Lがデスノートを拾った世界   作:梅酒24

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22冊目:芝居

一週間後。

 

その日、私は椅子に深く沈み込みながら、部屋の中央に設けられたモニターの光景を眺めていた。

 

もちろん私はそこにはいない。

だが、そこにいるふりはしている。

 

それが「L」という存在だ。

 

世界最高の名探偵。

姿を見せない推理の怪物。

そして――

 

私は心の中で静かに笑う。

 

同時に、キラでもある。

 

この二重の仮面は、実に愉快だ。

いや、愉快というより、むしろ奇妙な芝居と呼ぶべきだろう。

 

私は舞台の外に立ちながら、舞台の上の役者を演じている。

観客は誰一人、そのことに気づかない。

 

モニターの向こうでは、日本警察の会議室が混乱に包まれていた。

 

夜神総一郎の額から汗が流れ落ちる。

 

「何?FBIが?」

 

部下が慌てた声で言う。

 

「はい!東京で四人、神奈川で二人、千葉・埼玉で一人ずつ!皆、心臓麻痺です!」

 

室内にざわめきが走る。

 

「FBI捜査官が日本で心臓麻痺?」

 

「なんだって?」

 

人間というものは面白い。

一人が混乱すると、それは瞬く間に伝染する。

 

理性など、実に脆いものだ。

 

ワタリは静かにノートパソコンを閉じ始めた。

 

「その捜査官の手帳から、日本警察を調べていた形跡が……」

 

「ど……どういうことだ?」

 

「今すぐFBIに連絡を取れ!」

 

声が飛び交う。

 

混乱。

疑念。

恐怖。

 

私はその光景を見ながら、椅子の上で膝を抱えた。

 

実に素晴らしい。

 

まるで私が仕組んだ劇のようだ。

 

いや。

 

もちろん――

 

私が仕組んだのだが。

 

ワタリは何も言わず部屋を出た。

 

廊下は静かだった。

 

ピピピ。

 

携帯電話が鳴る。

 

「ワタリ。私だ。Lに繋いでくれ」

 

FBI長官の声。

 

私はその声を聞いた瞬間、ほんのわずかに目を細めた。

 

――来ましたね。

 

筋書通りです。

 

ワタリは私に回線を繋ぐ。

 

「L、日本から捜査官が死亡したとの知らせが入った」

 

長官の声には緊張があった。

 

私は耳を澄ませる。

 

呼吸。

 

声の高さ。

 

言葉の速さ。

 

どれもわずかに乱れている。

 

「念の為、日本に入った捜査官十二人全員に連絡を取ったが……誰とも連絡が取れない」

 

私はゆっくりと言った。

 

「キラに全員殺されたとしか思えませんね」

 

――もちろん。

 

私が殺したのですが。

 

だが、その事実は世界のどこにも存在しない。

 

それがデスノートの恐ろしいところだ。

 

私は声の調子を整えた。

 

「長官、落ち着いて聞いて下さい」

 

長官は落ち着こうとしている。

だが、完全ではない。

 

声が少し高い。

 

呼吸が荒い。

 

話す速度が早い。

 

つまり彼は、必死に冷静を装っているだけだ。

 

私は話を短く終わらせるため、核心を突く質問をした。

 

「日本に入った捜査官全員の顔を知っている者は?」

 

「いや……」

 

「そのファイルを持っている者は?」

 

長官が答える。

 

「昨日までは私だけだったのだが……」

 

私はわざと聞き返す。

 

「昨日までは?」

 

もちろん分かっている。

 

だが、推理というものは相手に語らせることが重要だ。

 

長官が言う。

 

「今日、日本に入った仲間を確認したいと言う者がいて、その捜査官にファイルを送った……」

 

私は声を張り上げた。

 

「それです!!」

 

わざとだ。

 

少しオーバーに。

 

舞台の俳優のように。

 

背後でリュークが笑っている。

 

「とんだ茶番だな」

 

私は続ける。

 

「キラはその捜査官に接触し!」

 

「何らかの方法でそのファイルを盗み見た!!」

 

もちろん。私だ。

 

だが私は続ける。

 

「ファイルを送った捜査官は誰ですか?」

 

長官は沈黙した。

 

ほんの少し。

 

だが私はもう答えを知っている。

 

「その捜査官は……」

 

そして。

 

「日本に入った捜査官全員だ」

 

私は静かに言った。

 

「全員……」

 

長官は説明する。

 

「急に皆、日本に入った仲間を知りたいと言い出した」

 

「私は、彼らが皆でファイルを共有するつもりだと思った」

 

私は心の中でため息をついた。

 

――なるほど。

 

確認もしなかったのですね。

 

それでFBI長官とは。

 

驚くべき組織だ。

 

長官は続ける。

 

「最初の四人には私が直接ファイルを送り」

 

私は頭の中で補足する。

 

――そして残りは。

 

面倒になって。

 

その四人から回させた。

 

長官は言った。

 

「あとは残りの者へ渡せと指示した」

 

私はしばらく黙った。

 

そして言う。

 

「つまり」

 

「全員がファイルを持っていた」

 

私はゆっくり続ける。

 

「もしキラが」

 

「死の直前の行動を操れるとしたら」

 

「誰かのファイルを見た後」

 

「全員にファイルを持たせることも可能です」

 

長官が沈黙する。

 

私は待った。

 

この言葉を。

 

「L……申し訳ないが」

 

――来ましたね。

 

筋書通り。

 

「FBIは日本での捜査を打ち切る」

 

私は静かに頷いた。

 

長官の声は、少し軽くなっていた。

 

私は思う。

 

――今、この男は安心している。

 

もちろん表向きの理由は並べるだろう。

 

捜査官の安全。

国際問題。

情報不足。

 

だが本当の理由は一つだ。

 

自分が死にたくない。

 

それだけだ。

 

私は小さく呟いた。

 

リュークだけに聞こえる声で。

 

「この長官は」

 

「今、安堵しているでしょうね」

 

「理由は立派な言葉で並べるでしょうが」

 

私は肩をすくめた。

 

「結局は」

 

「自分の命が惜しいだけです」

 

リュークは腹を抱えて笑った。

 

そして私は、再び椅子の上で膝を抱えた。

 

名探偵Lはキラを追う。

 

だがその実態は。

 

キラがキラを追っている。

 

私は口元を少し歪めた。

 

世界中の警察が必死に追っている怪物。

 

その怪物は今――

 

この部屋で、静かにマカロンを食べている。

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