Lがデスノートを拾った世界   作:梅酒24

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24話目:麗月

僕は机に肘をつき、静かに思考の海へ沈んでいた。

 

夜というものは不思議だ。

昼の喧騒が消えると、人の思考は深い井戸の底へ落ちていく。

窓の外では車の音が遠く流れ、ビルの灯りが静かに瞬いている。

 

その静寂の中で、僕の頭の中には一つの出来事が重く横たわっていた。

 

FBI捜査官、十二人の死。

 

僕はゆっくり目を閉じる。

 

――死んだFBI捜査官は十二人。

そして、その全員が日本に入った仲間の写真入りファイルを持っていた。

 

偶然だろうか。

 

いや。

 

偶然であるはずがない。

 

僕は思考を整理するように、指先で机を軽く叩いた。

 

もしキラが、死の直前の行動を操れるとしたら――

 

十二人全員にファイルを持たせたまま殺すことは可能だ。

 

しかし、そのためには条件がある。

 

まず。

 

十二人全員の顔と名前を知っている必要がある。

 

僕は視線を落とす。

 

もしLがキラではないなら。

 

キラは、最初にファイルを手に入れた捜査官に接触したはずだ。

 

そのファイルを見て、残りの捜査官たちの顔と名前を知る。

 

そして彼らを操り、全員にファイルを持たせたまま殺す。

 

つまり。

 

注目すべきなのは――

 

死んだ順番ではない。

 

ファイルを持った順番だ。

 

しかし。

 

僕の思考はそこで止まらない。

 

もし――

 

Lがキラなら。

 

その瞬間、推理の形はまるで変わる。

 

その場合、Lは最初から十二人の顔と名前を知っている。

 

ならば。

 

ファイルを手にした順番など意味を持たない。

 

むしろ。

 

ファイルを持っていた者たちがブラフになる。

 

僕はゆっくり息を吐いた。

 

――どちらだ。

 

Lか。

 

キラか。

 

あるいは。

 

L=キラなのか。

 

そこまで考えたところで、僕は顔を上げた。

 

今日は家族会議があると聞いている。

 

だが、僕の頭はまだキラ事件の思考から抜け出せずにいた。

 

リビングへ降りると、父さんはすでにテーブルに座っていた。

 

四人掛けのテーブル。

 

父さんは腕を組み、黙ったまま動かない。

 

額にはわずかな皺。

 

普段は威厳のある警察官の顔だが、今日はどこか重い影が落ちている。

 

母さんは静かにお茶を運んできた。

 

四つの湯呑み。

 

僕はその様子を見て思う。

 

――母さんはもう、父さんが何を話すのか知っている。

 

そんな気がした。

 

家族会議といえば、毎年正月に一度ある。

 

だが。

 

まだ新年には三日早い。

 

サユは椅子に座り、にこにこしている。

 

腕を頭の後ろで組みながら、実に気楽そうだ。

 

――もしかして。

 

お年玉でも貰えると思っているのだろうか。

 

もしそうなら、僕のラブライブのレアカードを何枚か譲ってもいい。

 

そう考えて、僕は少しだけ笑いそうになった。

 

その時。

 

父さんがゆっくり口を開いた。

 

「隠しておいても、いずれ分かることだ」

 

父さんの声は低かった。

 

重い。

 

まるで石のように重い。

 

「ここで言っておく」

 

父さんは僕たちを見渡した。

 

「私は今、キラ事件の捜査本部の指揮を執る立場にある」

 

サユはぱっと顔を明るくした。

 

「そうなんだー」

 

腕を組んだまま、にこにこしている。

 

「なんとなく知ってたけど、やっぱすごいねーお父さんって」

 

父さんは首を横に振った。

 

「いや」

 

そして言った。

 

「本題はここからだ」

 

部屋の空気が変わる。

 

父さんは一瞬目を伏せた。

 

「実は昨日……」

 

声が少しだけ低くなる。

 

「キラを見つけ出すために日本に入ったFBI十二人が」

 

「全員亡くなった」

 

サユが目を丸くする。

 

「キラに殺されちゃったのー?」

 

父さんは頷いた。

 

「つまり」

 

「キラを捕まえようとする者は、殺されるかもしれない」

 

父さんの声は少し震えていた。

 

「現に、部下もこの事件から降りていっている」

 

「こんな残虐な犯罪は今までにない」

 

「降りていく部下を……私は止められない」

 

父さんは俯いた。

 

僕はその顔を見た。

 

――父さんは。

 

家族に反対されると思っている。

 

だから。

 

顔を上げられないんだ。

 

その時。

 

サユが身を乗り出した。

 

「お父さんが死んだら嫌だよー!」

 

「やめてよー!」

 

母さんもすぐに言った。

 

「そうよ」

 

「立場とかそんなものより大事なことがあるでしょう」

 

僕は静かに思った。

 

――そうだ。

 

母さん。

 

父さんには。

 

大事なものがある。

 

父さんは顔を上げた。

 

そして言った。

 

「いや」

 

「私は絶対にこの事件から降りない」

 

「悪に屈してはならない」

 

その言葉は、静かだった。

 

だが。

 

揺るがない。

 

僕は言葉を失った。

 

前髪が目にかかる。

 

父さんは本気だ。

 

命を懸ける覚悟だ。

 

その姿を見て――

 

僕の胸の奥に、強い感情が湧き上がった。

 

僕はゆっくり顔を上げた。

 

そして言った。

 

「立派だよ」

 

テーブルに両手を置く。

 

「父さん」

 

「僕は父さんを誇りに思う」

 

父さんが僕を見る。

 

その目は、少しだけ驚いていた。

 

僕は続ける。

 

――そうだ。

 

今考えるべきなのはキラ事件だ。

 

そして。

 

父さんは命を懸けて戦おうとしている。

 

僕の顔は自然と険しくなった。

 

頭の中に浮かぶのは、憎むべき存在。

 

キラ。

 

僕は言った。

 

「父さんにもしものことがあったら……」

 

僕は席を立った。

 

そしてサユの後ろへ回る。

 

静かに。

 

冷静に。

 

僕は言った。

 

「必ず僕が」

 

「キラを死刑台に送る」

 

その言葉は自然に出た。

 

作った言葉じゃない。

 

僕の心の奥から出てきた言葉だ。

 

父さんは何も言わなかった。

 

だが。

 

その顔には、確かな安堵が浮かんでいた。

 

母さんが小さく言う。

 

「ライト……」

 

サユも呟く。

 

「お兄ちゃん……」

 

そしてサユは、少しだけ頬を膨らませた。

 

――お兄ちゃんだけ、うまく話をまとめてずるい。

 

きっとそんなことを言いたかったのだろう。

 

でも。

 

父さんの話はまだ続く。

 

だからサユは、その言葉を飲み込んだのだった。

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