Lがデスノートを拾った世界   作:梅酒24

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25話目:偽者

新宿駅の地下へ降りる階段を踏みしめた瞬間、僕は一瞬だけ立ち止まった。

 

地下という場所は奇妙だ。

太陽の光が届かないのに、人の熱気だけは濃く沈殿している。

 

見渡せば、果てしない人の流れ。

 

東京都の人口は約一三〇〇万人。

日本人のおよそ十分の一が、この巨大な都市に押し込められている計算になる。

 

そして――

 

その中心にあるのが、この新宿駅だ。

 

人、人、人。

 

数えきれない人間たちが、まるで巨大な生物の血流のように、地下通路を流れていく。

 

僕はその中に紛れ込んでいた。

 

ニット帽を深く被り、顔の影を濃くする。

自分でも驚くほど、自然に人混みに溶け込めていた。

 

――これから僕がやろうとしていることは。

 

普通の高校生がやることではない。

 

いや。

 

普通の人間がやることではない。

 

だが。

 

僕は自分に言い聞かせる。

 

――これは正義のためだ。

 

正義というものは、時に醜い顔をしなければならない。

 

その醜さを引き受ける者がいなければ、

世界は綺麗な言葉だけで腐っていく。

 

だから。

 

僕がやる。

 

僕が――悪を演じる。

 

ポケットのスマートフォンから、微かな声が聞こえる。

 

LINE通話はまだ繋がっていた。

 

「来ました」

 

ナミコの声。

 

僕は視線だけを動かした。

 

人混みの中に、一人の男。

 

スーツ姿。

左手に鞄。

 

歩き方にわずかな警戒がある。

 

――レイ=ペンバー。

 

FBI捜査官。

 

僕はゆっくり、その背後についた。

 

足音を合わせる。

 

距離は三歩。

 

これ以上近づく必要はない。

 

僕は声を低くした。

 

「レイ=ペンバーさん」

 

ほんの少し間を置く。

 

「振り向いたら殺します」

 

その言葉は、自分でも驚くほど冷たかった。

 

「キラです」

 

「振り向いたり、ポケットに手を入れた瞬間に殺します」

 

レイの背中がわずかに固まる。

 

――まさか……

 

その動揺が背中越しでも伝わってくる。

 

僕は続けた。

 

「まず、キラだという証拠を見せます」

 

心の奥で、僕は静かに呟く。

 

――本題はここからだ。

 

僕はキラではない。

 

だが。

 

キラであると信じさせることはできる。

 

それだけで十分だ。

 

「今、あなたから見える喫茶店」

 

「そこで働いているメガネの男を」

 

「二分後に殺します」

 

レイは前方の店を見た。

 

ガラス越しに見える店員。

 

金髪。

体格のいい男。

 

イヤホンをつけ、ポケットに手を突っ込み、だらしなくブラシを動かしている。

 

とても真面目な人間には見えない。

 

僕は小さく息を吐いた。

 

――大丈夫。

 

その男の素性はすでに調べてある。

 

婦女暴行を繰り返しながら、証拠不十分で起訴されなかった男。

 

社会の隙間に逃げ込んだ獣だ。

 

ナミコが別の通話を始めた。

 

「一分後に倒れて下さい」

 

「自然にお願いしますよ、あくまで自然に……」

 

数十秒後。

 

店員は突然よろめき。

 

ドサリと床に倒れた。

 

店内がざわめく。

 

人々の視線が一斉にそこへ向く。

 

僕は静かに言った。

 

「最低一人は殺してみせないと信じてもらえない」

 

「仕方ありません」

 

そして続ける。

 

「その男は婦女暴行を繰り返していた社会悪です」

 

「裁きを受けて当然でしょう」

 

言葉を吐きながら、僕の胸の奥で別の声が囁く。

 

――本当にそうか?

 

――僕は裁く資格があるのか?

 

だが。

 

僕はその声を押し潰す。

 

これは正義のためだ。

 

悪を捕えるための演技だ。

 

「私は顔が分からなければ殺せない」

 

「逆に言えば」

 

「ここから見える人間は全員殺せるということです」

 

「リクエストがあればどうぞ」

 

レイの声が震えた。

 

「や……やめろ……」

 

「信じる……キラだということは信じる……」

 

僕はわざと、さらに残酷な言葉を重ねた。

 

自分でも嫌になる役回りだ。

 

「あなたにとって」

 

「ここにいる人間より大事なのは」

 

「自分の大切な人でしょう」

 

「今、人質にされているのはそちらだと思ってください」

 

レイの肩が跳ねた。

 

――彼女。

 

その言葉が彼の脳裏に浮かんだのだろう。

 

「まさか……彼女を」

 

「そうです」

 

僕は冷静に言う。

 

「あなたのことは調べました」

 

「私の指示に従わなければどうなるか分かりますね?」

 

僕の胸の奥で、わずかな痛みが走る。

 

人の弱みを利用する。

 

それは卑怯なやり方だ。

 

だが。FBIは重要な情報を持っている……

 

 

「パソコンは持っていますね」

 

「捜査官のファイルは?」

 

レイは答えた。

 

「そんなファイルは持っていない」

 

僕は封筒を差し出した。

 

「では、この封筒を」

 

「中のトランシーバーを出してイヤホンをつけてください」

 

レイはそれを見つめた。

 

――トランシーバー……

 

彼の思考が伝わってくる気がした。

 

通信記録は残らない。

 

地下でも使える。

 

簡単だが、確実な方法。

 

僕は静かに言った。

 

『山手線に乗ってください』

 

『内回りでも外回りでも構いません』

 

『ドアの角の席に座ってください』

 

レイは電車に乗り、席に座った。

 

僕の胸は静かに鼓動していた。

 

これは。

 

ただの演技だ。

 

だが。

 

一歩間違えれば。

 

僕は――

 

本当に悪になってしまう。

 

『質問します』

 

『私の見解と違う答えなら、あなたの彼女を殺します』

 

レイは小さく答えた。

 

「日本に入ったFBIは……」

 

「四チーム」

 

「合計十二人……」

 

僕は思った。

 

――十二人。

 

案外少ない。

 

ならば。

 

この計画は成立する。

 

『その中で立場の弱い者に電話してください』

 

『全員の個人情報ファイルを送らせてください』

 

レイは電話をかけた。

 

やがて。

 

ファイルが送られてくる。

 

僕は指示した。

 

『封筒の紙に書き写してください』

 

『終わるまで電車を降りてはいけません』

 

レイは黙々と書き始めた。

 

一枚。

 

また一枚。

 

その姿を想像しながら、僕は目を閉じた。

 

――これは正しいのか。

 

僕は今。

 

一人の人間を脅している。

 

家族を人質にしている。

 

卑劣な犯罪者と同じ手口だ。

 

だが。

 

これをしなければ。

 

FBIは父さんを追い詰める。

 

キラ事件はもっと混乱する。

 

世界はもっと狂う。

 

だから。

 

僕はこの役を演じる。

 

正義のために。

 

悪を。

 

最後に僕は言った。

 

『作業が終わりましたね』

 

『封筒を網棚に置いてください』

 

『三十分そのまま座っていてください』

 

レイは従った。

 

三十分。

 

彼は膝に手を置き、動かなかった。

 

その間。

 

彼の頭の中では、ずっと同じ疑問が渦巻いていた。

 

――なぜだ。

 

――なぜこの声を思い出せない。

 

――どこかで聞いたはずなのに。

 

電車は走り続ける。

 

地下を抜け。

 

都市を巡る。

 

その中で。

 

レイ=ペンバーは歯を食いしばっていた。

 

――キラめ。

 

――お前は一体、誰なんだ。




Lがペンバーの後ろにくっついていく必要ないんですよね。

LはFBI12名の事知っていますし。

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