Lがデスノートを拾った世界   作:梅酒24

24 / 59
28話目:出会

霞が関駅の地上へ出た瞬間、冬の空気が肺の奥まで鋭く入り込んだ。

 

僕は小さく息を吐く。

白い霧が口元からゆっくりと流れ出る。

 

母に頼まれた父の着替えを手に、警察庁へ向かう途中だった。

 

念のため父へ電話を入れる。

 

ぴ、ぴ、ぴ――

 

『留守番電話サービスに……』

 

僕は眉をわずかに寄せた。

 

「……珍しいな」

 

父は会議中でない限り電話に出る。

それが出ない。

 

胸の奥に、ほんのわずかな違和感が沈殿する。

 

警察庁の受付へ入ると、そこには奇妙な光景があった。

 

揉めている。

 

受付の男と、ひとりの女性。

 

遠目にも分かる。

 

黒いロングヘア。

背筋の伸びた立ち姿。

 

声の調子は決して荒くない。

だが、言葉には揺るぎがない。

 

――本部と昨日約束をした。

――それなのに本部に誰もいないのはおかしい。

 

そんな主張をしているようだった。

 

僕は立ち止まる。

 

――本部に誰もいない。

 

その言葉が頭の中で反響する。

 

父の電話は留守電。

 

そして本部は空。

 

……何かが起きているのか。

 

僕は受付に着替えを渡した。

 

すると受付の男が僕に向かって話し始める。

 

保険金殺人事件の話。

 

以前、僕の助言で解決した事件だ。

 

それをこの女性の前でわざわざ話す。

 

そしてこう聞いてきた。

 

「キラ事件も推理しているのか?」

 

僕は軽く笑った。

 

「ええ。うまくいけばLを出し抜けるかも」

 

その瞬間だった。

 

女性の視線がこちらへ向く。

 

僕はその目を見た。

 

――大きい。

 

だが、それだけではない。

 

瞳の奥にあるもの。

 

それは単なる好奇心ではない。

 

決意。

 

執念。

 

何かを必ず達成する人間の目。

 

その種類の目を僕はよく知っている。

 

なぜなら。

 

僕自身が同じ目をしているからだ。

 

僕は自然な調子で言った。

 

「父はキラ事件本部の長なんです。よければ取次ぎますよ」

 

受付の男が横で小言を言う。

 

一般人にそんなことを、と。

 

だが僕は気にしない。

 

そして女性をもう一度観察する。

 

顔の筋肉。

 

呼吸。

 

立ち方。

 

焦りはある。

 

しかし、混乱はない。

 

理性が勝っている。

 

――信用できる。

 

少なくとも、軽率な人間ではない。

 

「この女性は信用できます。目を見れば分かります」

 

僕はそう言った。

 

半分は本当。

 

半分は計算だ。

 

女性は軽く頭を下げた。

 

外へ出る。

 

冬の街を歩きながら、僕たちは話し始めた。

 

キラ事件。

 

彼女の言葉は驚くほど整っていた。

 

推理の筋道。

 

情報の扱い方。

 

仮説の組み立て。

 

どれも素人のものではない。

 

そして彼女は言った。

 

キラは顔と名前が必要だと。

 

そこまでは警察と同じだ。

 

だが。

 

それ以上の能力がある、と。

 

僕は一歩先に進んでみた。

 

「キラは、人を殺すだけでなく死ぬ前の行動も操れます」

 

女性は歩みを止めた。

 

そして僕を見た。

 

その視線には驚きがあった。

 

「私と同じ考えを持っていたなんて……」

 

僕は内心でわずかに驚いた。

 

そして彼女は続ける。

 

「それだけじゃない。キラは心臓麻痺以外でも殺せる」

 

僕の背中を冷たいものが流れた。

 

冬だというのに。

 

汗が一滴落ちる。

 

――心臓麻痺以外。

 

それは僕自身すらまだ考えていなかった。

 

しかし。

 

言われてみれば。

 

理屈は通る。

 

キラが能力の条件を隠すなら。

 

あえて心臓麻痺を基本にする。

 

そうすれば。

 

事故死や自殺は誰も疑わない。

 

僕は思う。

 

この女。

 

鋭すぎる。

 

「知り合いがキラに会っています」

 

その言葉に僕は止まった。

 

キラに会った?

 

そんな馬鹿な。

 

「FBI捜査官でした」

 

そして。

 

「私の婚約者です。そして彼が調べていた人物こそが……キラ」

 

 

彼女は続ける。

 

バスジャック。

 

8時間前のコンビニ強盗。

 

その後のFBI死亡。

 

すべてを一本の線で結ぶ。

 

僕の脳裏にある顔が浮かぶ。

 

――レイ=ペンバー。

 

 

僕は表情を歪める。

 

 

だが。

 

その裏で僕の思考は高速で回転していた。

 

――推理はほぼ正しい。だが……

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。