Lがデスノートを拾った世界   作:梅酒24

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29話目:直感

真っ白な情景の中に、僕たち二人の影だけが浮かんでいた。

 

雪だ。

 

空から落ちる白い粒が、街を静かに覆い尽くしている。

歩道も、街路樹も、車道の端も、すべてがぼんやりと白く滲んでいる。

 

僕と彼女は、その中を並んで歩いていた。

 

高層ビルの影に入ると、急に空気が冷たくなる。

僕は無意識にポケットへ手を入れた。

 

――結論は間違っている。

 

 

 

推理の過程は、ほぼ真実だ。

 

僕は彼女の横顔をちらりと見た。

 

この女は、危険だ。

 

もし――

 

キラ=Lならば。

 

彼女は始末される可能性がある。

 

いや。

 

それだけではない。

 

死の時間や行動を操れるならば、

婚約者を失った女性という状況は、むしろ都合がいい。

 

絶望した婚約者。

 

自殺。

 

そういう筋書きに仕立てることも可能だ。

 

つまり。

 

彼女は、簡単に消される。

 

(警察にこの情報が伝わってはいけない)

 

僕は瞬時に結論を出した。

 

だが。

 

問題はそこからだった。

 

彼女を警察へ行かせない。

 

そのための言葉が――

 

すぐに思いつかない。

 

これは珍しいことだった。

 

僕は基本的に、会話の組み立てを瞬時に作れる。

 

だが今回の相手は、

警戒心が強い。

 

下手な言葉を使えば、

むしろ疑われる。

 

だが――

 

時間さえあれば。

 

誘導できる。

 

その自信はあった。

 

僕は道路脇で立ち止まった。

 

ポケットからメモ帳とペンを取り出す。

 

「あなたの話をもう一度、よく検証したいのですが……」

 

彼女は少し驚いた顔をしたが、すぐに頷いた。

 

それから僕は、彼女の話を整理する形で質問を続けた。

 

バスジャック事件。

 

そして――

 

彼女の名前。

 

間木照子。

 

彼女は淡々と話していた。

 

声は落ち着いている。

 

表情も変わらない。

 

隙がない。

 

まるで。

 

書類の報告でもしているかのようだ。

 

(これ以上は同じ話になる)

 

僕はそう判断した。

 

そして。

 

彼女も同じ結論に達したらしい。

 

「そろそろ戻ってみます」

 

彼女は言った。

 

「もう誰かいるかもしれません」

 

「えっ」

 

思わず声が出た。

 

――くそっ。

 

引き止めるのも不自然だ。

 

どうする。

 

このままじゃ。

 

落ち着け。

 

相手は女だ。

 

最悪の場合――

 

力づくで。

 

(馬鹿な)

 

僕はすぐにその考えを打ち消した。

 

今日は正月。

 

普段より人は少ないが、

それでも周囲に人はいる。

 

それに。

 

Lがキラというのは、

あくまで可能性だ。

 

まだ確定ではない。

 

しかし。

 

僕は歩きながら考え続けていた。

 

そのせいか。

 

気がつくと。

 

彼女との距離が少しずつ離れていた。

 

白い雪の道の中で。

 

彼女の背中が、ゆっくり遠ざかる。

 

そのとき。

 

僕の中で。

 

奇妙な感覚が生まれた。

 

――彼女をLの所へ行かせてはいけない。

 

理由は説明できない。

 

いわゆる。

 

男の直感。

 

だが僕は、直感というものを非合理的だとは思っていない。

 

むしろ逆だ。

 

直感とは。

 

人間の脳に蓄積された膨大な情報と経験が、

一瞬で計算を終えた結果だ。

 

つまり。

 

最も合理的な答えが瞬時に出ている状態。

 

僕は足を止めた。

 

その瞬間。

 

頭の中で、何かが繋がった。

 

そうか。

 

女の直感を使えばいい。

 

現時点で。

 

彼女は僕を信用していない。

 

興味もない。

 

それは彼女の話し方で分かる。

 

淡々としている。

 

感情がない。

 

まるで事務処理だ。

 

だが。

 

もし。

 

彼女が興味を持つ話をすれば。

 

そして。

 

彼女自身の心情を細かく読み取りながら、

その感情をくすぐり続ければ。

 

突破口は生まれる。

 

そして。

 

彼女が。

 

女の直感で僕を信用できると判断すれば。

 

警察には行かない。

 

僕は彼女に声をかけた。

 

「本部に誰もいないというのは、おかしいと思いませんか?」

 

彼女は振り向いた。

 

「ええ」

 

少し考えてから言う。

 

「変だとは思いました」

 

(よし)

 

僕は心の中で頷いた。

 

まず「はい」と言わせる。

 

それが重要だ。

 

一度肯定させれば、

次の話は自然につながる。

 

たとえそれが嘘でも。

 

一貫性が生まれる。

 

僕は言った。

 

「キラ事件の捜査本部は」

 

「担当する人間が分からないシステムを取っているんです」

 

本当は知らない。

 

だが。

 

父さんに電話が繋がらない。

 

受付ですら居場所が分からない。

 

この状況から考えれば――

 

その可能性は高い。

 

そして。

 

偶然にも。

 

それは事実だった。

 

彼女の表情がわずかに動いた。

 

ほんの少し。

 

だが確実に。

 

心が揺れた。

 

(まだだ)

 

僕は思った。

 

まだ足りない。

 

彼女は簡単な女ではない。

 

もっと。

 

押す必要がある。

 

僕は彼女の情報を思い出した。

 

婚約者。

 

FBI。

 

殺された男。

 

そのとき。

 

閃いた。

 

そうだ。

 

これだ。

 

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