Lがデスノートを拾った世界   作:梅酒24

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23冊目:三体

私は椅子の上で膝を抱えたまま、モニターの向こうの世界を眺めていた。

 

人間という生き物は実に興味深い。

特に恐怖と責任という二つの重石が同時に胸へ落ちたとき、その顔は滑稽なほど劇的に変形する。

 

今、画面の向こうでまさにその光景が展開されていた。

 

FBI長官の声が震えている。

 

「アメリカの犯罪者が一番多くキラの犠牲になったのは事実だが……」

 

言葉は慎重に選ばれている。

しかし慎重さの裏側には、露骨な焦りが透けて見えた。

 

「あなたがキラの潜伏場所を日本の関東と断定してからは犠牲者が日本に集中している」

 

私は目を細めた。

 

――なるほど。

 

責任の所在を、少しずつこちらへ寄せてきますか。

 

長官は続ける。

 

「日本で殺されているのは犯罪者だが、我々は何の罪もない捜査官を失った」

 

「この犠牲は大きい」

 

背後でリュークが肩を震わせている。

 

「L、お前の言うとおり一般論と事実並べてきたなぁ」

 

私は小さく肩をすくめた。

 

まさにその通りだ。

人間は責任を逃れるとき、必ず「事実」と「一般論」を並べる。

 

その二つを並べれば、言葉は正しく聞こえるからだ。

 

長官の声がさらに小さくなる。

 

「今回急だったので、私の独断で捜査官を日本に入れたんだ」

 

その瞬間、私はほとんど笑いそうになった。

 

――やっと出ましたね。

 

本題が。

 

「私は国に責任を問われる」

 

「それに私は顔を公表されているんだ……」

 

そして彼は言った。

 

「私も命は欲しい……」

 

リュークが吹き出した。

 

「本当に命が欲しそうだなぁ」

 

長官はもちろん、その声は聞こえない。

 

彼は必死に続ける。

 

「だからFBIは日本から手を引く……」

 

背後でリュークがくつくつ笑う。

 

「よくわかるな」

 

私は静かに呟いた。

 

「人間は」

 

「命が惜しくなると声が少し高くなります」

 

「今まさにそうです」

 

長官はまだ話し続けていた。

 

そこへ別の声が割り込む。

 

若い女性の声だった。

 

「長官、日本の警察庁の夜神局長から電話です。二番です」

 

長官は一瞬黙った。

 

そして。

 

ふっと笑った。

 

その笑いは実に人間的だった。

つまり、卑屈な笑いだ。

 

「ふふっ……さっそく日本の捜査本部から電話だ」

 

私はその声を聞きながら思う。

 

――ああ。

 

これは典型的な逃げ方ですね。

 

長官は続けた。

 

「あなたの指示で我々FBIは動いたと言いますよ」

 

「いいですね……L?」

 

私は沈黙した。

 

――責任逃れ。

 

それ以外の何物でもない。

 

長官は言った。

 

「では……」

 

通信が切れる。

 

私は小さく呟いた。

 

「返答していませんよ」

 

そして肩をすくめた。

 

「まあ」

 

「これで私も出ていかなければなりませんね」

 

モニターの画面が切り替わる。

 

日本警察本部。

 

そこではすでに嵐が吹き荒れていた。

 

夜神総一郎が机を叩いている。

 

「FBIはLの指示で本部関係者を洗っていた?」

 

「本当ですかそれは!!」

 

怒号。

 

ざわめき。

 

別の刑事が吐き捨てるように言う。

 

「Lはやはり信用できないな……」

 

さらに別の男が言った。

 

「それよりキラはFBIも殺したってことだろ」

 

「自分を見つけようとする者は殺すってことだ」

 

「自分に楯突く者は犯罪者でなくとも殺す……」

 

男は唾を飛ばす。

 

「本当の殺人鬼だなキラは……!」

 

別の刑事が顔をしかめる。

 

「ああ……人間のやることじゃない……」

 

私は椅子の上で静かに揺れた。

 

――人間のやることじゃない。

 

それを聞いたリュークが腹を抱えて笑う。

 

「お前のことだぞL」

 

私は平然と答えた。

 

「そうですね」

 

「しかし」

 

「彼らは知りません」

 

連日の残業。

 

眠気。

 

ミス。

 

苛立ち。

 

そのすべてが、今この瞬間、Lという名前へ押し付けられている。

 

私はその光景を見ながら思った。

 

――実に合理的です。

 

人間は怒りを発散する対象が必要だ。

 

しかも。

 

ここにいない相手。

 

反論できない相手。

 

それが理想だ。

 

つまり私は。

 

完璧な標的。

 

そのころ。

 

別の場所で。

 

夜神月は机の引き出しを開けていた。

 

黒いノート。

 

FBI十二人の個人情報。

 

彼はそれを見比べている。

 

***

 

私は画面越しにその姿を想像する。

 

***

 

月は考えている。

 

「日本を調査し殺されたFBIは十二人」

 

「そのうちバスで出会ったレイ・ペンバーは僕を調べていた」

 

彼の思考は冷たい。

 

鋭い。

 

「近いうちに僕を徹底的に調べるだろう」

 

「監視カメラか……盗聴器か」

 

***

 

私は口元を歪めた。

 

――さすがです。

 

 

***

 

月はさらに考える。

 

「キラ=L説はあるが」

 

「まだ根拠はない」

 

「もし監視カメラや盗聴器が設置されたら」

 

「それはキラ自身の首を絞めることになる」

 

そして。

 

彼は確信する。

 

「もしLがキラなら」

 

「間違いなく僕をスケープゴートにする」

 

***

 

私は小さく笑った。

 

――その通りです。

 

***

 

月は続ける。

 

「そうなれば」

 

「直接対決になる」

 

彼は窓の外を見る。

 

そして呟く。

 

「キラ」

 

「お前は今回大きく動いた」

 

「十二人のうち誰かに接触し」

 

「必ず手がかりを残している」

 

彼の瞳が光る。

 

「FBIが増員するにしても」

 

「それはずっと先」

 

「今、Lの動かせるコマはほとんどない」

 

そして。

 

彼は言う。

 

「さあ……」

 

「そろそろ自分の足で動くんだ……」

 

***

 

私は椅子の上で静かに膝を抱えた。

 

――なるほど。

 

実に面白い。

 

***

 

名探偵Lとキラ。

 

二人の怪物が、互いを追っている。

 

だが。

 

その正体は。

 

同じ人間。

 

その奇妙な状況を思うと、私は少し笑ってしまう。

 

そのころ。

 

夜の歩道橋。

 

一人の女が立っていた。

 

ビルの灯りが滲む。

 

車のライトが流れる。

 

その中で彼女は泣いている。

 

風が髪を揺らす。

 

彼女は呟いた。

 

「死んだ……」

 

声が震える。

 

「レイが……」

 

そして。

 

ゆっくりと言った。

 

「いいえ」

 

「キラに殺された……」

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