Lがデスノートを拾った世界   作:梅酒24

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33冊目:監視

私は暗い部屋の中で、じっとモニターを見つめていた。

 

夜神家の各部屋から送られてくる映像が、無数の小さな窓となって画面に並んでいる。

そのすべてを同時に追うことは、普通の人間には不可能だろう。だが私にとっては、ただの情報整理にすぎない。

 

隣には夜神さんがいる。

 

この監視は、私と夜神さんの二人だけで行っていた。

それは捜査上の機密という意味もあるが、もう一つ理由がある。

 

風呂やトイレにまで監視カメラを設置している以上、余計な人間を関わらせるわけにはいかない。

せめてもの配慮というやつだ。

 

人間という生き物は、犯罪者を追うときにしばしば自分自身の倫理を試される。

 

私はそういう瞬間を、何度も見てきた。

 

そのときだった。

 

モニターの一つに、小さな違和感が現れた。

 

夜神月が部屋を出る。

 

そして。

 

ドアの前でしゃがみこんだ。

 

(……?)

 

私は身体を少し前に乗り出した。

 

月はポケットから紙の切れ端を取り出し、ドアの隙間に挟み込んだ。

 

極めて自然な動作。

だが、意図がある。

 

(簡易トラップ……)

 

ドアが開けられれば、紙は落ちる。

つまり、誰かが部屋に入ったかどうかを確認するための仕掛けだ。

 

「息子があんなことをしているとは……」

 

夜神さんが低く呟いた。

 

「部屋に見られたくないものでもあるのか」

 

私は静かに答えた。

 

「私も意味なくそういうことをしたことがあります」

 

そして続ける。

 

「彼に捜査状況を話したことは?」

 

夜神さんは即座に否定した。

 

「馬鹿な……」

 

声には苛立ちが混じっていた。

 

「報道されない極秘事情は絶対話したりはしない」

 

(……でしょうね)

 

私は再びモニターへ視線を戻した。

 

月は外出した。

 

そして数時間後――

 

帰宅。

 

ここからが面白かった。

 

月は自室へ入り、本棚から一冊の分厚い本を取り出した。

 

タイトルは妙に目立つ。

 

『挑発に乗っては死亡フラグ』

 

私は眉をわずかに動かした。

 

(奇妙なタイトルですね)

 

だが、問題はそこではない。

 

月はその本を開いた。

 

すると。

 

中から別の本が数冊現れた。

 

なるほど。

 

本棚のカモフラージュ。

 

いわゆる偽装収納というやつだ。

 

そして月は、その中の一冊を取り出すとベッドに転がりながら読み始めた。

 

隣で夜神さんが凍りついた。

 

「まさか……」

 

声が震えている。

 

「あの真面目な息子が……あ、あれは……」

 

私は横目で夜神さんを見た。

 

額から冷や汗が流れている。

 

「どうかしました?」

 

夜神さんは一瞬、言葉を詰まらせた。

 

「いや……」

 

(私の無くしたと思っていた『たとえ火の中、水の中、あの娘のスカートの中』ではないか……)

 

その言葉は声にならない。

 

夜神さんは慌てて続けた。

 

「こんなものを見ているなんて夢にも思わなかった」

 

顔はすぐに平静へ戻った。

 

だが。

 

人間の動揺というものは、ほんの一瞬の隙間に現れる。

 

私はそれを見逃さない。

 

(……なるほど)

 

私は思った。

 

(ここで月くんへの疑惑を少しずつ向けていきましょう)

 

この本は、使える。

 

「17歳には普通です」

 

私は静かに言った。

 

「ですが私には……」

 

モニターを見つめたまま続ける。

 

「部屋に誰か入っていた場合の言い訳として置かれているように見えます」

 

夜神さんの顔がゆっくりこちらへ向いた。

 

ちょうど九十度。

 

眉間に深い皺が刻まれている。

 

「まさか竜崎」

 

低い声。

 

「私の息子を疑っているのか?」

 

(……やはり来ましたね)

 

私は内心で頷いた。

 

父親として当然の反応だ。

 

ここで誤魔化すよりも、正面から言う方が良い。

 

「疑っていますよ」

 

私は淡々と言った。

 

「だからお宅と次長の家に盗聴器とカメラを仕掛けたんです」

 

夜神さんは黙り込んだ。

 

そのとき。

 

月が本を閉じた。

 

そして額に手を当て、ため息をついた。

 

「あーあ」

 

小さく呟く。

 

「また父さんに騙された」

 

私はすぐに反応した。

 

「父さんに騙されたというのは」

 

「その本は夜神さんのものですか?」

 

夜神さんが跳ね上がった。

 

「あ……いや……」

 

完全に動揺している。

 

「私は……五年前に発売された雑誌のことなど知らない……」

 

一瞬の沈黙。

 

「あっ……くそっ……ライトッ……!!!!」

 

私は静かに思った。

 

(それよりも)

 

問題はそこではない。

 

本棚の仕掛け。

 

(ウエディが見落とした)

 

あの女は優秀だ。

 

だが。

 

ワタリなら見落とさないレベルの仕掛けだ。

 

(ということは……)

 

他にも見落としがある可能性がある。

 

私は夜神家に直接侵入できない。

 

誰かに依頼するしかない。

 

そこに、わずかな不安が残る。

 

盗聴器やカメラが発覚する確率は低い。

 

しかし。

 

もし発覚すれば――

 

それは完全に犯罪だ。

 

(まあ)

 

その程度の訴えなら、いくらでも不起訴にはできますが。

 

そのとき。

 

下の階から、明るい声が響いた。

 

「おーにーいちゃーーん、ごーはーんっ だーょっ」

 

黄色い声。

 

夜神さゆだ。

 

月はすぐ立ち上がり、部屋を出た。

 

階段を降りる。

 

リビングでは、さゆがドラマを見ていた。

 

流河早樹の出演する人気ドラマだ。

 

母親は夕食の支度を終え、食卓には色とりどりの料理が並んでいる。

 

平凡な家庭。

 

平和な夕食。

 

どこにでもある、普通の夜神家の風景。

 

――しかし。

 

私は知っている。

 

この家のどこかに。

 

世界最大の殺人者がいる可能性があることを。

 

そしてもし、それが事実なら。

 

この静かな食卓の裏側で。

 

人類史上最大の知能戦が始まっている。

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