Lがデスノートを拾った世界   作:梅酒24

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35話目:軽犯

一月九日。

 

朝の光は、どこか淡く、冬らしい冷たさを帯びていた。

 

僕はいつも通り、玄関先に置かれた朝刊を手に取る。

紙をめくる音が静かな家の中に小さく響く。

 

父さんはすでに出勤している。

母さんは台所で味噌汁を温め、さゆはまだ眠そうな顔で椅子に座っている。

 

平凡な朝。

 

どこにでもある、ありふれた家庭の光景だ。

 

だが――

 

(見ている)

 

誰かが。

 

どこかから。

 

この家のすべてを。

 

僕は新聞を読むふりをしながら、記事の文字を目で追う。

しかし頭の中では別の計算が進んでいた。

 

朝食を食べ終えると、僕は自分の部屋へ戻った。

机に向かい、参考書を開く。

 

ペンを手に取る。

 

表面上は、受験生の青年が勉強しているだけの光景。

 

だが僕の頭の中では、別の思考が組み立てられていた。

 

(昨日は……)

 

ペン先がノートの上を滑る。

 

(僕が勉強していた時間帯に……)

 

数式を書く。

 

(横領犯と……ひったくり犯……)

 

数字を書く。

 

(心臓麻痺で死亡)

 

そこで僕は一度、手を止めた。

 

窓の外の空をちらりと見る。

 

(今までの犯罪者と比べて)

 

僕は考える。

 

(罪が軽い)

 

その印象が強い。

 

これまでのキラの殺しは、重犯罪者が中心だった。

 

殺人犯。

凶悪犯。

社会的にも許されない存在。

 

しかし今回は違う。

 

横領犯。

ひったくり犯。

 

軽いとは言わない。

 

だが――

 

キラの基準からすれば軽い。

 

(監視カメラ)

 

僕はゆっくり考えを進める。

 

(トイレや風呂にもある)

 

そこまでやる以上。

 

この家を監視しているのは――

 

まず間違いなく。

 

父さん。

 

警察庁刑事局長。

 

キラ対策本部の中心人物。

 

立場からしても自然だ。

 

だが。

 

僕は首を小さく振る。

 

(父さんだけのはずがない)

 

そんなことを。

 

Lが許すはずがない。

 

つまり。

 

Lも見ている。

 

この家を。

 

この部屋を。

 

そして。

 

僕を。

 

(監視が三人以上……?)

 

僕は計算する。

 

それは多すぎる。

 

人数が増えれば増えるほど、

情報漏洩の危険も増える。

 

それに。

 

プライバシーの問題。

 

トイレや風呂まで監視する以上、

人員は最小限に絞るはずだ。

 

キラ対策本部の人間は。

 

父さんより身分が低い。

 

つまり。

 

彼らにそこまで見せるとは考えにくい。

 

(ならば)

 

結論は一つ。

 

父さんとL。

 

この二人が監視している。

 

ほぼ間違いない。

 

僕は再びノートへ目を落とした。

 

二次関数の問題。

 

式を書き、平方完成を始める。

 

x²+6x+5。

 

僕の手は迷いなく動く。

 

これはもう。

 

機械的作業だ。

 

僕はずっと前に気付いていた。

 

計算問題というものは、

必ずしも思考を集中する必要がない。

 

正しい手順さえ踏めば、

答えには辿り着く。

 

つまり。

 

考え事をしながらでも解ける。

 

ならば。

 

時間を無駄にしない方がいい。

 

僕は式を書き続けながら思考を進める。

 

(軽犯罪者が心臓麻痺)

 

偶然の可能性もある。

 

だが。

 

僕はそれを否定する。

 

(キラがやった)

 

そう考える方が自然だ。

 

となると。

 

なぜ軽犯罪者なのか。

 

僕はペン先を止めた。

 

(あえて)

 

その言葉が浮かぶ。

 

あえて軽犯罪者を殺した。

 

つまり。

 

そこには意図がある。

 

僕は考える。

 

(僕をキラに仕立てあげるなら)

 

当然。

 

僕がテレビを見ている時に犯罪者を殺す。

 

それが一番分かりやすい。

 

だが。

 

僕はすぐに首を振る。

 

(いや……)

 

Lならそんな単純なことはしない。

 

たとえ僕がテレビを見ていなくても。

 

監視カメラの死角から。

 

スマートフォンでニュースを見た。

 

そう言えばいい。

 

あるいは。

 

「カメラを仕掛けた初日なのに、夜神月は面白いほど白だ」

 

そんな曖昧なことを言えばいい。

 

人は曖昧な言葉に弱い。

 

いくらでも。

 

黒塗りにできる。

 

僕は椅子に少し背を預けた。

 

(軽犯罪者)

 

それは。

 

明らかに今までのキラの殺しとは違う。

 

イレギュラー。

 

つまり。

 

このイレギュラーは。

 

監視カメラや盗聴器を仕掛けたことで起こった。

 

そう考えられる。

 

そして。

 

もしキラが。

 

監視カメラや盗聴器を知っていたら?

 

僕は思考を進める。

 

(ボロは出さない)

 

絶対に。

 

出さない。

 

極端な話。

 

もし僕がキラなら。

 

身の潔白を証明する方法はある。

 

僕はふと机の上のポテトチップスを見た。

 

コンソメ味。

 

この家では。

 

僕しか食べない。

 

つまり。

 

その袋の中に。

 

小型テレビ。

 

あるいは。

 

モバイル端末。

 

そういうものを隠しておく。

 

そして。

 

そこからニュースを見て。

 

顔と名前を把握する。

 

それで犯罪者を殺す。

 

そうすれば。

 

監視カメラの前にいながら。

 

キラであることを証明できない。

 

父さんとLが証人になる。

 

僕が白だと。

 

だが。

 

すぐに僕は首を振った。

 

(そんなことはしない)

 

第一。

 

僕はキラじゃない。

 

それに。

 

たとえ。

 

キラと同じ能力を手に入れたとしても。

 

僕は――

 

人殺しなんて絶対にしない。

 

しかし。

 

思考は止まらない。

 

もし。

 

Lが僕をキラに仕立てあげるつもりなら。

 

これから。

 

僕がニュースを見る。

 

そして。

 

その犯罪者が殺される。

 

そうなれば。

 

疑いは一気に僕へ向く。

 

僕はゆっくりと顔を上げた。

 

部屋の中を見渡す。

 

壁。

 

天井。

 

棚。

 

どこかにカメラがある。

 

きっと。

 

今この瞬間も。

 

Lが。

 

僕を見ている。

 

僕は静かに手を伸ばした。

 

机の上のリモコン。

 

それを手に取る。

 

少しだけ。

 

間を置く。

 

そして。

 

テレビの電源ボタンを押した。

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