もっとも、その名で呼ぶ者はほとんどいない。
裏の世界では、私はウエディと呼ばれている。
鍵。
金庫。
電子セキュリティ。
これらを破る能力に関して言えば、世界でも五指に入る――と自負している。いや、控えめに言っただけだ。実際にはもっと上かもしれない。
だが、人というものは妙なもので、どれほど優れた才能を持っていても、別の分野では平凡であることが多い。
私の場合、それが潜入だった。
泥棒としては悪くない。
しかし、プロの犯罪者としては決して完璧ではない。
その弱点ゆえに、私はかつて一人の男に捕まった。
L。
奇妙な姿勢で椅子に座る、あの世界的名探偵である。
もっとも、彼は私を刑務所へ送らなかった。
その代わりに提示された条件は単純だった。
――私の力を貸せ。
それだけである。
Lの依頼がない時は自由。
しかも、仕事をすれば驚くほど高額な報酬が支払われる。
犯罪者としては、これ以上に合理的な契約はなかった。
そして今回の依頼は、驚くほど簡単なものだった。
日本の一般家庭に忍び込むこと。
それだけだ。
私は黒ずくめの服に身を包み、サングラスをかけていた。
長い金髪が背中に流れている。
自分でも思わず笑ってしまう。
まるで――
銀河鉄道のメーテルのようだ。
もっとも、あの女性が鍵を破ったり監視カメラを仕掛けたりする姿は、あまり想像できないが。
午後一時三十分。
私は夜神家の玄関に立った。
Lから家族の外出時間は聞いている。
家の中に人の気配はない。
私はポケットから一本の鍵束を取り出した。
その中でも特別な一本。
私はこれをこう呼んでいる。
『盗賊の鍵』
民家の鍵など、この一本で十分だ。
ちなみに、どんな錠前でも開けられる改良版もある。
そちらは
『魔法の鍵』
と名付けている。
もちろん、どちらも私の自作だ。
この鍵たちは、世界中の“勇者”――つまり泥棒たちに愛用されることになるのだが、それはまた別の物語である。
鍵束を探すのに九秒。
鍵穴へ差し込む。
回す。
二秒。
カチリ。
合計十一秒。
私は静かに扉を開けた。
――ちょろい。
私は小さく笑う。
せっかくだ。
日本でも「盗賊の鍵めぐり」をしてみようかしら。
そんな軽口を頭の中でつぶやきながら、私は二階へ上がった。
今回の目的は、夜神月の部屋だ。
Lは言っていた。
「非常に頭の切れる青年です」
だから注意しろ、と。
私は思わず肩をすくめた。
――私が見逃すわけないでしょう。
ドアノブを握る。
ゆっくり回す。
扉を開いた瞬間――
ひらり。
一枚の紙が舞い落ちた。
同時に。
床を転がる小さなガラス片。
私はしゃがみ込んだ。
そして微笑む。
――なるほど。
紙はドアの隙間に挟まれていた。
扉を開ければ落ちる。
そしてガラスの破片。
位置が変われば、侵入が分かる仕組み。
高校生にしては悪くない。
だが。
私は肩をすくめる。
――この程度で私を捕まえられると思ったの?
紙を拾い、机の上へ置く。
ガラス片はそっと元の位置へ戻す。
あとで紙をドアに挟めばいい。
これで痕跡は残らない。
私は部屋を一瞥した。
整理整頓された空間。
模範的な優等生の部屋。
しかし。
私はこういう部屋を信用しない。
本当に賢い人間ほど、何もない部屋を作るからだ。
私は机を調べる。
引き出し。
一つだけ。
開かない。
私は口元を歪めた。
――怪しい。
盗賊の鍵を差し込む。
カチリ。
中には――
日記帳。
私はぱらぱらとめくる。
……。
好きなアイドル。
テレビ番組。
日常の感想。
私は思わず笑った。
――真面目な息子、ね。
アイドル趣味を隠したい年頃なのかもしれない。
引き出しを閉める。
本棚も調べる。
特に異常なし。
私は次に目を向けた。
デスクトップパソコン。
これは私の専門分野だ。
履歴を消しても無意味。
データは必ずどこかに残る。
私はキーボードを叩く。
パスワード突破。
数分。
画面が開いた。
私は小型PCを接続する。
データコピー。
削除履歴復元。
ログ解析。
そして気づく。
――このPC。
改造されている。
セキュリティ侵入の痕跡を消す仕組み。
足がつかない設計。
私は小さく口笛を吹いた。
――高校生にしては、やるじゃない。
本当にこの少年がキラかもしれない。
私は監視カメラを取り出した。
設置開始。
昨日の夜を思い出す。
Lの家。
ワタリ。
アイバー。
そして私。
三人でゲームをしていた。
スマブラ。
任天堂64。
カービィが強すぎるゲームだ。
ワタリは昔マリオ使いだったらしい。
確かに昔の写真を見ると、どこかマリオに似ている。
そういえば去年。
ワタリは二メートル近くジャンプして天井に頭をぶつけ、ブロック塀を壊した。
――マリオみたいに。
私はカメラを取り付けながら考えた。
そしてふと思う。
――まさか。
昨日遊んだハードは。
64。
私は頷いた。
監視カメラ64台。
それで決まりだ。
私は月の部屋だけでなく、家全体にカメラと盗聴器を設置した。
すべて完璧に。
誰にも気づかれず。
それが私の専門だ。
仕事を終えると、私はLへ報告した。
電話越しに彼の声が聞こえる。
静かな声。
「なるほど……」
彼は気になった点を挙げた。
ドアの紙。
鍵付き日記帳。
そして。
パソコンの侵入痕跡。
私はデータ解析を始めた。
そしてついに見つける。
痕跡。
隠されたログ。
ロシアのサーバー。
父親のパソコン。
消された通信。
私は言った。
――Xは夜神月。
この少年は。
警察のデータへ侵入していた。
この痕跡は、私でなければ見つけられなかっただろう。
報告を聞きながら。
Lは目を閉じていた。
***
そして静かに呟いた。
心の中で。
――夜神月。
君をキラに仕立てあげる。
たとえ君がキラでなくても。
私がキラだと言えば、君は私をキラだと疑う。
そして君は証明しようとする。
私は君を追い詰める。
君は私を追い詰める。
それは。
探偵と犯人の。
最も純粋な戦い。
電話を切った後、私は窓の外を見た。
冬の東京。
灰色の空。
そして私は微笑んだ。
どうやら。
このゲーム。
とても面白くなりそうだ。