Lがデスノートを拾った世界   作:梅酒24

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4冊目:贄羊

「こっちに居たほうが面白いと踏んだ」

 

死神はそう言った。

黒い羽根をゆらゆらと揺らしながら、まるで退屈な授業をさぼる学生のような気軽さで。

 

――その気持ち、私も分からなくはない。

 

私は心の中でそう呟いた。

 

死神が退屈する。

それは奇妙な話のようでいて、しかし妙に納得できる話でもあった。

人間界の退屈と、死神界の退屈。

形は違っても、その本質はきっと似たようなものなのだろう。

 

「そして面白いと確信できた」

 

死神は続けた。

 

私は頷いた。

 

「私も退屈でした。同様に面白くなると確信しました」

 

そして少しだけ言葉を区切る。

 

「もちろん最初は信じなかった。しかし、そのノートには……人間なら誰でも一度は試したくなる魔力があります」

 

そう言いながら、私は椅子に腰を沈めた。

背もたれにもたれず、いつもの癖で膝を抱える。

 

視線は自然と天井へ向かっていた。

 

そして──

あのときのことを思い出す。

 

デスノートを手にした、あの日のことを。

 

テーブルの上には、食べかけの栗のタルトがあった。

私は最後に残しておいた栗をつまみ上げ、口に入れた。

 

甘い。

 

だがその甘さは、私の頭の中に広がっている思考の苦味を消すほどではない。

 

皿は空になった。

 

私は指先を舐め、

そのまま黒いノートをじっと見つめた。

 

――もし、このノートが本物だったら。

 

その可能性を、私は真剣に考え始めた。

 

静かな部屋だった。

 

ワタリの足音も聞こえない。

遠くの街の騒音だけが、かすかに壁の向こうで鳴っている。

 

私は考える。

 

――万が一死んだら、私は殺人犯になりますね。

 

その言葉は、頭の中でひどく静かに響いた。

 

だが不思議なことに、

そこには恐怖というものがほとんどなかった。

 

むしろ、

興味があった。

 

――殺してもいい人間。

 

私は指先でテーブルを叩く。

 

――しかも私とは無関係な人間の方がよい。

 

さらに思考を進める。

 

――さらに言えば国も違う方がいい。

 

もしこのノートが本物だった場合。

身近な人間を避けるのは当然だ。

 

それは倫理の問題ではない。

 

実験の条件として当然なのだ。

 

自国の人間を最初に実験台にするなど、

あまりにも稚拙な判断である。

 

私は角砂糖の瓶を開けた。

 

白い立方体を取り出し、

テーブルの上に一つ置く。

 

そして、その上にもう一つ。

 

さらにもう一つ。

 

小さな塔を作るように、

角砂糖を積み上げていく。

 

カチ、カチ、と軽い音がする。

 

思考と手の動きは、ほとんど同時に進んでいた。

 

三個。

 

五個。

 

八個。

 

十個。

 

――第一条件。

 

私は心の中で言う。

 

先進国であること。

警察が熱心に動く国であること。

 

十二個。

 

統率が取れている。

つまり単一国家。

 

十三個目の角砂糖を置いたとき、

私のシミュレーションは終わっていた。

 

――この計画でいこう。

 

私は静かに結論した。

 

先進国。

だが完全ではない。

 

ある程度の難題に関しては自国では解決できない、

ほどよい無能さがある国。

 

そして解決に行き詰まったとき、

他国に助けを求める国。

 

さらに。

 

私──Lの評価を高くしており、

しかし問題が起きれば責任をこちらへ押しつけるような国。

 

つまり。

 

日本。

 

私はテレビのリモコンを取った。

 

壁一面のモニター。

 

十×十以上の画面が並び、

世界中の放送を映している。

 

私は日本のテレビへ切り替えた。

 

日本で放送されているチャンネルが、

一斉に表示される。

 

その中の一つに、

私の目が止まった。

 

黒いリモコンを操作する。

 

その番組だけを拡大する。

 

画面いっぱいにニュースが映る。

 

「昨日、新宿の繁華街で無差別に六人もの人を殺傷した通り魔は──」

 

アナウンサーの声が響く。

 

「今もなお幼児と保母八人を人質に、この保育園に立てこもっております」

 

私は角砂糖を一つ取り、

飴のように舐め始めた。

 

――これにしましょうか。

 

条件は揃っている。

 

凶悪犯。

立てこもり事件。

全国中継。

 

私は静かに思う。

 

――悪魔のサイコロを振ってみましょう。

 

テレビではアナウンサーが言った。

 

「警視庁は犯人を音原田九郎、無職四十二歳と断定──」

 

私は少し笑った。

 

――ご丁寧に顔写真まで載せてくれるとは。

 

私はボールペンを取った。

 

そしてノートに書く。

 

音原田九郎

 

日本語を書くのは久しぶりだった。

かつて覚えた外国語の一つ。

 

少し乱暴な字になった。

 

書き終えると、

私は時計を見つめた。

 

――四十秒で心臓麻痺でしたね。

 

静かな部屋。

 

テレビの音だけが響く。

 

私は秒針を見つめる。

 

三十秒。

 

三十五秒。

 

四十秒。

 

――さて。

 

四十秒が過ぎた。

 

その瞬間。

 

テレビのアナウンサーが叫んだ。

 

「あっ! 人質が出てきました!」

 

私は少しだけ眉を上げた。

 

「皆、無事の様です!」

 

「入れ替わるように警察隊が突入!!」

 

アナウンサーの声はどんどん速くなる。

 

スタジオも現場も、

ざわざわと騒ぎ始めた。

 

「犯人逮捕か!?」

 

しかし。

 

「犯人らしい者は出てきませんね……」

 

「いったいどうなっているのでしょうか」

 

アナウンサーは前のめりになっている。

 

他局に負けたくないのだろう。

 

そして。

 

「今情報が入りました!!」

 

「犯人は保育園内で死亡!!」

 

「犯人は死亡した模様です!!」

 

――ほぉ。

 

私は回転椅子の上で体育座りをしていた。

 

そのまま床を蹴る。

 

椅子がぐるぐると回り始めた。

 

天井とモニターがぐるぐる回る。

 

――偶然の可能性は捨てきれない。

 

だが。

 

――ほぼ、このノートは本物。

 

私はそう結論づけた。

 

テレビではまだ騒いでいる。

 

「警官が射殺したのではないと強調しています!」

 

「人質の証言では犯人は突然倒れたと──」

 

私はテレビを消した。

 

そして部屋を出た。

 

そのニュースの結末を、

最後まで見る必要はなかった。

 

数時間後。

 

私は戻ってきた。

 

手にはハーゲンダッツの袋。

 

七つ。

 

アイスミルクでもラクトアイスでもない。

正真正銘のアイスクリームだ。

 

私は昔からアイスクリームが好きだった。

 

――さて。

 

私はスプーンをくわえながら考える。

 

検証の結果。

 

このノートは本物。

 

そして。

 

リンド=L=テイラーとの交渉も可能。

 

残る問題は一つ。

 

日本で、

誰をスケープゴートにするか。

 

私は思考を続ける。

 

世の中は腐っている。

 

腐っている人間は死んだ方がいい。

 

そう考えそうな人間。

 

だが同時に、

正義という倫理で行動する人間。

 

大人は駄目だ。

 

利益で動く。

 

ならば子供。

 

しかし小学生や中学生では

怖くて使いこなせない。

 

となると。

 

高校生か大学生。

 

さらに──

 

頭の回転が速い人間。

 

事件の情報に触れやすい立場。

 

警察庁。

 

警視庁。

 

政治家の子供。

 

私はアイスを一口食べた。

 

冷たい甘さが、

ゆっくり舌に広がる。

 

音原田の事件を考えると、

舞台は東京がいい。

 

日本の中心。

 

私は思った。

 

――まぁ。

 

一日もあれば見つかるでしょう。

 

私の。

 

スケープゴートが。




【悲報】音原田九郎は二度死ぬ!!

地の文をL視点にしてみました。
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