空白始点   作:サングレ

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組合編
第一話 開始の濁流


 

敦は会議室に呼ばれた。扉を開ければ太宰、乱歩、福沢というただならぬ面々。各々楽な格好で座っていた。組合(ギルド)の団長が訪ねてから約数日後、探偵社は緊張の空気が何処となく漂っていた、その矢先の呼び出し。太宰が笑顔を向ける。

 

「やぁ!よく来たね敦君。早速だが君にメッセンジャーを頼みたい」

「メッセンジャー……ですか?」

「そうだよ相手方とはもう連絡は着いてるんだ。しかしね?これはトンデモなく重要過ぎる案件で公共の電波なんて使えない事なんだ」

 

 

敦は身を引き締めた。かなり重要な仕事だ。

太宰は敦の肩をしっかりと掴み、目線を合わせた。そして優しい声で言った。

 

「だから君を生贄……ごほん、メッセンジャーに選んだんだよ」

「あれ太宰さん今生贄って」

「いけにえ?なんのコトカナー?」

「えっちょっえっ」

 

見れば乱歩は笑いを堪えて震えてるし福沢は遠い目をして窓の外を見てる。本能的に察した。

これヤバイ奴だ。

 

「待ってください!待って!!生贄って!生贄って!」

「まぁ落ち着き給え敦君。言葉の綾だ」

「いやガッツリ言ってましたよね!?」

「ほら、敦君は探偵社で一番逃げ足速いし再生能力もある。腕の2、3本大丈夫だろ?」

「腕は2本しかありません!普通に痛いし嫌ですよなんですかその危険過ぎるメッセンジャー!何ですかトレジャーハンター的なアレですか!お宝取ると古代の罠が発動する的なあれ!!」

「お宝なんて無いけどね」

「マジすか!」

「失う物の方が多い」

「嘘でしょ!?」

「最悪人としての尊厳を失って帰還する」

「え!?」

「精神崩壊の方がまだマシ」

「やめて!」

「アッハッハッハッハ!!!」

「乱歩さん笑い過ぎです!」

「………」

「社長!!!」

 

堪えず机を叩きながら爆笑する乱歩。笑いを堪える福沢。小刻みに震えていた。

一頻り笑って息を整えた乱歩は少しばかりの弁明をした。

 

「まぁまぁ、アッチも流石にそこまではしないよ。機嫌損ねたら精神崩壊ゾーンだけど」

「何ですか精神崩壊ゾーンって」

「社長が死ぬ気で挑まないと勝てないゾーン」

「えっ」

「それで脇腹ザックリやられたらしいよ」

 

嘘だろ、という目線を送る敦に福沢は頷いて左の脇腹をトントンをつついた。

 

「間合いに入ったら一瞬の内にやられた。内臓もやられてあと一歩で死ぬ処だった。斬り返したが」

「……というワケ。彼女は強いんだよ」

「えっ?」

「あ、男かと思った?残念でした!女だよ!」

 

乱歩はそう言った後、咳払いをして真面目に敦に向き直った。

 

「ともかくね、君には彼女にこう伝えてほしい。『協力を願いたい』と」

 

 

 

 

 

そんな会話は数刻前の事だった。

夕染めの大橋の上、中島敦を目にした彼女はニヤリと笑った。

 

「やァやァ初めましテェ、君がメッセンジャーさんかナァ?良く来たねェ。私の名前は久遠寺 叶都(くおんじ かなと)

さァて君のお名前は?」

 

まるで病院を抜け出して来たような生気の無い服装と灰碧の髪と目。短い髪から妙に長く細い三つ編みが一本伸びる。

この何とも奇妙な女との邂逅が、奇しくも断定的未来を変えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「探偵社としてはスキールニルに協力をご依頼したいんです」

「三社鼎立状態ネェ、今も昔も諭吉ちゃンは苦労するナァ」

「諭吉ちゃんって……」

「私、基本年上は敬いはしナイよォ?そうだねェ、答えを言わないとねェ……ゴメン無理だ」

 

欄干に凭れてた久遠寺は敦を見ながら申し訳なさそうに目尻を下げた。

 

「諭吉ちゃんに伝えといテー、悪いネェッて」

「……わかりました」

「ゴメンねェ敦君、吉報を伝えるのがメッセンジャーなのニ」

「良いんです!伝言をキッチリ伝えるのが仕事ですなら!」

「良い子だねェ。……ふふフふ、品の無い真似をするなァ」

 

怪しく笑うと久遠寺はゆらりと振り返った。

 

「出て来テご覧よォ。居るのはわかッてる」

 

彼女の声が響くか響かないかの思案の直後、2人を取り巻く十数人の武装した男達。

 

「な!」

「組合だねェ」

 

ケラケラ笑いながら久遠寺は肩幅に足を開いて軽く体を揺らした。

 

「敦君、離れなイで……巻き込ンでしまう」

 

言うや否や防御壁の様に広がる水の帯。

 

「【Elpis】」

 

ドゥ!と大凡水が立てない音を立てて水が、水流が、武装を砕く。

久遠寺が手を指揮者のように振るえばその通りに、蛇のように動く。

しかし1人は果敢にも銃口を向け、そして撃った。

 

「ヤレやれ、舐めラれてるネ」

 

弾丸は水壁によって受け止められた。そして、水圧により紙のようにひしゃげる。

ゴクリと息を飲む敦。

拝啓昔の僕、世界って広いです。

 

「さーて」

 

スッと片手を指揮者のように振り上げる。呼応するように数十の水の刃が周りに浮かぶ。

 

「終幕だ」

 

勢い良く振り下ろされる片手、そして唸りを上げて飛ぶ水刃、貫かれる人体。

そして、音が消えた。

久遠寺は敦を振り返って笑った。

 

「嫌なモン見せちゃってゴメンね。

さァ、行きなメッセンジャー君」

 

 

 

しばらく呆然とした後、弾かれたように深く一礼して走り去る敦の背中を眺め、久遠寺は眩しそうに目を細める。そしてタッチパネル式の携帯端末を取り出し、随分長い間操作した後に耳に当てた。

 

 

 

 

 

 

 

武装探偵社作戦会議室。敦からの連絡待ちの太宰と乱歩と福沢。それぞれの面持ちは違ったし乱歩は飽きて書類で紙飛行機を作っている。

と、そこに呼び出し音。長机の上の逆探知も可能なコンピューターからだ。

 

太宰は一寸の躊躇も無くキーを弾いた。

しかし予想とは違う声だった。

 

『やァやァ探偵社であってるかナァ?通じてるゥ?まァいいや。私の名前は久遠寺。諭吉ちゃんそこにいるでしょォ?』

 

福沢はスタンドマイクを引き寄せ眉根を顰めて言う。

 

「私だ。しかし一つ問いたい。この番号は探偵社極秘のモノだ……何故わかった」

『やだナァ諭吉ちゃん、私なら番号ハッキングなんて寝ててモ出来るよォ?とにかく本題入らせていい?メッセンジャー君の仕事奪っていイ?』

 

答えを聞かず、久遠寺は喋る。

 

『答えは却下!そもそもナンデ私らが付いてくれると思ったのォ?激務で頭パァになってない?それとも新手の軟派ァ?今一度言うけどネェ、

私らは非公式情報統制機関スキールニル。時として政府の要人も客なんだよォ?ひとつじゃ無くて数え切れないくらイの為の組織なんだよォ?』

 

暴言と正論をスラスラ言う電波の向こうの彼女。

しかしケラケラ笑ってみせた。

 

『安心してよ、ギルドにャ情報はあげなイ。土足で人の商売地点(テリトリー)に入ってきやがッタしね?

フィッツ野郎め、金さえあれバ許されるト思ってやがるンだ……あの成金は一度痛い目見レばいいと思うヨ。

あァ話すぎてしまった。じゃあコレで最後にしようカ?ふふフふ……』

 

勿体ぶって彼女は言った。

 

 

 

 

 

『人虎が何故70億も懸賞金がかけられたか、もう一度しっかり考え直しなよ。

確かに変身能力なんて前例が無いよ?でも作物が

被害にあったくらいで……大袈裟じゃねぇかな?』

 

 

ブツ、……ツー、ツー、ツー、

 

無機質な電子音が冷たく響く。

投げた紙飛行機は壁に着く前に自壊し落ちた。

乱歩は特に関心も持たず、それを見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よっし……忙しくなるぞ」

 

始めと同じ橋の上で久遠寺は1人気合を入れた。

 

この人間の動作に慣れてないような喋り方をする、久遠寺叶都という女性。

しかし彼女が非公式情報統制機関「スキールニル」を束ねる者だ。

どんなに残虐な事件であれ、都市伝説の枠で留められるよう情報を規制し世間を人知れず操る。

 

なので政府からは便利だが面倒な組織と思われ、

裏社会からは重宝される高嶺の花とされる。

動かず事を鎮めるのが専らな組織。

しかし今回、彼女たちは珍しく自ら行動しようと

していたのだった。

 

 

 

___________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

動くとなれば、それ相応の準備をしなければならない。

軍警に怪我人兼不審者の通報をした後、愛車の黒のレクサスで本部へ戻った。

 

「と言ッてもなァ」

 

清潔感あふれるリノリウムの床を歩きながら首を捻る。

今まで行動らしい行動なんぞした事が無い故に何をするのが最適解なのか良く解らない。

情報漏洩に害を成しそうな組織等の制裁なら朝飯前だが、このように特定の組織に喧嘩の売買などあまり無かった。

 

一度日本政府とドンパチした事は抜かすとして。

 

必要最低限の照明が付いたモニタールームのドアを押し開け、中にいた不自然に白い髪の男に声をかける。

 

「うォーい帰ったぜ」

「よぉリーダー良い知らせと悪い知らせと超悪い知らせがあるんだがどれから聞く?」

「私が居なイ間に何があッた」

 

この軟派そうな男、何を隠そう我らスキールニルのチーフ。坂口 英介。

私の次にこの組織の絶対権限を持つ者だが脳筋という致命的欠点がある。

そして彼の弟さんは異能特務課のエージェント。

どちらかというと英介より安吾君の方が好みだ。

 

「良イ知らセから」

「チンピラ共の抗争が一寸前に起きたが結風が向かって制圧した。今は後処理をしている」

「そりゃよかッたじゃあ悪い知らせ」

「京極夏彦の遺体捜索依頼だが本当に見つからねーのかって」

「うわァやっぱ待てない?……で、超悪い知らせ」

「警備班の6人が何者かに襲撃を受けて負傷。俺の指示を受けた遊撃班がお礼参りして相手さん瀕死」

「……………」

 

何その倍返し的な。いや大丈夫か相手サン。明らかに組合だろそれ。

 

「何故瀕死にしたシ……」

「俺大好きなの、アリの巣に水入れて水没させる的な行為が」

「本気で土に埋まる予定なイ?」

「向こう70年は無いな」

「お前こノ稼業やッてて老衰で死ねルと思ウなよ」

「大丈夫、俺は長生きして孫達に囲まれて大往生する」

「確定かよ幸せなヤロウめ」

 

また組合に狙われるな、なんて。

モニターの前のボロボロの椅子に座ってキーボードを手前に寄せる。タッチパネルモニターに指を押し当て暗証コードを打ち込めば普段使う海外サーバーの画面が出てくる。

 

 

「何すんの?」

「組合の奴らの外堀埋メる」

「なんてのは名ばかりで?」

「フィッツ野郎の事を一寸調べる。気にナる事がなァあるんだ」

 

何故このタイミングで横浜に来たのか、最初から気になっていた。

あの男の性格を考えれば横浜なんて所以外の方が儲けが出るだろうに。

しかし敦君に聞いた所、探し物があると言っていたらしい。

しかし時間が掛かりそうだ。

 

「調べて出てくるかぁ?」

「さァな、まァあれだ。病院の通院履歴位は出てクるだろ」

「偽名だろうな」

「そレな」

 

煙草の箱を取り出し、底をトントンと叩いて一本取り出し咥えた。

ライターを取り出し火をつけようとしたが何度点火しようとしても着かない。仕方なくマッチを使って火をつけた。

 

「不味い煙草だ」

「まだその銘柄吸ってたのかよ」

「だって安イし」

 

完全に趣味に没頭し始めた私を見てやれやれ、という風に肩を竦め英介は部屋の隅の襤褸ソファーに寝そべりゲーム機を起動させた。

いや、仕事しろよ。

情報を引き出したりして暫くした後、外の匂いを

纏った短めの黒髪の少女が入ってきた。

 

「只今戻りました」

 

深緑を中心としたパーカーに短パンという動きやすそうな服装をした彼女、先程話題に上がった解析班班長の結風だ。ちなみに苗字は決して名乗らない。

まぁあれだ、ワケありだ。

 

「おゥお疲れ。どうだッタ?」

「ならず者の抗争でしたが……それぞれ組合とマフィアに唆されたグループでした。現在は解析班が尋問中ですので暫しお待ちを」

「うー、面倒ゴト沢山だァ。あァ頼み事がある」

「なんでしょう?」

 

英介が先程いた場所のスチールラックを漁り、異能特務課からのファイルを手に取り差し出す。

 

「遺体探し。暇な奴等でやッてたけド依頼人から催促来た」

「それはそれは」

「だカら尋問終わッたら解析班の半分は捜索に回シて。指揮権は一任する」

「了解です、リーダー……しかしあれから約三ヶ月、もう白骨化しているのでは」

 

ざっと目を通して頷く。まぁ腐る所じゃ収まらないよね、春先だし。

そしてふと、思い出したように顔を上げ言った。

 

「リーダー」

「何?」

「約定の地って、何ですか」

「……何処で聞イた」

 

何かを察した英介がそそくさとモニタールームを出た。

パタンと閉まるドア。僅かなモーター音と、間接照明の青い光のみ。

 

「制圧した組合側のならず者のトップを問い詰めた所、その言葉が出てきました」

「へェ」

「知っているのですか」

 

真っ直ぐに此方を見る結風。まだ

半分以上残っている煙草を灰皿に押し付け消した。体に悪そうな残り香の中、そっと微笑んで見せた。

 

「いずれ絶対教えよう。今はまだ、何も知らないでいて」

 

久方ぶりに滑らかに発音できた。

結風は暫く此方を見続けた後頷き、お手本のような一礼をしてモニタールームから出て行った。

新しい煙草を取り出し咥えてマッチを擦った。

一口吸って、顔を顰める。

 

「やッぱり不味イ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




お茶漬けは好きですが梅茶漬けは好きになれません。この世から、というか概念そのものを消去したいです。
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