・・・・・・あと、なかなか進みません。(´θ`llll)
紅い月が妖しく、光を称えている。
町には夜の帳が降り、街角にはチラホラと建物や家々に灯り始めていた。
そんな夜の町を練り歩きながら、休憩がてらに片手に持った屋台で買った串肉を頬張る。
歩くこと数分、目的の建物に到着した。
ーーーオルタナ辺境軍義勇兵団レッドムーン
と、文字で書いてある・・・らしい。ぶっちゃけ、所々がボロボロで別の事が書かれているようにしか見えない。ある意味奇跡である。
今日、このレッドムーン事務所に用があって俺達はここへ訪れていた。
しかしながら、ここを訪れるのはあの日以来で二度目。まさか、こんなに早く訪れる羽目ーーーゲフンゲフン、訪れる事になろうとは思いもしなかった訳だが、メリイがパーティーに入ってくれたお陰で、ゴブロウタや新市街から来た、旧市街のゴブリンとは一線を画すゴブリン達と遭遇したが、メリイのサポートもあって、無双できたため、この三日間は随分稼げたし、装備を整え、団章を買っても余裕がある。
そんなことから、俺達はーーーというより、俺だけだがーーーこの事務所へ団章を買いに来たのだ。
因みに、付き添いでメリイにも同伴して貰っている訳だが、・・・同伴して貰うのにかなり苦労した。
いや、タケミカヅチ直伝、極東の奥義、『ドゲザ』をして頼み込んだかいがあったよ~、ホント、マジで。て言うか、タケミカヅチって、誰!?、何で俺、知ってたんだよ!?なんか、凄い人?いや、人なのか?ヤバい、混乱してきた。
しかし、混乱しているのは事実だが、そろそろいい加減、現実逃避は止めた方が良いのかもしれない。
何せメリイの瞳から放射される冷たい視線の温度が段々と下がっていて、辛い。
「ねぇ、入るの?入らないの?早くして。いい加減、帰るけど?」
「すみませんでした!!入ります!入りますから帰らないで!!いえ、帰らないで下さいませ、メリイ様!!」
イマイチ踏ん切りが着かない俺にメリイが痺れを切らして、苛々した様子でその冷たい眼差しと低い声を持って問いかけ、俺が見事なジャンピングドゲザを決めて頼み込む。
「・・・やっぱり、帰るわ」
しかし、無駄に持ち上げた事が気に入らないのか、俺を一瞥して、来た道へ踵を返そうとするが、そうはいかない。行かないったらそうは行かないのだ!!ここで、メリイに帰られたら、あの変態所長に一人で会わなくてはらならなくなる!それだけは避けねばならない。
「待ってぇぇぇーーー!!帰らないでぇぇぇーーー!!俺を一人にしないでぇぇぇーーー!!メリイさん!!」
情けなく、ヒステリックすら感じさせる俺はそう叫びながら、メリイの袖を掴み縋り付く。多分俺の顔は涙が流れているに違いない。
そんなに嫌かって?嫌だよ!あの変態と同じ空間に二人きりとか笑えないし、居たら何されるか分からないからな。
そんな俺をメリイは一瞥すると、溜息を吐きながら、自身の前髪を払う。
「・・・解ったから、泣きながら縋り付かないでくれる?・・・汚れるから。」
そして、縋り付く俺を冷たい眼差しに加え、残念なものを見るようなものも含まれている様子でメリイはそう言い放った。
しかし、それでもなんだかんだ言っても、付き合ってくれるところを見るに彼女は根が優しいのか、或いは押しに弱いのかもしれない。
「はい!!すいませんでしたーーー!!」
と再び見事なジャンピングドゲザを決めた後、それを見たメリイが溜息を付いてから冷たい視線で急かされる形で俺は意を決して事務所の扉に手を掛けた。
「あらぁ、以外と早かったわねぇ。」
「・・・失礼しました」
俺は素晴らしい程のお辞儀を相手に披露すると、素早く扉を閉めた。
「・・・何やってるの?」
冷たい眼差しにジト目が加わったメリイが振り返った俺を出迎え、瞬く間に居たたまれなくなってしまう。
「サーセン!!やっぱり無理っす、メリイさん。所長さんがヤバい。獲物を狙う目をしてたっす!!」
居たたまれず、再び素晴らしいお辞儀(謝罪とも言う)を今度はメリイに披露した。
メリイの目は・・・ヤバいメリイの目をまともに見ることができない。氷の視線が体中に突き刺さっている。
やっぱり、征く(誤字にあらず)しかないのか?やっぱり、逝く(誤字にあらず)しかないのか!?
ドアの先には変態所長。俺の真後ろにはメリイ様が!?あれ?可笑しいぞ?変態所長はともかく、恐くない用メリイに必死の思いで付き添いを頼んだのに、頼んだ相手に何で恐怖を感じてるんだ!?
ヤバいな。いよいよ持って、征く(誤字にあらず)しか無いのか?逝く(しつこいが誤字にあらず!!)しか無いんだろうな-。
俺は遠い目をしながらも、尋常ならぬ意を再び決して
「ねぇ、これって、そこまで覚悟を決めることなの?あと、キャラがブレブレよ、貴方。」
それに続く形で入る、メリイの呆れが含まれたような言葉を背に。
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さて、事務所に何事もなかったかのように表情を取り繕って、入ると再び変態ーーーゲフンゲフン、変態所長が、あ、まともに・・・いや、それはともかく、変態所長(定着)が何とも含みのある笑みを浮かべて俺達を出迎えた。
「あら、貴方達。いらっしゃい、一応聞くけどどんな用件かしら?」
クネクネとしそうな雰囲気を醸し出しながら、太い両手を組んで尋ねてくる変態所長。
その瞳にはやはり悪寒しか感じない。とっとと団章を買って、聞くこと聞いてずらかるか。
「団章の購入とあんたに聞きたい事があって来た。」
簡素にその問いに答えると、変態所長は更に笑みを深めた。
「ふ~ん、レンジ達より早いなんて、少し驚いたわねぇ。もしかして、そこにいる彼女のお陰かしら」
変態所長は俺の少し後ろで傍観していたメリイを瞳で一瞬見定めてそういうと、懐から銀貨に似た義勇兵の団章を取り出した。
俺は懐から銀貨二十枚入ったゴブリン袋を取り出して、カウンターの上に置き、変態所長の方へ弾き渡す。
「一、二、三、・・・確かに銀貨二十枚、受け取ったわ。」
袋を広げ、銀貨を数えると口の端を少し吊り上げて笑みを見せてそういうと、団章を俺へ放り投げた。
「おめでとう。貴方は今日から義勇兵よ。」
俺が危なげなく団章をキャッチすると、変態所長は深い笑みを浮かべて両手の平で軽く乾いた音を鳴らすと、そう祝福した。
あんま、嬉しくねぇ~。マジで。本当に。目の前に美女がいれば違うのだが、如何せん、現実は非情で目の開閉を繰り返しても、俺の瞳には深い笑みを浮かべるオカマ野郎とその背景しか写してくれない。
「はあ~」
思わず溜息が出る。
溜息をすると幸せが逃げるとどこかで聞いたが、メリイと仲良くなれず、目の前の変態所長から祝福を受けた時点で幸せは家出しているし、寧ろ、不幸が玄関の扉を叩いているのが今の現状だった。
「なに、溜息付いているのよぉ。分かっていたことじゃない。悪かったわね、アタシで。所で、聞きたい事があるんじゃ無かったの?」
そういう風に思われるのはよくあるのか、俺の溜息を聞くと、それだけで概要を察した様子だが、それでも変態所長は不機嫌になるでも無く、拗ねた様子を見せると肩を竦めながら、次の話題へと移した。気のせいか、その表情には飽き飽きした様子で首を横に振っていた。
しかし、いつまでも待たせる訳にも行かないーーーというより、さっさと用件を終わらせて帰りたいという気持ちが大きいがーーーので、話題に乗っかることにした。
最も、最初から聞く予定だったのでさっさと用件を済ませることにする。
「ああ、そうだな。
俺が聞きたい事はモンスターについてだ。」
「モンスター?言っとくけどゴブリンの情報についてはあまり無いわよ?精々、新市街のゴブリンの活動が活発化しているということくらいしかないわ。
それに、コレに関しては近々、依頼を出す予定だから、大丈夫よ。」
変態所長は興味無さそうにそういうと、「なんなら、初仕事としてアンタ達も参加する?」と付け加えながら再び肩を竦めた。
俺は首を横に振る。ぶっちゃけ、依頼が出されるのは驚いたが、俺が聞きたいのはそれではない。
「違う、俺が聞きたいのはそれじゃない。」
「じゃあ、何よ」
俺が無表情で否定の言葉を告げると変態所長は不機嫌そうに、右腕で頬杖の体制で聞き返してきた。その様子は面倒くさそうに見える。
・・・面倒くさくならない内にとっとと答えることにしよう。
「知能の高いゴブリン、特にホブゴブリンは喋るのか?」
投げかけられた俺の問いに、変態所長は胡散臭げと面倒くさげな雰囲気を纏って、目を細めると、しばらくして、溜息を吐いた。
「喋らないわ。
ゴブリンの知能は私たちよりは勿論、グリムガルで最も低いし、上位ゴブリンは普通のゴブリンより知能は高いけど、私たちと比べたら、普通に低いわ。ホブゴブリンは普通のそれよりも更に低いわよぉ。たまに知能が高めの個体もいるけど、人間族の言葉を理解して喋った何て、聞いたことないわぁ。
このグリムガルで人間族の言葉を理解出来るモンスターは上位のオークくらいなものねぇ。
何かあったのかしらぁ?」
少々、小馬鹿にした様子で尋ねてくる変態所長。
それにイラッとくるが、なんとか平静を保ちながら、
「いや、どうやら、夢とごっちゃになっていたみたいだ。期待外れだったようで、すまないな。」
と答えながら俺は肩を竦めながら嘘を吐いた。
ぶっちゃけ、言っても良いが、今日、新米義勇兵になったばかりの奴の言うことを信じて貰えない可能性が高いと推察したためである。因みにメリイにもその趣旨は伝えてあるため、メリイも表情を変えない。
「別に期待なんてしてないわよ。ただ、そんな個体が居たら、賞金首ものだから、色々と面倒くさいと思っただけ。」
「フッ、そうか。それはよかったな。面倒事にならなくて。」
「全くよ。」
変態所長はそう返すと椅子に寄っかかるように寝る体勢に入る。
俺も、もう聞くことは聞いたので、とっとと帰ることにする。・・・ていうかは、早く帰りたい。
しかしながら、ホブゴブリンにはそういった個体はいないーーー存在しない、か。なるほど、これは確かにあいつは
俺はそう考えながら、酒場の出口へ踵を返す。
「あ~、そうそう、次、下らない相談事を持ち込んだ時は覚悟しなさい。アンタがアタシの事を忘れなくしてア・ゲ・ルわ。」
ずっと何も言わずに待機してくれていたメリイに声をかけ、ドアノブに手を掛けた時、カウンターの向こう側の変態所長からそんな
余程、さっきの質問がお気に召さなかったらしい。まあ、俺も同じことされたら、イラッと来るからわかるけどな。
俺は本格的な義勇兵の生活から五日目で、義勇兵団の団章を買い、正式な義勇兵になった。
それは、後から変態所長に聞いたところ、歴代最速らしい。
因みに、その前の最速記録は六日らしい。
まあ、どうでも良いが。
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ヴェルス達が出て行き、静かになったレッドムーン事務所。
その事務所内でブリトニーは一度、深めに息を吸って溜息のように吐いて一息すると、口角を少し吊り上げる。
「ふーん、
やっぱり、只者じゃなかったわねぇ、あの子。
レンジのパーティーは明日にでも来そうだったけど、あの子は普通に予想外だわ。」
ブリトニーは誰にも聞かせることなく、そう呟きカウヒーを入れようと立ち上がる。
ヴェルスはあの日、一人でこの事務所を出て行った筈だ。
その後もギルドの手習いを終えて、一日、森の中で狩りをし終えるまでは一人だったと
その他に、ヴェルスは武器を頻繁に買い替えているらしく、一日に一度は確実といった頻度だそうだ。
最も、これらの情報は噂から来るものので、真相は
まあ、情報を集めている諜報員たちが
あまりに曖昧な情報と新米、それも見習いに簡単に撒かれる諜報員に、情けない、と再び溜息を付くブリトニー。
そんな中、カウヒ-を入れて、カウンターに戻った時、事務所の扉がノックされる。
ブリトニーは返事を返して、ヴェルス達が出て行った扉を見やると、しまっていた扉が慌ただしく開いた。
「所長!!いるか!?」
鎧を着た男が、姿を現した。その表情は焦っている、といった感じで、ブリトニーを見ていた
「あら、どうかしたのぉ?塔に何かあった?」
ブリトニーが鎧の男に問いかける。
この男はヴェルスやハルヒロ達、十三名がグリムガルに来た時に閉ざされていた塔の檻を開けた人物で、常時、交代で塔に在駐して監視を務めていて、塔に訪来者が来る前兆と実際に来た時や定期的にレッドムーン事務所の所長であるブリトニーに報告する仕事をしている。因みに案内役は在駐していない
ーーー現状報告には早すぎるし、何かあったのかしらぁ?
そう思いながらも、男の返事を待つ。
「・・・実は塔に例の前兆が起きている。」
それは訪来者を告げる言葉だった。
「・・・本当?」
「ああ、間違いない。あの前兆だ。それと、塔の周辺の気候がおかしい。」
「・・・というと?」
その言葉を聞いてブリトニーは目付きが変わった。
確かに、と、ブリトニーは思う。
今夜は
それは異常気候を表しており、何かが起こる前兆であることは明白だった。
ブリトニーは鎧の男にそのまま、続きを促す。
「塔を中心に真っ黒な雷雲が出ていて、夏が近いのにそこから雪が降っている。」
「何ですってぇ!?」
ブリトニーは思わず立ち上がり、驚愕の表情をあらわにする。そして、そのまま、カウンターを乗り越えると、扉の前に立っていた鎧の男を押しのけて、外に出ると、塔がある方角を見やる。
すると、そこには鎧の男が言ったとおり、真っ黒で時折、雷が迸る雲が塔を中心に広がっていて、規模は精々、この事務所の上空までと言ったところだが、塔周辺の丘は雪の影響で雪化粧をしている。
それはあり得ない現象だ。夏が近いと言うことは気温が上昇し、暑くなり氷の結晶である雪が降る可能性はまず無い。
では、何故それが起きているのか、全く見当もつかない。
「一体、何が起こるのやら、分かったもんじゃ無いわねぇ。」
ブリトニーは義勇兵団へ幾人もの志願者を輩出した塔を睨みつけていた。
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レッドムーン事務所からの帰り道、夏が近いというのに、肌寒さを感じながら歩いている。
俺の少し後ろにはメリイが歩いていて、俺と同じ用に肌寒さを感じた様子だ。
「なあ、」
「・・・何?」
「メリイ、今日はありがとう。助かったぜ。」
サムズアップしながら、メリイに伝える。
「・・・別に大したことしてないから。」
素直に伝えた感謝の言葉にメリイは軽く息を吐きながら、無愛想ーーーではなく、あきれた様子を隠しもせずに答える。
「そんなことねぇよ。本当に助かったって!それに俺ってさ、所長が苦手だろ?一人で行くと何されるか分からないからな。」
「知らないわよ、そんなこと。だいたい、貴方、所長の前では普通に話してたじゃない。」
「いやいや、あれでも震えるのを必死で押さえていたんだぜ?いや~、怖かったな~・・・貞操の危機的に」
「・・・」
俺に無言の圧力をかけ、鋭く睨み付けるメリイ。
まるで、そんなことに私を付き合わせないで、とでも言っているかのようだ。マジ怖ぇ!!美人さんが怒ると怖いと言うが、やはり怖ぇなおい、マジで。
「な、なあ、メリイ、よかったら、今日、一緒に食事しようぜ。今日のお礼と義勇兵祝いを兼ねてさ。奢るぜ?。」
何とか話を変えるため、夕食の提案をメリイへしてみる。
メリイは表情を無表情に戻す。
「・・・私はーーー「それに!」!?」
誘いを断る雰囲気が出ていたので俺は断られる前にメリイの台詞を遮りながら、説得を試みる。
「それにさ、こういう日は一人で食うより、
「・・・だから、私は・・・」
ニッと笑う俺に何かを言おうとしていたメリイはしばらく、目線を彷徨わせた後、再び、何かを言おうとしていたが、しばらくすると観念したように溜息を吐いて、「良いわ。同席してあげる。」と、目を合わせずに答えた。
それからはなるべく沈黙を避けるべく、何気ない会話をーーーしようとしたが、ほとんど、素っ気なく返され
て、少々、心が折れそうになっている。因みに、まともに答えが帰ってきた質問のほとんどが異端児関連だったりする。あのホブゴブリンは何なのか、だとか、何故、戦闘奴隷をしていたのか、とか、そういった内容だ。もちろん、まわりに聞こえない音量だが。
何せ、最近、狩り以外で俺達の近くをかぎまわる連中がいるようで、俺の索敵範囲でこちらを見ているのだ。
まあ、何される訳でも無いので、放っておいているがな。
情報だって、メリイ以外にはあまり与えていないから、問題ないだろう。
しばらく、そんな会話?と言えるのかは不明だが、いつの間にかシェリーの酒場は着いたらしく、気が付くと、見覚えのある建物が目の前にあった。
夕食時から少なからず時間がズレたためか、店内の客は夕食時に比べて空いている様子だった。
俺達は二人だけという事でカウンターの席に座り注文を済ませると、カウンターの向かい側で気の良いオッサンが俺達に気づいて近寄る。
「よお、メリイ、パーティーは順調の用だなぁ。ハッハッハッ!!」
オッサンがメリイに話しかけるとからかいを含めて笑う。
「・・・はい、それなりにやっています。」
クールにそれを受け流しながら一瞬だけメリイは俺を盗み見るように見て、答えた。
俺はそれだけで視線に含まれる感情をなんとなく察してを気づかない振りをした。
いつかは向き合う事だが、今ではないのは確かなため、今は気づいていても黙って置くべきだろう。せっかくの食事なんだからな。無粋な真似は止すべきだろう。
メリイと話を済ませたのか、オッサンが今度は俺の方へ近づいてきた。
「よお、坊主、元気か!?メリイとは上手くやっているようで、安心したぞ!!ハッハッハッ!!」
と酒場のマスターらしくカウンターの向かい側に立つオッサンは矢鱈とテンションが高い。あと、カウンター越しに肩を激しく叩くのは止めて貰いたい。痛い。
「ええ、まあ、それなりにやっています。メリイはすごい。鋭い観察眼、それに洞察力もあるようだし、サポートも完璧です。若干、他と比べて保守的過ぎるけど、俺の場合、毒以外の小さい傷は戦闘に支障がなく、気にならないし、それに後で直してもらえるから、相性としては最高ですね。
後はもう少し会話が成立すれば、不満はないですね。」
苦笑を浮かべつつ、俺は肩を竦ませる。目の端からなのでよく見えなかったが、メリイが目を見張っている
「ハッハッハッ!!そうかそうか!!それは仲介役を買って出たかいがあったってもんだ。ハッハッハッ!!」
余程嬉しいのか、すごいテンションで厨房の方へと消えた。多分、注文の料理が出来たのだろう。ていうか、酒、呑んでるのか?
「・・・ねぇ、」
オッサンが料理を持って来てくれる間、何するまでも無くぼんやりしていると、隣から呟く用に聞こえた声に俺は隣に視線を向けた。
俺は視線で続きを促すとメリイは一瞬、躊躇う様子を見せたが、やがて、意を決したように口を開いた。
「・・・貴方、本当の所はどう思っているわけ?」
目線を逸らしながら、そう尋ねるメリイの表情はどこか暗い。まるで、何か言われる事を恐れている、あるいは、拒絶される事を怯えるような、そんな様子だ。しかし、そんな様子でありながらも気になるらしく、ハッキリ言って、冗談や誤魔化しは通用しないだろうと一目で分かる雰囲気を醸し出していた。そして、その表情は仮面をかぶった無表情のメリイではなく、メリイという少女の元の一面のように感じられた。
そんな弱い様子のメリイを俺は初めて見た。そして、それと同時に不謹慎ながらも嬉しくも思ってしまった。
何か、抱えているだろう事は、振る舞いや仕草、雰囲気を見れば分かっていたし、それが原因で心を閉ざしている事も理解出来た。
しかし、だからと言って、それを彼女に聞くのは、きっと酷な事だし、それを聞ける程、俺は彼女と親しく無いため、あまり聞くべきでは無い事を理解していた。
そのため、今まで、そこには触れず、気軽に接してきた。
しかし、不謹慎ながら、今日、ようやくメリイに心境の変化がみられたのだ。
これは恐らくメリイが俺というパーティーメンバーを仲間として、真剣に思い始めたサインだと思ったからだ。嬉しい筈が無い。・・・メリイには悪いが。
俺は一度、目を閉じるとメリイを真っ直ぐ見るように見つめる。
見つめられたメリイはきつく目を閉じて答えを待っている。さながら、告白をして答えを待っているように見える所を考えるに俺の性格は少々、歪んでいるのかもしれないな。
俺はメリイを見つめたまま口を開く。
「そうだな、俺はメリイの事をーーー」
そこまで言うとメリイは心許なげに身体を硬くしながら俺の言葉を待っている。俺はそんなメリイに微笑んで答える。
「ーーー頼りになる仲間だと思っているよ。本当に」
俺は微笑みを浮かべるように、そう言った
すると俺が見つめていたメリイの目が見開き、驚く様子がわかる。
僅かな変化に気にせず、俺は自身の意見を伝える為に構わず続ける。
「俺はな、メリイ。最初はパーティーメンバーなんて、入ってくれれば誰でもよかったんだ。なるべくなら、神官がいいなという気持ちでメリイを誘ったんだ。
そして、その選択が間違っているかもと、感じたのはお前の目を見た時だ。
最初に見たお前の目には負の感情が深く根づいていたからだ。」
そこまで聞いたメリイの表情に影が差す。
あの時、どうせ、また駄目なのだろう、そう思って諦めていたのでは無いだろうか。
メリイの心情の一部が、そこに含まれているとしか俺にはそうとしか思えない。
しかし、まだ、俺が言いたいことは終わっていない。
「しかし、その選択が間違っていないと証明したのはメリイの戦闘に置ける行動だ。
必要以上に前に出ず、常に周囲への警戒に撤していたり、サポートのタイミングなど、自分に出来ることと出来ない事を理解していて、理想の戦闘スタイルができたし、とても頼りになった。だから、安心して背中を預ける事が出来たし、短い間だけど安定した戦闘ができた。
その認識は例え、無表情の無愛想で、冷たくても、変わらない。
それに俺はな、メリイがパーティーに入ってくれて、共にいてくれる事が何よりも嬉しいんだ。
今の現状で不満は殆どない。
でもまあ、強いて言うなら、後はもう少し微笑みが欲しいところだが、そこはメリイの問題だから、何も言わないでおく。
でもまあ、少なくとも、俺はメリイの事を仲間だと思っている。それだけは変わらない。」
だから、と、さらに言葉を紡ぎながら、メリイの様子を伺う
メリイは顔上げこちらをじっと見ていて、続きを待っている。
多分拒絶はされていない。俺の直感がそう語っていた。
「だからさ、もう俺に怯えるなよ。」
深呼吸をして、俺はメリイへ静かにそう告げ、ニッと笑って見せた。
一方のメリイの反応は、一度、目が合って逸らされ、目を伏せ、そして、わずかに頷いた。
「今までメリイにどんな事があったかなんて、俺は知らない。だが、俺、ヴェルスが接してきたメリイは不器用で無愛想だが、実は優秀なヒーラーで根は優しい、そんな人だ。だから、お前はお前らしくあって良いんだ。だから、仲間らしく、言いたいこと言えよな。」
そう締めくくりながら、俺はさっきから壁に隠れて盗み聞きしている
「そんじゃ、仕切り直して、飯食おうぜ!!丁度、オッサンが空気を読んで、そこで料理を持って待機してくれてたみたいだからな。なっ、そうだろ?」
俺は横から僅かに聞こえる声に気づかない振りをして、仕切り直す意味合いも込めて手を叩き、オッサンに声を掛けると、オッサンが料理を持ってバツが悪そうな表情で隠れていた壁から出てきた。
「参ったな-。バレてたのか。いや~、盗み聞きするつもりは無かったんだ。詫びとして、サービスするから許してくれよな。」
「分かった。そこまで言うなら、今日俺、見習い卒業して義勇兵になったんで、何かサービスしてくれ。」
オッサンの提案に乗っかる形でカミングアウトをかましてみる。
「ああ、分かった。義勇兵になったんだ。サービスしてやるよ・・・って、義勇兵になっただってぇ!?」
「ああ。」
案の定、オッサンは素晴らしい(笑)ノリ突っ込みをかましてきたが、何事も無いように短く俺はそれに相槌を打った。
「おいおい、見習い義勇兵になって十二日目で義勇兵か。早いな。手解き期間の七日間を除けば、5日間でなった訳だ。ここまで早いのはソウマ達以来じゃないか?」
「ソウマ?」
唐突に会話の中から出てきた聞き覚えがない名前に自然と首を傾げる。
カウンターの向かい側のオッサンは意外そうな表情でその人物のことを語り始める。
ソウマという人物は義勇兵ナンバーワンと呼ばれるほどの実力者で、誰も行けないような危険地帯にクランに所属せず、六人のパーティーだけで挑んでいるらしい。
因みに、『クラン』とは、一般的に六人で一つと言われているパーティーの義勇兵達と他の義勇兵のパーティーが共通の目的の為に結成する組織?派閥?的なものらしく、メリイはともかく俺には縁遠い話である。
それから、俺はメリイと主に今後の事を話し合いながら食事を済ませてオッサンに代金を支払った。なかなかに充実した夕食だったと思う。収穫もあったし、楽しかった。
その後、黒い雲が塔の方角から流れてくる空を眺めながら、その事について少し話、それぞれの宿舎へ続く別れ道にたどり着く。
「じゃあな、メリイ。また明日。」
笑みを浮かべながら、片手を上げる俺にメリイは、
「・・・また明日」
目元が少し赤くさせたまま逃げるようにそう言った。そして、俺はメリイとその場で別れた。
そんな中、空は塔の黒い雲から逃れていた赤い月が怪しく輝いていた。
一応、この作品ではそういう設定です。と言っておきます。
次回は来週を目指しますが期待しないでください。
矛盾があれば指摘して頂けるとありがたいです。