ドイツに舞台がうつりかわると、今度はジークフリートと名を変えて中世史に登場するようになったのです。
19世紀に入るとリヒャルト・ワグナーがルートヴィヒ二世の依頼で作った舞台『さまよえるオランダ人』や『タンホイザー』など騎士物語が有名になり、そのひとつである『ラインの黄金』が中世叙事詩の『ニーベルンゲンの指環』にあたるのです。
まずは、その原作ともいえる北欧神話を紹介。
アイスランドサガにおける英雄の竜殺しとワルキューレの悲恋物語は、ヨーロッパでは人気らしい。
なかでもとりわけ人気なのが、シグルズとブリュンヒルトだろうか。
シグルズは偉大なる神オーディンの血筋の勇者であり、戦争で負けることがなかった。
アイルランドではク・ホリンの伝説がある。
それと並ぶように、このドラゴン・キラー伝説はファンタジーでは外せない題材だろう。
シグルズとブリュンヒルト、その後シグルスの妻となるグズルーン王女との三角関係の悪夢は、西洋史にモデルがあった。
ジギベルト一世と妻ブリュンヒルデ。そして侍女のフレデグンデの起こした乱が『ニーベルンゲンの歌』への反映そのままと見ても間違いはないだろう。
事の発端はジギベルトの継承問題にある。
怪物クロタールの末裔メロヴェ家の一人、ヒルペリヒ王の后であるフレデグンデは、ジギベルト王の后であるブルンヒルデを嫌っていたようだ。
女の身で武勲をあげていたヒルデは、政治にも長けていた。
その彼女もやりすぎがあったのか、しだいに民衆からの人気は途絶え、ついには処刑されるに至った。
『八つ裂きの刑』という残酷な処刑方法によって、彼女は命を終えたのであった。
※ でもこれ、あまり書きたくない刑だから割愛させて。
さて、話は北欧神話にもどると、シグルズはブリュンヒルトと結婚を誓い、その晩は剣を二人の間に置いて寝ることにした。
古代や中世の決まりなのか、初夜はこうして契りを結ぶのが決まりらしい。
そして一説によれば、娘が一人生まれている。
名を、スワニルダ。英語のスワンにあたるアイスランド古語だろうか。
(余談)アイスランド語もノルウェー語も、北欧の言語は英語に近いため、比較的おぼえやすい。
同じゲルマン語なのでそこは当然といえば当然かもしれないが、現代では共通語として英語教育も厳しいという。
ある一説によれば、子供はなしで、シグルズは契った翌朝、ブルグント族の王であるギューキ王に謁見するため、愛馬の空飛ぶ馬グラニにまたがり、ブリュンヒルトの城をあとにしている。
ギューキといえば古代当時としてはそこそこ強かったようで、その上いくフン族のアッティラと互角だったらしいが、さらに優位に立とうとして勇者であるシグルズ王子を呼んだとするのが妥当だろう。
古代としてはフン族のほうが圧倒的に有利だし、ギューキの娘であるグズルーン(グートルーンもしくはドイツではクリエムヒルト)を妻にしている。
ちなみにブリュンヒルトの立場といえば、そのフン王の妹として描かれているのがおもしろい。
こうしてギューキの妻グリムヒルドの魔術によって、ブリュンヒルトへの愛を忘れ、グズルーンとの愛に目覚めていくシグルズは、破綻していく。
ブリュンヒルトはなかなか帰ってこない夫に対して腹を立て始める。
気がつけば、新妻といちゃついているではないか。
しかも元婚約者は、ギューキの息子であるグンナルと結婚するように勧めてくる。
彼女としては、くやしかったろう。
愛の裏切りを味わわされたワルキューレは、愛人(シグルズ)とともに荼毘、すなわち死を選んだ。
というお話。
『ラインの黄金』の「黄金」は、シグルズの時代よりも昔にオーディンが旅をしている最中、ロキに盗ませた宝のことで、このときアンドヴァリという妖精から指環も盗んでいる、これが『ニーベルンゲンの指環』の必須アイテムということになるのです。
まあ、黄金にせよ、指環にせよ、盗まれたものだけに強烈な呪いや持ち主の怒りがこもっていることに違いはないですが。w