翌日。
穏やかな朝日が登ろうとしている時間帯は六時の鐘の音が鳴るまで静かな時が流れている。
そんな時間帯に起床した俺はまず、手洗い場で寝ぼける顔に両手ですくった水で顔を洗い歯を磨く。
なんとなく、ボーッとしながら、昨日のあの事について、もの思いにふける。
昨日、あの酒場で初めてパーティを結成した。
結成した相手は一人、それも綺麗な人だった。メリイさんと言うらしい。
思えば、あれからその事しか考えていない気がする。
彼女の隣に座った時は彼女に対して今気づいたように装ったが、実は酒場に入った時点に彼女の後ろ姿に気づいていたが、俺はそれに見惚れていたのだ。
さらさらとした青い髪、髪と同じ色で神秘的な深みがある瞳、そして、美しく整った顔立ちとともに、体全体から溢れる静かな雰囲気。しかし、どこか憂いを帯びていて、なんとなく、そう、なんとなく後悔し自身を戒めていたように感じたと気づいたのは彼女をパーティに誘って、帰る途中だった気がする。
彼女の事をどれもこれも鮮明に覚えていた・・・っていうか、俺はなにかんがえてるんだか・・・。
呆れ気味に誰ともなく肩を竦める。
パーティに誘った理由はなんだろうか。
ヒーラーだからか?
それもある。理由は前にも言った。
縁があったから?
それもある。あの時、助けて再び再会したんだ。縁を感じるのも無理はない。
雰囲気と印象に対してか?
それもある。ほうておけなかった。一見、気の強そうな彼女だが、俺に背を向けカウンターに座っていた彼女の姿は弱弱しかった。
同情か?
それはない。同情だけではパーティには誘えない。それは周りに頼り切ってしまい本人の成長を望みにくいからだ。自身の問題は回りに助けて貰うのもあるが、結局は自身で勇気を持って解決しなければならない。しっかりと乗り越えるための意思が伴わなければならない。
励ましながら、成長させるのもいいが、生憎、今はそれに構える程の余裕はない。同期や親しい者ならいざ知らず、まだ会って二回目だ。余程のことがない限り即座に手助けはできない。
いくら可能性を考えても、わからなかった。しかし、そんなことはぶっちゃけどうでも良い。
俺が彼女を誘った。それだけは事実だからな。そこにどんな理由があろうとも悔いはない。
しかし、それでも、なんだか変な気分だ。しかし、この感じは
なんなんだろうか、全く思い出せる気がしない。
仮に思い出せる気がしても、また、煙のように消えてしまうのだろう。
全くもってもどかしい限りである。ん?
廊下を歩きながら、考え事をしていると、鼻に芳ばしいパンの香りがした。
確か、廊下を真っ直ぐ行った先には食堂があったんだった。
ということは、誰かが朝食を作っているのだろうか。臭いからなかなかの腕前だろう。
別に行く予定では無かったが、臭いに釣られて食堂を覗いてしまう。
「あ、ヴェルスくん、おはよう。早いんだね。」
文字だけ見れば女子の台詞だが、現実は非情で、そこには料理の味見をして振り返った巨漢こと、昨日、マナト達にパーティメンバー候補として紹介したモグゾーがいた。
モグゾーは、味を確認すると、できた料理を6人分のお椀に注いでいき、テーブルにある椅子に置いていく。
「まあな、いろいろ準備あるし、飯だって作らなきゃならねぇしな。」
なんとなく、突っ立ってんのもなんなんで、朝食の準備を手伝って行く。
俺がそういうとモグゾーは何かを思いついたような表情になる。
「あ、そうだ、良かったら一緒にどうかな?朝食。」
モグゾーの願っても無い提案なので、二つ返事で了承して、作らせてばかりは申し訳ないからということで、昨日買った材料を提供して一緒に朝食の準備を進めていく。
準備を進めて、眼もようやく覚醒していく中、宿舎の一角から気配が動いた。
しばらくすると、気配は廊下まで来ていて、その人物が姿を現した。
「あ、おはよう。二人とも早いね。」
と、廊下から姿を現したのはマナトだった。
「よっ、おはよう。調子はどうだ?リーダー殿」
からかい混じりにマナトへ声をかけるとマナトは苦笑いを浮かべていた。
「あはは、初めてのことばかりで、なかなか、ままならないものさ。昨日は、穴鼠に2回襲われてね、大変だったよ。ゴブリンも水場を中心に探したんだけど、全然見つからなくてね、お陰で収入は0さ。
そういう、ヴェルスはどうだった?初日。」
それを聞いて、俺は思わず苦笑いを浮かべる。
なんとなく、頬をポリポリとかきながら、多分、狩りすぎたな、と結論にたどり着いた。
「あ~、なんか悪かったな。まあ、あれだ、俺がゴブリンを狩りすぎたから、多分見かけなかったんだろう。片っ端から水場、森の中、関係なく狩っていたから。すまん。」
それを聞いて、マナトは納得したようで頷いていた。
「あ、そうだったのか。
・・・やっぱり凄いね。」
「え?・・・ああ、そういうことか。」
マナトの言葉に一瞬、面くらいそうになったが、すぐに納得した。
「ヴェルスはソロなのに、森のゴブリンを枯渇寸前にさせる程の実力を持っていりそれに比べて、俺達はモンスターに分類されてすらいない穴鼠にすら苦戦している始末。先は長いよ。」
やはりというべきか、マナトは今の話を聞いて劣等感を抱いている様子だ。いや、マナトだけではない。一緒に朝食の準備をしていたモグゾーもだ。モグゾーも準備する手を止めて、俯いてしまっていた。
重っ、重苦しいなおい。こういう空気、俺、苦手なんだけど。とりあえず、フォローでも入れとくか。
「まあ、初日だからな。0なのは別に問題ないだろう。むしろ、一体でも討伐出来たら調子づいて、リーダーの言うことを聞かなくなりそうだしな。それに、お前らは見た目で見ると遅咲き派だから、今のうちに苦労はしといた方が良いぞ。」
「遅咲き派?もしかして、才能のこと?」
「ああ、そうだ」
俺の言葉に反応して、すぐに答えを導き出した。すぐに俺は査定する。
こいつ、やはり頭が切れるな。才能もあるし、恐らくハルヒロたちのパーティにいるのは、見捨てられなかったからか、あるいはリーダーをやりたかったか。他にもあるだろうが、結局はマナトしかその理由を知らないだろう。
まあ、どうでも良いか、そんなこと。
今、こいつらに必要なのは、生き抜くためのすべだ。
なら、答えてやるのも、いいだろう。
「マナト、それにモグゾー。
これはあくまで、俺が記憶にある情報ではなく感覚からくる情報だと理解した上で聞いて欲しい。」
あくまで、記憶ではなく感覚で得た知識。
そういう前提を話しておく。
朝食の準備をしながらもマナトとモグゾーは頷く。
俺は話を続ける。
「まず、才能には開花の段階で早咲き派と遅咲き派がある。
早咲き派はレンジやマナト、あと、ハルヒロも・・・かな。で、遅咲き派はモグゾーとシホルと、多分ランタ。
ざっくり言うと、早咲き派はこの世界に限れば、職業と才能という歯車ががっちり噛み合って、早くも歯車が動いている人のこと。遅咲き派は職業と才能の歯車ががっちり噛み合っていても、すぐには歯車が動かず、段々と動き始め、あるきっかけで、早く動く人のこと。
早咲き派は基本的に調子づかなければ、強く成りやすい。神官で言えば、どんどん優秀になっていく。一番注意することはさっき言った通り、調子に乗らないことと、プライドも高くなりがちだから気をつけろ。
それに比べて、遅咲き派は最初は成長が遅い。それ故に焦りがちに陥りやすい。だから、とにかく焦らず、しっかりと精神を律して経験や修行を積み重ねて行けば良い。
二人とも、歯車は噛み合っているから心配しなくても大丈夫だ。他も偶然にも職業と合っているな。特にハルヒロなんかは盗賊なら合っているどころか、ドンピシャだろう。なんとなく。
マナトは早咲き派だから、先を走り過ぎず、回りを見ることを進める。リーダーならなおさらな。あと、回りを頼ることを覚えた方が良い。なんとなく、一人で抱え込みそうに思える。
モグゾーは遅咲き派だから、素振りを毎日するべきだ。あと、恐怖に負けるな。誰も死なせたく無ければな。お前は戦士だからな。その心構えが大切だ。あと、金に余裕が出て来たら、兜を買った方が良い。その方が安心して前に出やすいだろう。
因みに俺は同じ戦士でも戦闘スタイルが違うから余り必要ないがな。」
「へえー、なんかやけに詳しいね。誰かに教えてもらったのかな?」
「消滅しなかった、感覚的経験則から来た情報を確信的に理解できる言葉に置き換えただけだし、偏見もあるから、あまり参考になるか怪しいけどな。」
「ふーん、そうなんだ。まあ、肝に銘じとくことに越したことはないね。」
「う、うん。」
おい、モグゾー。お前、本当にわかってんのか?前衛なんだからしっかりしろ。
とりあえず、視線に乗せて訴えてみたが、目を逸らされた。
この様子だと、しばらくかかるだろうなー。
俺は出された朝食をマナトとモグゾー、それから後から起きて来たメンバーと食べると、食べている時、ユメに少し絡まれたが、適当に相手しつつ、自然な形で宿舎を出ることができた。
宿舎から出る前のとき、
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第三者視点
宿舎を出たヴェルスが集合場所に着くと、すでに待ち人ーーーメリイが、既に来ていた。
「おはよう。メリイさん。」
とりあえず、挨拶を交わす。敬語はヴェルスがメリイに許可をもらっているため、問題ない。
「・・・おはよう」
いつもは無視する挨拶だが、最近、ただでさえパーティを点々としている、メリイに対して良くない噂が流れていて、他パーティに入りづらく成りつつある現状、余り、無愛想すぎるのもどうかと思うのと、1週間前に助けられた相手で、しかもその後も、恩着せがましい訳でもないヴェルスをすげなく(素気無く)あしらうことはメリイにはできなかった。
メリイはそれでも少し迷った素振りを見せてから、挨拶を返した。
「よろしくな」
ヴェルスはメリイに向けて、そう声をかけると軽く笑顔を作って見せると、ダムロー旧市街へ歩き出した。
よろしく、と辛うじて聞こえたメリイの呟きに等しい返しは太陽が顔を出したばかりの朝方、清々しい青空へと融けて行った。
メリイはヴェルスの後をついて行きながら、自身の変化に気付きながも、意識を切り替え、来る戦闘に備え、足取りをしっかり踏みしめた。
ーーーダムローは、昔、アラバキア王国第二の都市として栄え、ヴェルス達が住むオルタナを遙かに超える規模の都市だったが、
現在、ダムローはゴブリンの根城だが、ただ、旧市街と呼ばれるダムローの南東部は、市街を囲んでいた防壁は八割方崩れている。建物の崩壊率は半分以上、六割か七割といったところだろう。瓦礫があちらこちらに散乱している。瓦礫や石畳の道から逞しく生い茂る雑草、朽ちかけた剣や槍など、武器が転がっていたり、地面に突き刺さっていたりしていた。他にも、死骸やら骸骨やらが、そこらじゅうに広がり、ヴェルスが見たことも無い生物を見かけたり、鴉が矢鱈とひっきりなしに鳴いている。
「うおぉ!ついに来たぜ、ダムロー旧市街!!」
そんな場所に踏み入れたヴェルスは興奮した様子で、物珍しそうにキョロキョロと辺りを見渡していく。
それを見たメリイは思わず、溜息をついた。
「何で、騒いでんの?」
その問いに振り返ったヴェルスは無表情でも瞳に呆れが表れているメリイを見ると、乾いた笑いを出して、「悪い、ついな」とヴェルスは苦笑いを浮かべた。
「いや、なんかさ、初めて来る場所だから、テンション上がっちまってな。いやぁ、悪い悪い。あっはははは・・・」
「はぁ・・・あっそ。」
軽快に笑うヴェルスにメリイは最早、何を言っても無駄だろうと察して、素っ気なく返した。
「ハハハハハ。じゃあ、行こうぜ!こっからは真面目にやるからよ。」
「よろしく」
素っ気なく返されても、軽快に笑い続けるヴェルスはメリイに対して、笑顔でサムズアップを決める。
された側のメリイは棒読みに加え普段とは違う冷たさを纏った視線をもって返された。
ヴェルスは絶大なスルースキルをもって、それをスルーすると、ダムロー旧市街を辺りの気配を探りながら進む。
ヴェルスの気配探知はこの世界に来てから、性能が無駄に細かくなっている。
まず、探知範囲が半径二百メートル(ヴェルス視点の場合、元の世界のことも相まって、メドル表記)なのだが、性能は相手の位置、種族(呼吸や心臓の位置、生物の存在によって起きる空気抵抗率、臭い、生物が常に放つエネルギー、空気抵抗率による体型の把握、等々で特定する)雄か雌か、オーラの違い、空気抵抗率による武装などなど、無駄に細かい。
ヴェルスが気配を感知し終えると、一度立ち止まる。
「・・・どうしたの?」
怪訝そうに尋ねるメリイにヴェルスは軽く笑顔を浮かべて、紙とペンを取り出し、紙にペンを走らせる。
「なに、
そう言う中でも、ヴェルスは紙にペンを走らせる手を止めない。メリイはそれに対して特に何も言わなかった。
マッピングは突破していない場所では重要なことだ。場所に寄っては迷子になるし、ピンチになったとき、道選びに困ってしまうが、マッピングをしていれば、マッピングした地図から最短ルートを割り出すことが出来、逃げ場所を把握出来たり、迷わなくなるなど、いろいろと便利なため、何より、パーティでもいろいろと使い道があるため、メリイは何も言わなかったのだ。まあ、指揮の才能とは関係なさそうな気がするが。
地図を書きこみながら、メリイに会話を試みようとするが、「ええ、」「そうね」「別に」といった単調な返ししか帰ってこず、会えなく撃沈である。
なんとなく、落ち込むように見えているヴェルスは紙に地図を書き込み終えると、再び散策とゴブリン討伐のために歩き出した。それにメリイも後に続く形で歩きだす。
しばらく歩くと、ヴェルスは不意に足を止める。
「どうしたの?」
「敵だ。」
突然止まったヴェルスにメリイは怪訝そうに聞くと、簡潔にヴェルスは答えた。
「は?どこに?」
辺りを見渡しても敵の姿は確認できない。メリイは尚も怪訝そうな様子で聞く。
「待ち伏せされている。前方の右の瓦礫に2匹、反対側の半壊した建物の壁の裏側に一匹。3匹共、ゴブリンだな。」
ヴェルスはメリイの問いに答えると、気配の探りを深くする。
「分かるの?」
「気配でわかる。むっ・・・気配が動いた。
メリイ、少し俺と距離を置いてくれ。もしもの時の治療をお願いする。嘘だと思って信じてみろ。」
「はあ、わかったわ。嘘だったら、これで殴ってあげる。」
敵の動きを気配で感知したヴェルスは未だに疑っているメリイに指示すると、メリイが自身の錫杖を示して物騒な言葉をいいながら、ヴェルスの指示に従って、少し距離を取るのを確認すると、先にある瓦礫と半壊の建物の間にある道を通る。
そして、
「ギャアア!!」
「グギャアア!!」
「ギギャアア!!」
3匹のゴブリンが先程ヴェルスが述べた場所から飛び出して来たのだ。
ヴェルスから距離を置いたままのメリイの表情に驚愕の色が浮かんでいる。さしものメリイも見習い義勇兵が気配で敵の位置特定ができるとは思っていなかったようだ。
ヴェルスは何だか、得意気だ。
敵を前にして、既に隙だらけだと思ったのか、剣持のゴブリンがヴェルスに襲いかかろうとした次の瞬間、さっきの得意気に緩めていた眼が鋭い視線を放つ。殺気だ。
殺気をまともに受けた剣持ゴブリンは一瞬にして硬直し、他の2匹のゴブリンも余波を受けたようにたじろいだ。
「隙だらけだ。」
ヴェルスがそう呟くと身体に元から染みこんでいたように体術を駆使し、剣持ちゴブリンに一瞬で近づきながら、背中にある短槍へ右手をかけ、剣持ちゴブリンを通り過ぎざまに下から上へ一気に短槍を振るうと剣持ちゴブリンの首を深めに搔き切った。
やられた剣持ちゴブリンは力無く倒れた。
一瞬の交差で一匹やられたことに二匹のゴブリンたちは動揺して、再びほぼ同じ要領で二匹を倒した。
完勝だった。
三匹のゴブリンは首筋を深く搔き切られて絶命しているのに対し、ヴェルスの方は擦り傷どころか返り血すらついていない。
ヴェルスは悠然と立ちながらゴブリンたちの死骸を眺めていた。
今まで傍観に徹していた流石のメリイも一瞬の蹂躙に呆然と立ち尽くし、目を見開いていた。
その後、ヴェルスはゴブリンたちからの戦利品を辺りを警戒しながら、確認していた。
さっきまで、驚いていたメリイはヴェルスが戦利品を確認している間、一見、ただ突っ立っているように見えるが、辺りの瓦礫や半壊の建物に目を向け、警戒していた。
ヴェルスは「ご苦労さん」とメリイに声をかけて、返しを待たずに探索を再開させた。
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それから、複数のゴブリンとの戦闘を繰り返し、気配を探り、安全な場所で昼食を済ませる。
昼食の間はメリイと交代しながら警戒して、建物の中で休んでいた。
「ふむふむ、今の所、順調といったところだな。」
「・・・」
作成した地図を眺めながら、ナチュラルにフラグを立てるヴェルスに対してメリイは無言で周辺を警戒している。
一瞬、会話の少なさに文句が湧いてきたが、まだ、初日であるのと、そういう性格なのだろうと自身を納得させた。
その後、ヴェルス達は昼の休憩を終えると、ゴブリン狩りを再び再開させた。
しばらく二~三匹のグループ、またに五匹グループのゴブリンを狩り続けて、太陽が傾き始めたことに気づき、そろそろ帰るかとヴェルスが考え始めた時、不意にヴェルスの脳内に警報の鐘が激しく鳴り響いた。
「ーーーッ!!」
ヴェルスは咄嗟に後ろにいたメリイの腕を掴んで自身に引き寄せ、着ていた赤いウールを手で翻した。
そして、飛来してきた矢が翻されたウールに受け流され、地面へ落下する。
ヴェルスはそれには目もくれず、矢が飛来してきた場所を睨む。
そこには、クロスボウを構えた状態のゴブリンが一匹がいた。
「ギギャガアア!!」
一匹のその声を合図に辺りにゴブリン達が姿を現した。
(考え過ぎて、敵の感知を怠ったか。)
ヴェルスが思わず内心で悪態をつくが、すぐに意識を切り替え、気配をたどり、辺りを見まわす。
敵の総数は全部で五匹。半壊した建物の屋根に
「上位ゴブリンにボブゴブリン」
引き寄せられて必然的にヴェルスに抱き寄せられる形になっているメリイが驚いた様子ででっかいゴブリンと鎧ゴブリンを見ていた。
「でっかいゴブリンがボブゴブリンで、鎧やら兜やら無駄に装備しているゴブリンが上位ゴブリンだな。うん」
確認がてらに飄々とした口調で納得するヴェルスにメリイは真剣味を帯びた様子で頷く。
この状況でこういう真剣染みた顔も良いなとメリイの表情を見て思うヴェルスはきっとずれているのだろう。
「ねぇ」
「ん?」
「いい加減離してくれない?」
未だにメリイを抱き寄せられた状態であり、迅速に動くために抱き寄せる張本人のヴェルスに人を殺めそうな鋭い睨みを効かせながら言った。
「あ、いや、わりぃわりぃ!!」
「敵に背を向けない!」
「うおっ!」
指摘されて慌ててメリイに謝りながら、離れるがメリイに再び口調を強めに指摘される。
慌てて、振り返って鎧ゴブリンと向かい合う。
「ギャアア!!」
鎧ゴブリンが他のゴブリンたちに指示を出す。
ゴブリンたちは指示にしたがってヴェルスたちに襲いかかるために間合いを詰める。
「メリイ、前衛は俺に任せて、後ろに下がれ!クロスボウ持ちと伏兵にだけ気をつけて治療に専念してくれ!伏兵は右側の瓦礫に潜んでる。気を付けろ!」
「わかった」
意識を強引に切り替えてヴェルスは鎧ゴブリンから目を離さずメリイに指示をだすとメリイは短く答えて、クロスボウ持ちとヴェルスが気配で探り当てた伏兵に警戒し身構える。今の所、伏兵が動く気配はない。というより、気付かれている時点で最早伏兵でなくなっていることに、ゴブリンたちは気付いていない。
前方のゴブリンたちの様子を伺うヴェルス。
因みに前衛を務めるヴェルスは必然的にメリイが警戒しているクロスボウ持ちと伏兵がヴェルスに矛先を向けるのを含めると、六匹のゴブリンを相手にするのだが、ヴェルスは全くといっても良いほど焦ってはいなかった。
それもまた、感覚だった。まるでこれ以上の数と闘い慣れているかのようでその精神的経験からヴェルスの焦りという言葉を頭から消し去っていた。
一方のメリイは流石に心配そうというより、焦りがあった。
こちらはヴェルスが一人に対して、相手は事実上六匹。普通なら絶望的場面だ。いくら複数のゴブリンを相手に出来ても、限界があるだろう。
そして、相手には上位ゴブリンにホフゴブリンまでいる。今まで相手にしてきた普通のゴブリンたちとは訳が違う。流石のヴェルスでも勝ち目はないだろう。
メリイも前衛をサポート出来る程の実力はあるが焼け石に水だろう。
しかし、メリイがヴェルスの表情がチラリと僅かに見えたとき、なぜか、安心してしまった。
圧倒的絶望に立ち向かうその姿、それはまるで、目の前の存在が
「いくぞ」
静に、ヴェルスがその言葉を呟くと同時に闘いの火蓋は切って落とされた。
優しい意見やアドバイスからなかなかな辛辣な意見、ありがとうございます。
なるべく、投稿を頑張る所存ですので、拙い文章ですが、読んでいただければ幸いです。