Lがデスノートを拾った世界   作:梅酒24

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6冊目:懐疑

某先進国。

 

世界にはおよそ二百ほどの国が存在すると言われている。

その中でも、産業、医療、政治、科学、ありとあらゆる分野において他国より一歩も二歩も進んだ国々がある。

 

人々は比較的裕福で、街には光が多く、

法律と秩序が一応の体裁を保っている。

 

アメリカ、日本、イギリス、フランス――

そうした国々は、人類の文明が到達した最も整った舞台として、

人はそれらを先進国と呼ぶ。

 

だが。

 

文明が発達すればするほど、

人間という生き物の滑稽さや、

暗い欲望の影は、

むしろはっきりと浮かび上がるものでもある。

 

その証拠のように、

今、ある一つの奇妙な事件が、

世界中の警察機構を不気味に揺らしていた。

 

■ICPO 国際刑事警察機構会議■

 

巨大な会議室であった。

 

円形に並んだ長い机。

各国のプレート。

そして映画館のスクリーンのように巨大なモニター。

 

そこには、

INTERPOL――

天秤に剣の刺さった紋章が映し出されていた。

 

世界各国から集まった警察関係者たちが、

ざわざわと席を埋めている。

 

年齢層は高い。

大半が白髪混じりの男たちであった。

 

世の中では「男女平等」という言葉が大義名分のように掲げられているが、

現実の権力の場では、

いまだ男たちの影が濃い。

 

それがこの会議室の光景であった。

 

誰かが言った。

 

「ここ一週間で確認されているだけで五十二人です」

 

ざわめきが広がる。

 

別の男が続ける。

 

「そのすべてが心臓麻痺」

 

さらに声が重なる。

 

「しかも全員、警察が追っていた犯罪者です」

 

「あるいは拘留されていた者たち」

 

別の席から低い声。

 

「となると、居場所の分からない指名手配犯も含めれば……」

 

少し間が空いた。

 

「軽く百人は超えるでしょうな」

 

ざわ……ざわ……

 

会議室は不安な空気で満ちていた。

 

警察という組織は、

秩序を守ることを仕事としている。

 

しかし今起きている現象は、

秩序の外側から起こっていた。

 

犯罪者だけが、

次々と、

まるで神の裁きでも受けたかのように、

突然死んでいく。

 

それは警察にとって、

あまりにも不気味な出来事だった。

 

その様子を。

 

一人の男が、

白いパソコン越しに見ていた。

 

アップル社のロゴが光る、

真っ白なノート型コンピュータ。

 

その前で。

 

男は床に座り込んでいた。

 

椅子ではない。

 

床である。

 

膝を抱え、

猫のような姿勢で。

 

「そうか……」

 

男は小さく呟いた。

 

「ICPOも、やっと重い腰を上げましたか」

 

ICPOとは対照的に、

この男はまだ重い腰を上げていなかった。

 

男の名は――

 

L。

 

世界で最も名の知れた、

しかし誰もその正体を知らない人物である。

 

背後で黒い影が動いた。

 

死神リュークである。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「予想通り一週間だったな」

 

リュークが言った。

 

「やっとお前の計画が進み始める」

 

Lはパソコン画面を見たまま答えた。

 

「ここまで事件が大きくなれば」

 

「警察も私の手を借りないわけにはいきません」

 

画面の向こうの会議室では、

相変わらず議論が収拾のつかない状態になっていた。

 

「犯罪者ばかり死なれては警察の威厳が……」

 

「威厳の問題ではないでしょう」

 

「しかし死刑囚が執行前に死なれるのは困る」

 

「これは前例がない」

 

そして誰かが言った。

 

「こうなると……」

 

少し間があった。

 

「またLに頼るしかありませんな」

 

そのとき。

 

会議室の一角、

JAPANと書かれたプレートの席。

 

そこに二人の男が座っていた。

 

一人は背筋の伸びた男。

オールバックの髪。

眼鏡。

口ひげ。

 

いかにも警察官然とした風格である。

 

夜神総一郎。

警察庁の幹部だった。

 

その隣に、

少し頼りなさそうな若い男が座っている。

 

髪が耳を隠し、

姿勢もどこか落ち着かない。

 

彼が小声で尋ねた。

 

「な……なんですか、その……Lって」

 

総一郎は少し微笑した。

 

「ああ、君はこの会議は初めてだったな」

 

そして静かに説明する。

 

「Lというのは……」

 

「名前も、顔も、居場所も」

 

「誰も知らない人物だ」

 

若い男は目を丸くする。

 

総一郎は続けた。

 

「だが、どんな難事件でも必ず解決してしまう」

 

「探偵……と言うべきか」

 

「いや、もっと別の何かかもしれない」

 

少し考えてから言った。

 

「世界の迷宮入り事件を解き続けてきた人物」

 

「影のトップ」

 

「最後の切り札」

 

そのような存在だ」

 

総一郎の説明が終わるころ、

会議室ではすでにLの話題になっていた。

 

「しかしLは気まぐれな男だ」

 

「興味を持った事件しか動かない」

 

「しかも我々から連絡も取れない」

 

そのときだった。

 

「Lは、もう動いています」

 

声が響いた。

 

機械で合成された声だった。

 

全員の視線が前方へ向いた。

 

大スクリーンの前に、

黒ずくめの男が立っていた。

 

黒いシルクハット。

 

黒いコート。

 

顔は見えない。

 

声も機械音。

 

年齢も、素性も、何も分からない。

 

その男が言った。

 

「Lはすでに、この事件の捜査を開始しています」

 

会議室がどよめく。

 

「ワタリ……!!」

 

その男の名は、

ワタリだった。

 

ざわ……ざわ……

 

■Lの部屋■

 

その様子を見ながら、

リュークが言った。

 

「おい」

 

「あれ、ワタリって……」

 

「お菓子とか持ってきてくれるじじいじゃないか」

 

Lはゆっくりとリュークを見た。

 

「そうですね」

 

そして一つの疑問を口にした。

 

「ですが、おかしいですね」

 

「死神の目で見れば、本名と寿命が見えるのでは?」

 

リュークは一瞬きょとんとした。

 

「ああ」

 

そして言った。

 

「顔を隠されてると見えない」

 

Lは静かに頷いた。

 

「なるほど」

 

「リュークさんは大雑把ですね」

 

「そして忘れっぽい」

 

リュークが顔をしかめる。

 

「え、まじか」

 

Lは言った。

 

「あとでルールを全部洗い直します」

 

「あなたの好きなリンゴをワタリに買わせますから」

 

リュークの顔が明るくなる。

 

「うほっ」

 

「それならいい」

 

Lは言った。

 

「今夜は寝かせませんよ」

 

そのとき。

 

パソコンからワタリの声が聞こえた。

 

「お静かにお願いします」

 

「これよりLの声をお聞かせいたします」

 

リュークが笑う。

 

「ほら、自演タイムだぞ」

 

Lはマイクを装着した。

 

ボタンを押す。

 

「ICPOの皆様」

 

「Lです」

 

会議室には機械の声が流れた。

 

リュークが吹き出す。

 

「おいw」

 

「これお前の声じゃないじゃんw」

 

Lは小声で言った。

 

「機械音です」

 

「まだ本当の声は公開できません」

 

そして言った。

 

「この事件は」

 

「かつてない規模であり」

 

「そして――」

 

Lは深呼吸をした。

 

「絶対に許してはならない」

 

「凶悪な大量殺人です!」

 

その大量殺人を引き起こしているのが、

L自身であることを知っているのは。

 

人間界ではL本人だけ。

 

そして。

 

死神リュークだけだった。

 

リュークは腹を抱えて笑った。

 

人間たちは、

犯人に助けを求めている。

 

その光景が、

あまりにも滑稽だった。

 

「人間って面白っっっ!!!!」

 

リュークは声を上げて笑った。

 

しかしその声は、

Lにしか聞こえない。

 

Lは何事もないように話を続けた。

 

「この事件解決のため」

 

「全世界ICPOの皆様の全面協力を求めます」

 

会議室がざわめく。

 

Lはスイッチを切った。

 

「まあ」

 

Lは言った。

 

「私の予想では」

 

「九十九パーセント」

 

「全面協力になるでしょう」

 

■日本 東京■

 

同じころ。

 

東京の街では、

ごく普通の放課後が流れていた。

 

受験生の三人が下校している。

 

その中の一人。

 

夜神月。

 

彼は寄り道をせず、

まっすぐ家へ帰った。

 

「ただいま」

 

母親にそれだけ言う。

 

そして部屋へ入り、

引き出しを開けた。

 

黒いノートを取り出す。

 

月はそれを見つめて呟いた。

 

「こいつを見るまで」

 

「学校に行っている間も……」

 

「ずっと落ち着かない」




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