僕はある程度予想していた。もし彼女がキラではないのなら、今この場で告発すべきだろう。だが、彼女の表情や声色には、嘘をついているような気配はまったくなかった。第二のキラに殺されたのが、女性ファッション誌に載るような人物であること。感情の揺れ動きが激しいこと。いずれも、彼女が若く、女性である可能性を示唆している。そして何より、敵意や脅しの感情を僕に向けてはいないということもわかる。
「君のいうことは信じるよ。正直、そういう話だろうとは思っていた。君を警察に差し出すことは今はしない。安心して」
彼女はきょとんとした顔をして、どうして僕が驚かないのか不思議そうだった。その顔を見て、僕は理由をかみ砕いて説明する。すると彼女は尊敬のまなざしで僕を見つめる。その目の輝きに、僕の胸の奥がわずかにざわめいた。複雑な気持ちだ。心のどこかで彼女の危うさに胸を痛めながらも、この状況で協力を得られることの重要さを強く感じていた。
「もしかして、僕の名前が分かったのも、キラだからとか?」
「はい、死神の目と言って、死神の目で見た人の名前と寿命が見えるのです。振り仮名は書かれていないので漢字しかわかりませんでした」
僕は写真でも名前が分かるというその能力の正確さを確かめるため、彼女が知るはずもない友人の写真を見せた。すると、彼女はその友人の名前を即座に答えた。偶然の可能性もある。だが、おそらく、死神の目は本物なのだろう。
しかし、僕にはまだ聞かなければならないことがある。慎重に。聞きすぎれば、彼女は話してくれなくなるかもしれない。
「君は、なぜそんなことを僕に教えてくれた?」
「それは……私を彼女にしてほしいからです」
僕の胸に、言葉では説明できない感情がざわめく。恋心、信頼、そして危うさ。彼女の言葉には、殺意や脅迫の匂いはない。だが、間違えれば致命的だ。
「付き合わないと殺す、ということは言わないかな?」
「殺しに必要なのはこの『デスノート』……これに名前を書いたら殺せるの。このノートをあなたに渡してもいい。そうすれば、殺すこともなくなる」
ノート……それが、殺しに必要な道具なのか。だが今は、それを深く詮索するよりも、まずこの状況を打破することが優先だ。
「でも、どうして僕に……まだ会って二回目だろう?」
「私自身、ストーカーに命を狙われたり、親を目の前で失ったり……その犯人を裁いたのはキラ……だと思っていたの。だからキラを崇拝して、一言お礼を言いたかった。でも、私の死神から聞いたら、実際に私を救ったのは別の死神だった……。それで私の盲信は間違いだったと気付いた。そして、あの日、月君が優しくしてくれたことが、本当にうれしかった……やっぱり、実際に会って触れ合った人から優しさを受けることは、誰にとっても嬉しい……月君が自首しろと言うなら自首する。キラの話を聞きたいなら、いくらでも話す……だからお願い、彼女にしてほしい」
なるほど……キラへの盲信が彼女を大胆にした。そしてその盲信が剥がれたことで一気に現実に戻り、罪の意識も伴った。確かに彼女の行為は許されるものではない。しかし、ここで自首させれば死刑は免れないだろう。それより、Lに知られれば隠蔽工作をされる可能性もある。現時点で、彼女が家にいることも、危うい。
ミサは椅子から身を乗り出すようにしてしゃがんでいた。僕は静かに彼女に近づき、抱きしめる。
「彼氏にはなれない。だが、そばにいる努力は最大限する。それは、君が嫌いだからではない。僕は急に恋をするより、じっくり愛を育む方がいいと思う。今すぐ付き合うより、お互いを知って、そして好きだと言えるなら、そのときに付き合う。それが素敵だろう。だが、君を頼りにしたいし、頼れることがあるなら、遠慮なく頼ってほしい」
力強く抱きしめられたミサは、目を閉じて涙を流した。胸の奥で、僕は正義感と複雑な感情を同時に抱きしめる。彼女を守りたい気持ち、Lを捕まえるために協力してほしいという思い、そして――この少女に芽生えた恋心をどう扱うべきか。
レムが二人を見下ろす冷ややかな視線も、僕の心の揺れを止めることはできなかった。複雑で、危うく、そして甘く切ない夜だった。