扉の向こうに立つ女を、一瞥しただけで私は理解した。黒髪、黒のジーンズ、ライダースジャケット。その立ち方から漂う覚悟と緊張の匂い。美空ナオミ――かつて私の下で活動したこともある優秀な捜査官であり、レイ=ペンバーの婚約者でもある。胸に手を当て、その瞳には失われた愛と、決意が入り混じっていた。その覚悟を、私は無駄にはしない。
ワタリが小声で告げる。
「お客様です、L」
私は椅子に腰掛けたまま、視線を彼女に固定する。美空ナオミがここに来た理由――偶然ではない。名前の変更、身辺整理、このタイミングでの来訪。全ては計算された行動だ。慎重かつ明確な意志のもと、私の前に立つ。
トントン、と静かに扉を叩く。開いた瞬間、黒い服装の女が現れた。沈黙の時間が室内を張り詰める。座る気配はない。立ち姿から、私への覚悟がひしひしと伝わる。
「ひさしぶりです、 美空さん」
声は低く、冷静で、しかし瞳の奥には計算された感情の揺れ。私は瞬間的に情報を脳内で整理する。大学入学当初から月君と彼女は接点を持ち、この場面に備えていたのだろう。
「ええ、察しているわ。用件は」
――やはり、直感に間違いはない。伏兵がここにいた。月君以外で骨のある存在。戦うに値する知性を持つ。
「単刀直入に言うわ。私はあなたがキラであることを知っている」
私は椅子に深く腰掛け、冷静に彼女を観察した。瞳の揺れ、呼吸のリズム、体の微細な動き。全てが計算の対象だ。彼女は確信を持って立っている。焦りも疑念も見て取れる。だが、それは弱点ではない。むしろその覚悟の裏に潜むわずかな油断が、私の思考を助ける。
「確かに、私をキラと結びつける者は多い。しかし、ネットの情報だけでここに来たわけではないでしょう」
彼女は写真を取り出した。月君とのテニス試合中の写真、集中した表情、無防備な瞬間。私の全行動の痕跡を静かに証拠として示している。大学入学当初から彼女は月君と接点を持ち、この場面に備えていたのだろう。
「あなたの名前はエル=ローライト……第二のキラにこの写真を見せたから知っている。第二のキラはキラの名前を見抜く能力を持つ。そして、あなたをキラだと断定した」
――なるほど。あまねみさとの連携も、既に整っているのだろう。捕獲は秒読みだ。しかし、ここで私が美空ナオミを排除する必要は……。冷静さを欠かず、盤上の駒として利用できるだけの価値があれば……。
「しかし、その発言は第二のキラの言葉です。嘘の可能性は?」
美空ナオミは迷わず答える。
「低いです。第二のキラは、自らキラであると公言しています」
――やはり、情報は正確だ。第二のキラは人を殺すことを止め、行動の一貫性を保っている。その存在を知った今、私の計算は狂わない。月君は、殺すだけで事件を終わらせるつもりはない。生かし、吐かせ、再教育する。そのための準備を、彼女も理解しているのだろう。
私は静かにノートを取り出し、メモを取り始める。手元の動きに無駄はない。その冷静な指先に、確かな覚悟が宿る。私はその一挙手一投足を観察し、頭の中で次の手順を組み立てた。
背後でリュークの笑い声が響く。
ククククククク……いつもより長く、夜の闇に溶ける笑い。私の神経を心地よく刺激し、戦局の緊張を鋭くする。