静かな午前のキャンパス。午前の陽光が建物の角を鋭く照らし、樹木の影が長く地面に伸びていた。その空気の隙間に、微細な緊張が漂うのを私は感じていた。
(ここに来るのは久しぶりだ……そして、確かに目的がある)
歩を進めるたび、目の端で学生たちの無邪気な動きを観察する。誰も、ここで私が何をしているか知らない。月君の存在は把握している。彼はあの独特の歩き方で、校舎の陰からこちらを見つめていた。あの目線の鋭さは、まるで獲物を捉えた捕食者のそれだ。
「竜崎……」私の耳に微かに声が届く。振り向くと、月君がゆっくりと歩み寄る。その背筋の張り、掌の緊張、全てが明晰な意志を物語っていた。
(なるほど……これが彼の覚悟か。確かに、後戻りはできない)
さらにもうひとり近づいてくる者が……。
「月――撮影近いから来ちゃったぁ。あっ、月の彼女の弥 海砂です」
「はい、流河旱樹です」
私はじっと弥 海砂を観察する。月君の隣に立つその少女が、ただの付き添いではないことは明白だ。識別は不可能だろうが、確信は揺らがない。
「いやぁ、エイティーン8月号からのファンなんです!」
彼女の声に誘われ、学内の生徒たちが群れのように集まる。弥 海砂が「誰かお尻を……」と叫ぶ。その瞬間、群衆の中で何かが触れたのか、あるいは幻覚か――マネージャーが駆けつけ、弥 海砂を連れ去った。
静寂が戻ると、私の携帯電話が鳴る。
「はい……やりましたね」
電話を切ると、月君に向けて告げる。
「月君に関しては、嬉しかったり悲しかったりするお知らせです。弥 海砂を第二のキラ容疑で確保しました」
月君の顔が瞬間的に青ざめる。
(……その発言……やはり弥 海砂がキラであることを知っていたか)
「弥 海砂の部屋から第二のキラ宛のビデオを封入した際に使用していた付着物から多数の証拠が出ました。もう戻ることはないでしょう」
その言葉に、私は深く息をついた。捜査本部に戻ると、弥 海砂は黒いアイマスクと縛られた全身で身動きが取れない状態にされていた。画面越しに私は彼女へ問いかける。
夜神さんに対しても、冷静に伝える。
「あと、重要参考人として夜神月君に来てもらいます。覚悟しておいてください」
そして、三日目。
「弥 海砂がついに口を開きました」
相沢の言葉で、寝泊まりしていた捜査員も私は飛び起きた。
弥 海砂は極限状態で、なお言葉を発する。「殺して……」「あなたなら殺せるでしょ……」
(まさか……海砂……私に殺せと……?)
彼女の声が胸に突き刺さる。『あなたなら殺せるでしょ……』と。
(……いや、それは駄目だ……)
やり取りを繰り返すうち、彼女の力が少しずつ削がれていくのを私は観察した。
レムは妥協策として、海砂にノートの所有権を放棄させ、ノートに関する記憶をすべて消すことで月に迷惑をかけないことを説明する。そして、月への愛は忘れないことを告げると、短く頷いた。