■月の家■
夜神月は机に向かっていた。
部屋は整然としている。
本棚は寸分の狂いもなく並び、教科書や参考書は几帳面に整列していた。
その中央に、まるで儀式の道具のように置かれている一冊の黒いノート。
デスノート。
月はペンを指の間で静かに回しながら、
ここ一週間の出来事を頭の中で整理していた。
世界中の犯罪者が、次々と心臓麻痺で死ぬ。
新聞もテレビも、その話題で持ちきりだった。
人々は恐怖し、
同時にどこかで喝采を送っている。
犯罪者だけが死ぬ。
それはまるで、
神の裁きのようだった。
――だが。
月は目を細める。
神などという曖昧な存在ではない。
そこには必ず法則がある。
顔。
名前。
条件。
すべては論理で説明できるはずだった。
その時だった。
ガーッ……
突然、テレビの画面が切り替わった。
月は顔を上げる。
「ん?」
画面にはニュースキャスターが映っていた。
「番組の途中ですが、ICPOからの全世界同時特別生中継を行います」
「日本語同時通訳はヨシオ・アンダーソン」
その声には、
普段のニュースにはない緊張が含まれていた。
画面が切り替わる。
そこには一人の男が座っていた。
ミディアムの髪型。
整ったスーツ姿。
どこにでもいそうな男。
しかしその男は、
とんでもないことを口にした。
「私は全世界の警察を動かせる唯一の人間」
少し間を置く。
「リンド・L・テイラー」
「通称――Lです」
その瞬間。
月の背筋に冷たいものが走った。
「な……」
月は思わず立ち上がる。
「なんだこいつ!?」
そしてすぐに理解する。
「これはまずいぞ……」
この男は。
■凶悪犯連続殺人特別捜査部■
日本の警察庁でも、
同じ放送が流れていた。
捜査員たちは全員テレビに釘付けになっている。
「ついに始まったな」
「ほう……これがLか」
誰かが言った。
「しかし今まで顔出しなんてしなかったんだろ?」
「なぜ今になって……」
別の男が低く呟いた。
「これはLも本気ということか」
部屋の奥で。
夜神総一郎は腕を組んでいた。
部下たちの雑談は耳に入っている。
だが総一郎の意識は、
別のところにあった。
――さあL。
総一郎は心の中で言う。
――こちらは言われた通りにした。
――ICPO会議で言ったことを証明してもらおう。
総一郎の脳裏に、
数日前の光景が蘇る。
●総一郎の回想●
巨大な会議室。
世界各国の警察幹部が集まっている。
その壇上に、
黒い服の老人が立っていた。
ワタリ。
彼は静かに言った。
「L……」
「ICPOの皆さんが全面協力することを可決しました」
スクリーンから機械音が流れる。
『わかりました』
『特に日本の警察の協力を強く要請します』
会議室がざわめいた。
「えっ」
「なぜ日本だ!?」
総一郎も思わず声を上げた。
「なぜ日本なんだ!?」
スクリーンの向こうの声が答える。
『犯人は単独か複数かは分かりません』
『しかし』
『日本人である可能性が極めて高い』
会議室の空気が凍る。
『仮に日本人でなくても』
『日本に潜伏している』
総一郎の額に汗がにじむ。
「そ……そんな」
「何を根拠に?」
スクリーンの声が言う。
『なぜ日本なのか……』
その瞬間。
Lの部屋で、
リュークが呟いた。
「あ、分かった」
「最初の実験、日本人だったな」
Lは黙って親指を立てた。
グッド、という意味らしい。
スクリーンの声は続く。
『近いうちに犯人との直接対決で証明します』
『とにかく捜査本部は日本に置いてください』
回想は終わる。
総一郎が現実に戻ると、
捜査室ではざわめきが広がっていた。
「つまり……」
「今言ってた直接対決ってやつか」
捜査員たちはテレビを凝視している。
だが。
テレビを凝視しているのは、
Lも同じだった。
スクリーンの男が言う。
『私はこの犯罪の首謀者』
『俗に言うキラを必ず捕まえます』
リュークが笑う。
「おい」
「こいつもLなのか?」
「お前を捕まえるってよ」
Lは平然としていた。
「まあ」
「見ていてください」
テレビの男が言う。
『キラ』
『お前の考えはだいたい想像がつく』
そして。
声を強めた。
『だがお前のしていることは――』
一拍。
『悪だ!!』
■その頃 夜神家では■
月は歯を食いしばっていた。
「まずい……」
彼の頭は猛烈な速さで回転している。
「こんな挑発をしたら」
「キラに殺される……」
月はテレビを見つめた。
そして思う。
――もしキラがこの番組を見ていたら。
――この男は死ぬ。
その瞬間だった。
リンドLテイラーが突然胸を押さえた。
「ぐっ……」
男の顔が歪む。
手が震える。
そして――
ドサッ。
机に倒れた。
動かない。
月は息を呑んだ。
――やはり。
二人のSPが男を運び出す。
黒いスーツ。
サングラス。
顔を隠している。
月の頭がさらに回転する。
――顔を隠している……
――向こうも条件に気づいていた?
だが。
すぐに別の疑問が浮かぶ。
――いや……
――ならなぜ、あの男は顔を出した?
その時だった。
ガガガ……
テレビからノイズが流れる。
そして。
別の声が響いた。
機械音。
「もしやと思って試してみたが……」
「まさか本当に……」
月の瞳が見開かれる。
「キラ……」
「お前は直接手を下さず人を殺せるのか」
「何っ」
月は立ち上がった。
声が続く。
「よく聞け」
「キラ」
「もし今お前がテレビに映っていた男を殺したのなら」
「それは今日処刑予定だった死刑囚だ」
「私ではない」
月の脳が一瞬止まる。
声が続く。
「テレビにもネットにも出ていない」
「極秘の犯罪者だ」
「さすがのお前でも知らなかっただろう」
そして。
「だが」
「Lという私は実在する」
「さあ」
「私を殺してみろ」
■警察庁■
捜査員たちが騒然となる。
「なんだ……」
「すごいことになってるぞ」
「死ぬ気か……L」
■新宿アルタ前■
巨大スクリーンの前に
人々が集まっていた。
若者。
サラリーマン。
観光客。
皆、上を見ている。
「なにこれ?」
「キラ対Lだよ」
「キラって本当にいたの?」
「えっ、Lって誰?」
「こわ〜い」
人々は、
まだ気づいていなかった。
これは単なるテレビ番組ではない。
世界のどこかで。
史上最大の頭脳戦が、今始まったばかりだということに。
えっと、この後の展開を考えると
私も「こわ~い」