Lがデスノートを拾った世界   作:梅酒24

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8冊目:自演

■Lの家■

「くくっ……良くやるな」

背後から、死神リュークの笑い声が聞こえた。

乾いた、骨が軋むような声だった。

だがLは振り向かなかった。

部屋の明かりはほとんど落とされている。

闇の中で、幾台ものモニターだけが青白く光り、まるで水槽の中の魚のようにゆらゆらと光を揺らしていた。

その中央で、Lは例の奇妙な座り方――

膝を抱えた姿勢のまま、椅子の上にうずくまっている。

長い指先にはマイク。

そして視線は、モニターの向こう――

自分の言葉を聞いているであろう見えない敵へ向けられていた。

Lは静かに口を開く。

「どうやら……」

ほんのわずか、口元が歪む。

「私は殺せないようだな」

リンド・L・テイラーは死んだ。

だがLは生きている。

 

――仮に他の誰かがあのノートを拾い。

――凶悪犯を次々に殺していたとしても。

――私は同じことをしたでしょう。

なぜなら。

それが一番早く真実へ辿り着く方法だからだ。

そして、もう一つ。

Lは自分でもうすうす気づいていた。

この事件には――

Lは再びマイクへ顔を近づける。

「殺せない人間もいる」

淡々とした声だった。

「いいヒントをもらった」

リュークがまた笑う。

Lは続けた。

「お返しといっては何だが」

「もう一つ教えてやろう」

部屋の空気が、わずかに張りつめた。

モニターの向こうで、

無数の人間がこの言葉を聞いている。

「この中継は全世界同時中継と銘打った」

「だが」

Lはほんの一瞬、言葉を止める。

「実際には日本の関東地区にしか放送していない」

テレビの前で誰もが息を呑んだ。

「時間差で各地区に流す予定だった」

「しかし」

「もう必要ない」

Lは静かに言う。

「お前は今」

「日本の関東にいる」

リュークが面白そうに笑った。

「くくっ」

「そんなベラベラ喋る必要あるのか?」

Lはモニターを見つめたまま、小さく答える。

――そのうち狙いが分かります。

そしてマイクへ向かって話す。

「警察は小さな事件として見逃していた」

「だが」

「この一連の事件の最初の犠牲者は」

「新宿の通り魔だ」

Lの頭の中には、すでに事件の地図ができていた。

新聞記事。

報道の順番。

死亡時刻。

犯人の顔写真。

それらはバラバラの断片だったが、

Lの頭の中ではすでに一つの図形へ変わっている。

「他の犯罪者は皆、極悪犯だった」

「だが」

「この通り魔だけは違う」

「罪が軽い」

「そして」

「この事件は日本でしか報道されていない」

Lは結論を告げる。

「これだけで十分だ」

「推理には」

そして言った。

「キラ」

「お前は日本にいる」

モニターの光がLの瞳に映る。

「そして」

「最初の犠牲者は」

「お前の殺しの実験台だった」

リュークが肩を揺らして笑った。

Lは続ける。

「人口の集中する関東に最初に中継した」

「そこにお前がいた」

「これは幸運だった」

「ここまで思惑通りにいくとは……」

珍しく、Lは少しだけ正直だった。

「正直思っていなかった」

そして静かに言う。

「キラ」

「お前を死刑台に送る日」

「そう遠くないかもしれない」

Lはマイクから口を離した。

部屋に沈黙が戻る。

モニターの光だけが、ゆらゆらと揺れている。

――日本の警視庁には、いくつもヒントを与えていた。

Lは思う。

――しかし誰一人。

――キラが日本にいるという所まで辿り着かなかった。

Lは指先で唇を押さえた。

――私の想定より、日本は無能なのかもしれない。

だがすぐに考え直す。

――いや。

――そうでないと困る。

このゲームは、まだ始まったばかりなのだから。

 

■警視庁■

捜査本部では、誰もがテレビに見入っていた。

書類をめくる音も、電話の音も止まっている。

松田刑事が呟いた。

「やっぱり……」

「すごいですね」

「Lって……」

隣の刑事が頷く。

「うむ」

「キラの存在を証明した」

「殺人を証明した」

「そして日本にいることまで……」

テレビの中でLの声が響く。

「キラ」

「お前がどんな手段で殺人を行っているのか」

「非常に興味がある」

一拍。

「しかし」

「そんなことは」

「お前を捕まえれば分かる」

その声は静かだった。

だが、どこか冷たい確信があった。

 

■夜神家■

夜神月は机の前に立っていた。

両手を机につき、

じっとテレビを見つめている。

その瞳は、燃えるように鋭かった。

「キラを死刑台に送る……だと」

月は低く呟く。

「キラ……」

その顔には、怒りとも、興奮ともつかぬ表情が浮かんでいた。

「必ず見つけ出して」

「始末する」

そしてゆっくり言う。

「僕が」

「正義だ」

その瞬間。

世界のどこかで。

二人の天才が、

互いの存在をはっきりと認識した。

そして今。

誰にも見えない場所で、

恐ろしく静かな戦いが始まったのである。

 

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