Lがデスノートを拾った世界   作:梅酒24

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11冊目:交錯

私はモニターを一瞥した。

 

ただそれだけの動作であるのに、そこに映る光景は妙に重苦しい。

ガラスの向こうにもう一つの世界があるようで、その世界では人間たちが奇妙な儀式でもしているように見えるのだ。

 

画面の中央。

白い蛍光灯に照らされた無機質な部屋。

 

壁には、やけに仰々しい文字が掲げられていた。

 

凶悪犯連続殺人特別捜査班。

 

その部屋の中央で、三人の長身の男が並んで立っている。

三人とも妙に背が高く、そして妙にうなだれている。

 

まるで首を垂れた三本の電柱のようだ。

 

彼らの正面には、夜神局長が座っていた。

 

そして――

 

三人は同時に、机の上へ紙を置いた。

 

まるで示し合わせたように。

いや、ほとんど儀式のような動作で。

 

封筒ほどの大きさの紙。

 

そこには、太い二文字。

 

辞表。

 

辞表。

つまり、仕事を辞めるという宣言である。

 

私はモニターを見つめながら思う。

 

――人間は本当に面白い。

 

命の危険が近づいた瞬間、

それまで守っていた義務や誇りを、驚くほど簡単に手放してしまう。

 

夜神局長は明らかに疲れていた。

 

モニター越しでも分かる。

頬はこけ、目の下には影が落ちている。

 

無理もない。

 

キラ事件が始まって以来、

彼はほとんど休んでいないのだろう。

 

警察という組織は慢性的な人手不足である。

しかも今は、世界規模の連続殺人事件だ。

 

つい最近も、人事部に採用枠を増やしてほしいと相談していたらしい。

 

そんな時に。

 

この三枚の紙。

 

局長の顔が歪んだ。

 

「なんだこれは!?」

 

机を叩く勢いで叫ぶ。

 

「辞表!」

 

当然である。

叫ばずにはいられない。

 

三人のうちの一人が静かに言った。

 

「見ての通り辞表です」

 

私は思わず口元を歪めた。

 

――そんなことは分かっている。

 

夜神局長も同じことを考えただろう。

まるで下手なコントの台詞だ。

 

しかし男は続けた。

 

「命が欲しいからですよ」

 

部屋の空気が固まった。

 

男は机に手を置く。

 

「もし私がキラなら」

 

「自分を捕まえようとする人間は殺します」

 

当然の論理だ。

 

男はさらに言う。

 

「前にLはテレビで言いました」

 

『私を殺してみろ』

 

私はその言葉を思い出した。

 

リンド・L・テイラー。

あの短い舞台。

 

「しかしLは顔も出していない」

 

「名前も出していない」

 

男の声が低くなる。

 

「そしてLが命じた捜査」

 

「犠牲者が日本でどう報じられていたか」

 

「顔が映像で出ていたか」

 

男は拳を握りしめた。

 

そして――

 

机を叩いた。

 

「その通りだったんです!」

 

机が鳴る。

 

「犠牲者は全員、日本の報道で顔と名前が確認できた者!」

 

部屋の空気が凍る。

 

男の声は震えていた。

 

「つまり我々は」

 

「Lと違って」

 

「警察手帳という写真付きの身分証を持って捜査している」

 

「つまり」

 

男はゆっくり言った。

 

「いつキラに殺されてもおかしくない」

 

「それが辞表の理由です」

 

沈黙。

 

そして三人は踵を返した。

 

部屋を出ていく。

 

夜神局長が慌てて声を上げた。

 

「お、おい……」

 

「君たち!」

 

「待ちたまえ……!」

 

しかし。

 

その声は、すでに届かなかった。

 

ドアが閉まる。

 

モニターの中で、静かな絶望だけが残った。

 

私はその光景を見ながら思った。

 

――なるほど。

 

――人間の恐怖は、想像以上に伝染する。

 

■Lの家■

 

私は机の前に座っていた。

 

机の表面を指先で軽く叩きながら言う。

 

「割と簡単にできました」

 

リュークが首を傾げる。

 

「ん?ノートを隠せたってことか?」

 

私は机を指さした。

 

「この引き出しの中です」

 

リュークが眉を上げる。

 

「……そこって隠したことになるのか?」

 

私は引き出しを開けた。

 

中には一冊の日記帳。

 

表紙には丸い字で書いてある。

 

駄菓子日記

 

リュークが笑った。

 

「デスノートじゃなくて日記帳じゃないか」

 

私は静かに言う。

 

「ほとんどの人間は」

 

「この私が一生懸命食べ比べしたお菓子の評価を読むことで満足するでしょう」

 

「でも」

 

私はペン立てから一本のボールペンを取り出した。

 

「本当の鍵はこっちです」

 

透明なボールペン。

 

私は芯を抜いた。

 

「机の周辺に転がっていても不思議ではない」

 

「ボールペンの芯」

 

私は引き出しの裏側を覗き込む。

 

「ここです」

 

小さな穴。

 

ほとんど見えない。

 

そこに芯を差し込む。

 

カチ。

 

薄い板が持ち上がった。

 

その中から現れたのは――

 

黒いノート。

 

デスノート。

 

リュークが感心したように言う。

 

「なるほど」

 

「二重底か」

 

「だからホームセンターで板を選んでたのか」

 

私は頷いた。

 

「それだけではありません」

 

私は薄い板の裏を指差す。

 

そこには細い配線。

 

そして小さなビニール袋。

 

「ここに電気を通さない芯を入れないと」

 

「電流が流れます」

 

私は説明する。

 

「その瞬間」

 

「ガソリンに点火」

 

「ノートは燃えます」

 

リュークが目を丸くした。

 

「危険な細工だな」

 

「手順間違えたら自分が火傷するぞ」

 

私は静かに言った。

 

「私は最初から危険を冒しています」

 

そして少しだけ笑った。

 

「そしてその危険は」

 

「逆に私を安全にしてくれる」

 

私は窓の外を見る。

 

遠くの街。

 

人間たちの世界。

 

「家から小火が出るのと」

 

「死刑になるの」

 

私は呟いた。

 

「どちらがいいか」

 

「考えなくても分かります」

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