グリムガルの冒険者   作:龍神王聖人

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少し、変なところがありますが気にしないで頂ければ幸いです。


第三話 イレギュラー

 先に動いたのは、鎧ゴブリン側からだった。

 槍持ちと剣持ちがヴェルスに接近し、屋根からクロスボウ持ちが矢を放つ。

 

「ギャギャア!!」

 

まず、左側の槍持ちが一歩、こちらの間合いに踏み込みその手に持つ簡素な作りの短槍をヴェルスに向け突き出す。

 

「ギィィ!?」

 

 突き出されたゴブリンの短槍を、ヴェルスは後ろ足に重心を移し体を逸らしたことでそれを躱しつつ、右手に持つ短槍を半回転させ、刃とは逆の方にある石突きをもって的確に槍持ちゴブリンのこめかみを撃ち抜き、その攻撃で激しい痛みに襲われ、悲鳴を上げるゴブリン。その短槍を持つ手が一瞬、衝撃で緩む。一瞬の隙にその短槍をゴブリンからかすめ取り、短槍を右側の剣持ちゴブリンへ牽制のために投擲する。

 剣持ちゴブリンは咄嗟に飛来する短槍を大きく後ろに下がりながら、剣で迎撃するが、後ろに下がったことで狙い通り牽制が成功しヴェルスの思惑通りゴブリンとの間合いが開けた。

 そして、ヴェルスは最後に飛来するクロスボウの矢を投擲した体勢から左腕を左側へ薙ぎ払うように戻しながら左手でその矢を苦も無く掴み取り、流れるような体裁きで、短槍を奪われた無手のゴブリンに急接近、左手に逆手持ちで矢尻の方を向けて、そのままゴブリンの喉元に突き刺す。

 

「ーーーッ!!」

 

そのゴブリンが力無く倒れるのを見送るのもそこそこに、近くから突如として殺気が急激に膨れあがると同時に激しい警報がヴェルスの脳内に響きわたった。

 咄嗟にヴェルスはその場から飛び退く。

 

ーーーッッッ!!!

 

 ヴェルスが避けた直後、軽めに地鳴りを感じ取り、空中でヴェルスがそちらに一瞬目をやると棍棒が振り下ろされていた。

 

「フゴォォォーーー!!」

 

振り下ろした張本人であるホブゴブリンは力を誇示するように雄叫びを上げる。

 

「ーーーっ!!」

 

次にホブゴブリンの攻撃から切り替え(スイッチ)するように今度は殺気が向けられているのを感じた。

 それは着地地点にヴェルスが着地した瞬間を狙うように動いていて、ヴェルスが着地したと同時に剣が突き出された。

 ヴェルスは着地したと同時に短槍を両手で縦に構え、突き出された攻撃を短槍の柄で左側に逸らし、軽く弾くと短槍の矛先を攻撃してきた鎧ゴブリンの首筋を狙うように斜めに素早く振り下ろした。

 

「ギャガァ!!」

 

しかし、その攻撃は鎧ゴブリンが左腕に装備された籠手を攻撃の軌道に遮るように翳して、それを防いだ。

 金属音があたりに響き、ヴェルスは横に半回転させ石突きで剣を持つ鎧ゴブリンの右手首を叩き、突き上げ、叩き、突き、二段突き、V字の二段払い、などなどリズミカルに流れるように短槍を使いながら鎧ゴブリンを責めていく。

 鎧ゴブリンは重症と呼べる傷は無いものの、体のあちこちに決して浅くない傷をつけられていく。

 時折、矢が飛来するがそれすらも利用して、鎧ゴブリンへの攻撃の道具に使って鎧ゴブリンを追い詰めていく。

 

「ギャ、ギャガァ・・・」

 

肩で呼吸をする鎧ゴブリンはなんとか剣を構えながらも満身創痍の状態で今にも倒れそうだ。

 ヴェルスがさらに追撃を仕掛けようと片足に力を入れる。

 その時、

 

「ギャガァァァーーー!!」

 

鎧ゴブリンが突如として奇声を上げる。

 一瞬、その奇声に気を取られる。

 

「ヴェルス!!」

 

後方のメリイの悲鳴染みた声が辺りに響く。それは助けを呼ぶ類では無く、警告を報せる声であることにヴェルスが気づいて、気配を探そうとしたーーー次の瞬間、脳内に再び警報が響きわたる。

 

「ーーーッ!?」

 

左側の死角から、長さ一メートルから一メートル二十センチ程の投槍がヴェルスの左肩めがけて投擲されていた。潜んでいた伏兵である。

 しかし、ヴェルスは自身の短槍の石突き手前の柄で死角から迫り来る投槍の矛に近い部分へ気配のみで的確に当て、それを上へ押し上げ、軌道を逸らした。

 だが、攻撃はそれだけではなかった。

 

ーーー!!

 

ヴェルスは僅かな風の音を聞いた。短槍の柄を握りしめ、その矛で飛来したクロスボウの矢を打ち払い、右側から迫ってきた剣持ちゴブリンの右手首を切断し、無手となったゴブリンの喉を切り裂く。

 

 投槍→逸らす→飛来した矢→打ち払い→小手突き→切断→命を刈り取る。ここまで一連の動きを一筆書きのようにヴェルスは華麗に攻撃を行ってみせた。それこそ、メリイが叫んだ意味があったかどうかを疑うほどに焦りのない美しさを纏った武術をヴェルスは打ち出していた。

 しかし、ヴェルスにとってはやはり反射的に行っていたため、打ち出した後になっっ

 後方から見守っていたメリイは唖然とした表情でその光景を見ていた。

 

 本来、多勢に無勢であるこの状況で成されている事は初陣してから間もない見習い義勇兵が出来る所業ではなく、グリムガル最弱であるゴブリンが相手であってもあり得ない。しかも、今回の戦闘のゴブリン達の中には上位ゴブリンやホブゴブリンもいる。こういった戦闘は、まだまだ未熟な腕の見習い義勇兵が単独で撃破は出来ないはずなのだ。大抵の場合、一匹も倒せずに命を落とすだろう。

 

 しかも、今、メリイがヴェルスと組んでいるパーティでは、ゴブリンの集団との戦闘でヴェルスが一人で戦闘をこなすパーティだ。

 本来、パーティは6人で組むもので、仲間同士で連携して闘うスタイルが主流だが、今回のパーティはメリイとヴェルスの二人だけ。普通、この状況は絶望的だろう。

 しかし、ヴェルスは憶した様子もなく、武器を振るい、戦闘が始まって十秒も経たぬうちに、すでに二匹のゴブリンを屠っていた。

 

 今まで、ゴブリンの集団と遭遇したことは何回か経験しているメリイだが、ここで広がる光景に目が離せないでいた。

 彼が行う芸当は凄まじいものでそうこうしている内に、左手に持ち替えた短槍で剣持ちゴブリンを貫き、地面に突き刺さっていた投槍を右手で掴み取り、屋根に投擲。矢をクロスボウに装填しようとするところを狙われ避けられずそのゴブリンのこめかみに突き刺さった。

 

「無茶苦茶ね・・・」

 

メリイは目を見開きながら、そんな呟きを漏らさずにはいれなかった。

 思えば、未だに敵はメリイへの接近を許していなかった。その事実に気付かない程の驚きが目の前の光景にあった。

 

「ギャガァァァ!!」

 

そんな中、この不利な戦局に抗うかのように、上位ゴブリンが再び奇声を上げた。 

 上位ゴブリンはすでに満身創痍の状態であるが、そんな状態であっても、その瞳には冷静さが宿されていて、ホブゴブリンに命令を下していた。

 ヴェルスもそれを感じ取り、メリイに一瞬の目配せをして、攻撃に備えるためにホブゴブリンと上位ゴブリンを視界に捉えながら構えた。

 

「フゴオオオーーー!!」

 

しかし、そこで上位ゴブリンにとっての誤算が生じた。

 

「ギャガッーーー!?っギャガガガァァァーーー!!ーーーーーー」

 

ホブゴブリンが先程よりも凄まじい一撃を繰り出したことによって、辺りに地響きが鳴り響き、その衝撃によって、近くの半壊した建物を崩壊に追い込み、上位ゴブリンが悲鳴に近い声を上げる。

 しかし、ホブゴブリンの攻撃はそれだけでは終わらなかった。

 ホブゴブリンが棍棒を中段に構えた途端、 

 

「何ッ!?」

 

「嘘っ!?」

 

一瞬、二人には何が起きたか理解が出来なかった。

 それ程なまでに、衝撃的な出来事が目の前で起きたのだ。

 ホブゴブリンは上位ゴブリンよりは勿論、普通のゴブリンよりも知能が低いと言われていて、大抵のホブゴブリンは上位ゴブリンの戦闘奴隷として、飼われているとヴェルス達は情報として知っていた。

 しかし、今、目の前で起きた出来事。

 それは一言で表すならば、〈反逆〉だ。

 今まさに、ホブゴブリンは武器である棍棒をこちらに中段構えから振り下ろすフリ(・・)をして、その棍棒の軌道を振り下ろす途中から上位ゴブリンがいる真横に(・・・・・・・・・・・・・・・・)薙ぎ払った(・・・・・)のだ。

 衝撃に竦んでいた上位ゴブリンは突然の不意打ちに奇声を上げる事しかかなわず、棍棒によって頭部を兜ごと粉砕された。

 ヴェルスは反射的に大きく飛び退き、メリイの目の前で着地した。

 

 すると、ヴェルスが飛び退くと同時に、頭部を粉砕したことによって、頭部が無くなった首の部分から吹き出した血飛沫が辺りを赤く染め上げ、血霧が薄らと発生していた。

 

「フッゴオオオオオーーー!!」

 

吹き出した血飛沫をその巨体に盛大に浴びて、雄叫びを上げるホブゴブリン。

 ヴェルスはホブゴブリンを観察しており、メリイは次々に起きるイレギュラーにどう対応すべきか困惑していた。

 

「なあ、メリイ」

 

「・・・何かしら?」

 

悩むのをそこそこにメリイは話し掛けてきたヴェルスを見る。

 ヴェルスはホブゴブリンを視界の端に捉えつつも、笑顔で引き攣らせながら、メリイの方にゆっくり振り向いたまま、尋ねる。

 

「こんなことってよくあるのか?」

 

「私が知る限り、こんなの初めてだし、聞いたこともないわ。」

 

「だよなー、一般のゴブリン族に対しての常識としてはあり得ないもんな~。」

 

今も雄叫びを上げているホブゴブリンを茫然と眺めながら、今後、どう行動するかを決めようとした。

 

「フゴッ!?」

 

ーーー決めようとしたのだが、ホブゴブリンが今さらのようにこちらに気づいたので、再び身構えた。

  

「フウ、イイアセカイタ、トデモイエバイイノカ?ソレトモ、ウィィートサケブベキカ?」

 

「・・・なんだ、この突っ込みどころ満載のホブゴブリンは。異端児(ゼノス)かなんかか?」

 

身構えたのだが、ホブゴブリンが発した人間臭い片言台詞に思わず、ズッコケそうになる。メリイに至っては驚きすぎて、ヴェルスの呟きに近い発言をスルーしているのと顔が凄いことになっている。

 それに気づいたヴェルスは思わずメリイの顔を見つめている。

 そして、その視線に気づいたメリイ自身がすぐに正気に戻って、

 

「・・・何見てんの?」

 

と自身を見ていたヴェルスを恥ずかしげに頬を薄らと紅く染めながらもその瞳には見たら誰もが震え上がりそうな絶対零度の冷たさを宿して、睨みつけていた。

 

「いや、可愛いと思ってな」

 

とヴェルスはメリイの表情に起きているギャップに思わずにやけそうになって、それを誤魔化すためにヴェルスは良い笑顔で爆弾を投下した。最早、誤魔化す気なのか、恥ずかしめたいのかよくわからない発言だ。まあ、本人に至ってはマジであるからなおタチが悪い。

 

「ハァッ!?・・・ばっ、馬鹿じゃないの!?」

 

とメリイの顔が羞恥で紅かった頬がヴェルスの爆弾発言によって、さらに紅くなっていたが、その時にはヴェルスはメリイに背を向けていてホブゴブリンと対峙しているためにそれに全く気づいていなかったのはメリイにとっては不幸中の幸いだろう。

 

「ヴォッホン!」

 

なぜかホブゴブリンが片手の拳を口元に当てわざとらしく咳払いをしながら、気のせいかジト目でヴェルス達を見ていた。

 改めて、向かい合うと、ホブゴブリンの口元が緩む。

 

「サテ、・・・ヤル?」

 

ホブゴブリンが棍棒を構えながら尋ねる。マジ顔だ。

 

「殺らない。」

 

ヴェルスは肩を竦め、それを断る。こちらもマジ顔だ。竦めている時点で怪しいがヴェルスはやるつもりは無い。

 

「ワカッタ、・・・ジャアナ。」 

 

すると、それを察したホブゴブリンがあっさり踵を返す。

 

「ああ、じゃあな。」

 

何事もなかったかのようにヴェルスも片手を上げて見送る。

 しかし、普通に考えればホブゴブリンがわざわざ背を向けて歩き出すーーーーーーはずもなく、

 

「ヤッパシ、テアワセシヨゼ☆!!」

 

背を向けた状態から、ノリでと言わんばかりにホブゴブリンは棍棒を振り向きざまにニヤリと薙ぎ払いながら笑う。

 

「いや、キモいからな。語尾に星とか」

 

迫り来る棍棒にヴェルスは自分も人のこと言えないセリフ(第一話を参照)を吐きながらその攻撃をかいくぐり、ホブゴブリンの手首を突きにかかる。

 

「ダガ、カンケイナイ!!」

 

しかし、ホブゴブリンは器用に手首を使って棍棒の軌道を変えてヴェルスに向ける。

 ヴェルスは棍棒に背を向ける形で躱し、背中と棍棒の間に矛を下にして短槍を背中に背負うように割り込み、棍棒に添えた。そして、棍棒が出す力を受け流し、棍棒の下を槍を添えながら、躱しざまに短槍を持ち替えて、下から矛を突き上げる。

 

 

 しかし、一瞬の間ーーーーーー

 

 

 

「ヌガァァ!!」

 

ホブゴブリンがそう叫んだ時、ヴェルスは振り上げられる棍棒を眺めながら空中にいた。

 ホブゴブリンがヴェルスの攻撃を読み切って再び軌道を変え攻撃、それをヴェルスは潜在的に存在していた冒険者の直感で感じ取り、その攻撃の衝撃を受け流しながらも、衝撃の勢いを利用して大きく空中に飛んだのだ。

 

 そして、ヴェルスは空中で体制を立て直して、建物の屋根に着地した。

 廃墟の屋根は運良く頑丈だったため、足元から崩れることは無かった。

 

「・・・フム、ナカナカヤルナ、ニンゲン。ナハ?」

 

棍棒をしばらく見てから、その場にいるメリイは眼中に無いかのように棍棒を肩に担いでヴェルスがいる屋根を見上げ、問いを投げかけた。

 

「ヴェルス。あんたは?」

 

本当は名前を聞くときは自分からが礼儀なのだが、ゴブリン族にそんな教えを説いても無意味だろうと判断してヴェルスは名乗った。

 

「ソウイエバ、ナノッテイナカッタナ。オレノナハ、ゴブロウタ、ダ。」

 

ヴェルスがゴブロウタに同じような問いを投げかけると、ゴブロウタは棍棒を器用に持ちながら、人差し指で頬を掻きながら自身の名を告げた。

 

「それで?ゴブロウタ。まだやるのか?」

 

ヴェルスは短槍を肩に担ぎながら辺りの気配を探りながらも、目の前のゴブロウタから視線を外さずに問いかける。

 今の所、先ほどの攻防ではお互いに怪我は無い。しかし、疲れの度合いとなると、さっきまで一人で複数の敵を相手にしていたヴェルスの方が分が悪い。

 ゴブロウタの方は一見、大した疲れや怪我は見受けられないが、その瞳にはヴェルスに対する驚きと強い警戒があった。

 

 しばらくの間、お互いに動かず出方を伺い、睨み合う?状況でその場が硬直していた。

 しかし、不意に硬直していた空気が解くようにゴブロウタが頭を掻きながら肩をすくめた。  

 

「イヤ、ヤメテオコウ。コレイジョウハ、エルモノガナイ」

 

ゴブロウタはそういうと、背を再び向けて歩き出す。どうやら今回は本当に帰るらしい。殺気すらも向けずに帰ろうとしていた。

 普通はここまで戦ったなら自身に背を向けて無防備のホブゴブリンが他に仲間がいない状態の敵を見たら間違い無く襲うだろうその場面であるのだが、

 

「そうか、ならそうしよう。」

 

ここに常識破りがいた事は敵も味方も予想外だっただろう。現にゴブロウタは驚愕の表情を、メリイは固まってしまっている。

 

「待ちなさい!!」

 

違和感だらけで、なかなか良い雰囲気で終わろうとしていた空気に流れについて行けないメリイが正気を取り戻し待ったを掛けた。

 

「ナンダ?セッカク、イイフンイキデオワッテイタンダガナ。」

 

「うわぁ~」

 

「・・・」

 

ゴブロウタは顔に不満げな表情と肩を竦めて首を左右に振りながら呆れた様子を見せる。

 このゴブロウタが見せる無駄な人間臭さがかなりウザいと思ったのはメリイだけではないようで、ヴェルスも若干顔が引き攣っている。

 本来、メリイはヴェルスよりもキャリアがありホブゴブリンに対しての知識もあるが、目の前にいるゴブロウタと名乗るホブゴブリンのような個体は初めてであり、元々、知能が低く戦闘奴隷として飼われているホブゴブリンと違って人間族の言葉を理解し喋れる程の知能と知性があり、妙に人間臭い。それとウザい。

 このホブゴブリンは普通のホブゴブリンと一線を画す存在であることはメリイにも理解は出来たが、何故ゴブロウタは下がろうとしているのかがメリイには疑問だった。

 

「あなた、正気?」

 

メリイがゴブロウタに問いかける。このまま見逃す気か?と。

 

「ナニガダ?」

 

ゴブロウタはとぼけるように問い返す。それがどうかしたのかと。

 

「ここまで来て、何故殺し合わないの?」

 

メリイが核心に迫る。常に命懸けの戦いをしている相手に対しての当然の質問。

 

異端児(ゼノス)

 

ゴブロウタが言った言葉はヴェルスがゴブロウタへ最初に呟いた言葉だった。

 

「・・・え?」

 

メリイは思わず聞き返す。ゴブロウタが言った単語(・・)の意味が判らなかったから。

 

異端児(ゼノス)トヴェルス、オマエハツブヤイタ。ミノガスリユウハソレダケデジュウブンダ。」

 

ゴブロウタは片言な人間語でそういうと、再び、ヴェルスたちに背中を向けて歩き去った。

 

 その背中をヴェルスは僅かな警戒をしながら、メリイはその表情に僅かな困惑を残しながらも見送っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 

 

 

 夕暮れが空を赤く染め上げ段々と黄昏れていた。

 俺達はダムローを出て、帰路についていた。

 

 奇妙なホブゴブリンーーーゴブロウタとの出会いから数時間。

 

 結局、あの後にそのホブゴブリンと出くわす事は無かった。

 

 それから、メリイはあの後、無表情ながらも何か考えている様子で、その瞳には僅かな困惑が見て取れた。

 あのホブゴブリンは何なのか、その疑問を何とか理解しようと考えているのかもしれない。

 そんなことになっているため、俺達の間には会話が無いに等しい。

 だが、何となくだが、メリイは俺に対して本当は聞きたい事があるのかもしれない。チラチラとたまにこちらへ視線を寄越している。

 しかし、聞くのは後回しにしている節があり、理由も何となく察しているため、放置している。

 

 一方、今日の稼ぎの方は、午前中はゴブリンをそれなりに狩っているはずで、午後も漁夫の利ではあるが、鎧ゴブリンから戦利品(兜を除く)を手に入れていて、ざっと30シルバーは堅いだろう。

 

 

 

 そんな帰り道、何となく気まずいこの状況で、遭遇戦などの戦闘はなるべく避けたいが、こういう時に限って遭遇戦の確率が無駄に上がる訳で、索敵を広げていても躱しきれずに二・三戦やる羽目になった。まあ、気づかれている時点で遭遇戦とは言えないが。

 しかし、この気まずい雰囲気はダムロー旧市街やオルタナ近くの森を抜け、城壁が見えてきた時、唐突にここまで貫いてきた沈黙がメリイによって破られる。

 

「・・・ねぇ、」

 

僅かなか細い声が耳に入った。小さいながらもしっかりした声だ。

 俺はその声を聞いて、声の主ーーーメリイの方を振り向くとそこには相も変わらぬ難しそうな表情で冷たい目を俺に向けるメリイがいた。しかし、その瞳には冷たさの他に覚悟を決めたような意思が窺えた。

 

「なんだ」

 

俺は簡素に返事を返す。

ここなら、敵との遭遇も低いし、何となく、人には聞かれたくない話な為、城壁が近く、しかし人気が無い、森の入口付近のこの辺りが丁度良いだろう。見習い義勇兵が通り掛かっても、気配感知を敏感なままの状態で警戒すれば問題ない。

 

ーーー恐らく、あの質問だろう。

 

そう予測を建てながらも俺は次の言葉がメリイから発せられるのを待った。

 しばらく沈黙が訪れる。メリイは何度か目線を外して再び躊躇う様子を見せたが目線を俺に戻すと口を開く。

 

「あのホブゴブリン、何なの?」

 

メリイは予測通りの質問を投げかけてきた。

 その青い瞳には俺が何か知っているかもしれないと思っているような疑惑が感じられた。

 

「俺に聞くなよ。わかるわけないだろ?」

 

俺は平然と誤魔化しつつ肩を竦めて答える。

 

「・・・そんなわけないでしょ?」

 

しかし、誤魔化しは通用していないようでメリイの目からはまだ疑惑の眼差しが消えていないように感じられた。というか、普通に疑っているし。

 きっと、まだそう疑う理由があるのだろう。

 

「じゃあ、あんたがそう思う根拠は?」

 

俺は再び肩を竦め、その眼差しを受けながらメリイに対して根拠を尋ねてみる。あんた、と俺が言った瞬間、メリイの目元が一瞬、鋭くなったが見なかったことにした。だって、今まで以上におっかないだもん。ヤバいっしょ。

 

「あんた、あのホブゴブリンを一度だけ、“ゼノス”って呼んだでしょ?ゼノスって何?」

 

そんな内心知ったこっちゃないとばかりにメリイはその青い瞳を真っ直ぐ俺を見据えて問いを投げかけた。

 言葉に含まれているぎこちなさはあるものの案の定、メリイはあの時の言葉に対する質問だということをその根拠は表していた。たった一度で、しかも呟いた程度の言葉だったが、ゴブロウタ同様、しっかりと耳に入っていたらしい。

 

 しかし、俺にはこの問いに答える術は生憎持ち合わせていない。

 理由としては、この発言もまた反射的で、記憶に関係している事だ。

 この世界で送った日常と名前以外、記憶ではっきり思い出せる事はない。

 それによって、メリイの問いに対する答えは自ずと定まってくる。

 

「・・・すまんが、思い出せそうにない。異端児(ゼノス)が何なのか、皆目見当がつかない。」

 

 俺は申し訳なく思いつつもメリイの瞳を見据え、答える。

 メリイは聞き終えると何となく予想していた様子で「そう、」と呟くと俺から視線を逸らした。

 しかし、これで話は終わりではない。

 

「ただーーー」

 

その声にメリイは一旦外した視線を俺に戻す。

 

「俺が発言した時、異端児、という意味を含めてゼノスと言っていたのは確かだろう。

 俺は義勇兵の中でも最底辺の見習い義勇兵で、まだ経験が浅いから推測の域が出ないが、この“異端児”と言う意味は恐らく、本来、知能が低いとされるモンスターの中で例外的な存在と考えられると思うぞ。普通のゴブリンは、何も言わないと聞いているが。仮に喋れたとしても、新市街にいるだろうから、ここで見かけるのは可笑しい。

 人間族の言葉を喋り、理解したということは知能が人間族並にあるかもしれねえな。」

 

メリイと視線を合わせながら俺の推測を語ると、メリイのその青い瞳に一瞬、最底辺の義勇兵という所で疑いの色が浮かんだが気にしない事にした。

 

「・・・そうなんだ。」

 

「ああ、かと言って、あまり敵対すべき相手ではないだろうな。

 あの強さは異常だ。相手は元々の力強さに加え、攻撃の数手先を読んでいた。それに器用さも驚異だろうな。

 あのでっかいゴブリンは元から知能が高いのか?」

 

俺の質問にメリイは首を横に振る。

 

「そんな筈は無いわ。ホブゴブリンは上位ゴブリンに飼い馴らされる程に知能低い。またに知能が高いホブゴブリンもいるけど、喋る程では無いわ。

 それに、」

 

メリイは言葉を一旦切ると、その青い瞳をダムローがある方向を眺める。

 

「それに、私もあのホブゴブリンは異常だと思う。気を付けるに越したことは無いわ。」

 

「・・・そうか」

 

俺は夕陽に照らされ夕焼け色に染まるメリイのその横顔を眺めながらそう呟いた。俺はこの時、何となく、メリイと意見があったことに嬉しさを感じていた。




あまり進みませんね。後、異端児については飽くまでヴェルスの推測として語っていますのであしからず。
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