Lがデスノートを拾った世界   作:梅酒24

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48冊:人物像

本部の空気は、妙に乾いていた。

 

渋谷。

青山。

 

どちらにも、キラらしき人物は現れなかった――という報告が、すでに上がっている。

 

捜査官たちは顔を見合わせ、半ば冗談のように、しかしどこか本気の色を含んで言い始めていた。

 

「やはり……本当に30日の東京ドームなのではないか」

 

だが私は、その言葉を聞き流していた。

 

部屋の奥で、月君と私が向かい合って座っている。

 

月君は腕を組み、椅子の背に体を預け、じっとこちらを見ている。

あの目だ。観察者の目。

 

(青山にノートを持った不審者は現れなかった……渋谷の洋品店も同じ……)

 

彼の思考が、表情の微かな筋肉の動きから読み取れる。

 

(まさか、本当に東京ドームで……?)

 

私はと言えば、椅子の上で膝を抱えるような姿勢のまま、ぼんやりと手を動かしていた。

 

右手はグー。

親指だけを立てる。

 

いわゆる「GOOD」の仕草。

 

子供が遠くでテストの結果が良かったときに見せる、あの妙に誇らしげなポーズだ。

 

もっとも、私にそんな意味はない。

 

ただの癖だ。

 

親指の爪のあたりを、カリカリとかじりながら考える。

 

(……まぁ青山には第二のキラは来ていたでしょう)

 

そう考えるのが自然だ。

 

(今回発見できなかったのは仕方ありません……)

 

むしろ。

 

(これは月君の対応力の勝利です)

 

彼は私を現場から遠ざけた。

その一点において、今回は彼の一手が上だった。

 

だが――

 

(大事なのは……)

 

私と月君。

 

お互いが動かなかったこと。

 

第二のキラが、それをどう受け取るか。

 

そこに、次の一手が隠れている。

 

そのときだった。

 

扉が静かに開き、ワタリが入ってくる。

 

「L、第二のキラからお便りです」

 

手には、ビデオテープ。

 

部屋の空気が一瞬で変わった。

 

誰もがテレビの前に集まる。

 

私は椅子の上で姿勢を変えず、ただ視線だけを画面に向けた。

 

ワタリがビデオデッキにテープを入れ、再生ボタンを押す。

 

数秒のノイズ。

 

そして――

 

画面が映る。

 

女の声。

 

「キラを見つけることはできませんでしたが……」

 

捜査本部の全員が、息を止めた。

 

「キラと会いたいという気持ちが無くなったので、もう探しません」

 

――沈黙。

 

私は親指を口から離した。

 

(……どういうことだ……)

 

この第二のキラ。

 

思考も行動も、あまりにぶれている。

 

本来なら。

 

キラに会いたいのなら、もっと執拗にアクションを起こすはずだ。

 

それが――

 

突然の撤退。

 

(単に面倒くさくなった……?)

 

いや。

 

そんな単純なものではない。

 

頭の中で、情報を並べる。

 

ファッション誌に書かれた人間を殺した。

機械音痴。

感情の起伏が激しい。

 

ストレートに見れば。

 

10代後半から20代前半の女性。

 

そして。

 

まともな企業勤めではない。

 

学生。

フリーター。

 

あるいは――

 

もっと自由な職業。

 

ファッション誌を見る。

青山や渋谷を指定する。

 

つまり。

 

「おしゃれな人物像」。

 

……いや。

 

私はそこで一度思考を止めた。

 

青山の日付。

 

平日。

 

学生がサボることはできる。

 

だが。

 

わざわざサボるくらいなら、普通は休みの日にやる。

 

そうなると――

 

平日が休みの職業。

 

アパレル。

アクセサリーショップ。

美容師。

 

……違う。

 

正社員なら、ここまで行動がぶれない。

 

もっと自由だ。

 

もっと華やかで。

 

時間に余裕がある仕事。

 

芸能界。

モデル。

歌手。

声優。

 

そこまで考えたとき。

 

もう一つの違和感が、すっと浮かび上がった。

 

キラに会いたい。

 

それは。

 

崇拝。

 

だが。

 

それを上回る心の変化が起きた。

 

私は、その感情を経験したことはない。

 

しかし――

 

小説やドラマでは、いつも主役になる感情だ。

 

(……恋をしたんでしょう……)

 

(第二のキラは……)

 

その結論に辿り着いた瞬間。

 

肩の力が、ふっと抜けた。

 

その様子を、月君は見逃していなかった。

 

「L……なぜ第二のキラは感情の変化があったと考えている?」

 

月君の視線が、鋭く私を射抜く。

 

なるほど。

 

彼も気づいていたか。

 

「……月君も気付いていましたか」

 

私は小さくため息をついた。

 

「私の口から言うのは似合わないと思って黙っていました」

 

そして、少し間を置いて言う。

 

「……恋をしたということでしょうね」

 

その瞬間、松田さんが叫んだ。

 

「恋!!!」

 

本部の空気が一気に騒がしくなる。

 

だが私は、静かにシュークリームを口に運んだ。

 

甘い。

 

その横で、月君がゆっくり口を開いた。

 

「じゃあ、Lに代わって僕が説明するよ」

 

彼の推理は、見事だった。

 

キラを崇拝する人間が、簡単に心変わりするはずがない。

 

それを超えるものがあるとすれば――

 

恋。

 

そして彼は続ける。

 

第二のキラは、10代後半から20代前半。

一般企業ではない。

華やかな職業。

 

芸能界。

モデル。

コンパニオン。

 

(……やはり)

 

私は内心、微笑んだ。

 

(ほぼ同じ結論です)

 

本当に。

 

ここまで考えられる人間が、この世にもう一人いるとは。

 

実に――

 

楽しい。

 

そのときだった。

 

月君が、ゆっくり言った。

 

「父さん……逆だよ……チャンスだよ」

 

第二のキラは、キラへの興味を失った。

 

つまり――

 

寝返る可能性がある。

 

彼は提案する。

 

テレビで呼びかける。

逮捕免除。

協力の見返りに情報を得る。

 

月君の顔が、こちらを見た。

 

まるで獲物を狙う般若のような目で。

 

なるほど。

 

最初から、この展開を狙っていたのですね。

 

もし第二のキラが応じれば。

 

私がキラなら。

 

確かに危険だ。

 

そのとき。

 

背後で、死神が笑った。

 

『なぁL、内心震えてるんじゃねえのか?』

 

私は小さく笑った。

 

(ええ……震えていますよ)

 

(武者震いですがね)

 

ここまで追い詰めてくれるとは。

 

実に素晴らしい。

 

「いいでしょう」

 

私は言った。

 

「私はキラではありませんし……第二のキラが乗る可能性もあります」

 

そして微笑む。

 

「面白い。やってみましょう」

 

(もし第二のキラが名乗り出たなら……)

 

(月君と接触するのと、ほぼ同時)

 

(その瞬間)

 

(デスノートで殺す時間は、十分にあります)

 

むしろ――

 

この策は。

 

私がキラなら、絶対にやるべきではない策。

 

だからこそ。

 

やる価値がある。

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