめた方が良いだろうし、戦闘に支障が出てしまうかも知れない。

 通常種のオークや上級オーク(ハイオーク)、或いは今回でた火を吐く狼のような魔物ーーー実際は狩人が飼う狼犬とは関係ない全くの別種らしいーーーや兎のようで、何故かどこの誰かを彷彿させられそうな魔物などは、雑魚扱いで何か考えていてもなんとかなるだろう。

 しかし、遠くからとは言え、咆哮だけであそこまでの猛威を振るう魔物が相手だと、断じて雑魚扱いでは片付けられないし、まず、今の俺には厳しいかもしれない相手だと直感的感じ取っていた。最悪、アキラさん達に頼ることになるかもしれない。

 

 心中で渦巻く不安を余所に、俺は外郭領域の光景から目を外しメリイを見つめ話しかけた。

 

「メリイ」

 

「?ーーー何?」

 

話しかけられたメリイは誤魔化した手前、少しだけ気まずそう。

 

「あのさ、あまり思い詰めるなよ。」

 

「いたっ」

 

だから、俺は笑顔でメリイの額を人差し指で小突いた。

 小突かれたメリイは額を抑えながら、恨めしそうに頬を膨らませて睨んでいた。

 

「いだっ!?」

 

少し可愛いと笑いながらメリイを見ていると、メリイを弄っているバチが当たったのか、突然、後頭部に衝撃が走った。

「ヴェルス、あまり女性を苛めるな。さもなくば、この杖でお前を小突かなければならなくなる。」

 

背後からかけられる聞き覚えが有り過ぎる女性の鈴がなったような綺麗な声が聞こえた。

 油が切れたブリキよろしくのごとくの動きで自身の背後を振り返ると予想通りの人物がそこにいた。

 

「ママン!?いつの間にーーーいだっ!?痛い痛い、痛いって、ママ。」

 

なんとなく、その女性の雰囲気から巫山戯てみたが、ものの見事に殴られたーーーメイスで。メリイにも叩かれた事無いのに。

 

「誰が、ママだ。誰が・・・」

 

咄嗟に叫んだ女性を示す呼び方を女性は余程気に入らなかったのか、さらに追撃してきた。

 マmーーー間違えた、女性こと、リヴェリア様は深いため息をつくと攻撃をやめて、俺をジト目で睨む。

 

「はぁ、まさか、今日会ったばかりの奴にママ呼ばわりされるとは思わなんだ。

 まったく、ただでさえ最近、何故か周りでは私をママと呼ぶ者が増えているというのに、お前もか、お前もなのか?ヴェルス。初対面ーーーな気はしないが、何故、お前まで・・・。

 未だに独り身で子供がいない私がママと呼ばれるいわれがあるというのか。婚期を逃したという当てつけか?」

 

「いや、ただ単に世話好きで母性が溢れている所から派生したあだ名だろーーーって、いでぇ!?何する!ありがとうございます!!」

 

何やら悩みを抱えてらっしゃるリヴェリアさんに一緒にいた

 

「とりあえず貴様は黙っていろ、ルイヴァル。」

 

「いえ、黙りません、黙りませんからもっとください!我々の業界で貴方の罵倒と暴力は最高級品ご褒美です!」

 

「うるさい、近寄るな、黙れ、変態エルフ!」

 

「ぐへへへへへ、ありがとうございます。」

 

「・・・うわぁ、・・・変態がここまで来ると逆に清々しいわね。」

 

「リヴェリアさんの罵倒をあそこまで求めるか?・・・ある意味凄いな、あの残念エルフ。」

 

なんか変態がいた。リヴェリアさんに罵倒されながらも喜んでいる変態が。俺とメリイはその光景にドン引きしながら、黙って見守ることにした。

 リヴェリアさんはものの見事にキャラが崩壊しているな、マジで。本当にご愁傷様。

 

「お前たち、こいつを何とかしてくれ!」

 

悲鳴に近いリヴェリアさんの声が俺達に助けを求めていた。

 なんとかできないのかよ! いや、マジで、リヴェリアさんならなんとか出来そうだと思ったのだが、意外だ。

 

 俺はとりあえず残念エルフの背後に音も無く近づき、素早く組み伏せにかかる。残念エルフは避けようとしたが、その先を読んで組み伏せた。

 

「は、離せ~!野郎に罵倒されても嬉しく無いんだよ!リヴェリア様の罵倒が必要だ助けてリヴェリア様ぁ」

 

「・・・別に罵倒をした覚えは無いんだがな。」

 

俺に組み伏せられながらも、必死に抗う姿勢を見せ、リヴェリアさんに手を伸ばす残念エルフ。

 

「・・・しばらくそこで反省していろ。ヴェルス、そこの変態を適当な所に縛っておいてくれ。」

 

「ああ、わかった。」 

 

しかし、残念ながら、当のリヴェリアさんはそれだけ言うと、それ以降は無視を決め込む姿勢らしく、メリイの方へ歩いていく。

 俺はそこら辺に縛り付ける為に残念エルフを連行した。

 

「待ってえぇぇぇーーーーーー!!置いてかないでえぇぇぇーーー!!誤ります!!誤りますから!!セクハラして申し訳ありませんでしたぁぁぁーーー!!」

 

「な・ん・だ・と!?これが、いわゆる縛られながらも土下座する、縛り土下座というやつなのか!?」

 

「・・・何それ?、て言うか貴方はどこに反応しているのよ。」

 

連行されながらも、必死に叫ぶ残念エルフは額を石で出来た地面に何度も打ち付けていて、謝罪を繰り広げていた。その光景に何かくるものがあったかは不明だが、その必死さの土下座に戦慄した。そして、それらのやり取りをバッチリ目撃したらしく、メリイが呆れ果てた様子でこちらを見てため息をついていた。  

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

「さて、それはさて置き」

 

「アレをほっといて、置いとくんだな。」

 

「貴方は黙ってて。」

 

「はい。」

 

一つ咳払いをして、場を整え取り繕うリヴェリアにヴェルスが空気を読まない発言をしたが、メリイによって一撃で言葉的に沈められた。

 

「・・・リヴェリアさん、どうかしましたか?」

 

改めて気を取り直し、リヴェリアに話しかけるメリイ。

 問いかけられたリヴェリアはフッと一つ笑うと微笑んだ。

 リヴェリアの微笑は気品に溢れており、女神と言われても差し支えない美貌も相まって、メリイは一瞬だけ息を飲んだ。

 

「ああ、実はな、君たちに相談しておきたい事があってだな、私がここまで足を運ばせてもらった。」

 

リヴェリアは少し真剣な眼差しで俺とメリイを見つめるる。その眼差しにはこれまでの雰囲気とは少し異なっているようにヴェルス達は感じ取れた。

 

ーーー何か、頼み事か何かなのだろうか? 

 

ヴェルスは可能性の一つを考察する。

 というのも、これまででリヴェリアとの会話に出た話題で一際印象に残る話があった。 

 それは、ついさっきまで戦場で交わしたリヴェリアとの会話の中に出た噂だった。

 

《旧ナナンカ王国領の北東部付近に『迷宮』があるらしい》

 

ーーー迷宮・・・ね。

 

 記憶を探ると聞き覚えのある単語。何となく、思い出そうとする。しかし、ヴェルスはその衝動を咄嗟に思考を強引に打ち切った。

 理由は今更言うまでもなく、その作業自体が無意味だと本能でわかっていると結論が出ている。

 ヴェルスは思い出すのではなく、迷宮についての推論を考察することにした。

 しかし、その前にリヴェリアの頼み事について、しっかりと聞いておかなければならない。なにも、まだ『迷宮』についてと決まったわけではないのだから。

 

 改めて、ヴェルスはリヴェリアを見据える。リヴェリアの表情は先程とさほど変わりは無かったように窺えた。

 

「実はーーー」

 

リヴェリアがようやく本題に入ろうとしたその時だった。

 

『ォオオオオオオオオオオオオオオーーーーーーーーー!!』

 

辺りに強烈な衝撃と地響きが響いた。

 何事かと発信源の方向を見ようとすると、夥しい木材が砕ける音が辺りを蹂躙し、ヴェルスが守る東門付近とは反対側の方角から、松明が燃え移ったような炎が黒い煙を上げていた。

 

 そして、その煙が再開の狼煙であるかのように第二の防衛戦が始まりを告げた。

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