Lがデスノートを拾った世界   作:梅酒24

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33話目:69

公園の空気は冷えていた。

冬の午後は、どこか現実感が薄い。

 

白い空。

乾いた木々。

遠くで遊ぶ子供の声。

 

そのすべてが、まるで舞台装置のように思える。

 

僕はベンチに座りながら、スマートフォンを耳に当てていた。

その前に――

 

僕は美空ナオミさんに、知っていることをすべて話していた。

 

もちろん、それは慎重に選んだ言葉だった。

しかし内容は、ほとんど事実だ。

 

レイ=ペンバーに調べられていたのは僕自身であること。

そして僕自身はキラではないこと。

 

さらに――

 

L=キラという可能性を、僕が考えていること。

 

そして。

 

あのバスジャック事件で目撃した、

死神という存在。

 

普通なら笑い飛ばされる話だろう。

しかし美空さんは違った。

 

彼女はFBIだった。

 

常識の外にある出来事を、

完全に否定するような人ではない。

 

そして。

 

僕の話を聞いたあと、

彼女は少しだけ沈黙した。

 

それから静かに言った。

 

「予想通り……誰かが侵入した形跡があったのですか?」

 

僕は周囲を見回した。

 

公園には数人の人間がいる。

老人。

犬を散歩させる女性。

遠くのベンチでスマートフォンを見ている青年。

 

怪しい人物はいない。

 

そう確認してから、僕は答えた。

 

「ええ」

 

僕はゆっくり言葉を選んだ。

 

「確か美空さんは、僕の家を別の場所から監視カメラで撮影していましたよね?」

 

わざと少し軽い口調で言う。

 

だが頭の中では、

すでに次の手を組み立てている。

 

 

「誰が、いつ侵入したのかを割り出していただけませんか?」

 

通話の向こうで、美空さんが小さく息を吸う音がした。

 

それから。

 

「監視カメラと盗聴器が設置された時間は絞れますか?」

 

僕はすぐに答えた。

 

「僕が学校へ行くために家を出たのは、七時三十分」

 

少し間を置く。

 

「帰宅したのは十五時三十分です」

 

僕は昨日の行動を頭の中で再生する。

 

時計の針。

家を出た時間。

玄関の音。

 

すべて正確に思い出せる。

 

「昨日は仕掛けられていませんでした」

 

「ですから、この時間帯に設置されたのは確実です」

 

僕はさらに続ける。

 

「ただし……」

 

「僕が学校へ行ったあとも、母さんは家にいました」

 

家の状況を思い浮かべる。

 

「それから僕は受験生です」

 

「部活動もありません」

 

「つまり学校が終わる時間も、中学生のさゆより早い」

 

少しだけ笑う。

 

「急いで帰れば、十五時ということもありえます」

 

通話の向こうで、美空さんが小さく頷いた気配がした。

 

「監視カメラや盗聴器を仕掛けるなら」

 

彼女が言う。

 

「絶対に誰にもばれてはいけません」

 

声は落ち着いている。

 

さすが元FBIだ。

 

状況整理が早い。

 

「そして」

 

彼女は続ける。

 

「仕掛けるなら家族の行動時間を把握している」

 

僕は無言で聞いていた。

 

「月君のお父さんが、一枚噛んでいるかもしれませんね」

 

その言葉に、僕は少しだけ目を細めた。

 

やはり。

 

同じ結論に辿り着く。

 

「そうなると……」

 

美空さんは言う。

 

「十四時三十分くらいに絞って調べればいいでしょうか?」

 

僕はすぐに答える。

 

「母さんは十二時に昼食を取ります」

 

「そのあと習い事に行きます」

 

僕は公園の地面を見つめた。

 

砂の上に、風が小さな線を作っている。

 

「つまり」

 

僕は言った。

 

「十二時から十四時三十分の間に」

 

「怪しい人物がいなかったか調べてください」

 

それから付け加える。

 

「もし見つからなければ」

 

「その前後も調べてください」

 

通話の向こうで、美空さんが少し笑った。

 

「一、二時間あれば」

 

「誰が侵入したのかは報告できると思います」

 

それから彼女は少し声を落とした。

 

「ただし」

 

「設置した人物の正体まで調べるなら」

 

「もう少し時間がかかるかもしれません」

 

僕は首を横に振る。

 

もちろん彼女には見えないが。

 

「今は」

 

僕は言った。

 

「どんな人物が侵入したのかだけで構いません」

 

少し間を置く。

 

それから自然に言葉が出た。

 

「ありがとうございます」

 

僕は言う。

 

「頼りにしています」

 

通話の向こうで、彼女が少し黙った。

 

その沈黙には、どこか温度があった。

 

僕は感じ取っていた。

 

彼女は。

 

僕を信用し始めている。

 

だが。

 

僕の頭の中では、別の思考が続いていた。

 

――監視カメラ。

 

――盗聴器。

 

いずれ来るとは思っていた。

 

Lなら必ずやる。

 

一見すれば。

 

監視カメラや盗聴器で、キラらしい行動を見つけるため。

 

しかし。

 

本当の目的は別だ。

 

僕がキラっぽい行動をすれば。

 

僕をキラにする。

 

逆に。

 

何もしなくても。

 

「キラは監視カメラがあってもうまく殺している」

 

そう言い訳できる。

 

Lなら。

 

いくらでも理屈を作れる。

 

そして。

 

捜査本部の人数は限られている。

 

つまり。

 

監視できる家族は。

 

二、三家族が限界。

 

レイ=ペンバーが調べていた家族。

 

その中にキラがいると仮定するなら。

 

監視対象は。

 

二家族。

 

そこまで来れば。

 

結論は一つ。

 

もしLがキラなら。

 

僕をキラに仕立て上げるのも。

 

時間の問題だ。

 

そのとき。

 

スマートフォンが震えた。

 

LINEの着信。

 

僕は顔を上げた。

 

周囲を確認する。

 

左。

 

右。

 

前方。

 

後方。

 

怪しい人物はいない。

 

僕は通話ボタンを押した。

 

「もしもし……」

 

通話の向こうから声が返る。

 

「分かったよ」

 

僕は無言で聞く。

 

「十三時三十分ごろ」

 

「黒いスーツにサングラスの人物が一人」

 

「月君の家に入ってる」

 

僕はゆっくり息を吐いた。

 

やはり。

 

「鍵を開けるのに十数秒」

 

声は続く。

 

「スペアキーなら十秒もかからない」

 

「つまり」

 

「非合法な方法で開けている」

 

僕は頷いた。

 

想定通りだ。

 

「さらに言えば」

 

「十数秒で開けるのは相当のプロ」

 

僕は心の中で呟いた。

 

――だろうな。

 

潜入は完全にプロ。

 

ただし。

 

僕の仕掛けたドアノブやシャー芯に気付かなかった。

 

つまり。

 

鍵やセキュリティ専門のプロ。

 

それ以外は、普通の人間。

 

だが。

 

僕は一つの言葉に引っかかった。

 

「サングラスの人」

 

僕はゆっくり言う。

 

「今の言い方ですが」

 

少し間を置く。

 

「“サングラスの人”と言いましたよね?」

 

「ニュースなら普通」

 

「黒ずくめの男とか、中肉中背の男と言うはずです」

 

僕は静かに続ける。

 

「“人”と言ったのは」

 

「性別が分からないという意味ですか?」

 

通話の向こうで、少し笑う声。

 

「さすが月君」

 

「その通り」

 

僕はベンチに深く座り直した。

 

「身長は推定170cm」

 

彼女が言う。

 

「ただ……」

 

「気になる点がある」

 

僕は聞き返す。

 

「気になる点?」

 

「とても華奢な体型」

 

彼女は言った。

 

「もちろん170cmなら男性の可能性も高い」

 

「でも」

 

「靴が女性用」

 

僕の目が細くなる。

 

「黒いブーツ」

 

「男性が履く人もゼロではない」

 

「でも」

 

「私は女性の可能性が高いと思う」

 

少し間。

 

「170cmの女性は珍しいけどね」

 

僕はすぐに答えた。

 

「外国人女性ならありえます」

 

美空さんが黙る。

 

僕は続ける。

 

「日本人女性の平均身長は158cm前後」

 

「170cmは珍しい」

 

「ですが」

 

「外国人ならむしろ普通です」

 

通話の向こうで、美空さんが言う。

 

「日本の警察に外国人っている?」

 

僕は少し考える。

 

そして答えた。

 

「ほとんどいません」

 

警察。

 

消防。

 

自衛隊。

 

公安。

 

それらは基本的に日本人だ。

 

つまり。

 

外国人が不法侵入。

 

盗聴器設置。

 

監視カメラ設置。

 

これは。

 

Lが犯罪者を使っている可能性。

 

僕の思考は一気に繋がる。

 

もしこの女性が犯罪者なら。

 

Lと密接な関係にある。

 

そして。

 

犯罪者を使って不法捜査。

 

それだけでも。

 

十分に起訴できる。

 

僕はゆっくり言った。

 

「Lが外国人犯罪者を使って」

 

「不法捜査をしている可能性があります」

 

僕は続ける。

 

「できれば」

 

「その女性を調べてください」

 

「写真でも構いません」

 

「滞在時間でも構いません」

 

「些細なことでもいい」

 

それから付け加える。

 

「そして」

 

「この前紹介した美空ナオミさん」

 

「元FBI捜査官です」

 

「彼女にも調べてもらってください」

 

僕は低く言った。

 

「十数秒で鍵を開けるプロ」

 

「有名な犯罪者かもしれない」

 

そして。

 

最後に。

 

僕は静かに言った。

 

「そうすれば」

 

「Lを追い詰められる」

 

僕は空を見上げた。

 

冬の雲がゆっくり流れている。

 

「もう僕の中では」

 

「Lがキラではないかという疑いで」

 

「頭がいっぱいです」

 

通話の向こうで声がする。

 

「どのくらいの可能性?」

 

僕は少し考えた。

 

そして。

 

答えた。

 

「69%です」

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