僕は静かに息を整え、カメラの向こうにいるであろう捜査本部の面々を思い浮かべた。
今この瞬間、彼らの視線はすべてこの部屋に集まっているはずだ。
父――夜神総一郎。
そして、世界一の探偵と呼ばれる男、L。
彼らの思考の流れを、僕は冷静に想像する。
人の推理というものは、証拠よりも心理に左右される。
だからこそ、論理は静かに、しかし確実に積み上げなければならない。
僕は口を開いた。
『大丈夫です。』
声は落ち着いていた。
むしろ、自分でも驚くほど冷静だった。
『Lはここで警察本部の人間や僕を殺すことはできません。もしそんなことをすれば、それこそLがキラだと宣言するようなものだからです』
僕は少し間を置き、続けた。
『そして、初日に僕が白だと言われた理由――。
ポテトチップスの話をするなら、それが指摘されるのは盗聴器が外される時か、あるいは今日あたりではないかと考えています』
モニターの向こうで、ざわめきが起こっているだろうことは容易に想像できた。
「月君の言ってることが当たってる……でもなんでだ?」
僕は椅子に深く腰掛け、両手を組んだ。
まるで、謎解きを披露する探偵のように。
『まず事実から整理しましょう。』
『僕が外部から持ち込んだものの中で、机の上に置いていたものはポテトチップスだけです』
僕は淡々と続けた。
『そして家族の中でコンソメ味のポテトチップスを食べるのは僕だけです。
つまり――』
僕は静かに結論を置いた。
『その袋の中に何か仕掛けを作っても、誰にも不自然に思われない』
論理は単純だ。
だが、単純な論理ほど人は見落とす。
『そしてもしLがキラなら、この点に注目しないはずがありません』
僕はカメラを見つめた。
『なぜなら、この部屋でしか軽犯罪者の情報を得ることができないからです』
少しだけ笑みが浮かんだ。
『もしLがキラなら――
その事実を後日になってから指摘することで、僕をキラに仕立て上げることができます』
僕は指先で机を軽く叩いた。
『ここで重要なのは“後日”という点です』
論理の核心だった。
『もし当日にそれを言えばどうなるでしょう?』
僕はゆっくり答えを示した。
『ゴミ箱を調べればいい』
その瞬間、すべてが崩れる。
『もし小型機械が見つからなければ、夜神月は完全に白になる。
つまり僕を黒塗りすることができなくなる』
だからこそ――
『金曜日以降に言う必要がある』
僕は静かに推理を完成させた。
『ゴミ収集車は回収したゴミを特別区のゴミ工場へ運びます。
そしてその日のうちに巨大なゴミの山になる』
僕は淡々と続ける。
『そこから小型機械を探すなど――ほぼ不可能でしょう』
さらに一歩、踏み込んだ。
『軽犯罪者をあえて殺すことで、キラが情報を得る環境にあるように見せることもできる。
つまり、僕をよりキラらしく見せることができる』
しかし。
僕は首をわずかに振った。
『とはいえ、いきなり僕をキラだと断定するのも不自然です』
それでは稚拙すぎる。
『今まで尻尾を出さなかったキラにしては、あまりに単純すぎる。
だからまずは僕を白に見せ、時間をかけて疑いを濃くする』
そして静かに言った。
『そういう筋書きだったのではないでしょうか』
僕は最後にこう付け加えた。
『もしキラがLでないなら、このような推理はそもそも成立しません。
その場合は安心してください。Lはキラではない』
僕はわずかに肩をすくめた。
『世界一の探偵であるLが、いずれキラを追い詰めるでしょう』
そして。
『もし今の話に聞き覚えがあるなら――
僕に連絡をください』
その瞬間。
モニターの向こうで総一郎が電話に手を伸ばした。
「月!」
しかし。
「夜神さん!!!!」
鋭い声が響いた。
Lだった。
彼は手を伸ばし、静かに制止した。
電話をかけるな――という合図だ。
総一郎はLを睨む。
「竜崎。息子の言っている話は筋が通っている」
重い声だった。
「私は息子がキラだと確信したわけではない。
だが息子がキラの可能性があるなら――」
彼はLを見据えた。
「お前がキラの可能性も十分ある」
部屋の空気が凍った。
しかしLは微動だにしない。
「まずは息子さんの反応を見ましょう」
静かな声だった。
「それからでも遅くはありません」
そしてわずかに口元を緩めた。
「……私としては、続きを聞きたい」
その頃。
僕は画面の向こうを想像しながら話を続けていた。
『連絡はありませんね』
小さく息を吐く。
『まぁ父さんがLに止められて様子を見ようと言われている可能性はありますが』
僕は続けた。
『そもそも世界一の探偵Lが違法捜査までして調査するというのは、確信を持って行動している証拠です』
そして冷静に結論を置く。
『もしLがキラでないなら――
一週間以内にキラを逮捕していてもおかしくない』
僕は指を組み直した。
『過去にもLが違法捜査をしたという噂がありますが、その場合は犯人を断定しており、捜査後すぐに逮捕しています』
しかし今回は違う。
『それが起きていない』
だから僕は言った。
『Lがキラだから、キラを逮捕できないのではないでしょうか?』
僕は静かに続けた。
『では最初からLの行動を追ってみましょう』
そして僕は最初の事件へと話を移した。
『Lの最初の犠牲者は音原田』
僕は考察する。
『Lは日本人ではないと言われています。
それにも関わらず最初に日本人を殺した』
理由は明白だ。
『日本は先進国でありながら、警察を誘導しやすい』
さらに。
『犯罪者を次々裁きながら、誰かをキラに仕立て上げる計画だった』
僕は続けた。
『その後、50人以上の犯罪者が殺された』
そして。
『リンド・L・テイラー事件』
僕は静かに言った。
『あの出来事は――あまりにうまくいきすぎている』
時間差報道。
関東限定の放送。
確かに完璧な罠だった。
だが。
『そもそもキラがたまたまテレビを見ている保証はない』
それなのに。
『たまたま見ていた』
さらに。
『たまたま関東で放送された瞬間に殺した』
僕はゆっくり結論を置いた。
『うまくいきすぎている』
もし本当にキラが顔と名前で殺せるなら。
『もっと慎重に行動するはずです』
あんな挑発に乗る人物なら。
『とっくに逮捕されているでしょう』
だから。
『これはLの自演――』
僕は静かに言った。
『つまり、Lこそキラという可能性がある』
モニターの向こうで。
Lは静かに月を見つめていた。
(夜神月君……)
心の中で呟く。
(実に面白い)
確かに論理は美しい。
だが。
(証拠がなければ仮説にすぎない)
そしてふと考える。
(もちろん、ここで警察本部と月君を全員殺すことも可能ですが……)
その瞬間。
背後で死神が笑った。
『けけけ……見事に見透かされてるなぁ』
リュークだった。
『いいのか?殺されなくて』
Lは小さく笑った。
(……いや)
彼は決めた。
(私はこの青年を完全に論破したい)
そして思う。
(同じ大学に入学し、正面から戦う)
その方が面白い。
(日本の大学レベルなら――)
(1日あれば十分でしょう)
Lの瞳は。
まるで新しい遊びを見つけた子供のように。
静かに輝いていた。