Lがデスノートを拾った世界   作:梅酒24

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序章:退屈

カラカラ……。

 

乾いた骨の音が、底の見えない闇の中を転がっていく。

骸骨が二つ、まるで子供が投げた玩具のように、荒れ果てた地面を無造作に滑っていた。

 

そこは荒野である。

いや、荒野という言葉すら生ぬるい。

 

空は灰色に濁り、空気は腐ったように澱んでいる。

風が吹いているのか、それとも止まっているのかさえ判然としない。

 

何も生まれない。

何も育たない。

 

──いや。

 

正確に言えば、

死しか存在しない世界である。

 

死神界。

 

その陰鬱な大地の上で、二人の死神が退屈しのぎの賭け事に興じていた。

 

「髑髏二つ。また俺の勝ちだ。ケケケ」

 

骨でできた長い杖をくるりと回しながら、一人の死神が笑う。

その笑い声は、骨と骨を擦り合わせるような、不快で乾いた音だった。

 

「ケッ……」

 

向かいに座る死神は、長く曲がった黒い角を生やしている。

どうやら何度も負け続けているらしく、吐き捨てるように舌打ちをした。

 

何か言い返そうと口を開いたが、結局は言葉にならず、沈黙してしまう。

 

その様子を、少し離れた場所から眺めている者がいた。

 

(あれから……五日か)

 

死神──リュークである。

 

彼は賭け事に興じる二人をちらりと見やったが、

勝敗などどうでもよさそうに視線を逸らした。

 

この世界には、刺激がない。

 

同じ灰色の空。

同じ退屈な死神たち。

同じように繰り返される、意味のない時間。

 

リュークは、とうにこの世界に飽き飽きしていた。

 

だからこそ彼は、ほんの少しばかり危険な悪戯を思いついたのである。

 

自分のデスノートとは別に、もう一冊のデスノートを手に入れ、

それを──

 

わざと人間界へ落とした。

 

「……そろそろ行くか」

 

リュークはゆっくり立ち上がった。

 

黒いパンク風の衣服。

背には巨大な黒い翼。

 

この陰鬱な世界の中でも、彼の姿はとりわけ異様であった。

 

「ん? どこへ行くんだ、リューク?」

 

賭け事に勝って上機嫌の死神が声をかける。

 

「死神界はどこへ行っても不毛だぜ。ヒヒ」

 

負け続けている角の死神が、投げやりに言った。

自分の不運と、この世界の退屈さを同一視しているらしい。

 

リュークは少しだけ考えた。

 

(……まあ、一応言っておくか)

 

ほんの一瞬の逡巡のあと、彼はぶっきらぼうに言った。

 

「デスノート……落としちまった」

 

「ギャハハハ!」

 

勝っていた死神が腹を抱えて笑い出す。

 

「またドジやったのかよ! お前は!」

 

そして、ふと思い出したように言った。

 

「つーか、おめー死神大王を騙くらかして、デスノート二冊持ってたよな?

まさか……二冊とも落としたんじゃねーだろうな?」

 

(……めんどくさい)

 

リュークは心の中で舌打ちした。

 

「で? どこに落としたんだよ。ケケケ」

 

勝った死神は妙に楽しそうだった。

この退屈な世界では、誰かの失敗さえ貴重な娯楽なのだ。

 

リュークは短く答えた。

 

「人間界」

 

「……え?」

 

二人の死神は顔を見合わせた。

 

意味を理解するまで、少し時間がかかった。

 

やがて──

 

「……おい、それって……」

 

そう言いかけたときには、すでに遅かった。

 

そこにはもう、リュークの姿はなかった。

 

灰色の空の下、荒野には再び退屈だけが残っていた。

 

だが──

 

人間界に落ちた、たった一冊のノート。

 

そのノートから、

二人の人間による奇妙な戦いが始まろうとしていた。

 

この世で起きた数多の難事件の中でも、

特に異様な名で語り継がれる事件がある。

 

ロサンゼルスBB連続殺人事件。

 

奇妙で、残酷で、そして人間の理性を嘲笑うかのような犯罪だった。

 

だが、その不可解な事件を解決した探偵の名は、

ただ一文字。

 

L。

 

人々はその名を、まるで怪談のように囁く。

 

だがLは、単なる一つの名前ではない。

 

ドヌーヴ。

エラルド=コイル。

 

それらの名義でも、彼は数々の難事件を解決してきた。

 

警察が匙を投げた事件を、

まるで簡単な算術問題のように片づけてしまうのである。

 

しかし──

 

どれほど優れた探偵が存在しても、

この世界から犯罪が消えることはない。

 

法律があろうと、

警察がどれほど厳しく取り締まろうと、

 

人類の歴史において、犯罪が完全に消えた時代など一度もない。

 

そしておそらく、未来にもないだろう。

 

私は、そう考えていた。

 

だがそれを悲しいとも思わない。

怒りもない。

失望もない。

 

むしろ、時折こんなことを思う。

 

(私は……感情というものを失ってしまったのではないだろうか)

 

悲しい。

嬉しい。

楽しい。

胸が高鳴る。

 

そうした、人間が生きるために必要な感情が、

いつの間にか自分の中から抜け落ちてしまったような気がするのだ。

 

圧倒的な推理力と引き換えに、

何か大切なものを──置き去りにしてしまった。

 

だから私は、ある小さな習慣を持っている。

 

事件を解くときは、必ず甘いものを食べる。

 

甘さで、

血なまぐさい記憶を上書きするのだ。

 

奇妙な儀式かもしれない。

だが私にとっては、それが唯一の楽しみだった。

 

その日も私は、自室で甘い菓子を食べながら、

世間では難事件と呼ばれる問題を、

次々と解決していた。

 

やがて私の名は──

 

世界三大探偵

 

と呼ばれるようになった。

 

そのときだった。

 

冷蔵庫を開けようとした瞬間、

私の視線が窓の外に止まった。

 

ベランダに、黒いものが落ちたのである。

 

ほんの一瞬。

 

だが私は見逃さなかった。

 

(……妙ですね)

 

私は裸足のままベランダへ出た。

 

そこに落ちていたのは──

 

一冊の黒いノートだった。

 

表紙には英語で書かれている。

 

DEATH NOTE

 

私は小さく呟いた。

 

「……デスノート」

 

そして、かすかに笑う。

 

「直訳すると……死のノート、ですか」

 

その瞬間、私は奇妙な直感を覚えた。

 

今までの難事件よりも──

 

このノートの方が、よほど面白い。

 

だから私はページをめくった。

 

そこには英語で、こう書かれていた。

 

このノートに名前を書かれた人間は死ぬ。

 

私は静かに笑った。

 

「……悪戯にしては」

 

そして、こう呟いた。

 

「ずいぶん手が込んでいますね」




えっと食べログの回し者ではないですよ(
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